イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

12歳。 セカンドシーズン:第14話『ライバル』感想

『恋の気持ちを血潮に乗せて、高まれ私のBPM!』って感じの新世代恋愛ファンタジー、今週は結衣ちゃん両天秤。
Aパートで王者(チャンピオン)桧山の一本気純情ボーイっぷりを、Bパートで新たなる挑戦者(チャレンジャー)桧山くんのチャラ男っぷりと意外な熱さを両方描写し、『あまりにもイケてるボーイズにダブルで迫られちゃってどうしよう! 私は別にガッついてないのに、男たちが放っておいてくれない……憎い……私のナチュラル小動物系な魅力が憎いーー!!!』って気持ちを高める回でした。
まぁ結衣ちゃんは高潔な人格をした良い子なので、そこら辺の生臭い感情は物語の外側に配置されているわけだが、視聴者の根本的欲望充足をしっかり見据え、必要なエピソードを供給するのは大事だ。

かなり早い段階でカップリが成立し、彼氏彼女の関係は城のごとく堅牢なこのお話。
彼ピッピたちは身勝手な欲望で寝言はいたりしないし、別の女にフラフラしないし、時々すれ違いつつも誠実に愛情を捧げてくれる文句なしのナイスボーイ揃いであり、本命がブレることはあんまありません。
まぁ小学生女子が"NANA"か"セックス・アンド・ザ・シティ"バリにくっついたり離れたり、乱れたり乱れなかったりすることでお話が回転するのも大問題なので、二人の絆が永遠なのは大事なことだと思います。

しかしそれではドラマに必要な波風は立たないわけで、まぁ今週の高尾先生のように無敵の彼氏力で全てを受け流すのもアリっちゃーアリなわけですが、場をかき回してくれる役がどうしても必要。
それが心愛ちゃんでありゴミクズ以下のモブ男子であり、"皇帝"堤であり"チャラ男"稲葉くんに当たります。
恋愛の外側から切り込んでくる心愛ちゃんやモブ男子はゲスく、恋のちょっかいを掛けてくるボーイズは尊敬できる人間として値段を釣り上げてくるのは、個人的には面白い住み分けだ。
恋愛という個人的領域に上がり込む以上、それなりに整った人格してないと話自体が汚れてくるっていう判断なのかなぁ。


稲葉くんがそういう物語的要請から生まれたキャラな以上、実直な桧山とはタイプが違うけど、案外いいやつで、しかも絶対負けるポイントを強調しながら話が進んでいくのは、ある種の必然と言えます。
稲葉くんのチャラ男っぷりが強調される度、彼の行動理念は『誰でも好きってことは、誰も好きじゃないってこと』『恋をするというのは、たった一人を選ぶこと』という作品内倫理に攻撃され、負ける理由が積み上がっていく。
Aパートで桧山が他を一切顧みない一本気さで『結衣だけを選ぶ』行動を取り続けているのも、今後桧山が稲葉くんに『勝つ』理由、桧山が『選ばれる』理由を事前に見せておくためなのでしょう。
こういう導線をキッチリ引いておくのも、カップルがカッチリ決まって動かない、12歳。らしい切り分けですね。

稲葉くんの軽薄さの強調は、友達のためなら熱くなれる意外性をショウ・アップする前フリにもなってますが、教師説得するシーンは勢い抜いて考えてみると全く理屈が通ってなくて、むしろ面白かった。
『自分には児童を監督する責任と権利があり、疑われるような行動は慎むように』という教師の主張と、『指導はどうでも良いから、講師は成績上げる行動だけしておけ』という稲葉くんの反論は全く論点が噛み合っておらず、『稲葉くんさー、机叩いて大きい音出せば、自分の意見通ると思ってない?』とついつい思ってしまった。
高尾先生見ていると忘れがちだけど、この子らまだ12歳。だしね……あとメイン読者層は理屈無視してでも『大人をやり込めたい』という欲望を強く感じているだろうから、パワーで押し切って見せ場作るのも必要だよね……。
あとまぁ、稲葉くんの論理性は物語上大して大事なところではないので、サラッと流して『勝った』という事実だけ作るのは正しいと思う。

『軽薄でだれにでも優しい』という表面を貫通して、『友誼に篤く本命には一途』という稲葉くんの本質に辿り着くのが、今回のお話の主眼。
その本質において桧山と稲葉くんは案外親しいのですが、だからこそ先に彼氏になり、結衣ちゃんがシンドい時にしっかり支えて実績を積み上げてきた桧山には、稲葉くんは勝てない。
全く別角度から新しい価値や喜びを提供できるのであれば、作品全体を揺るがして結衣ちゃんをかっぱぐことも出来るんだろうけども、作品と消費者が求めているのはそういう不安定なサスペンスではなく、『恋はお互い思い合うもの』『刺激より安定』『恋はたった一人を選ぶこと』というぶっとい価値観を少し揺るがして、再び帰還することでしょう。
なので、稲葉くんは結衣ちゃんと桧山が尊重する価値観から出ることが許されていないし、そうである以上勝ち目もないと……皇帝もそうだったが、ここら辺の構図は堅牢であり残忍でもあるなぁ……。

この作品の不安定さはドラマの展開ではなく、オールドスクールな恋愛劇を『12歳』の幼い少年少女が演じるミスマッチにこそあり、その座組の妙技がオリジナルな魅力にもなっている。
その上で恋愛模様までグラッグラ揺らしたら、何を足場にお話愉しめば良いのかわっかんねぇってなるだろうし、一種の恋愛水戸黄門的な『結末が見えているサスペンス』を丁寧に回すのは、大事なことなのだろう。
ここら辺をより強く感じさせるべく、トレンディードラマ的な演出言語が何度も何度も繰り返し使われ、もはや一種の様式美になっているのは、映像作品として興味深いところだな。
桧山が電話切って即座に会いに来るシーンとか、12歳。の演出文法総ざらいって感じだったもんな……ああいうの好き。

お話の大枠が揺るがないからこそ、細かい部分での波風をどう立てるかってのが大事なんですが、特にAパートは『ハズシ』の演出が鋭かったと思います。
『塾の女の子に吊るし上げられそう→普通に恋バナでした』とか、『桧山が電話を切る→心配して即座に駆けつけてくれました』とか、第一印象をより面白い方向に裏切る展開が多くて、結構楽しかった。
こういうコンパクトな裏切りをしっかりやっていることで、安定した結末まで楽しく運ばれていけるというのは、娯楽作として大事なところだな。


そんな感じで、桧山VS稲葉の結衣ちゃん争奪戦を盛り上げるべく、二人の戦士の内実を見せるお話でした。
話が積み上がれば積み上がるほど、稲葉くんに勝ち目が一切ない状況が明らかになってきて、皇帝のときのような切なさがこみ上げてくる……いい少年なんだけどな、みんな。
高尾先生ほどじゃないが、桧山もファンタジー彼氏としてかなり仕上がってきたなぁ……話が積み上がると、どうやってもキャラクターに経験値は入っていくから、成長しないほうが嘘ではあるが。

親友の恋の鞘当てはさておき、来週は久々に花日ちゃんメインのお話。
予告では『ドキドキしちゃうね』とか抜かしてたが、高尾先生誰が相手だろうと瞬殺でしょアンタ。
ファンタジー力が高まりきった結果、『盗るか盗られるか』という恋愛略奪戦ではサスペンスを作れなくなった主役カップルにどういう話をあてがうのか。
来週も楽しみです。