イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Lostorage incited WIXOSS:第2話『少女/理想と現実』感想

TCG女殺油地獄・新章第二話は、もうひとりの主人公、千夏の地獄坂真っ逆さま物語。
清廉潔白正々堂々を旨とし、頑なに薄汚れたWIXOSSルールを拒んでいたちーちゃんが、凄まじい勢いで『現実』に追い立てられ、『理想』と『記憶』に背中を向けるまでのお話となりました。

第1話でのすず子の追い込まれ方も相当なもんでしたが、そのすず子との『記憶』に逃げ道を塞がれ、泥まみれの地獄に首まで浸かっていく過程が、ひどく息苦しい。
出発点は強制、途中経過は地獄、抜け出した先は虚無という今回のセレクターバトルを象徴するような、逃げ道のないエピソードとなりました。

第1話が『居場所が千夏との記憶にしかない』すず子のお話だったとすると、今回展開された千夏の物語は『すず子との記憶に居場所を潰される』お話のように思えました。
経済状況が逼迫し、家庭環境が荒廃していく中でも、『なんでも完璧にできるちーちゃん』というパブリック/セルフイメージを維持しようとする千夏の原動力は、幼い日にすず子から向けられた上向きの視線。
それが気を張る支えにもなっていたわけですが、バイトに学業にWIXOSSにと忙しい日々はあっという間に破綻を迎え、ドミノを倒すように千夏の生活は荒れ果てていきます。

千夏が追い込まれていく過程を見てみると、彼女がどこにも逃げられない袋小路に立っていることがよく見えて、しかもそれがWIXOSSにまつわる超常現象があんま関係ない、ありふれた人生の悲劇な所に、なんとも言えない地獄を感じます。
親がリストラされて首が回らなくなるのも、その結果バイトで無理してどんどん疲弊していくのも、学校で口さがない噂を立てられてキレちゃうのも、それが原因でバイトをクビになるのも、セレクターバトルが不思議な力で因果を捻じ曲げた結果ではなく、ありふれた不幸のドミノが一気に倒れた結果です。

ただでさえ今回のセレクターバトルは勝ち残るリターンが少ないのに、クソみたいなシステムをぶっ倒して勝者になったところで、千夏を追い詰める人生の難問は消え去るわけではない。
むしろセレクターバトルに関わることで時間的・精神的な余裕が消し飛び、ドミノを倒す最初の一打になっているあたり、本当にヒデェなと思います。
前作は本筋を隠す煙幕と『還るべき場所』の描写を兼ねて、『みんなで楽しいWIXOSS』な暖かいシーンも結構あったんですが、初手からクソをぶつけてくる今作では、WIXOSSは現状、完全な呪いとして描かれています。


非常にタチの悪いことに、今回のセレクターバトルは『記憶』をチップにして魂を賭け合う悪魔のゲームであり、ズタボロの千夏が高潔さを維持していく唯一の支えである『記憶』は、セレクターバトルを続ければ続けるほど損なわれていく。
綺麗だったはずの思い出、『なんでも完璧にできるちーちゃん』を支える誇りは、その誇り故に搦め手を使わない千夏を敗北に導き、コインと一緒に『記憶』は失われ、あるいは変質していく。
その成れの果てとして、今回ラストの『すずちゃんって、本当にいるの?』という堕落の言葉があるわけですね。

セレクターバトルを続ければ続けるほど、千夏の周辺環境は荒廃していき、バトルを戦い抜く余裕はなくなっていくし、戦いのために夜の街をさまよっていたことが噂につながり、問題行動を引き起こしたことを見ても判るように、バトルの結果現実の問題に対処する余力も失われていく。
超常的な戦いに関係なく人生の荒波は千夏に覆いかぶさるし、それに対抗するための『記憶』はセレクターバトルの掛け金としてえぐり取られ、やせ衰えていく。
おまけに戦いの相棒は『記憶』をスキャンして、人間のいちばん大事な部分を的確にコピーしえぐり取ってくる最悪の悪魔。
今回のお話は徹頭徹尾千夏に逃げ場所がないこと、そんな状況で唯一縋れるはずのすず子との『記憶』に背を向ける選択が唯一の選択肢であることを、しっかり見せてくれました。

第2話にしてこれ以上ないほど崖っぷちに立たされている千夏ですが、人格を支える『記憶』が変質してしまった状態で、セレクターであるすず子と対面するという地獄がまだ待っています。
お互いがお互いを支えにして、地獄の中で生き抜いてきたはずの主人公二人が、『記憶』と尊厳を書き換えながら進む悪魔のゲームの中で対面することが、このお話の一つのピーク(もしくはボトム)なのでしょう。
何しろ主人公たちがすれ違ったままではお話が転がりださないので、青春の爆心地ともいうべきその瞬間は結構近いうちにやってくると思いますが、ここまで徹底的に地獄に追い込んでいることを考えると、かなり覚悟して受け止めなければいけなさそうですね。

