イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

あまんちゅ!:第12話『蒼い世界のコト』感想

伊豆半島を舞台に黒髪の外来少女が世界と出会っていくアニメ、ついに海洋実習&最終回!!
この瞬間をクライマックスとするべく積み上げられた物語にふさわしく、確かな盛り上がりと充実感のある、立派な最終回でした。
てこが顔を上げ出会った世界の広さ、豊かさと、そこに飛び込むために必要だったたった一人の女の子の大切さ、両方をちゃんと描き、これまでてこが積み上げた努力を振り返る。
これまでやってきたことの延長線上に期待感をしっかり積んだクライマックスを配置して、期待を頭一つしっかり上回る、いつも通りなんだけどしっかり終わってる『いい最終回』。
まさに万感、まさに大団円という感じの青春ど真ん中で綺麗な終わり方でした……最高だった……。

ゆる~い日常モノにしっかり芯を入れるべく、アニメあまんちゅ!は色々と工夫をしてきました。
その中の一つにお話しの構成を入れ替え、てこがオープンウォーターの資格を取り、初めてスキューバ・ダイビングに飛び込む目標に向かって一歩ずつ進む、変則的なスポ根物語として、シリーズを作り上げる、というものがあります。
青春の自意識に悩む少女の小さな、しかし確かな努力と気付きを積み上げ、一歩ずつ成長していく歩みに寄り添いながら、お話の達成感を積み上げた頂点として、『海に潜る』瞬間が機能するよう、このお話は積み上げられています。

てこの成長は『海に潜る』ための様々な学習・練習と同時に、意識の変化や小さな勇気といった概念にも及んでいて、今回のお話はその両方を次々確認していくエピソードになります。
散々苦労した耳抜きやラッコ泳ぎ、水への恐怖の克服、広い視野の確保。
水底に辿り着いてきれいな景色を見るだけではなく、これまで必死に頑張って身につけた小さな努力が、しっかり身になって意味を成す。
くっそ面倒くさい黒髪高校生として、色んな人に助けられながら積み上げた物語、僕達が見守ってきたお話一つ一つは、けして無駄ではなかったわけです。

最終話に必要なそういうまとめ上げを、第4話丸丸使って印象づけた『マスククリアー』で感じさせる演出は、僕はすごく好きでした。
かつてはどうしても出来なくて涙混じりに諦めようとしていたことが、仲間と一緒に沢山練習して、よりスムーズにより早く出来るようになる。
プールの中で擬似的に繰り返してきた訓練が、実地で役に立つ技術として有効に機能する。
何気ない仕草の中にそういう実感がみっしりと詰まっているのは、やっぱこのアニメが一少女の成長物語として、けして派手ではないが着実な歩みを巧妙に積み重ねてきた証明だと思うからです。


もう一つ作品をまとめ上げる見事な演出だと感じたのは、ダイビング部の見知った仲間や、特別なばでぃ・ぴかりだけではなく、名前も顔も知らない他人が結構大きな仕事をしていることです。
このお話は下を向いて生きていた大木双葉が、小日向光に手を引かれて顔を上げ、世界の広さと美しさに気づいていく物語です。
そこには日常を共有し感動をともに深めていく身近で重要なキャラクターだけではなく、広い世界に必ず存在するあまり関わりのない他人を尊重する、ということも含まれています。

フィンをロストし、ともすればお話を綺麗に閉じることができなくなってしまった時、それを回収してくれたのは名前も顔も知らないお兄さんでした。
ぴかりでも火鳥先生でも二宮姉弟でもなく、匿名でエキストラな彼がてこの大事なものを拾い上げ、彼女が内面ではなく足下に広がる青い世界に目を向けるきっかけになるのは、すごくこのお話らしいと思った。
てこが顔を上げて世界と出会うというのは、ぴかりだけが居る特別な世界ではアンク、そういう人と出会ってすれ違っていくような世界、Cカードを授与された時に見ず知らずの人々が祝福してくれるような世界に目を開いていくことなわけです。

複雑な自意識とひとときの別れに閉じこもっていたてこが、ダイビングと伊豆に出会い何を得たのか。
その答えとして、美麗な海の描写、様々に表情変える美しい多様性の『絵』に説得力を込めていたのは、アニメーションとして非常に良かったです。
色んな魚や複雑な色合い、移り変わる光の表情は、てこがセリフで説明するより半歩早く視聴者に、彼女が出会ったものをしっかり教えてくれる。
そういう『絵』の強さを必要なタイミングで、疎かにせずしっかり描写できていたのは、このアニメの沢山ある強さの一つだったと思います。

これまで見せてきた様々な美点を確認していく今回、『教育』の強さがもう一度切り取られていたのは、僕にとって凄く嬉しいことでした。
高校生を主役に、学校を舞台にするこのお話は、火鳥先生という優秀な教育者をメインに据え、導き育むことの意味合いや、その尊さについて描いてきました。
てこが待ちに待った瞬間を迎えた興奮だけで終わらせるのではなく、その中でこれまでの努力を実らせ、新しい達成感に繋げるために必要なガイドを、火鳥先生が最後まで忘れないこと。
適切に課題を出し、生徒の実感を補足し、迷っていれば成長のためのヒントを出す姿が最終回でも徹底されていたのは、このアニメが子供の成長だけではなく、それを促してくれる大人のありがたさも疎かにしなかった、良い証明だったと思います。

