イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第26話『侍は振り返らず』感想

さらば地球! さらば愛する人!! さらばクロムクロ!!!
今万感を込めて船がゆく、時を超える愛は220光年すら飛び越え、未来に届く。
クロムクロ最終回、素晴らしかったです。


前回急なカーブを曲がったクロムクロですが、お話を支えていた地味な人情は死んでおらず、というか窮地を前にしてむしろ燃え上がり、怒涛のクライマックスへと繋がりました。
剣之介を筆頭とする『異人』が研究所の外の世界にも受け入れられてはこの緊張感はなかっただろうし、エフィドルグとの『殺し合い』ではなく、人間相手の『挑戦』を舞台にすることで、クラスメイトが己の良さを発揮する見せ場にもなる。
終わってみると、納得と安心の急旋回でしたね。

フィドルグとの殺し合いをクライマックスに持ってくるのではなく、あくまで対話可能な人間との対峙、己が何者かを世界に証明するアイデンティティの決戦を最終話に持ってきたのは、『戦い』に様々な意味を込めてきたこのアニメらしい、良い最終回だったと思います。
人間性を根こそぎ否定するエフィドルグに膝を屈しなかったのも、その過程でただの『戦う機械』にならないよう全精力を傾けてきたのも、今回由希奈達が世界に反抗するのも、基本的には同じテーマの上にしっかり乗っかっています。
ロボットにドンパチさせるより大事なものがあればこそ、このアニメはあれだけ日常の描写に尺を使い、『戦場』の非人間性に安易に物語を飲み込ませないよう、注意して話を運んできました。
そういうアニメが終わる最後の戦いが、己が己を貫くための死人が出ない決戦だというのは、非常に『らしい』と思うし、嬉しいものでした。

ロボに乗らず『戦場』においてあまり見せ場をもらえなかったクラスメイトたちですが、今回は各々いい具合に大活躍でした。
赤城は失恋を受け入れて由希奈の気持ちを引き出すし、体を張って囮役を担当するし、かつて親父さんに言われた『何者かになってみろ!』という発破に答える獅子奮迅。
他の面々も、前回は悪い部分が強調されていた人間の良心にメディアを通じて訴えかけ、闇の中で全てが封じられるのを立派に防いでいました。
子供たちだけではなく世論自体も優しい方向に動いてくれたり、あそこで暴露したことが五年後の結末にしっかり繋がっていたり、武器を持って人を殺す以外の『戦い』を見せれたのは、むしろ彼らが『サムライ』ではないからだと思います。

今回はこれまでストレス要因だった茅原が一気に印象を変える回でもあって、親があの人ならあのサイコっぷりも納得だったり、配信キチガイであることが由希奈と剣之介の気持ちを世界に伝え、世界を変える大きな原因になってたり、マイナスが減ってプラスを荒稼ぎする展開でした。
さらっと「五人目のパパと交際中」というセリフを挟むことで、荒廃した家庭環境を想像させて『まぁ……ある程度はしょうがねぇなぁ……』と思わせたり、上手かったなぁ。
人の気持ちがわからないサイコな部分は一切変化がないのに、状況が変わり自分の活かし方を見つけることで、社会との繋がり方も個性の発露の仕方も変わる。
成長と変化を肯定的に捉え続けたアニメらしく、土壇場で全キャラクターの存在意義をしっかり描ききって未来に繋げる展開で、充実感がパなかったですね。


これまで『戦い』から遠ざかっていたキャラクターだけではなく、『戦場』で肩を並べた戦友たちも、最終話らしく己を貫き通していました。
由希奈サイド唯一の『サムライ』として作戦立案頑張ったソフィーは、由希奈の気持ちをしっかり聞き出す『通訳』の仕事とか、ゼルにフラレて地上に残る『負け犬』の仕事とか、これまでのキャラをしっかり思い出せる活躍でした。
無様に居残ることでしか出来ない役目もあるわけで、ソフィーがわりと泥をかぶる物語的立場ながら尊重されていたのは、このお話のたくさんある好きなポイントの一つです。
あそこでノリに流されず、ソフィーを人で居続けさせる選択ができるゼルさんは、やっぱ最後まで信頼できる男だ……あと情報部員であることより執事であることを選ぶ茂住さんな。

