イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

刀剣乱舞 花丸:第1話『ちょーしにのんな』感想

時流を制した騎虎の勢いを誇る女性向けコンテンツの雄、満を持してのアニメ第一話であります。
刀剣男子が日々を過ごす『とある本丸』の日常と、彼らが時の守り人として奮戦する異形との戦いを同時に描く欲張りな作りであり、ほんわかもバトルもしっかり仕上げてきました。
人間味溢れる美青年たちの輝きを存分に照らし出しつつ、付喪神であり時間旅行者である彼らの異質性も無視しないバランスの良さは、だらりと日常を飲み込む以上の面白さを潜ませていて、グンッと期待が高まります。
なお自分はアニメからの新参者であり、今すごい勢いで焼刃を付けてるところです。

前々からその勢いの余波だけは感じており、しかし内容に触れるチャンスがなかなか無かった刀剣乱舞。
何しろファンの後押しとこだわりが凄いコンテンツなので、完全身内向けのファンサービス作品を叩きつけられることも覚悟していましたが、色々な意味で新規視聴者も引き寄せるパワーが有りました。
そういう所怠けないからこそ、入れ替わりの早い愁嘆場でトップを守り続けられるのかもしれないね。

PVから想像していたのは、『戦場から隔離された本丸で、刀剣男子が穏やかに日常を過ごす』というアニメでしたが、蓋を開けてみると出だしからして良いアニメで池田屋事件を見せられ、奇っ怪な怪物である敵との戦いもちゃんと描かれる、想像よりもハードコアなお話。
『刀剣男子とは何であるか』『彼らの敵は誰か』『戦いをどう感じているか』など、殺し合いを扱う以上どうしても気になる部分にもしっかり触れてくれて、イヤな方向に保護されている印象を与えない、フェアな出だしになっていました。
チャンバラの演出に気合が入っていて、刀剣ごとの個性が殺し合いに出ている所、本丸で見せたのとはまた違う修羅の顔をしっかり見せてくれるところは、血の流れる戦いを軽んじていない感じがして、非常に良かったです。

本丸の描写からは想像しにくい戦場を逃げずに描いたことは、逆に殺傷兵器でもある刀剣男子のリアリティを高めていて、世界観に乗っかる足場になってくれました。
どんなに本丸の空気がほんわかのんびり楽しいものでも、彼らが殺傷の道具として生まれ、長い時間の中で哀しみや業に苛まれてきて、今巨大な敵と戦い歴史の理を守る超戦士として生きていることは否定できません。
むしろ血や汗や涙を背負えばこそ、彼らは本丸での雪合戦やら飯作りやら厩の掃除やらを、時々文句言いつつ楽しもうと頑張っているわけで、この作品において日常と戦場は相反ではなく対比なのでしょう。

見目麗しい青年たちが、ただぼーっと口を開けて幸せを嚥下しているわけではないことは、初見の僕が彼らを好きになる上で、結構大事なところだったと思います。
そういう意味では、ピンチの今剣くんをニッカリさんがカバーアップし、安定くんが自分の傷も顧みずお守りを手渡すチームワークを目ざとく盛り込んだのは、『守るために戦う』戦士としての刀剣男子を巧く表現してて、良い見せ方でした。
血を浴びて修羅に変わっていたとしても、誰かを守る優しさを忘れず戦える奴らは、やっぱ尊敬できるし、尊敬できる相手をこそ好きになりたいからアニメ見ているわけです僕は。

様々な歴史を背負った銘刀たちと、敵である歴史修正主義者を巧く重ね合わせ、『なぜ我々は歴史を改変しないのか』という問いを幾度も繰り返すのは、彼らの存在を掘り下げる上で大事なことだったと感じました。
歴史に刻まれた悲劇を間近で見たり、もしくは介入できなかったりした哀しみを背負う刀剣男子は、的である修正主義者と同じように過去を改変し、望む未来で塗り替える自由を持っています。
しかし不在を持って描写される審神者の存在によって、彼らは二度目がない人間の歴史と生命を尊重できる、運命の重さを尊重する側の存在であり続けようと頑張っている。

今回お話しの軸に沖田総司の佩刀ふた振りが選ばれていたのも、人間とは違う生まれと身体を持ちつつ人間に寄り添うとする、刀剣男子のゆらぎと矜持をまず描きたかったのかなぁ、などと感じました。
実際に池田屋で沖田に握られていた加州くんと、それを夢に見るしかない安定くんのコンビは、赤と青のイメージカラーの対比も鮮やかに、刀剣男子がどういう霊を持っているのか、よく伝えてくれました。
他のメンバーも歴史上の偉人と紐付けすることで、少しでもキャラを焼き付けようと手管を使っている辺り、隙なく仕掛けてくるアニメよね。


もちろんPVから感じたゆるふわな楽しさも嘘ではなく、大量の人数を器用に捌きつつ、隠れ里めいた本丸の楽しい生活を魅力的に描いていました。
公式のSTORYページを見ると『睦月』とあるので、一話につき一月時間を進め、季節の変遷と共にだんだん刀剣男子が増えていく趣向になってるのかな。
雪合戦に追いかけっこ、料理に畑仕事と、生活感・季節感に満ちた本丸の描写があることで、ハードな宿命が人間性を乾かしきらない、いいバランスになってたと思います。

