イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Lostorage incited WIXOSS:第1話『記憶/裏と表』感想

ぶっちぎり性悪!
カードゲームしないTCG販促デスゲーム・ジュブナイル・サスペンスが、装いも新たに帰ってまいりました!!
スタッフも一新(いうても前作の各話演出・脚本に関わってますけどね、土屋さんも桜美監督も)、舞台は新宿から池袋へ、プレイヤーにも男子が交じる変貌っぷりですが、人間の尊厳をプレイフィールドに乗っける極悪っぷりに変化なし。
舞台を改めて行われるTCG残酷物語にどんな青春が巻き込まれるのか、期待の高まる第一話でした。

前作は『萌え萌え青春TCG販促アニメ』というガワに『人間の醜い部分をたっぷり煮込んだ、欲望とカルマのごった煮』という中身を詰め込んだギャップが楽しく、またそれが暴かれるサスペンスが物語を引っ張るアニメでした。
しかし全24話+劇場版を大好評の内に走り終え、『WIXOSS』という単語を聞いただけでガードを上げるようになった視聴者には、前作のような一種の奇襲は通用しない。
なので、いきなり『デスゲーム』という作品の本質に主人公を巻き込む展開は、スピーディーに話が進むという意味でも、無意味に前作の影を追いかけていないという意味でも、かなり良かったです。

存在をかけたクソゲームの悪辣さはさらに加速していて、『途中ドロップ不可、初期ライフはランダム、強制戦闘ペナルティあり、報酬なし』というあまりにあまりな条件に、頭がクラクラする。
これも『デスゲームTCG』というジャンルに慣れ親しんでしまった既読者に、一発パンチを入れるべく調整された部分だと思います。
デスゲームものには『哀れな犠牲者が、想像を遥かに超えたひどい環境で阿鼻叫喚するのを、安全圏から楽しむ』という薄暗い欲望が付きまとうものであり、それを刺激するルールが過激化するのは、まさに正統進化でしょう。

そしてただ状況をハードコアに加速させるだけではなく、過激さを増した悪辣さの犠牲者がどれだけ新鮮な『人間』なのかを示す描写も、いい具合に冴えていました。
主人公・すず子の孤独な家庭環境、なんとか新しい学校に馴染もうとして拒絶される様子は声高ではなく、非常にしっとりとしたトーンでゆったりと描かれ、それ故身近な違和感に満ち溢れています。
このどこにも居場所のない窒息感を生々しく感じられればこそ、過去の『記憶』にしか安住できないすず子の孤独と、その『記憶』を人質にデスゲームへの参加を強いる悪辣さが、より鋭く刺さるわけです。
『記憶をスキャンする』超常的な力で、個人的な魔法の言葉である「すず子、ガンバ!」を窃盗してクソゲームに巻き込む所とか、ホント最悪で最高の演出だった……WIXOSSはやっぱ邪悪じゃないとな!!

目立った悪意ではなく、形のない隔意故に教室の環から遠ざけられるあの感覚。
家族という形を保つべく、もしくは届かない親愛を込めて作った料理にラップを掛けて冷蔵庫に入れるときの苦笑。
クソみたいな世界のクソさをたっぷり感じつつ、その世界を突破する手段を一切持たない無力感が、細やかな生活描写の中にさり気なくまぜこぜにされていて、最高にクソだな!(褒め言葉)と思いました。
そういう細かい孤独感を、『一個しかないコイン』という異常で印象的なフェティッシュにしっかりまとめ上げている所とか、非常に良い。

すず子の孤独がうまく感じ取れるからこそ、彼女がWIXOSSを手に取ったのがエゴ混じりの善意であり、そこに『もしかしたら、世界が変わるかも』という希望が込められていることも解る。
そしてその同調は『ブースター開けたら、呪いのカードが入ってたでござる』という事態の理不尽さをすず子と同じように感じさせ、彼女がセレクターバトルを拒否する展開も違和感なく飲み込め、苛立ちが少ない。
そこからデッキを手に取り、物語の渦中に飛び込む流れも、すず子が唯一すがれる『記憶』を巧妙に使い倒し、参加者を追い込む逃げ場のないルールの説明がうまく行っているため、強く納得できる。

