イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第24話『決戦の黒部ダム』感想

長い戦いもついに最終局面、異文化コミュニケーションサムライロボット学生飯アニメの第24話です。
剣ちゃんが由希奈にド直球の求婚カマしたりしつつ、本命は決戦決戦また決戦のバトル回でした。
人間の強さである団結力と可塑性、油断の無さを最大限に発揮し、みんなで協力して勝ちをもぎ取る展開は、このアニメが大事にしてきたモノを戦いの中でも発揮していて、見応え充分でした。

というわけで最終決戦なんですが、前回あれだけ護るべき日常の価値を確認してなお、更に積んでくるのがこのアニメでして。
不思議な出会い方をした主人公とヒロインが、決定的な言葉を交わすシーンが『戦いの後』ではなく『戦いの前』に来て、ソフィーが茶化すことで死亡フラグになるのも回避してしまうのは、非常に独特だなと感じました。
剣ちゃんと由希奈はふたりとも気持ちの良い青年ですし、彼らの気持ちを軸にアニメが進んできたので、逃げずに真っ直ぐ答えを出してくれるのが嬉しかったね。
いやー良かった、おめでとう。

どこか真っ直ぐすぎる不器用さがあるプロポーズは非常に剣之介らしくて、戦いから逃げ出した理由が『言い方』だった由希奈とは、結局こうなるのかという納得を感じました。
あのときは恐怖や不安を受け入れるために必要だった『言い方』が、今回は生き残った後の希望を彩る人間味に変わっているのは、なかなか面白い変化だ。
まぁムーディーでスマートに気持ちを伝えられない武辺者だからこそ、由希奈も俺も剣之介を好きになった部分もあるわけで、お話が収まろうというこのタイミングでもしっかり『らしい』描写で一貫性をもたせるのはとても良いです。

あそこの会話シーンは結婚以外にも由希奈と剣之介がこれまで何を積んできたのか、しっかり確認する場面です。
時間に流された剣之介が『平和な現代』で生きる意味、戦いに馴染めなかった由希奈が『戦場』に身を置く理由。
そして二人がパイロットとオペレーターとして、一緒に戦い続けた結果生まれたもの。
過去色んな場所で交わした言葉を踏まえつつ、決戦に挑む意味を確認し続けることで、このアニメにおける戦いとはどういうものなのか、もう一度確認できました。
アクションの前にしっかりそういう足場を確認する作りは、非常にこのアニメらしいですね。


こうして始まった最終決戦ですが、人間の強みをひっくり返された第21話の奇襲防衛戦を、さらにひっくり返したような作りになっていました。
敵を侮らず、味方と手を取ることで生き延びてきた人類の強みを、第21話の戦いでは発揮できずに押し込まれたわけですが、今回は逆に戦術と連携を巧みに繋ぎ合わせ、各々が各々の仕事をやりきることで強大な敵に打ち勝つ戦いになりました。
ロボット搭乗組だけではなく、名も無き歩兵部隊やスナイパー、そして最後の一手を詰めたゼルまで、まさに総力戦という様相で、やりきった満足感を強く受けました。

時局の変化に応じて役割を切り替え、協力して敵を倒す人類と、功名心を人格の中心に据え付けられ、あくまで強力な個体として立ち回るエフィドルグは、非常に対比的に描かれています。
敵を侮らず事前に戦術を練り上げ、必要なら敵の力すら取り込んで戦う姿と、強者のアイデンティティにあぐらをかいて、油断と頑なさをつかれて負ける流れも対照的。
ここら辺の描き方は、協調と変化こそが人間の特性だというメッセージを強くはらんでいて、実は戦闘シーンよりもむしろ日常シーンと響き合う描き方だったと思います。

見慣れぬ文化を最初は拒絶しつつも、カレーを食って学校に通って、無くした生きる意味にたどり着くことも出来る。
恵まれた日常の中で目標をなくしていても、戦いに巻き込まれて恐怖と戸惑いに震えても、立ち向かう勇気を見つけることも出来る。
このお話はずっと変化に対応できる人間の姿を暖かく見守ってきて、いつまでたっても変わらない、変わることが出来ない侵略兵器に挑む今回、そういう柔軟さが日常を飛び出して武器に変わる展開が、凄く多かったわけです。