すず子と千夏、二人の主人公は共に、『現在』に一切逃げ場がなく追い込まれ、『過去』にもすがることが出来ない袋小路に追い込まれています。
きれいな思い出すら変質してしまうセレクターバトルがこのまま進むと、一切良いことのない人生が少女たちを轢き潰していくしかない感じですが、そういう路線に進めていくのか、はたまた地獄の中の一筋の光明を描くのか。
こればっかしは、先の展開を見守らなければ分からない部分ですね。
個人的には人生の理不尽を煮詰めた地獄の描写は圧迫感があって良いんですが、欠片でもいいのでなにか綺麗なものがあると見ていて楽かな、と思います。
二人が共有する思い出が現状そうなんだけども、それはセレクターバトルの中で簡単に変質してしまう泡沫だし、そこから悪魔どもがバトルを煽る材料を引っ張ってくるしで、体重を預けられないんだよね……。


戻り道はなく、進む先は地獄。
息苦しいセレクターバトルを強いられている千夏に対し、今回顔を見せたセレクターたちは、あまり重たいものをバトルに持ち込んでいない感じを受けました。
まーWIXOSSのことなんで、無邪気なロリっ子やら余裕っ面で真実暴く気まんまんな後輩ライターとかも、色々隠し持ってるんだろうけどさ……もしくは強制的に重いの背負わされるか。
ここら辺は息苦しい場所に追い込まれていく千夏とのコントラストを強調し、ラストの決断に説得力を持たせるための意図的な演出だと思います。
前作から引き続きの参戦となった水嶋清衣も顔を見せていましたが、セレクターバトルのクソな部分は思う存分体験しているはずなので、不条理に巻き込まれたか何らかの理由があるか、結構気になりますな。

新システムである『コイン』とそれを対価とする『個別能力』は、いい具合にバトルを温める伏せ札として機能しています。
ここまで確認できたコイン能力が大概チートなので、通常のルリグ戦闘の読み合いだけではなく、個別能力をどう読み、どう使うかという能力バトル的な側面が強化されていますね。
もうちょと気楽なバトルなら、能力を読み合い隠し合う駆け引きも楽しめるんでしょうけど、相手に電気椅子を押し付けるタイプの椅子取りゲームに強制参加させられている状況なんで、悲惨さが先に立っちゃってる感じはあるね。

第1話・第2話と、『逃げ道なし、戦いは過酷、報酬極小』というLostorageシステムの、とにかくクソな部分が前に出てる印象です。
ここまで理不尽なシステムに健気な少女たちが巻き込まれてくると、逆に『実はなんか良いことあるんじゃないの』とか、『こんだけクソなシステム運営してるのは誰で、どんな得があるの?』という疑問も出てくる。
というか、何か隠された理由がないと、こんなカフカ的不条理に女の子たち(だけじゃないけどさ今回は)が巻き込まれる展開は、ちと重すぎる感じがあります。
個人的な好みとしてはなんか一個光明があると良いんですが、一切救いなく暗闇の中で溺れ続ける話だというのなら、早いタイミングで断言して覚悟を決めさせて欲しいなぁというのが、現状の希望です。
主人公たち以外が結構気楽にWIXOSSしてるんで、どっかに空気穴が開けてある気もするんだけどなぁ……そっちが誤解で、主人公たちがハマった沼こそが、今回のバトルの本質なのかもしれんけどね。


というわけで、第2の主人公でありすず子唯一の救い、森川千夏の転落を追いかけるエピソードでした。
すず子も相当に追い込まれ、『なんでも完璧にできるちーちゃん』だけが救いなのに、そのちーちゃんが一切寄る辺ない地獄に叩き込まれ、高潔さに背中を向ける決断をしてしまう。
バッサバッサと退路を断つ展開で、WIXOSS第二章のタチの悪さを思い知らされました。

こっから一筋の光を見せるのか、はたまたさらなる無明が少女たちを喰らい尽くしていくのか。
キャラクターに救いがあるか否かというよりは、シリーズ全体をどういう方針で取り回していくのか見据える意味で、強く気になっています。
いやまぁ、かわいそうな女の子たちが巻き込まれた不条理を踏破して、クソシステムに中指突き立てる瞬間もスゲー見たいけどさぁ。
とりあえず主人公たちを追い込めるギリギリまで追い込んだと思うので、次の一手で運命をどう転がしてくるのか。
楽しみにお手並み拝見という感じでしょうかね。