審神者を具体的に描かないことで、あの本丸には人間に見える人外だけがうろついている状態になっていて、日常を描いているはずなのにどこか隠れ里的な超日常感が出ている、不思議な空気がありました。
ブラウザゲームという原作の特質上、審神者は各ユーザーが己を投影する重要な白紙であり、その周辺だけを描く選択は一つの正解だと思います。
何も描かれなければ、想像力の筆で好きな絵を描けるわけだから、一種のファンサービスなのでしょう。

不在の審神者に成り代わり、ガミガミ色々言うことで共同生活を成り立たせていたのが長谷部さん。
自由奔放でマイペースな刀剣男子が多い中、規律と伝令を担当する長谷部くんの立場は厄介だけど絶対必要で、いいポジションにいるなぁと思います。
必要十分に堅物なんだけど、自分が派遣メンバーに選ばれないことに涙したり、使命より命を重視する命令を出したりして固くなりすぎない描き方は、このアニメが持っている程よいバランスの代表みたいでした。
近習という立場を代表して『審神者の代わりに』命令を出すことで、『審神者は刀剣男子のことを案じている、結構いい人である』という方向付けに成功しているの、結構テクニカルよね。


他にも総勢15名の刀剣男子をガンッガン出して、喋って動いて生きてる彼らを楽しそうに描写する手際は、ただ人数を捌くのが上手というだけではなく、初見の僕にもなんとなく感じ取れる『らしさ』が巧く埋め込まれていて、非常に分かりやすかったです。
いっぱい男の子が出てきて正直覚えきれませんが、薬研くんは白衣半ズボンで眼鏡で医者で渋いいい声勢というお子様ランチ(『俺の好きなものしか乗っていねぇ』を意味するスラング)すぎて、凄い素晴らしかったです。
今剣くんへのカバー&ケアもそうなんだけど、優しいボーイがアタイは好きなの。

そういう意味では、戦闘で切り取られた前髪を綺麗に飾って、安定くんの人間性を回復してくれる加州くんもジェントルだったなぁ……。
加州くんの『着飾るのが好き』という設定はいい具合に戦場の血生臭を遠ざけつつ、細かい描写が伴うことでグンッとキャラを立てる良い足場になってるよね。
ネイル塗る所とか非常に細やかで、フェミニンな魅力が匂い立って素敵でした。

刀剣乱舞はとにかくヴィジュアルが強いと感じていて、様々な和装を乱さない程度に崩して華と品を出している所とか、無骨な中にどっか一つ輝く要素を入れてくる所とか、『女性が愛せるものとしての男』を巧くまとめているなぁと感じます。
眦への紅とか黒基調の中の差し色とか、キャラが戦士としての無骨さに埋もれない適度なショックが、必ずどっかにあるのがセクシーでよろしい。
化粧を整えている男子が多めなのは、戦場で首を取られても恥にならない志を反映しているのかなぁとか一瞬思いましたが、まぁアクセントだよねおそらく。

主役として過去への思いを軸に話を支えてくれた加州&安定コンビ、秩序の代言者として厄介なポジションを華麗に踊りきった長谷部さんの描き方が上手かったのと、短い出番で溌剌とした魅力を出す筆が乗っていたのの合わせ技で、今回あまり目立った出番がなかったキャラが活躍する展開にも、大きな期待が生まれています。
今後主人公を取り替えながらのオムニバスとして回していくのか、はたまた主役と脇役をくっきり分けた展開にするかは分かりませんが、今回のようなキャラの扱い方を続けてくれれば、どのようなスタイルでも楽しく見れる気がします。
僕はアニメ版の『戦国コレクション』が一等好きなので、貪欲に様々なジャンルに切り込み、様々な時代を遡って刀剣男子の業を見せてくれると、好みで嬉しいなと思います。


というわけで鳴り物入りで始まった刀剣乱舞アニメ第一話、非常にバランスと手際の良いお話でした。
キャラクターが動いて喋る快楽を大事に、温かい本丸と乾いた戦場を対比させつつも、そこが接続された場所であることを忘れず取り回す、豊かな第一話だったと思います。
刀剣と人間、戦場と日常、殺意と愛情。
様々な矛盾を抱え込んだ『人間よりも人間らしい』付喪神達の隠れ里と、歴史を守るための人目に触れざる戦いは、僕の心をグッとつかむに十分なパワーを持っていました。

何より本丸の仲間たちが日々仲良く、手を取り合い支え合い時にはぶつかりながら暮らしている様子が俺好みすぎて、他の刀剣男子たちにもドシドシと登場して欲しい気持ちです。
俺は人間以外が肩を寄せ合い、じわじわと真心を持って生きていくアニメがマジで好物なんだ……『武装神姫』とか『キルミンずぅ』とかな!
気持ちのいい兄貴分や不思議なお兄さん方、可愛いボーイたちはたっぷりいるんですが、山脈のような筋肉の盛り上がりを見せるおじさんがちと足らなくて、そっち方面の補充マジお願いしますって感じだ、OPにはいるしな。

今後増えるだろうキャラクターの活躍にも、既に顔見世したメンバーの掘り下げにも大きな期待が持てる、立派な第一話だったと思います。
こんだけ期待を寄せられて、120%答えきるってのはなかなか出来ないことだと思いますホント……動画工房スゲーなマジ。
とりあえず早めにな、片幅の広いおじさんボーイが小さいボーイをがっしり支えるようなお話をだな、マジで、マジでな。(個人的好みを全力投球の構え)