イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ブブキ・ブランキ 星の巨人:第16話『狩人の銃弾』感想

人生の温もりと悲惨を虚神に込めてお送りする鋼鉄の群像劇、今週は露西亜悲愴歌。
タイガの極寒の中でも新たな友情を育み身も心も温まる日本チームと、ギーの陰謀の生贄となりちっていくロシアチームの無残を対比させ、コントラストで魅せるお話でした。
ようやくお兄様が綺麗になって、ロシアチームも絆を深めていってくれる……と安心させたところで、姿なき狙撃手に文字通り手足をもぎ取られていくエグい展開が刺さる刺さる。
ブランキにまつわるかなり重要な設定も出てきたし、死人が出たことでビッと場が締まるお話でした。

というわけで、このアニメで初めてネームドに死人が出ました。
冒頭で的場井おじさんが告げていたように、『あいつらが死ぬわけ無いだろぉ~?』っていうムードで進んでいたこの話ですが、ロシアチームが贄になることで『まぁ、そういう話でもないから。きっちり残酷に死ぬから』と教えるお話。
いつものムードで進む日本チームの話と、ようやく関係修復の兆しを見せたロシアチームを無残な『殺し』に叩き込む展開を挟み込んで見せて、『殺し』の元締めであるギーの酷悪さを強調する流れは、なかなか良かったです。

日本チームの話は対極でバンバン死んでるロシア組の故郷で展開し、猛吹雪なのに新しい友人と出会い、意識を持ったブランキとの対話という、相当重要なイベントも起こる前向きなもの。
新しい可能性を目の前にしてバッタバッタと死んでいくロシアチームと、厳しい環境でも未来に向かって着実に進んでいく日本チームでコントラストを作ったのは、お互いが背負うものをクッキリ見せる上で良い演出でした。
真っ青なアルゴ号のビジュアルもいいし、的場井おじさんとの奇妙な共同生活も不思議な味があって面白いしな。

だから温泉シーンもただのサービスというわけではなく、物語的な意味があるのだッ!
……まぁ肌色描きたかっただけだとは思うけどさ……水着が肌から浮かび上がる様も3Dで表現できるようになったんだから、CGの進化はスゲーなマジ。
女子限定の温泉シーンだから、ピンクで女子力高いテュロクさんも入浴しているのが、人間とブブキの境を超えて理解し合える希望を感じ取れて、なかなか良かった。
妹に兄を殺させるギーの『人間的』な謀略が、その背景にあること含めてね。

テュロクさんが色々語ってくれたお陰で、ブランキが異星人そのものであるとか、なぜ体が分割され選ばれた相手と契約しなければ稼働しないのかとか、ドバっと情報が出ました。
今回出た設定はSFモノを満足させる情報であると同時に、キャラクターは何を背負って闘うのかを補強する感情のカタマリでもあって、なかなか良いタイミング、良いエピソードで公開できたなと感じました。
心臓に込められているのは、家族の絆だけではなく異星の客との契約でもあるっつーのは、お話に重みが加わる良い追加だ。
逆に言うと、子供の決意やブブキそれ自体を軽んじるギーの行動は、物言わぬ怪物の期待も裏切ってるってことだしね。
ラスボス殴る理由がガンガン積み上がるのは、クライマックスが盛り上がる足場になるので大歓迎です。


ギーが代表する薄汚れた人間のカルマを、無垢なる少年たちが乗り越えていくという話の構図は結構しっかりしていると思うが、それを代表する東はどーにも匂いがなくて困ってしまう。
『人間は変われる』という言葉を口にしても、実際の物語の中で迷い、傷つき、自分の手で変化を掴み取った柊と、そもそも変化する前の姿すら(僕は)明確には把握出来ていない東とでは、説得力がぜんぜん違う。
柊の言葉は『俺は変われた、人間だって変われる』という血肉の入ったものなんだけど、東野は『俺』が無いんだよね……主人公でコレはどーなんだろか、本当に。