ソフィー&セバスが由希奈の感情に味方する立場であることと同じくらい、ボーデンさん達がラスボスとして立ちふさがったのは良い描写だと思いました。
何でもかんでも肯定してしまえば作品内倫理のバランスは悪くなるし、誰かが最後の試練として剣之助たちに立ちふさがることで、その決意をより強く示すことも出来る
『大人』として『兵士』として、悪口の奥に世間のまともさと世知辛さを背負ってきたボーデンさんがその仕事をするのは、むしろ必然だともいえます。
オーガがラスボスというには結構あっさり倒されたのも、今回の最終決戦を際だたせるための伏線だったのかなぁとすら思いましたね。

祖国に忠誠を誓うアメリカ軍兵士であると同時に、剣之助と轡を並べて『戦場』を駆け抜け、『平和な現代』をともにもしてきたボーデンさん。
彼が最後に立ちふさがったのは、剣之介が由希奈の背負う『平和な現代』と己が果たすべき『戦場』の義の間で悩み抜いたように、体温と感情のある人間らしい決断だったのでしょう。
国家に対しての義理は果たしつつ、心を交わした『戦友』の望みは果たしてやる辺り、最後の最後までボーデンさんは『大人』だったなぁ……。


そして時を越えて出会い、反発し惹かれ合い、理解し合って別れた剣之介と由希奈。
クラスメイトの心ない、しかし状況を考えれば納得もできてしまう言葉に大声で反発する由希奈の姿は、彼女がどれだけ剣之介を思い、理解しているかを強く伝えてくれたし、此処から先の戦いがどういうものかを予言もしていて、良いシーンでした。
他にもお互い守り合うことを確信している姿とか、『さすが俺の嫁』とか、全世界生中継されてるノロケとか、最終回でもラブラブ濃厚でありがたかったなぁ……。

『戦場』のルールしか知らなかった剣之介が『平和な現代』に馴染み、どれだけ愛していたかということは、『この時代が俺たちを拒んだのだ』というセリフにも、由希奈と心を通わせる道具が携帯電話や通信機というテクノロジーの産物であることからも、しっかり感じ取れます。
しかし『サムライ』である以上義を裏切って『平和な現代』に安寧することは剣之介の生き方ではないし、『異人』とのんびりカレーが食えるた平和は『戦場』という異常を必要とします。
『平和な現代』が見た目ほど安定したものではなく、『戦場』に身を投じる戦士たちの献身あって成り立っているというのも、戦場に巻き込まれる黒部の日常描写の中で、幾度も語られたことです。
由希奈が自分の気持ちに素直になって研究所に突撃したように、剣之介が由希奈を置いて時の彼方に旅立っていくのも、作品とキャラクターが己を貫いた必然だと言えるでしょう。

『異人』達が世界に追い立てれらるように旅立っていってしまうのは、彼らが『平和な現代』に溶け込んでいく描写を心地よよく見せてもらっていた立場としては、哀しい展開でもあります。
その必然性を前回シビアに描いてもいるんですが、もしかすっと(半洗脳状態だったとはいえ)無辜の人民を殺してしまったムエッタを地上に残して、お話を綺麗に収めるルートが見つからなかったのも、理由の一つかなと思いました。
フィドルグという『非人間』も情と涙のある『人間』になれるという希望を体現してるムエッタですが、『人間』に近寄る過程で人命を奪ってしまっていることも事実で、直接描写はしないながらもお話しの真ん中に人の命があり続けてきたこのアニメにとって、そこはなんとか精算しないといけない部分です。
『異人』たちが『平和な現代』に爪弾きにされたのは、逆説的にこのお話の倫理意識が反映された結果かもなぁと、別れを見ながら思いました。

恋の甘さは別れの苦さと常に背中合わせでして、最終的に二人は一旦手を離し別れる方向にお話は進みました。
試練が思いの強さを確かめさせてくれるという意味では、オーガに乗って立ちふさがったボーデン産と、220光年の別れはおんなじ仕事をしているのだなぁ。
別れが悲しくなりすぎないように、剣之介生存を示すインジケーターを用意したり、いちばん大事な思い合う気持ちはしっかり確認させたりしてくれたのも、このアニメらしいありがたさでしたね。
ストレス・コントロール、とにかく上手かったなぁ。


かくして時は流れ五年後のエピローグとなりましたが、流石に丁寧に積み上げてきただけあってまさに万感であり、同時に最後の最後まで目端の行き届いた描写が冴えていました。
『戦場』をくぐり抜けて手に入れた『子供』の決意が、しっかり形になっているのを手際よく見せてくれたのも良かったし、揺るがない自分らしさを今も生きている『大人』の姿を確認できたのも、本当に素晴らしかった。
戦いの苦味を一身に背負って廃人となっていたリタに回復の兆しが見えた所とか、ベスが親友であり命の恩人でもある人のために捧げた献身が一瞬で報われる見事な演出で、ほんと抜け目がない。

