イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

美男高校地球防衛部LOVE! LOVE!:第12話『愛は地球を救う』感想

さんざん逃げたりスカしたりしてきた今風ヒーロー物語、最後の決戦くらいはがっぷり四つのド根性だ!
てなわけで防衛部二期も最終回、溢れかえる感情と暴力が渦を巻き、寂しい子供が安住の地を見つけるまでしっかりやってくれました。
『終わり良ければ全て良し』じゃあないですが、別府兄弟の感情の泥をすべて吐き出させ、有基の危うい部分もちゃんと描いて、最後は胸襟を開いた裸の付き合いで〆る展開が、凄く真っ当にヒーローしていて気持ちが良かった。
強羅あんちゃんには本気になる所含めて、いい具合にシニカルさと熱血のバランスを取った最終回でした。

ここを逃せばもう心をぶつけ合う猶予がない最終話、流石の今時高校生集団も大本気になり、ガッツリ肉弾戦で魅せてくれました。
別府兄弟がアイドルという仕事の苦労や背負った闇を公開したタイミングで殴り合いになると、暴力に訴えるしかない気持ちの強さが拳に乗って、物語的必然のある見せ場になるから、凄く良いよね。
防衛部側も強羅さんへの恩義以外に、バカでC調ながら自分たちなりに必死にやってきたヒーロー稼業にツバ吐かれて、本気で受け止める体制ができていたのが良かった。
逆に言うと、ここで噛み合う気持ちよさを高めるために、今までさんざんスカして逃して来たんだろうしね。

殴り合いをセッティングすることで、心の奥底に隠してきたものが吹き出すエネルギーが生まれ、キャラクターの地金が見えてくるのも、戦闘を物語に組み込む大きな理由だと思います。
暴力に屈しないことは即ち、暴力に乗っかった相手の気持に負けないということなので、殴り合いと喋り合いを同時に進行させることで、お互いが抱えたものを引き出し合いながら、物語的な勝敗を白黒はっきり付けれるわけです。
今回で言えば、これまでさんざんキラキラ☆アイドルを演じてきた別府兄弟が、心に溜め込んだドロドロを吐き出す場所として、殴り合いがいい仕事してる。
強羅あんちゃんに成長した姿を見せるためだけにアイドルしてきたなら、そら色々貯まるわな……そして寂しい子供に付け込んでアイドル稼業させてきたダダチャの邪悪さが、一層際立つ展開だった……。


別府兄弟が防衛部に優越するための理屈として、『綺麗事より私利私欲のほうが強い』『理性より感情のほうが強い』というのを持ち出してきたのは、幼い彼ららしいなと思いました。
防衛部はヒーローに憧れを抱かない、思春期ちょっと超えた覚めた十代なわけで、まだ子供のままの別府兄弟よりもそら感情は弱かろう。
しかし綺麗事でやっていようが、巻き込まれた惰性でダラダラやっていようが、防衛部にとってヒーローが『自分の物語』になっているのもまた事実で。
そこには分かりにくいけども愛や感情がちゃんと篭っているわけですが、実はこれは別府兄弟がアイドルに対して抱く感情と似ていると思う。
敵だけではなく自分たちも攻撃する理屈が論破されたことで、アイドル稼業への愛に素直になって、心からステージ出来るようになる終わり方に繋がるのも含めて、敵として良い理屈つけたと思いました。

そしてそこから『感情で勝負するなら、有基には勝てない』という展開をするのが、なかなか凄くて。
言われてみれば防衛部で唯一、綺麗事を自分の感情込みで全部信じ込んで、ヒーローに必要なセリフを言ってきたのは全部有基です。
『綺麗事』と『感情』が一切遊離せず、現実と理想の間にギャップを感じていない有基が、別府兄弟とは別の形で子供であり、有基が『ヒーロー』を心から信じる子供だからこそ、シニカルな防衛部はギリギリ『ヒーロー』でい続けることが出来た。
その気持が暴走すれば、そりゃ兄弟二人きりの寂しい感情より激烈なものになるのにも、納得がいきます。

そういう気持ちが暴走し、兄恋しの『感情』が暴力に乗っかった時、シニカルだったはずの防衛部が悪しき力の行使を諌め、『ヒーロー』の本質を有基に問う流れは、俺本当に好きです。
防衛部のスカシた高校生共が心の奥底にアツい部分を持っていたというだけではなく、有基の子供っぽい『夢』や『愛』が一方通行なのではなく、仲間たちにもちゃんと伝わっていたのが最高でした。
話しを牽引してきた有基が道を間違えそうになった時、引っ張られていた側の防衛部がしっかりあるべき道に戻してくれるのは、真心をしっかりキャッチボールできる良い仲間なんだと感じられて、非常に良かった。
正直『ヒーロー』ものとしてみると、有基一人に負荷がかかりすぎる構造だったので、この土壇場でしっかり『ヒーロー』の証を立ててくれたこと、しかもそれが『敵を倒す』暴力ではなく、『暴力を制御する』『真実を伝える』愛の方向だったのは、見事な大逆転でした。

