イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

フリップフラッパーズ:第1話『ピュアインプット』感想

10月期新アニメ戦線に良い作画と山盛りの幻想を携えて現れた、新世代の不思議の国のアリス、ついに開幕。
訳の分からなさとガール・ミーツ・ガールを全力で叩きつけてくる、不可思議な第一話でした。
世界設定とか行動の背景とかは全然わからんけども、とにかく少女と少女が出会い、不思議な事が起き、青春と幻想が加速していることは判る。
どっぷりと作品世界に耳まで浸かる酩酊感が、なんだかとっても気持ちがいいスタートとなりました。

あらすじをまとめますと『賢いけれども自分を見つけられない少女ココナが、元気で無邪気なパピカに見初められ、ゼロ距離戦闘を仕掛けられつつ夢の世界の冒険に引きずり込まれる』という感じのお話。
パピカがどんな素性なのか、夢の世界になぜ入れるのか、不思議な力の源泉は何か。
そういう現象的な説明は全部横に押しやって、とにかく事態は先に進み、背景はどんどん回り込み立方体が渦を巻き、キャラクターは疾走し跳躍し暴れまわる。
アニメーションが『動く』気持ちよさを最重要視して、見せたいシーン作りたい場面をどんどん出していく作りは、授業の題材となった"夢十夜"にも似た、精神世界のルールを感じさせます。

夢見たものが即座に形を持ち、心象風景がすぐさま世界を覆い尽くす作品世界をまず体験させるために、原因があって結果がある普通の論理をあえてすっ飛ばし、結果だけが津波のように押し寄せる構成になってるんじゃないかなと、僕は感じました。
訳はわからないけども、とにかく心は踊る。
このアニメを見きったときの僕の心の動きは、唐突に女の子と出会い、唐突に不思議な冒険に叩き込まれたココナの当惑とときめきに、結構近いのではないか。
不可思議なれど胸躍る奔流に押し流される快楽を、主人公と一緒に体験させるための構成であり、幻想を脳髄に流し込まれるかのような一連のアクションなのではないか。
そんな気がします。


二人の少女が出会って不思議の国の扉が開くガール・ミーツ・ガールと考えると、ココナが『現実』を、パピカが『幻想』をそれぞれ代表する主人公なのかなと思いがちです。
が、ココナが足場を置く世界もまた、重力から切り離されたような不思議な浮遊感、廃墟感を持っています。
ココナは"Flip-Flap"というタイトル通り『現実』と『幻想』をパタパタ行ったり来たりする("ニューロマンサー"みたいだね)わけですが、その境界線は実はあまり堅牢ではなく、不可思議な地続き感でしっかりつながっています。
学校を埋め尽くす大量の硝子、生活感よりもスタイリッシュさを感じる食卓、空中庭園のように鮮明で現実感のない光の表現、美しいはずなのに一欠片色あせた色彩。
パピカによって切り開かれたワンダーランドだけが現実を超越したロジックで動いているのではなく、その前段階からして物理法則から切り離された、何か独特のルールに従って回っている感じを受けるのです。
雪世界の真っ白な美しさ、黒い深淵の不気味さ含めて、美術を受け持つスタジオPABLOの底力が、うまく空気を作っていますね。

その感触を一言でまとめれば『精神第一主義』という感じで、ココナが置かれている不安定な思春期をすくいあげるように、世界は美しく発光し不思議な女の子は『現実』に侵入してくる。
ピンク色の不思議な女の子と出会うことで、どこに行けば良いのかわからない女の子は強制的に心の世界に引きずり込まれて、常識を大きくかけ離れた大冒険に飛び込んでいくわけですが、それは夢の一つの顕現であり、そこに飛び込む前段階から世界はとてもフワフワし続けています。
それは多分、己を定められないココナの気持ちそのものなのであり、このお話の全ては主人公・ココナの気持ちの延長線上にある。

