イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第30話『猫は吉良吉影が好き』感想

穏やかな日常の影で生と死が交錯するビザール・アドヴェンチュア、今週は楽しい川尻一家。
地下室に潜り込んだ猫に対応したり、庭の隅で雑草と戯れたり、勝手に部屋に入り込む息子に手を焼いたり、春が戻ってきた嫁にドギマギしたり、ごくごく普通のファミリーコメディでしたね。
まぁ嫁さんは愚かな一般人だとして、猫草はスタンド使いだし、息子は異常な分析能力を持つ度胸人間だし、夫は連続殺人鬼なんだけどね……。
川尻家を舞台に『日常』と『非日常』が衝突する瞬間を、生き生きと楽しくも恐ろしく描く、切れ味鋭いエピソードでした。

今回のお話は、これまではメインエピソードの合間に挿入されてきたサブエピソード、『吉良吉影、入れ替わりの苦闘』を表舞台に引っ張り上げた感じの話です。
おぞましくドス黒い殺人欲求の果てに川尻浩作と入れ替わった吉良ですが、滑り込んだ先には不気味な息子と欲求不満の嫁さん、そして色々面倒な入れ替わり生活が待っていました。
殺人衝動とスタンド能力という『非日常』を抱えた吉良が、あまりにも『日常』的な生活を矯正され生まれるズレ、おかしさ。
『正義』の主役たちの奮闘の合間に挟まれる『悪』主演のコメディーには、なんとも言えない人間味を感じました。

サブからメインに舞台を変えた今回も、そういう『ズレ』の面白さは全開であり、結構血なまぐさいのに笑えてしまう、不思議な空気がエピソード全体に漂っていました。
肩出しへそ出しであからさまに発情しているしのぶさんの猛アタックに当惑する吉良とか、可愛い猫草ちゃんとの一瞬の触れ合いとか、憎むべき『悪』のはずなのに思わず笑みがこぼれてしまう良いシーン満載。
『日常』の影に潜む恐怖という『ズレ』を強調するだけではなく、『悪』が『日常』を演じようとする『ズレ』に自然な笑いを添えて見せてくるコメディも、『日常』と『非日常』が入り混じりながら対決するこのお話を彩る上で、大事な要素だと思います。

色と動きと声がついたことで、しのぶさんの回春はなかなか切れ味鋭いネタに仕上がっており、セクシュアルな誘惑をそこかしこに投げかけるしのぶさんのラブリー加減と、それを叩きつけられる吉良の当惑が非常に面白い。
出会ったときはカップラーメン投げつけていたボサ髪主婦が、精一杯お洒落して手料理を振る舞うあたり、吉良から漏れ出る危険な香りは、しのぶさんにとって最高の媚薬なんだと分かります。
しかし『性=生』の方向に健全に発情しているしのぶさんは、『人が変わったような』夫の正体が『死=性的興奮』である連続殺人鬼だとは知らないし、知ろうともしない。
そういう鈍感さがギリギリ、この危うく愚かな恋を成り立たせているというのは、皮肉で面白いところです。

否応なしに『川尻浩作』になること、妻からのセックスアピールを浴びせられる状況に飛び込んだ吉良も、少なからず偽装生活から影響を受け、しのぶにある程度の情を移してもいる。
ここで『殺し』の過去を捨て、『吉良吉影』ではなく『川尻浩作』として生きつづけることを選択できたならまた話も変わったんでしょうが、しかし結局彼はファミリー・コメディの主役ではなくサイコ・サスペンスの敵役であり、しのぶさんの『生』に正しい形で呼応する展開はやって来ません。
まぁ改心されたからって今まで死んだ人はどーなんだって話だし、悪役がいなくなったら話の収まりどころもなくなっちゃうんで、なかなか難しい未来ですが。
川尻家のドタバタを楽しく描けていればこそ、あり得たかもしれない未来として色々想像を張り巡らせたくなって、作品に奥行きが生まれるってのは、確かにあるかもなぁ。


ともあれ、アンジェロのときは踏み込まなかった『殺人鬼の人間性』という問題が川尻家ではメインで描かれ、たとえ最悪の連続殺人鬼でも『家族の温かみ』という美徳に接近できるし、同時にそれは欺瞞でしか無いということが掘り下げられています。
前者を担当するのがしのぶさんなら、後者はただの小学生・川尻早人が担当するわけで、彼は『川尻浩作』がいつの間にか殺人鬼と入れ替わっているという、エイリアン退治物語の主人公だといえます。
猫草の血なまぐさいコメディでひとしきり笑った後、『ああ、そう言えばコイツ連続殺人鬼だった……』と水ぶっかける展開は、落差があって良い。