その後有基が別府兄弟のロジックを倒しにかかるシーンは、巧いこと『勝ったやつが偉い』という一番イズムを壊して、ゆるふわヒーローパロディだったこのお話全体を称揚してました。
大真面目に『ヒーロー』したくても、全てが宇宙TVの仕込みでしかない世界において、シニカルな態度でスカして逃げる防衛部のやり方は、その構造自体をひっくり返す愚者の妙案なわけです。
そういうやり方を続けつつも、一緒に風呂に入れるような気の置けない仲間たちと時間を共有し、自分たちなりに結構頑張って『ヒーロー』してきた(つまり、物語を積み上げ、視聴者と一緒に見守ってきた)を『大切なものだ』と断言するのは、お話が幕を閉じるこのタイミングでは、絶対必要な見せ場だったと思います。
やっぱ好きになったお話には、『俺たちもこのお話が好きだったし、良いものだったと思っている!!』と、堂々と大声で叫んでほしいもんだし、それに答えてくれた防衛部はいいアニメだ。


強羅あんちゃんが目覚めてから一気に対立構造が崩壊していったのは、まぁこれまでの描写を考えると納得というか、ここをスムーズに流すために別府兄弟が『ただの寂しい子供』だったと言うべきか。
強羅あんちゃんがやったのは、子供の成長を忘れず覚えておいて、ちゃんと褒めて抱きしめてあげるっていう、『ヒーロー』じゃなくても大人なら誰でもやるべき行為。
だけども、別府兄弟の周りにいたのは自分の都合を押し付ける嘘つき親父と、その隙間に滑り込んできたダダチャだけだからね……別府兄弟と強羅あんちゃんとの接触を、頑なに拒絶しながら話が進んだのも納得だ。

大団円でまとまったのは別府兄弟が究極的チョロ蔵だっただけではなく、事前の戦いで心の泥を全部吐き出していたからでしょう。
有基が『暴走』という弱さをちゃんと見せ、特権的な天使ではなかったことも含めて、最初で最後のガチンコバトルは、お話が収まるべき所に収まるための出口として、よく機能していました。
一回本気でバトルすれば感情が収まりどころを見つけてしまう話だから、逃してスカす必要があった、とも言えるか。
どっちにしても、感情がぶつかり合い行き場所を見つけるタイミングをしっかり測って、必要な頃合いで必要なシーンを持ってきた結果の、気持ちのいい終わり方だったと思います。

ラストがお風呂で終わるのも、このアニメを貫いてきた象徴の系譜をしっかり踏襲していて、とても良かったです。
温かいものに包まれ、心にたまったものを全て出しながら、一切の覆いなく、平らにお互いを見せ会える場所。
作中言葉でも説明していましたが、このアニメの『銭湯』というのはそういう象徴的意味を強く持っていて、だから第4話のシメでサルバトゥーレ兄弟は風呂に入ったわけです。
僕はあの話が特に好きなので、あのシーンを再話するように穏やかにこの話が終わったの、本当に良かったですね。


つーわけで、シニカルでポップでサービス満点のヒーローパロディアニメも、無事終わりました。
ゆるーっとした高校生たちのヌルい掛け合いを存分に詰め込むべく、ラスボスの攻略難度を下げ、その攻略方法をゲストに仮託して幾度も語る、構成の巧さ。
正面からぶつけたら話が終わってしまうので、ラスボスの問題をゲストに背負わせ、擬似的に答えを予言しておくエピソードの作り方。
『銭湯』を舞台にすることで合法的に男の裸体を乱舞させつつ、そこに安らぎのメタファーを仕込んでほっこり終わらせる巧妙さ。
メタネタやぶっちゃけ、シモネタを交えつつも、妙に軽妙で清潔な笑いの作り方。
好きになれる部分が沢山ある、いいアニメでした。
肩の力を抜いて楽しめるコメディを上質に仕上げるためには、どれだけ精密にお話を組み上げなきゃいけないかを確認する意味でも、見れてよかったなぁ。

斜めから切り込んでいるヒーロー・フィクションとしても、非常に独特のスタンスを感じられ、楽しめました。
強羅あんちゃんという圧倒的『大人』に見守られつつ、有基という『善き子供』、別府兄弟という『悪しき子供』を対比的に配置して、そこから少しずれた所に防衛部を置く作り方は、シニカルな空気を維持したままアツい話もできる良い見せ方だった。
ラスト一個前までは有基がとにかく引っ張って、最後の最後でその有基の暴走を防衛部の『ヒーロー』が止め、問い直すという構図も、これまでのシニカルさがアツさに変わる最高の仕掛けで、素晴らしかったです。
こういう斜めからの勝負は、まさにパロディだけが出来る戦法だったと思うので、期待していた所をしっかりやりきってくれた満足感があります。

キャラクターも不思議な存在感と手触りのある面白い奴らで、みんな好きになれました。
印象的な個別回があったんで、特に有基と強羅さんが刺さってるけども、これは二期しか見てないからだろうなぁ……そら一期で掘り下げるポイントだもんな、主役のキャラクター性って。
最終回で赤面している錦ちゃんが可愛かったので、『痴話喧嘩』らしい一期もちゃんと見ないとなぁ……。

そんなわけで、美少年たちにドキドキしたり、独自の『ヒーロー』語りに熱くなったり、ゆるい日常生活をまったり楽しんだり、色々な楽しさを与えてくれるアニメでした。
やっぱしっかり作ったエンターテインメントは、見てていい気分になるな……素晴らしい。
美男高校地球防衛部LOVE! LOVE!! いいアニメでした、ありがとうございました!