イマワノキワ

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機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第28話『夜明け前の戦い』感想

まとわりつく泥を跳ね除け綺麗に生きるためには、血泥に塗れるしかない火星の剣闘士たちの物語、今週は戦場という名前の日常。
事前準備もひっくるめて、一話まるまる戦闘という回でして、『夜明けの地平線団』との宇宙戦闘をガッツリ楽しませてもらいました。
ルプスの抜手やフルシティの大型ハサミなど、相変わらずの血腥い戦術も見せつつ、知恵と連携で劣勢を覆していく鉄火団の姿に、成長を感じたり。
後退のネジを外した鉄火団の前には、第三勢力であるアリアンロッドが立ちふさがり、敵のボスも前面に出てきてさぁどうなる、という展開でした。

二期になってからは、じっくりと過去からの変化と継承を描いてきたオルフェンズ。
初の宇宙船となった今回も、実は結構な時間を事前準備や戦闘外の描写に割いて、キャラの変化を色濃く強調していました。
農場で汗を流すのんびりとした生活だけではなく、戦場で血を流すこともひっくるめて鉄火団の『日常』なのだ、といったところでしょうか。

今回は殺人悪魔・三日月=オーガスの複雑な人間味がうまく演出されている回で、『カボチャの育成』という新しい可能性に挑んでみたり、オルガとの地獄みたいな共生関係を確認したり、阿頼耶識に接続されているときだけは体が自由に動いたり、アトラちゃんとの微妙な距離感が見れたり、描写が太かったですね。
無表情な殺人機械の側面が強調されがちな三日月ですが、分かりにくいだけで彼も行き方を変えようとあがいてはいて、『カボチャ』はその象徴の一つなのでしょう。
しかしその『カボチャ』は健全に育ってるとは言い難く、葉の色も悪いし虫食いもひどい。
『真っ当な暮らし』に繋がる農場を運営していても、シノギを維持していくためにはマクギリスとの怪しい共闘を飲まなければいけない鉄火団と同じように、戦場から離れた三日月はその可能性を巧く発揮できない『産廃』なわけです。

そんな彼も、ルプスに乗り込めば一人だけ別格の高機動を発揮し、『数の劣勢を跳ね返して、正面から敵艦隊を切り裂いて突破、反転して側面に噛み付く』という鉄火団の無理筋を支えられる。
動かない左手も殺し合いをしているときはゴキゲンに稼働して、命の糧であるスイカジュースも自由に掴める。
まさに鬼神の如き奮戦に興奮しつつも、そこ以外に己の可能性を見つけられない三日月の姿は、ひどく危うくも見えます。


危なっかしいのは三日月だけではなく鉄火団……というかオルガもおんなじで、露骨に怪しい石動の急襲提案も、大物の首を取って鉄火団をデカくするためには受けざるを得ない。
ビスケットが生きていれば一か八かの功名路線にも少しはブレーキがかかったんでしょうが、今オルガの隣りにいるステープルさんは鉄火団全体の方針を変えることには、あまり熱心ではないように見えます。
一期最後の戦いで『家族』にはなりきれない自分を認識し、鉄火団の血縁主義に正論をぶつけるのではなく、古女房のように懐に潜り込むことで、自分の居場所を手に入れた感じなんですかねぇ。
『正しさ』に固執していても現実が変わらないなら、生き急ぐ団長を支えつつ抑える古女房路線に舵を切りなおすのは、納得は行く変化です。

ビスケットが抜けた穴にスルリと滑り込んだ形のステープルトンさんに対し、アトラはオルガと三日月の共犯関係に入り込む余地を見つけられず、それでも自分のやるべき事として『飯炊き』を頑張っていました。
アトラが『人間らしい食事』を供給することで鉄火団と接続され、それがある程度以上子どもたちの魂を潤していること、同時に暴力の乾いたリアルに際して圧倒的に無力でもあることは、一期から引き続き描かれている彼女らしさです。
色々あがきつつも結局『殺し』でしか命をつなげない鉄火団において、アトラが出来ることはどうにも小さなことなんですが、「今度は、暖かいものが食べたいな」という三日月の言葉を引き出したところを見ても、やっぱ彼女の無様な戦いは他の誰も出来ない大事なことをやっているな、と思います。

食事の暖かさがそのまま人生の温もりであると見るのは、ちと直線的過ぎる読みな気もしますが、この描写もまた、三日月がただ『殺し』続けるだけではない『人間らしい』生き方を探している証明として、受け取っては良いかなとは感じますね。
二期になってからも、『人間らしさ』を追い求めつつ、非人間的な『殺しの装置』であり続けなければいけない鉄火団の矛盾は強調されているので、今回アトラが見せた小さな潤いがどこに落ち着くかは、油断ができないところですが。
巧く行っているんだけども足元が危うくて、根本的な変化は起こせないけど少しずつ実績を積み重ねている。
不安定で先が読めない感じを維持・強調する演出は、二期が始まってから色んな領域で徹底されていて、これがセカンドシーズンのテイストなんだろうなぁと思います。