東があまりにも『正しく』て、エゴイズムの体温と臭気を感じられないというのは、世界を破滅にさらしても『正しい』ことを完遂できた母・汀から継承した性格ゆえだと思う。
『親子間の継承』はこの話の根本的テーマなので、母と息子がよく似ていることは必然なのだが、それを重視した結果主人公にドラマを背負う足腰がないと感じられてしまうのは、本末転倒な気もする。
今はまだ、視聴者には歪と感じられた汀の『正しさ』、それを継承する東の『正しさ』が問われるタイミングではないというのは、世界の片隅で無残に死んでいったロシアチームの死骸と、明るく楽しいアルゴ号の笑顔を対比して終わった今回を見ても、よく分かる。
しかしこの話が、そういう歪さ(というか、それを歪と感じる僕の感覚)と向かい合い、物語的リソースを使って是正してくれるのかどうかということには、未だ確信は持てないままだ。

お兄様の改心にしても、東が意のままに奮った暴力が結果的に生み出したものではあるけど、その歪みを全身で受け止め、自分の気持ちで跳ね返して生まれたものではない。
それは敗北を切っ掛けに己を見つめ直したお兄様の手柄であり、東とはあまり関係ない場所で発生してむしり取られた、小さな奇跡だ。
しかしこういう変化こそが物語類型としても、そして『人間は変われる』ことを軸に据えたアニメとしても大事なはずで、そこに主人公の関与が薄いことは、ロシアチームの物語が鮮烈なだけにつくづく惜しい。


とは言うものの、これまでのギャグ描写を活かして『ああ、良かったな。これからロシアチームの物語が始まるんだな』という期待と安心を一旦抱かせて、衝撃的に略奪する展開、その意外な真相は猛烈にスパイスが効いていて、面白い展開だった。
クソみたいなお兄様を罵ってきたのも、健気に彼を支える手足たちに報いて欲しいという願いの反転だったわけで、たとえ自力でも仲間のありがたみに気づき、より善い生き方に踏み出したお兄様の姿は、僕が見たかった物語だった。
そんな幸福の幻像を、他ならぬリュドミラの手で奪う展開、お兄様自身が望んだ『洗脳』をトリックとしてひっくり返す運び方は、非常に良かったと思う。
いや、シンドいけどね……妹ちゃんとかバカだったけど良い子だったから、生きてほしかったしね……。

日本チームの呑気な平和さと希望は、ロシアチームを襲った残酷な運命と綺麗に対応していて、この悲劇を産んだギーに『こいつマジ……生きてちゃいけないタイプの人間だなッ!』と感情を燃やす、良い燃料になった。
こういう気持ちが燃え上がればこそ、礼央子さまを救出しギーに一発入れるだろうこの後の展開に、期待も高まるってもんだ。
ギーのクソっぷりが際立てば際立つほど、その魔手に落ちようとしている薫子を助ける東の行動も、素直に応援できるしね。
やっぱ敵役の悪行をしっかり見せて、『主人公がそいつをぶっ飛ばす理由』を視聴者に感得させるのは、お話に乗っかる上で大事だ。

なので、ロシアチームを『ああ、今はギクシャクしてるけどいいチームになれるかもな……結構好きだなこの子たち……』という期待を抱ける、良いキャラクターとして描写できたことは非常に正しい。
報われるべきものたちが道半ばで断ち切られ、あるべき未来を掴み取れなかった無念さをどれだけ鮮烈に刻み込むかというのは、話の先を見ずにいられない熱量に、そのまま比例するわけだから。
それは分かっているのだが、リュドミラが仲間を手に掛ける時の絶叫がとにかく熱演すぎて、正直しんどすぎた……浅倉さん、いい演技でした。
マジギーのクソ野郎は今後もどしどし悪行を積み、その報いを最大限受ける形でボッコボコにされて欲しい……いいラスボスだよほんとに!!
ブブキ使いの子供たちは『親の愛』を受けて戦ってんだけども、それを利用するギーはほぼ作中唯一の『愛を悪用する大人』な所とか、面白い図式だよなぁ。


というわけで、箸休めの設定説明回を残忍な虐殺劇で挟み込むことで、世界を支配する血の赤さを強調するという、面白い作りのエピソードでした。
こういうコントラストの作り方は技巧を感じるし、テーマが鮮明になって非常に面白いので、今後もうまく使って欲しいと思います。
二期はこういうメリハリ効いた展開もしっかりやれて、本当に面白いなぁ。

ロシアチームの希望が虚しく散った後でも、少年たちは空を駆け抜け希望を目指す。
彼らの行く末がどこに辿り着くか、なかなかに盛り上がってきていると思います。
ブブキ・ブランキ、来週も楽しみですね。