イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

刀剣乱舞 花丸:第3話『一万分の一なんですって』感想

付喪神だって日常アニメしたい!!
流れる時の美しさを写し取った紗綾織物、今週は弥生三月春の足音。
ニューカマー鶯丸さんと話すきっかけがほしい平野くんが、クローバー長者になるまでのAパートと、願いの桜が花開くファンタジックなBパート、切れ目が分かりやすい構成でした。
三話にして初の戦闘無し回となり、穏やかな本丸の空気、個性的なブレードボーイ達の表情、少年戦士たちの切なる願いがよく伝わってくる、良いエピソードでした。

バトルに時間を取られない分、今回はAパートBパートでカッチリエピソードを割り、短編ふたつをつなぎ合わせる構成となっていました。
最初は平野くんがラッキー・クローバーから始まって、鶯丸さんの周辺をウロウロしながら刀剣男子の魅力を訪問していくお話。
アイテムを交換する中で会話も交換され、様々なキャラの様々な表情を手際良く見ることが出来る、多人数コンテンツの教科書みたいな展開でした。

これだけ登場キャラが多く、各キャラへの思い入れが強いコンテンツですと、各キャラクターの記号や特徴を追いかけるだけでも大変ですし、おざなりにやれば反発も招く。
なかなか難しい状況だと思いますが、平野くんの『新しく来た鶯丸さんと、仲良くしたい』というピュアな気持ちをまず見せて、それが簡単には上手く行かない珍道中を追いかける中でキャラのリアクションを拾っていくのは、上手いところだなと思います。
わらしべアイテムを描くことで、キャラが何を大事にしていて、どんな視点から人生(刀生?)過ごしているかが見えてくるし、『わらしべ長者』という軸があることで、お話が迷わないしね。

平野くんの長者道を追いかけてみると、クローバー(平野)→ダンベル(同田貫)→人体図鑑(歌仙)→謎の薬(薬研)→反物(山姥切)→抱きまくら(にっかり)→トラクターの鍵(小夜・宗三)→カステラ(ゴールド蜂須賀)→写真(陸奥守)という道行き。
こうして見返してみると、15分で凄い人数捌いてるな……アイテムくれる人だけじゃなくて、五虎退くんみたいなスポット参戦もいるし、その中で的確にキャラを描き、小さな笑いを生み、平野くんの真心が報われる展開を作りと、よくまとまってます。
描かれたキャラだと、金玉に執着しぬるりと寝床から出てくるにっかりさんと、トラクターに異常興奮する蜂須賀と、弟の面倒見まくる宗三が特に面白かったかな……他のも面白いけどね。

もちろん進行役になった平野くんが一番掘り下げられていたんですが、最初に見つけたクローバーに執着せず、同田貫の厄払いとして無心で与えてしまう純朴さが、素直に良かった。
モノを扱った話だからこそ、『カステラ』という食べれば消えてしまうモノと、『写真』という思い出を封じ込められるモノでオチを付けるところも、爽やかな後味を産んでいたなぁ。
付喪神としての魂を宿し、モノを飛び越えて人間になってしまった刀剣男子が、モノに執着せず精神と記憶を大事にしていく捻れは、ひっそりと倫理的で好きな描き方です。
肝心の鶯丸は不在の中心として描かれる関係上、どういう奴なのか脇役たちより分かりにくいのが難儀なところだが……少なくとも良いやつなのはよく分かるね。


Bパートは進行役を安定に戻して、短刀脇差ボーイズとその保護者達が、願いの桜を咲かせるお話。
刀剣乱舞世界観では同一刀鍛冶の産物は『兄弟』として情を込められるので、藤四郎一家の短刀がゾッロゾロ出てきて、幼く可愛らしい表情を見せてくれました。
初っ端から加州が指摘しているように、刀剣男子はストイックであり、逢いみての辛い心は表には出さない……というか出せない。
狙った刀を必ずしも手に入れられないゲーム性との、軽いメタ的なシンクロを巧く使った話運びは、穏やかな日々を過ごすブレードボーイの秘めたる純情を巧く浮き彫りにしていました。

Bパートは『短冊の桜』というオチがとにかく秀逸で、三月という季節の暖かさと希望をじっくり描いてきた前フリが最高に生きる、綺麗なまとめでした。
無茶振りに思える安定の心遣いが形になって、安定自身も秘められていた仲間たちの純情に触れる。
平野くんのAパートもそうなんだけども、とにかく人間の柔らかく綺麗な部分を大事にした話の運び方が徹底されていて、『ああ、いい話は良いなぁ……』としみじみ思えました。
一万の願いが万葉桜を咲かせるというリトルウィッシュな展開も、この後あるだろう、兄たちが本丸に来る未来に希望を繋いでいて、良い見せ方だった。

こっちでも大人数をさらっと触りつつ、キャラの魅力を見せてくれる筆は健在でして、他のボーイズよりちょっとオシャマラスな鯰尾くん(元薙刀)とか、どっしり構えた大人の魅力・薬研ボーイとか、ちょっとしたクスグリが気持ちよかったです。
薬研くんは医者属性でネタを拾ったり、器量の大きさで他キャラと親しくしたり、『俺の桜、上手いだろ?』という少年っぽい茶目っ気を出したり、ユーティリティなキャラですね……そらED二回歌うわ。
あとブーブー文句言いつつ、ちゃんと短冊描いてくれる長谷部な……色々個性はありつつも、それが反目したり反発したりはしない所が、本丸の桃源郷っぽさを上げてて好きだなぁ。
刀に手足が生えてモノ喋るんだから、人間の一番綺麗な部分がスッと前に出てきても良いじゃないかと思えるので、花丸は一種の妖精譚なんでしょうね。

Aパートでも目立ってた小夜くんは、相変わらずの宗三兄貴ベッタリっぷりを見せ、目付きの悪さがキュートでした。
同年代の子供とあんま馴染めないけど、世界そのものを拗ねているわけではないピュアさをちゃんと持ってて、でも目つきは悪くて、宗三が構うのもよく分かる素敵ボーイでした。
左文字兄弟はちょっとヒネったキャラが付いてんだけど、それ故に根っこの人情がよく見えて、僕が好きなタイプのキャラだなぁ……あと小夜ちゃんはね、目つきが悪いのが良いの。(三白眼大好きマン)

今回はAパートもBパートもゆったり進む話で、弥生の暖かな日差しを巧く切り取った美術が、展開とよくマッチしていました。
12話を月々に割り振り、雪月花移りゆく自然の営みをもう一つのキャラクターに据えておだやかな日常を際立たせるのは、この妖精譚には凄くマッチした描き方だと思います。
既存のアニメだと"のんのんびより"に近いな、多分……田舎暮らしの代わりに闘争が真ん中に座っているので、当然『美しき四季』の扱いも変わってきますが、キャラクターを取り巻く世界を怠けず描くことで、ファンシーな世界に独特のリアリティを与えている方向性自体は、結構似ていると思います。


というわけで、春を告げる桜月の日差しに相応しい、柔らかなお話となりました。
形式としてはイケメンのキャラ記号を総ざらいする回転寿司的エピソードなんですが、平野くんや安定を筆頭とした少年たちの真心が作品に軸を与え、食べごたえのある物語になっていたと思います。
今回『必ずしも闘うわけではない』という方針が見えて、今後どう取り回していくかのバリエーションが更に広がった感じですが、次なる卯月はどんなお話を見せてくれるのか。
非常に楽しみです。