一話で雲をつかむように『火星』を夢見ていた由希奈が、最終話では『火星は通過点』と言い切るのは、綺麗に物語が始まった場所に戻り、その先に進む類型を踏んでいて、非常に収まりが良かったです。
しかしその未来はボーッとしていては掴めなかったはずで、由希奈個人の努力や異星人技術の解析だけではなく、最終二話で立ちふさがった世界の厳しさを乗り越える人格的な努力も、この結末には絶対に必要だった。
全世界に異星人技術が行き渡っても、一部の支配者がそれを独占するのではなく、『きときと宇宙港』というローカルで開かれた使い方をし、剣之介を迎えに行く旅路に抵抗ではなく祝福が与えられるためには、相当の努力があったはずです。
それはこれまでの戦いと同じくらいかそれ以上に意味があることだし、その意味を強調する意味でも、世界が『異人』に背中を向けるクライマックスは、このお話に相応しい展開だったのだと思えます。

一度は『異人』を拒絶した世界が、彼らの義に報いるために世界をあげて船を送り出すに至る経緯は、巧妙に省略され結果だけが差し出されます。
しかしこれまで黒部という狭い場所で培われた暖かさを知っている身としては、世界がそのように優しくなってくれたことは必然でもあるし、救いでもある。
サムライと普通の女子高生が出会い、惹かれ合い、支え合う物語をじっくり描いてきたからこそ、『異人』を朋友として受け入れる由希奈達の優しさが世界を変えたこの結末は、これしかない唯一のエンディングとして、非常に納得がいくものです。

そこに込められた思いも当然知っていればこそ、220光年を超える旅路は必ず上手くいくし、由希奈と剣之介は再開を果たす。
描かれなくてもそれを信じられることこそ、このお話が己を貫き、それが僕ら視聴者にしっかり届いた、何よりの証明なのではないかと思います。
それは短いエピローグの時間の中で、横幅広く全てのキャラクターを描き切り、印象的に由希奈達の成長、世界の変化を切り取ることの出来た技量あってのことでもあります。
やはり創作においては情熱がテクニックを支え、技術がエモーションを形にする両輪なのだと、再確認できる最高のエピローグでした。

 

クロムクロ、2クールの長い放送を無事終えることが出来ました。
いいアニメでした。
PA初のロボアニメとして、ジャンルのお約束を少し外しつつ、『異人』とのコミュニケーションに重きをおいて進む展開。
『サムライ』という主人公のキャラを活かした、異形のロボとの重厚な殺陣。
異星人侵略という危機、それにまつわる世界のシビアさを無視するわけではないが、人間のポジティブな側面を積極的に信じていく前向きな劇作。
黒部の土着性を美術にしっかり込め、『異人』が『平和な現代』に、『普通の女子高生』が『戦場』にそれぞれ学び、馴染んでいく過程を丁寧に描く独特な筆。
独自の魅力が沢山あって、しかもそれが凄くオーソドックスな楽しさに繋がっている、骨太なアニメでした。

いいところ、好きになれる所山ほどあるんですが、特に話を支える二人の主人公の魅力と、衣食住にこだわった日常描写は、お話を支える良い足場だった。
剣之介も由希奈も根本的に良いやつで、だから応援したくなって、その気持にしっかり答えてくれる、信頼のおけるキャラでした。
そんな二人に仮託された『戦場』と『平和な現代』が融和していく姿を、片贔屓にならずバランスよく描けたのは、食事に代表される血の通った部分の描写が鋭かったこそだと思います。
キャラクターが物語を進める記号ではなく、血肉の通った人格として描かれるために必要なアレコレを、怠けずちゃんとやってくれたアニメでした。

戦いや生死のシビアな部分をちゃんと見つめつつ、そこに確かに存在する光を諦めず、前向きに描いたお話でした。
いいアニメであり、いいSFであり、いいラブロマンスであり、いいロボアニメだった。
こういう角度から『ロボアニメ』というジャンルが掘られたのは、僕は凄く豊かで価値のあることだと思います。
そしてなにより、好きになれるいい匂いのするアニメだった。
最後までしっかり作っていただいて、ありがとうございました。
お疲れ様です、クロムクロ、本当にいいアニメでした。