血のつながりはないはずなのに、異常な頭脳のキレと偏執狂的な性質が吉良そっくりなのは、結構面白いですね。
早人はしのぶさんから『本当は家族を愛したかった』という性質を継承していて、その思いとしのぶさんには無い知性故に、川尻家の『日常』が吉良吉影という『非日常』に侵入され、踏みにじられている事実に気づく。
吉良に於いては連続殺人という『悪』を覆い隠する武器になっている知恵が、早人はそれを暴く『善』に繋がっているという対比は、彼らが表向き『親子』という繋がりを背負っていることとあいまって、なかなか鮮烈です。

吉良がいらん独り言で自分の事情を全部公開し、早人が真実に辿り着いてしまう流れは、正直ちょっと強引にも感じます。
しかし彼が『静かに暮らしたい』とうそぶきつつ自己顕示欲の塊であり、殺人隠蔽よりも己の優越を証明するチャンスに飛びついてしまう迂闊さがあるというのは、これまでも示されたところです。
殺人衝動と同じように、魂に刻み込まれた根本的なあり方というのはなかなか変えることが出来ないというのは、そういう魂の有り様が『スタンド』に具現化するこのお話では、大切に守るべきテーマなんでしょう。
まぁ水も漏らさぬ完璧な殺人鬼が相手じゃ、話しは敵の完全勝利に終わっちゃうし、何より面白くないからな……吉良の隙が『可愛げ』『可笑しみ』だというのは、今回のコメディ力を見ればすぐに分かるわけで。

今回早人がおぞましい真実に気づいたことで、偽りのファミリー・コメディは維持できなくなり、一般人・川尻浩作は殺人鬼・吉良吉影の素顔を晒して行動することになります。
スタンド能力を持たない早人が、いかにして父に成り代わった連続殺人鬼と対峙していくかというのは、こっから先の話になるわけですが、スタンドを持たずとも『非日常』に対応できる彼の知性は、巧く強調できたと思います。
早人の孤独な戦いが仗助たちの物語と接触することで、第4部最終章の幕が上がるので、そのための土台をしっかり作れたのは、クライマックスを盛り上げるための大事な仕込みですね。


妻がいて、息子がいて、後ファミリーコメディに必要なのはペット。
というわけで、荒木先生の猫ヘイトを全身に受けて誕生した猫草ちゃんは、猫らしく自由な存在でした。
不気味なのに可愛い印象が猫っぽい動きで巧く強調されていて、良い存在感がありましたね。
"エコーズ"や"ハーベスト"もそうなんだけど、物言わぬ存在のあざとい仕草をアニメにするのが、四部は上手いですね。

猫草という共通の試練をくぐり抜けることで、早人が吉良に挑む資格のあるキレ者であると証明できているのは、なかなか興味深いところです。
これまで『気になるモブ』程度の存在だった隼人がお話しの真ん中に躍り出るには、その実力をバシッと証明することが大事で、吉良が苦戦した猫草を見事に攻略し、吉良の追撃もかわすことで証とする流れは、AパートとBパートがうまく繋がっていましたね。
同じ試練を共有することは、二人が『親子』であることも同時に示していて、色んな意味合いあるなと思いました。
実の親父が良かれと思ってぶっ刺した『矢』で猫草が生まれて、吉良が苦労する展開と合わせて考えると、偉い皮肉だな……オヤジの情は、この後も巡り巡って色々あるんだけどさ。


というわけで、川尻一家の現状にぐぐっとクローズアップし、家族喜劇とサイコ・サスペンスの入り混じった複雑な表情を掘り下げる回でした。
アニメになると、しのぶさんの誘惑コメディはエロくて面白いなぁ……あれでピクリともしないあたり、根本的に性欲が殺人欲求と直結されてんだなやっぱ。
今後作品の要になっていく早人のデビューとしても、なかなかに鮮烈で良い見せ方だったと思います。
来週はまた主人公たちにカメラが移るようですが、どんなお話が展開するのか。
非常に楽しみです。