物語の中心となる主人公が現在どういう状況で、何を大事にしているのか。
この描写を非常に丁寧に、的確に、しっとりと感じ入れるように積み重ねた結果、すず子の事をスムーズに好きになり、彼女に乗っかる形で理不尽なバトルに引き込まれる作りになっていました。
導入部のの物語的仕事が『お話に引き込む』である以上、この話運びはまさに見事な指し手と言えるでしょう。
視聴者をお話にうまくノセる足場を作るだけではなく、キャラクターを好きになることでお話しも好きになり、熱を込めて見れるようになるって意味でも、すず子の世界を印象的に描けたのは強いパンチだなぁ。


話の背骨になる主人公をしっかり描くことが第一義だった今回ですが、様々なプレイヤーが参加する群像劇としての楽しさも、いい具合に盛り上げてきました。
『女のゲスキャラだと、絶対にあきらっきーを超えられない』という理由で男にされた墨田さんがメイン敵でしたが、描写としてはすず子唯一の希望たる過去の親友、千夏ちゃんが太かったかな。
金は合っても温もりがない穂村家と、会話は合っても金が無い森川家の対比とか、いい具合にエグかった……。

新たなるセレクターバトルが『記憶』を対価とし、すず子の最も大事なものが千夏との『記憶』である以上、千夏もまたセレクターバトルに参戦し『記憶』を脅かされながらひどいことになるのは、まぁ確定した未来だと思います。
今回すず子がセレクターバトルに飛び込んでいくまでの描写がすごく良かったので、千夏が地獄に首を突っ込むまでの物語にも、期待が高まりますね。
今回すず子と千夏の対面がなかったのは、今後導入が終わったタイミングで衝撃的に出会わせるための布石だろうしなぁ……千夏の方にはすず子『記憶』がない、もしくは大切なものではないって所かなぁ。

前作はわりかし『(イメージです)』って感じだったバトル描写も、ルールタームとカード名宣告多めなカッチリした描写に変わっていました。
ここら辺のテイストも、スタッフを変え別角度から物語を照らし出そうという、刷新の意欲を感じることが出来てグッドですね。
良いゲスさでチュートリアル役を担当してくれた墨田さんですが、内面を照射するルリグがオドオド虐めてちゃんだったのは、なんかエグい過去があるのか、そういう女の子がアニムスなのか。
サブキャラクターの物語が気になるよう出だしを作れているのは、群像劇としてとても良いと思いますね。

夢限少女システムを使って表現できる物語は前作でやりきってしまっているので、ルリグを生み出すロジックをガラッと変更したのは英断だと思います。
『共通素体がセレクターの内面を反映し、様々な個性を獲得する』という設定は、キャラクターが何を大事に思っているかとか、どういう人間なのかとかをルリグ越しに見やすくなって、なかなか面白い……ホント、すず子には千夏との『記憶』以外なんにもないんだな。
繭が浄化されて破綻したはずのセレクターバトルがなぜ復活したのかとか、このクソゲーム仕込んでるの誰かとか、色々気になるポイントもあるので、これを追いかけることでお話もいい感じに加速していくんじゃなかろうか。


というわけで、いい具合にセレクターでありながら、いい具合に全部ひっくり返してくる第一話でした。
"ふらいんぐうぃっち"でも冴えていた桜美監督の情景描写を活かし、主人公・すず子を取り巻く孤独と理不尽にうまく体温を与えていたのが、非常にグッド。
彼女への共感に巻き込まれる形で、動き出したセレクターバトル、展開される物語にも一気に前のめりになれるしね。

舞台と語り部が語ればそれは別の物語であるし、過去と同じものを手に入れたくても、それは無理な相談だと思います。
むしろ偉大なる過去作のエッセンスを受け継ぎつつ、どのように独自の物語を作り、楽しませるかが、看板を引き継ぐ物語を見る上では大事な気がします。
そういう意味では、前作の心地よい邪悪さとフレッシュな人間心理描写を引き継ぎつつ、ガラッと変えた野心的な変化を的確に見せてきたこの第一話、非常に良いと思います。
こっからLostorageがどのような物語を積み重ねていくのか、楽しく見守りたいですね。