それはつまり、ココナの心が変化すれば世界が変わっていくということであり、パピカとの出会いによって"雪国"めいた白い世界に塗りつぶされたのも、その出会いが大きな変化をもたらす運命的なものだったからでしょう。
ココナが望むと望まざるとパピカはやってきて、凄まじく近い距離感で匂いをかぎ、己の身を犠牲にしてメガネを回収してくれる。
その変化も出会いも唐突なのですが、同時に圧倒的な動画の快楽に満ちたアクションシーンと同じように心躍るものであり、次に進みたいという誘惑に満ちています。
出会いによって生まれる心象風景の塗りつぶしが、個人の心のなかでは収まらず魔法少女的な身体の変化、世界全体の変質を伴っているところも、このお話の『精神第一主義』を表しているように思えます。


作品全体を暴力的なまでに支配する幻想を一旦剥がし、ココナの心情的変化だけを追いかけてみると、お話は結構シンプルです。
静謐で美しくはあるけど、激しい衝動にかけている『現実』から突然、インパルスの塊のような女の子に出会って困惑し、冒険を共にして共感し、流した血に報いようと新しい力に目覚める。
どれだけ世界が幻想的でも、女の子が女の子に出会い、運命と正面衝突する『出会い』の物語はしっかり進行していて、やはり物語の始まりは『出会い』だなと痛感します。

パピカがむっちゃグイグイ距離を詰めて、ココナへの好意を隠そうともしないのも、『出会い』の特別さをうまく強調していたと思います。
作品そのものと同じように、パピカもその背景と来歴が一切わからない幻想なのですが、しかしココナと『出会う』ことで感情がかき回され、距離を詰めて親しくならなければ耐えられないという衝動に突き動かされているのだけは、強く感じ取れる。
恋にも似た激しさで心を出会ったからこそ、『メガネ』というわりとどうでも良いアイテムを新生なるフェティッシュとして認識し、血を流してココナへ好意を示そうとするわけです。
突然の『出会い』に戸惑っていたココナも、冒険が暴力に変わってようやくパピカの気持ちに答え、それを祝福するかのように奇跡が起きて少女は変身する。
ここら辺の話運びも、やっぱ『精神第一主義』の超幻想を強く感じることが出来て、僕好みであります。

今回視聴者を押し流した幻想に理屈をつけるのか、今後色々説明してくるのかはさっぱり判りませんが、まぁあっても良いしなくても良いかな、という感じです。
とにかく映像としての浮遊感、酩酊感が圧倒的で、『なにか……とても凄いことが起きている……ッ! 抗えないッ!!』という体験ができるだけでも、相当に気持ちがいいので。
その上で論理の網の目をしっかり張ってくれれば、それはそれで面白いものだろうし、あえて語らず進めるのも面白いと思います。
視聴者を飲み込んだ圧倒的なイマジネーションを、1クールという長丁場維持し新造し畳み掛けてくるのか、はたまた角度を変えたアプローチで楽しませるのか。
シリーズとしての手綱さばきも気になるところですね。


兎にも角にも少女たちは出会い、不思議な世界の扉は空いてしまったし、最後のロボットたちを見るだに美しい夢を遮る障害も存在しているようです。
こっから話がどう動いていくのかは判りませんが、様々な夢の国を今回見せた切れ味で体感させてくれるならば、それは24分間の酩酊として凄く面白そうで、期待の高まる物語だと思います。
ふわ~っと美麗な作画と背景を体験し楽しませてもらうのも良いんですが、少女と少女が心で繋がる強さもしっかり描いてくれると、俺好みで素晴らしいし話にも背骨が入ると思います。
ここら辺はゆにこ大先生だからなぁ……イマジネーションとエモーションを喧嘩させず、お互い盛り上げる方向で捌いてくれると思います。

今後お話がどういう舵取りで進んでいくかはさっぱり判りませんが、ロジックを蹴っ飛ばして体験と快楽で視聴者を飲み込むパワーは、強く感じることが出来ました。
ここら辺は作画畑から一足飛びで監督になった押山さんの強い所が出た印象ですね……ダンディ18話の一人原画、マジ凄かったもんな。
少女の繊細な心象が全てを覆い尽くしていく壮大さとかかなり好きな題材なので、今回見せた危ういバランスを維持したまま、今後も楽しませてくれるとうれしいですね。