今回の話は主人公格であるてこの視点を徹底して維持し、没入感と満足感の高い、ブレのないエピソードとして仕上がっています。
しかし火鳥先生や二宮姉妹、様々なエキストラの姿を忘れず入れ込むことで、彼女が出会った世界の広さ、これまでのお話が捉えてきたレンジの広大さを巧く盛り込んで、広さと深さを両立させる最終話になっていました。
こういう二枚抜きが成功しているのを見ると、第6話でてこの一人称的作劇を一旦やめ、サブキャラクター主役の物語を積み上げて他者の内面に切り込んでいったのは、非常に巧妙だったんだなと思いますね。

あそこでくっそ面倒い主役から一旦離れて、色んな価値観と主観のフィルターで物語を洗ったことで、色んな人がいろんなことを考えて、様々に化学反応していく世界の豊かさが確保できた気がする。
それは今回のように、ディープに個人の内面に切り込んでいく物語でこそしっかり効いてきて、独りよがりではなく開放性と可塑性を兼ね備えた、風通しの良い世界をしっかり証明してくれるわけです。
よく構成された対比物はお互いを引き立てるわけで、一少女の青春の悩みをしっかり掘り下げたければ、彼女を取り囲む世界や人物もまた、ちゃんと描かいたほうが有効ってことなんでしょうね。

そういう意味では、『携帯電話』というフェティッシュの扱いもシリーズ通して優秀だったなぁ……。
今回は過去の友人に現在の充実を伝えるコミュニケーションの装置として機能していた『携帯電話』は、時に過去にとらわれるてこの自意識を象徴し、あるいは捨てられない思い出を閉じ込める檻として機能し、もしくは死にかけの子猫を助ける知恵の泉でもあった。
一つのアイテムに複数の機能を持たせて、主人公を取り巻く世界、世界の中にいる少女の変化を判りやすく圧縮する演出として、このアニメの『携帯電話』は凄く巧く使われてました。
ロハスな雰囲気の話だからってテクノロジーの象徴を否定せず、色んな側面を描く視点そのものが、作品のテーマ、主人公が獲得するべき視座に直結してるのも、凄く良かったですね。


そんな風に色んな物を描きつつ、主人公にとっていちばん大切なバディ・ぴかりに強く注力し、彼女たちが出会い、支え合い、積み上げたものをぎっしり確認してくれたのも、お話の終わりとして素晴らしかった。
世界の広さや様々な人々の支えも大事ですが、やはり大木双葉はとにかく小日向光と出会ったことで顔を上げ、世界を変え自分を新たにする事が出来たのだから、ちゃんと尺を作ってぴかりに報いるようお話を作るのは、誠実だし大事だし必要だとも感じます。
ようやく辿り着いたオープンウォーターで、これまで憧れ繰り返し練習してきた『バディ』という関係が実践され、求めていたものにたどり着いた実感があるのも、凄く良かった。

このお話はくっそ面倒くさい黒髪ロングスレンダー自意識ネトネト女が、金髪ちびっこ人格強者元気っ子グラマー娘に手を引っ張られ、新しい世界に手を引かれていく構図が基本です。
てこは常にぴかりの後ろにいて、ぴかりの天性の明るさと元気はてこの後ろ暗い性格に優越している。
しかしその構図は二人の人間関係そのものではなく、てこがぴかりに引かれるように、ぴかりもまたてこに惹きつけられ、運命の出会いを果たした少女どうし、対等な引力でお互いを必要としているわけです。
金色の波打ち際でお互いの気持を言葉にして、好きという気持ちを確認するラストシーンは、一見一方通行な思いが実は素敵な両思いで、だからこそ二人は『バディ』なのだと確認できて、非常に良かった。

もともと人生の価値とか新しい発見とかの恥ずかしい事柄から逃げないアニメなんですが、お話のツメとなる今回、てこが手に入れた一番大事な気持ちを真っ正面から取り上げ、じっくり時間を使って『バディ』がどんな道を歩いて、今どこにいて、これからどこに行けるのかを描ききったのも、最終回として素晴らしかった。
やっぱこの二人の気持ちがこのお話最強の軸で、てこがぴかりと出会って手に入れたモノの総覧であるお話を確認し達成感を出すためには、二人で過去を振り返るシーンを入れるのがベストだもんなぁ。
それで終わらず、これからこの『バディ』は無限の未来に進んでいけるのだと、今回たどり着いたような『いい最終回』になんでも出会えるのだと確信できる、未来に向かって拓けたシーンだったのが、お話全体を象徴していて凄く良かった。


幅の広さと軸の太さ、緊密な関係の強さと広大な世界。
お話が描いてきたものをしっかり分析し信頼し、24分のエピソードにしっかり盛り込んでまとめ上げた、素晴らしい最終回だったと思います。
この爽やかな寂寥感で終わることが出来るのも、最後に確認したものをすべて実際に描き、血肉の宿った物語として語りきったからこそ。
靭やかで爽やかな、青春のお話だったと思います。

あまんちゅ!アニメ、いいアニメでした。
原作のテイストを的確にアニメに落とし込みつつ、12話の物語として必要な軸、そこから広がる成長の余地をしっかり構成しきったこと。
『絵』と『音楽』というアニメの強さを妥協せず、作品世界の空気の揺れを伝え、シンプルで強靭なテーマを実感させるための道具として使いこなしたこと。
一少女が自意識と向かい合うディープな青春物語と、そこから拓けていく世界の豊かさを両立させていたこと。
女体描写がパワフルなエロティシズムに満ちていたこと。
大好きなポイントがたっくさんあって、技巧的でありながら心から好きになれるアニメでした。

てこが海とぴかりに出会い、ぴかりと一緒に海に潜るまでの話としてまとまっていたのも、見事な再構築でした。
この構成があればこそ、てこが毎回何を積み上げて、何を発見して、同成長したか非常に確認しやすかったってのは、確実にある。
いいアニメだったなぁ……本当にいいアニメだった。
お疲れ様でした、ありがとうございました。