イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

3月のライオン:第2話『川沿いの町で&あかり&橋の向こう』感想

あまりにも脆くあまりにも強い少年が傷ついた翼で高く飛び立つまでの物語、今週は桐山零の愉快な日常。
窒息しそうな緊張感と暖かな安らぎの緩急が見事だった一話に比べると、明るい棋士仲間に圧倒的なおかーさん力を誇るあかりさんがメインの、ホッと一息つけるお話でした。
しかしその安らぎの合間に、桐山家と川本家が共通して背負う『家族の死』が見え隠れし、演出もそれを背負って明滅を繰り返す。
シャフト特異のハイテンション・コメディ演出も節度を守って顔を出し、人生の色んな顔を照らし出す物語に相応しい横幅の広さを、強く感じ取れる第二話となりました。

零くんは生活感のないクッソコミュ障ですが、将棋というメディアを使ったときだけは人とつながり会える、不器用に特化した少年でもあります。
前回は『義理のオヤジを駒で撲殺』という特濃ハードコアな描写で描かれた将棋ですが、今回はもっちり元気な同年代のライバルあり、愉快で楽しい先輩たちあり、零くんの人間関係が完全に閉ざされたわけではないのだと、笑顔と一緒に教えてくれる展開でした。
まぁ棋士は駒でさし合う商売敵でもあり、気楽なばっかりではない間柄ですが、あれだけ全てを切り捨てて挑んでいる零くんが、コメディやれる場所がまだあると見せてくれるのは、ありがたい息継ぎ場でした。

このお話における『将棋』は細かく棋譜を詰めていくというよりは、未成熟な少年でも天に選ばれたなら戦わなければいけない、特別な場所として選び取られています。
そこに向かい合うために零くんは様々なものを切り捨て、人間味のない部屋に閉じこもってまで自分を追い詰め自分を維持しているわけですが、しかし『将棋』は冷たいばかりではない。
全身全霊、全人格、全人生をかけた職業としての『将棋』に向かい合うからこそ、逆に張り詰めるばかりでは生き続けられない人間の弱さと優しさも浮き彫りになり、戦友だからこそ生まれる温かい空気も描ける。
先週は『将棋』の厳しさと、『将棋』に関わらないからこそ素裸の桐山零を受け止められる川本家を描いていたわけですが、今週は人間と人間が打つ『将棋』の温かみに重点して、物語が進んでいた印象です。
キャラクターだけではなく、テーマとして選び取った題材にも複雑な色があると認識し、しっかり描写しながら話が進んでいくのは、やっぱ良いなと思います。

コメディとしてみると、やはり冒頭の二海堂とのエレベーター・コメディが出色で、ウザいくらいに善意と好意を叩きつけてくるニカの良い奴っぷりがいい具合に空回りし、素晴らしかったです。
あの扉が空いたり閉まったりのワーギャーした賑やかなテンポは、今回のお話全体のトーンを巧く示してくれていて、いいシーンだった。
零くんは親も家も失った孤独な子供だと自己を認識しているわけですが、ニカもスミスもイッサもみんな零くんが好きで、色々かまってくれている。
ウザがられても家に押しかけ、バーに誘って楽しい時間を押し付けてくれる。
そういうアホで優しい男たちが、零くんの周りにいてくれているということ、零くんの人生に『笑い』があるというのは、やっぱ良いことだなぁと前半を見ながら思いました。


『汗臭い男の胸筋もいいけど、やっぱおっぱいだよね!』って感じで、後半はあかりさん祭りでした。
アニメで色と動きと声がついて、川本三姉妹はより可愛く麗しく生き生きと動き出しましたが、あかりさんのむせ返るような色気と母性は、さらに強まった感じを受けます。
あのおかーさん力は、親無き川本家において意識して『母』を演じ続けている『無理の産物』なのですが、それにしたってよく出来ていて美しい人で、そらー零くんも好きになるよねっていう。

人間関係のガードが高い零くんが、あかりさんには体重を預けてしまう理由を見せる意味で、『粗相の世話をしてもらう』シーンが順番を原作と入れ替えつつ入ってきたのは、非常に良かったです。
零くんは色んなことがありすぎて『自分は強いんだ!』と胸を張り続けなければ、生きてはいけない少年。
そんな子供の防壁を一瞬で突き破る理由付けとして、人間として一番弱い瞬間を受け止めてもらい、危ういエロティシズムすら漂う瞬間を見せてきたのは、納得の行く運び方でした。

あかりさんが零くんを構うのは、もちろん彼女が高徳の人だからなんですが、『母』という役割に凝り固まることで親を失った『家』を守ろうという、悲壮な決意の反映でもあります。
自分は弱い存在を見捨てず、受け止め、その大きく柔らかい乳房から糧を与え太らせる使命から、あかりさんは逃げることが出来ないし、それを己に許しもしない。
一種の『呪い』としての母性があかりさんには刻印されていて、零くんはそれに怯えつつ甘え、『母』の暖かな胞衣の中で人間性を取り返していく。
そうして頼られることで、あかりさんは『母』を演じる自分自身を強化し、『家』を守るための鎧を堅牢にしていくという、一種の共犯関係がそこには存在しています。