戦闘自体はアリアンロッドの横槍を恐れた石動の思惑と、前回描写された『嫉心』をはねのけるためにも実績が欲しいオルガの狙いが噛み合い、『行く先が見えている危ない橋』に団員の命を張る戦いに頭から飛び込むことで始まりました。
しかしそれは『夜明けの地平線団』団長、サンドバル・ロイターの知略にまんまと引っかかる形であり、10対2の圧倒的劣勢から戦闘は開始。
ルプスと三日月というエースを早めに切り、敵中央を突破しつつ目眩ましを蒔いて反転、左翼に切りつけて数的不利を挽回した鉄火団は、持久戦の構えを取ります。
おそらくオルガが待っていただろう増援はしかし、マクギリスと敵対するアリアンロッドのものであり、混沌とした三つ巴の戦場に各勢力のエースが揃ったところで次回に続く、と。
戦場の潮目が激しく変わる艦隊戦で、色々フレッシュなアクションも詰め込まれていて、見ごたえがありました。

一期では不倶戴天の敵だったギャラルホルンとの共闘といい、すっかり一端の戦術家となったユージンといい、年少者が多いオペレーターといい、補給を重視しながら戦線を維持していく戦い方といい、今回の戦いは鉄火団の変化を強く印象づけてくれました。
ショタっ子達がブリッジに詰めているのは、比較的損耗率が低いだろう後方にガキを下げて守ろうという、地獄の中の善意が感じられ、喜ばしいやら哀しいやらの描写だった。
身内にはそういう情けをかけるのに、敵さんのヒューマンデブリは三日月がバッタバッタとぶっ殺すし、帰る場所がないゆえのガムシャラ戦法を捨て駒として評価されてるし、本当にスッキリと『正義の味方』はさせてくれないアニメだね。
あと、一期より遠距離砲撃が有効な局面が増えてる気がする……MSの設定面でなんか変化があったのかな?

敵である『夜明けの地平線団』は露悪的にゲスってわけでもなく、かと言って慈善団体でもなく、あの世界で一般的な悪党たちって印象を受けました。
不確定要素であるアリアンロッドの奇襲を受けて、最強の駒である自分自身を迷わず盤面にはれるあたり、サンドバルは優秀ではあるんだな。
ここで首を取れるか、逃げを許すかで鉄火団の対外的評価も今後の展開も結構変わりそうですが、どーなるのかなぁ……逃した上で別のに掻っ攫われそうな気はする、話のタネを蒔くために。

華麗な横殴りをキメてきたアリアンロッドの皆さんですが、鉄火団とはうって変わって自分たちの勝利と正義を疑わない清潔さで、ここまで話を追いかけてきた視聴者としてはヒドイことになる前フリにしか見えん。
家訓とか温まったいこと吠えてるクジャンくんも、オルガの道を暴力で切り開くジャガーノートの前に立ったジュリエッタも、仮面の男を抱え込んで余裕っ面のラスタルさんも、なんかヤバそうだなぁと思います。
初顔合わせで即死ってのは流石にないと思うので、この接触自体は痛み分けで水が入るとは思うけども……マクギリスがどういう悪辣な罠を張っているか次第だな、アリアンロッドの未来は。(罠を張っている事自体は既定路線)
仮面さんは声が松風さんなんで、まぁガエリオだとは思うんですが、あの仮面の奥に昔のボンボン顔があるとはどうにも思えなくて。
アインと同じようにヴィダールに体を移して生き残ってんじゃないかなぁ、とか推測しています……役名自体もヴィダールだし。

阿頼耶識に接続されることで、なんとか人間としての機能を取り戻す』ってのは三日月とも通じる描写だしね……このアニメの性格の悪さだと、仮面ボディは遠隔操作の人形ってのは、十分ありえる気がします。


というわけで、危ない橋の綱渡りをなんとかこなしつつ、かと言って全てがうまくいくわけではない鉄火団の現状を詰め込んだ宇宙戦でした。
オルガの生き急ぎっぷりも印象的だったけども、殺戮の能面の奥にどうにか人間であろうともがいて、全然上手く行かない三日月の無様さ、それを支えようと願いつつ距離を詰めれないアトラの切なさが、特に刺さったなぁ。
この危うい三角形はお話が終わるまで引きずる、大事な物語的エンジンだと思うので、印象的に描けたのはなかなか良かったんじゃないでしょうか。

アリアンロッドの横殴りにより、戦場はさらなる混沌に飛び込みましたが、この状況をどう収めるのか。
そしてその結末を次の物語につなげるために、どう使ってくるのか。
二期物語が一期からの変化を確認するフェイズから、変化の先にある地獄に飛び込むためには、次回の取り回し方は大事な気がします。
さてはて、命を載せての一天地六、鬼が出るか蛇が出るかという感じですな。