イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甘々と稲妻:第11話『おゆうぎ会とさつまいもクレープ』感想

食卓は魂の止まり木、うまい飯でエネルギー充填して世界に飛び立っていくアニメーションの11話めは、初のデザート制作に挑戦であります。
それぞれの教育機関で祝祭を前にし、ちょっとした問題を抱えた小鳥とつむぎが、いつもの場所でいつもの仲間と新しい食事を飲み込み、より良い方向に歩き出す。
『外→内→外』とゆるやかに移動する足場、一歩ずつ良くなったりあまり改善しなかったりする間合いの描写がゆったりと気持ち良く、このアニメらしい前向きさに満ちたエピソードでした。

人生という冒険に漕ぎ出しているつむぎは、大小好悪様々なイベントに出会いますが、今回は女の子同士のちょっとしたすれ違い。
つむぎのやりたいことを拒絶した花ちゃんが悪いわけでもなく、ガリガリさんをやりたいと思ったつむぎが悪いわけでもなく、ただちょーっとかみ合わせが悪かっただけですが、人生には案外そういう厄介事が多い。
これからの人生でいくども衝突するだろう『悪気のないすれ違い』を、つむぎがどう対応していくのか。
今回のお話は美味しいクレープと同時に、あんま美味しくない悩みとも初めて出会う話です。

おとさんが話を通して形上は仲直りということになりますが、なんとなーくすれ違ってしまった心は簡単には修復できず、花ちゃんとはギクシャクする。
この気持ちを上手く整理できないつむぎは、おとさんの不器用なエールも『ご飯の話ばっかり、女の子の話しない』と軽く拒絶してしまいます。
そんなこと言ったっておとさんはママじゃないんだから、女の子同士のナイーブな関係とかよく分かんないと思うのですが、まぁ花ちゃんと同じように気持ちというのはなかなか思うようには行かない。

巧く収めたいのに勝手に暴走して、なんだか嫌な感じを広めてしまう形のない『感情』は、『いつものお食事会』で美味しいものを食べ、みんなと楽しい時間を過ごすことで、一見なんとなく収まります。
そこには明確な目的があるわけではなく、ただただ同じ場所、同じ時間を共有し、同じものを食べ同じ体験をするという形のない『共有』が豊かに広がっている。
形のない『感情』のねじれに惑わされていたつむぎは、優しい人たちに見守られ、言葉をかけられ、甘いクレープを一緒に食べることで前向きな気持を取り返し、『ガリガリさんのきぐるみ』というより共有されやすい『自分がやりたいこと』にたどり着く。
ぱっと見て思わず笑顔になってしまう『ガリガリさんのきぐるみ』を手に入れることで、花ちゃんの『感情』の方向は変わり、『自分がやりたいこと』が『みんながやりたいこと』になんとなく変わって、今日もいい日だったというお話……が、つむぎ視点の物語。


幼いつむぎがそういう気持ちで明日を迎えられるように、おとさん筆頭に年上の仲間たちはいろんな事を意識して用意します。
甘くて美味しいものを食べれば元気になるだろう。
これまでそうだったように新しいメニューと出会えば気持ちも変わるだろう。
形のない『つむぎがやりたいこと』を『みんなが楽しいこと』に変えるために、『ガリガリさんのきぐるみ』を作ろう。
おとさんが口にした『ずーっとつむぎのことを思っているよ』という言葉はただの題目ではなく、細やかな気配りと愛情、実際の行動を伴う幸せな苦労です。

つむぎは幼いので、父親のそういう労苦には気づかず幸せにモヤモヤし続けていますが、自分で言うには気恥ずかしいおとさんの苦労は、ヤギちゃんがしっかりつむぎに伝えてくれる。
今回集まったメンバーの中で、おとさんのプライドを守りつつつむぎに真実を教える仕事は、付き合いが長いヤギちゃんしか出来ないわけで、やっぱ人間力高いなぁヤギちゃん……とおじさんウットリ。
いつの間にか連絡先を抑えてるしのぶちゃんも含めて、サブの金髪コンビはメインの黒髪コンビより色々柔軟ですね。

人生経験と知識を多く積み重ねた大人たちの意図はつむぎには気づかれないわけだけど、つむぎは大人たちの愛情をしっかり受け取って、損なわずに自分に反映し、花ちゃんと『なんとなく』仲直りする。
そうやって善意と愛情が繋がって、日々が一つ一つ先に進んで行く様子をこのアニメは大事にしてきたわけで、フルメンバーで展開した今回の話は一話早い集大成、『良い最終回』という趣もありました。
今回見せたような甘くて美味しいもので繋がりながら、ちょっと苦い現実味をどうにか飲み込みつつ、みんなで生きていく物語の一つの典型として、今回のエピソードは凄く収まりが良かったように思います。


形のない『感情』が巧くつながらないつむぎに対し、同じハレの場を前にした小鳥ちゃんは、非常にポジティブな繋がりを作っています。
理研究家の娘であり、大食い珍獣美少女としてクラスメイトから見守られている小鳥ちゃんは今回、『自分の好きなもの』であるクレープを通じて接触のなかった人々と繋がり、『みんながやりたいこと』を完成に導く。
そのことで小鳥の世界も少し広がって、少しだけ楽しい明日を引き寄せる。
こういう前向きな形でも『感情』は繋がり変化していくわけで、幼稚園児の小さな反目と高校生の優しい融和の対比は、なかなか面白かったです。

『食』が媒介となって人を繋ぎ、新しい可能性を切り開いていく今週の小鳥の姿は、お話全体が見せてきたテーマの縮図でもあります。
『美味しい』『楽しい』という経験を『みんな』で共有できるメディアとして、もしくは個人的な痛みや感情を共有するための媒介として、このアニメの食事は常にあって、今回小鳥のぼっちライフが少し風通し良くなったのも、そのラインに乗っかった描写だと思います。
それを手に入れるためには『小料理屋』という内向きの空間と、もはや身内となった『いつものみんな』が必要だったわけで、相変わらず『外』と『内』を対立ではなく対比として描き、人生を支える両輪として大事にする姿勢が貫かれてるわけです。
そういう部分でも、今週も『良い最終回』だったな……作品の骨に何を据えるかに非常に自覚的で、それを明確に表現できているお話は、やっぱそういう感想を抱くね。


そんなわけで、小さなすれ違いと小さな変化が、甘くて美味しいクレープを通して収まるべき場所に収まる、いつもの様に良い話でした。
前3話がかなり戦略的にエピソードを組み上げ、『母の死』という大きな喪失について語る物語だったので、今回のコンパクトな趣は懐かしくもあり楽しくもあり、また別の形で甘々と稲妻らしさを堪能できました。
ショートでもロングでも、自分らしく面白いものを提出できるってのは、やっぱ強い話よな。

食が繋げるあなたとわたしの物語も、いよいよ来週で一旦の幕です。
生きることの暗い側面も明るい顔もいろいろ描いてきたこのアニメが、ラスト・エピソードとしてどんな状況を用意し、何を食べて何を手に入れるのか。
『どんなものが出てくるんだろう』と凄く楽しみであり、同時に『絶対面白いものが出てくる』という安心感もあります。
つむぎがお食事会に向かう時多分感じている気持ちを、僕もおんなじように感じつつ、来週の食卓まで期待を膨らませておこうと思います。