そのまま『母』を演じ続けたのでは破綻してしまうということで、素敵なドレスと高いヒールを履いて、『女』を売り物に他人と交流する場所を用意した美咲おばさまは、やっぱ傑物だと思う。
零くんにとって『将棋』が世界と通じるための重要なメディアであるように、『母』とは違う『ズルい女』を演じる銀座のスナックは、あかりさんにとって一種のメディアとして機能しているわけです。
零くんが戸惑った『母』と『女』、あかりの二つの顔は対立するものではなく、人間が人間として潰れず生きていくために、双方を大事に育てていかなければいけない仮面なわけです。

そして、そういう二面性は『棋士』と『少年』という2つの立場で引き裂かれつつある、零くん自身にも返ってくる。
零くんはあかりさんの『女』を受け止められない(というか、他に『女』として受け止めたい子がいる)わけですが、失われた『母』をあかりさんに求めるだけではなく、『女』としての実相にちゃんと触れているのは、結構大事なことだなと思います。
うっぜー先輩たちのうっぜータカリにも、ちゃんと乗っかっておくべきだな零くん!


そして、ひどく淡く描かれる、川沿いの町の迎え盆。
夜の銀座が『女』としてのあかりをショーアップしたように、死者の季節を迎えた街は、同じ欠損を抱えた零くんと川本家を、ひどくナイーブで感傷的な存在として描き出します。
その穏やかな空気と、前半のハイテンションがいい対比になっているのも、緩急効いて良い見せ方でしたね。
賑やかな銀座で『女』という性を強調しておいて、静かな『家』に死の影が伸びるところも、コントラスト重点な今回らしい運び方か。

アニメのこの段階では、零くんや川本家がどんな地獄で引き裂かれたのかは、ほのめかされるだけで明示はされません。
しかしそこには『死』があり、温かい『家』の喪失があり、その欠損に呼び込まれるかのように、少年と姉妹が運命的に出会ったのだという示唆は、既に成されています。
襲いかかった『死』の影と、それがえぐり取った欠落だけを見せながら、淡々と日常が積み上がっていくこの展開は、『過去に何があったか』に強く興味を引きつける、良い助走だなぁと感じます。
このアニメの表現力で、核心たる『死』を直接描かれたらどうなるのか、期待がグンと高まる静謐なシーンでした。

父との対局、川本家の食卓、戦友たちとの賑やかな時間、迎え盆の河の街。
人生のいろいろな局面に切り込んでいくアニメにふさわしく、様々な情景が様々な色彩、様々な音調で描き分けられ、コントラストとブリッジを見事に使い分け、零くんたちを取り巻く世界を表現しています。
シーンとストーリーに必要な演出、語調、表現をしっかり使い分け、必要なムードを醸し出し伝えてくれるのは、やっぱありがたいことです。

様々なテンポと明るさ、強さのある世界はしかし、分裂し切断されて存在しているわけではなく、否応なく触れ合いぶつかり合い拒絶と融和を繰り返し続けています。
その結果として『死』もあるし、あかりさんに手を引かれて『家』に辿り着いてしまうような奇跡だって起こる。
楽しいことも嫌なことも、冷たく乾いた場所も暖かく潤んだ場所も、全てひっくるめて"3月のライオン"なのだと納得する意味でも、色彩豊かな今回のエピソードが二話目に来たのは、凄く良かったですね。

場の調子が落ち着くなりスッと滑り込んでくる、詩情に満ちたモノローグも、17歳の繊細な内面を巧く投影していてよかったですね。
ここら辺は河西健吾さんの抑えた演技がバシッとハマっているところで、神経質ともまた違う細やかな感性を、巧く声にしてくれていると思います。
こういう面倒くさいことをグジグジ考えていればこそ、傷つきもするし戦えもするというのが、本当に面倒くさいな零くん! 好き!!


というわけで、孤高なモノトーンを基本としつつも、戦友だのおかーさんだの、様々な色彩がある零くんの世界でした。
『家』の温かみに心癒されたかと思えば、『死』に引き裂かれた自分を思い出さざるをえない17歳の内面が、様々に入れ替わるムードに良く照らし出されていました。
こんな風に色々な表情がある世界に桐山零は生きていて、その様々な色彩に己を浸していくのだと、そして人生の色合いを切り取るこのアニメの筆は今回のように豊かなのだと思うと、ふつふつと期待が湧いて出てきます。

原作を1週二話のペースで消化しているアニメ版3月のライオン、次回は強敵(とも)との戦いの中で『将棋』のもう一つの顔に触れる、僕の大好きなエピソードです。
原作の持つ豊かな多面性をアニメに切り分ける上で、どういう再構成をしてくるかも個人的な見どころなので、来週は楽しみだなぁ……。
3月のライオン、非常に信頼できるアニメ化でして、まっこと有り難いとしか言いようがねぇぜ……素晴らしいッ!