イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ブブキ・ブランキ 星の巨人:第14話『にせものの心臓』感想

様々な形の絆と信頼が鋼の巨人を稼動させるアニメーション、台湾決戦後半戦な新章第2話。
ソヴィエトのお兄様が過去最高のゲスさで大暴れする中、妹は思う存分空回りし、兄貴はおっとり刀で駆けつける。
ブランキ VS ブランキのド迫力バトルの中で、各チーム、各キャラクターの強さと弱さが見えてくる展開となりました。
アクションの中にドラマの影をしっかりつけれているのは非常に良いが、やっぱ東はキャラとして弱いなぁ……と再確認する展開でもあり。
まだまだ兄妹のファミリー・アフェアは拗れそうなので、ここを突破口に一皮剥けて欲しいもんだけど、どうなるんでしょうかね。

そんなわけで、今回はほぼ全編ザンパザとのバトルとなりました。
巨大建造物同士がガツガツぶつかり合う迫力はそのままに、いろんな技を駆使するテクニカル・バトルの楽しみまで追加されてきて、ロボットアクションとしての面白さが増している感じです。
一期でチームワークズタボロになったけども一体どうすんだろう、とか思っていたら、『実の妹含めて全員洗脳し、文字通りの手足として使い潰す』という斜め下の解決策。
お兄様がコッチの想像を超えるゲスでバカなお陰で、ギーが最高に怪しいとか、独裁者型心臓はうまく機能しないとか、気になってる情報が的確に出てくるのはありがたい限りです。

『ソヴィエト製だから武器はハンマーと鎌』という赤い発想が最高なザンパザを道標とすることで、東と薫子がそれぞれ抱える問題が見えてくるのは、なかなか面白い。
このアニメのロボは五神合体なので、手足の心を抑圧して道具扱いするお兄様が東の王舞に負けるのは納得の展開ですし、ロケットパンチや伸びーるブレードという『手足担当のイマジネーション』をそのまま武器に変える戦法で勝つことで、そのロジックは非常にハッキリ演出されます
ゴミクズ人間が仲間の意志を奪うよりも、各々の個性を存分に発揮したほうがより善いに決まっているし、見ていても気持ちいい。
東チームの勝利は、作品内における倫理のあり方を反映した勝ちだといえます。

しかし薫子は『高い所に登ろうとする』あまり力を使いすぎ、仲間との関係は悪くないのに負けてしまう。
これはチームワークを力に変える以前に、薫子が『無意味に相手の上に立つ』ことにこだわりすぎた結果だといえます。
彼女のハイテンションな振る舞い、東や世界に対する虚勢は半分くらいはギャグとして描かれていますが、今回守るべき『街』の破壊という結果に繋がる、シリアスな弱点にもなっていました。

父に捨てられ(たと思い込み)、母を憎み(たいと願い)、愛された(と見える)兄へのコンプレックスに縛られた彼女は、常にお道化た仕草を装うことでナイーブな内面を覆い隠し、しかし道化にはなりきれず、敵と戦う力を虚勢にまわして敗北してしまう。
ギイの陰謀に気づいた様子がないこと含めて、今の薫子は虚飾と本音のバランスが一切取れていない、危うい状態にいるわけです。
家族との関係が不安定な薫子が『高い所に登ろう』とするのに対し、常に落ち着いている東が『高い所が苦手』というのは判りやすく、面白い対比ですね。

薫子が口でいうほど家族を憎んではおらず、むしろ正常化を望んでいるということは、視聴者のみならずチームの仲間にもバレバレです。
『兄妹仲がいいのね』と微笑むアジアチームはいい塩梅に心臓のことを受け止める準備が出来ている感じですが、肝心の薫子本人がうまく愛憎のバランスを取れていない以上、問題は解決しません。
それをぶつけられるのが唯一の血縁、兄・東である以上、彼が登場する前に始まったザンパザとの戦いは敗北という結果に終わるわけです。
司令部の混乱は、一党独裁抑圧よりも弱々しいってことですね。


東以外が薫子の問題に踏み込めない以上、主人公として家族として真っ正面から向かい合って行けなければいけない状態なわけですが……どうにも煮え切らないと感じちゃうんですよね。
例えば母を悪しざまに言う薫子に『そういうことは言うもんじゃない』と反論してしまう教条主義とか、東の『良い子』っぷりは初登場時から全然変化していません。
そういう人間だから『礼央子がかわいそうだ』という迷言も飛び出してくるんでしょうが、そこで『そういうことを言われると、俺がムカつくんだ!』と返せない『自分』のなさは、問題解決を視聴者(というか僕)に実感させにくいフィルターになってしまっている。

せっかく薫子がいい具合にエゴを暴走させ生々しい感触を作り出しているのに、東は規範意識と道徳から半歩も踏み出さない『良い子』の立場を守り続けて、剥き出しのエゴを感じられないわけです。
薫子が振り回されている虚栄と愛憎は思いっきり人間のナマの部分の話なのに、それを唯一受け取れる東は理屈で覆ったガワの部分でしか受け止めず、結果どうにも噛み合わないと感じられる。
魂がぶつかり合って一つの解決策が生まれるには、熱量も必然性も足らないと思えてしまうわけです。

この東の『良い子』さが克服するべき弱点だと描かれているのなら、薫子のむき出しのエゴとぶつかり合って変質していく期待も抱けるのですが、これまでの描写を見るだに『良い子』であることは疑いようなく良いことのようです。
東は宝島に向ける思い、母に向ける思いを今回吐露していたわけですが、それもモラルの範疇をでない『良い子』の言葉で、魂の奥底から血を振り絞ってわざわざ選択した答えだとは、僕には感じられなかった。
他のキャラはいい具合に剥き出しになってきてて面白いのに、主人公だけがその熱から置き去りにされている。
ここがほぼ唯一の、しかし最大の『ブブキもったいないポイントだなぁ』と、強く感じます。

自分のモチベーションを語る言葉にすらどこか冷えたものがある主人公を、どうにかぶっ壊してくれないかなと願いながらこのアニメ見ているわけですが、他人も自分も踏みにじるマクシムの外道っぷりに『ぶっ殺す!』宣言したときは、ちょっといい感じでした。
道化を装いつつ、痛々しい『お兄ちゃん助けて!』というメッセージを出してくる妹にも、あれくらいの熱量で向かい合ってくれれば、一気に何かが変わる予感がしてるんですけども……どーなのかなぁ。
実の妹相手にすらキレイなお題目引っ張り出してきて、ド正論装った空論でかわす解決策が続くのなら、それはどうにもシンドいぜ。


というわけで、ザンパザとの二回のバトルを通して、一希兄妹の、チームの、作品全体の問題点と魅力が浮かび上がる回でした。
薫子の拗ねた感じというか、心をどこに置きつければいいか解らないまま、必死におどけて自分を守っている感じ、素直に『助けて』と言えないプライドの高さは、面白くて切なくて非常に良いですね。
だからこそ、受け止める側の東も剥き出しになってくれれば最高なのになぁ……この温度差と残念感、礼央子さまの時と完全に同じだな。

一期ではダンドリ感満載だったブブキバトルですが、色々面倒くさいのを片付けた二期ではどういう見せ方になるのか。
恐くもあり楽しくもありますが、兄妹だけではなくチームVSチームの形で薫子のコンプレックスと戦うことは、作品の方向性にも合っていると思います。
救われるべき妹より救い上げる兄の描写に不安があるという、なかなか倒錯した状態からどういう話が飛び出すか。
楽しみですね。