フィドルグを捨てて真実を求めたムエッタもそうだし、『人間』をやめることで人間の証明を打ち立てようとしたボーデンさんも、みな変化を受け入れることで自分の中の大切なものを護る力を手に入れている。
逆にエフィドルグ側は、脳髄に焼き付けられた功名心を疑わないミラーサにしても、はるかな過去から内部構造を変化させないレフィルにしても、戦うだけの機械の頑なさを突かれて敗北していきます。
一見遠く離れた『戦場』と『平和な現代』を地続きに設定し、相互に影響し合う様子を描いてきたアニメらしい、メッセージの色濃い戦闘だったと思います。

変化を描くためには変わらないものを描くことが大事で、最後の最後の戦闘で人を殺した実感、『戦場』の闇の側面に震える由希奈を切り取ってきたのも、一貫性を感じる描写でした。
失われる命に恐怖と哀れみを感じるのも、このアニメで描かれてきた『人間らしさ』の一つであり、戦士であると同時にただの高校生でもある由希奈がまだそれを持っていて、剣之介がそれを受け止める優しさを失っていないことは、変化できる人類の変化しない強さを、ちゃんと語っていました。
『人殺しの機械になるな。そのために俺は戦っている』と、折に触れて言ってた職業軍人ボーデンさんが、ロングアームを操縦するためにナノマシンを体内に入れ、『人間』じゃなくなるのも同じ意味合いなんだろうなぁ。


今回の戦闘はクソみたいな殺人マシーンに良いようにされたうっぷんを晴らす意味もあるので、過去踏みつけにされたものがたっぷりと活躍する展開でした。
パイロットに復帰したソフィーの大活躍だったり、まさかの復活なったロングアームだったり、GAUS3の柳葉刀を活用する最終戦闘だったり、蔑されたモノたちの怨念がいい具合に輝く、ナイスリベンジでした。
奇襲戦ではほとんど仕事ができなかった通常兵力も適切に活用され(というか、活用しないと勝てない)、このアニメの『主役ではない人たちの描き方』が好きな自分としては大満足でした。

そんなリベンジャーの中でも、やはり一番目立っていたのはセバスチャンこと茂住さん。
『生き取ってたんかワレ!!』『髪は染めてたんですね』『二週間かそこいらでそのヒゲはなんだ』などなど、色々ツッコみたくなる再登場でしたが、まぁなんだ生きていて良かった……ほんと良かった。
護るべき主君のピンチに颯爽と顕れ、ぶっ壊された愛機と共にリベンジ果たす様子は、エフィドルグ母船が降りてきて以来の重苦しい空気を綺麗にひっくり返す気持ちよさで、スカッと見れましたね。

ゼルおじさんはクロウを自動操縦にしてどうしたんだろうと思ってましたが、最後の最後で超重要な仕事をしてくれました。
レフィルの腹をぶっ刺し、洗脳蟲を脳にぶち込むあまりの手際の良さに『まさかこれは……』と一瞬思ったけども、やっぱゼルおじさんは愛と正義の戦士であった……。
認識迷彩が由希奈に効いていなかったのは、やっぱ伏線だったんだなぁ。
侵入経路を洗い出して対策しておけば、作戦目的は達成できただろうに……まぁそういうコピー人間には可塑性がないから、功名心を焼き付けて作業効率を上げないといけないんだろうけどさ。

色々情報聞き出してくれたおかげで疑問もけっこう氷解しましたが、レフィルも端末でしかないとなると、いよいよエフィドルグ本星が存在しているか怪しくなってきた。
『積極的防衛策』という名前の無差別侵略プログラムだけが稼働していて、もはや中枢の存在しない破壊だけが空転しているというのは、侵略モノSFのオチとしては結構あるしね。
差し迫った危機は回避できたし、次の決戦は200年以上先だし、その謎を掘り下げるかどうかは分からんけども、個人的には気になるところだ。


と言うわけで、きっちりコピー人間どもの中枢無き支配に牙を突き立て、人類の我が家を奪還する決戦でした。
主役のプロポーズという一大イベントを戦闘の前に持ってきて、話の結末まで二話残して戦闘を終えてしまう作りは、凄くクロムクロらしいと思います。
『戦場』の外側にあるものをしっかり描くことで、『戦場』にあるものを際立たせてきたこのアニメらしい、黒部大決戦でした。

そんなわけで異星人の侵略機械との戦いは一応の決着を見ましたが、若人たちの人生という物語はまだまだ続く。
『戦場』と『平和な現代』が隣り合わせだった時間が過ぎた後、彼らが何を見つけ、どう歩いていくのか。
じっくり描く時間があるってのは、本当に良いことです。