イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

響け! ユーフォニアム2:第3話『なやめるノクターン』感想

人生の事件は夜起こる!
青春探偵久美子が少女たちの心理に分け入るミステリー、今週は積み重なる夜想曲
合宿も大詰め、厳しい特訓を積み重ねる『昼』と、個人的な悩みをどんどん溜め込む『夜』の対比がなかなかに面白い回でした。
南中の超こじらせた関係は前進しないまま、久美子がどんどん情報を集める立場にいるのに、苛立ちや停滞感を覚えないのは、合宿の厳しい指導が話を引き締めていることと、対話の中で久美子の中に何かが蓄積していることが感じられるからでしょうか。
個人的な『夜』とみんなで頑張る『昼』をくぐり抜けた合間の『朝』に、万感を音色に乗せるあすかの姿を見つめて終わる詩情が見事でしたね。


今週も前回から引き続き、希美という爆弾が久美子に引き起こした波紋を解決するべく、様々な人に出会い、話を聞く回。
あすかに橋本先生、優子に再びあすかと、『お前はギャルゲーの主人公か!』とツッコみたくなるほど出先出先でイベントを引き起こす久美子。
彼女を通じて、キャラクターが感じていることや隠していることが見えてくる構図になっています。
近いうちに決定的な衝突が起こるのでしょうが、それをより実りある形で納得するためには、久美子を窓口にしてキャラクターの内面を言葉にし、演出に乗せて感じさせることが大事なわけですね。
個人的でナイーブな出来事を伝えるべく、夏の日光が公平にすべてを照らす『昼』ではなく、しっとりと秘密の気配が漂う『夜』に事態が進行するのは、なかなか面白い演出です。

各員の心に踏み込む個人的な足取りと同時に、北宇治吹奏楽部という公集団として一処を目指し、努力を積み上げる描写がしっかり挟まるのは、お話の公平感を出すのにとても効果的です。
一期で『上手くなりたい!』という慟哭の原因になったパートを褒められ、今度は二人で吹くことになった時のこみ上げる喜びの描写は、『君たちはどんどん上手くなっている』という橋本先生の言葉に説得力を与えていました。
それはつまり、『何を吹くのか』というヴィジョンの重要性、それをつかむための精神的問題の整理の大事さもレンジに捉え、今まさに取り組んでいる情報収集と謎解きの意味合いを確認させるものでもあります。
私的な領域が外側に発露する演奏に影響するのは、橋本先生がみぞれに指摘していたとおりであり、その解決があって初めて、みぞれの演奏ロボットめいた音楽も変化していくのでしょう。
それを考えると、『幾重にも感情が重なったような』演奏を個人的な時間・空間のなかで、誰に見せるとでもなく奏でていたあすかには、やはり濃厚な感情のバックボーンがある気がしますね。

今まで知らなかった部員の秘密や意外な表情に出会い、一丸となって鍛え食べ遊ぶ以外にも、久美子には非常に『特別』な空間があります。
第1話・第2話と同じように、挟めるタイミングで徹底的にねじ込まれる、麗奈と久美子の親密で打ち解けた関係性。
ここで羽根を休めることが出来るからこそ、久美子(と視聴者)は重たい秘密に潰されることもないし、お互い抱え込んだものを共有して気を楽にすることも出来るし、存分にイチャコライチャコラして潤いを取り戻します。
希美が拒絶される理由、滝先生の過去、コンクールへの思いと、言えない秘密を久美子が溜め込みまくる展開の中で、二人きりの『特別』な関係が清涼剤のように(もしくは毒のように)挟まるのは、息苦しさが抜けてとても良いですね。
『合宿』という、家や学校から切り離された特別な空間を舞台にすることで、逆に久美子が今青春を送っている複雑な関係性がどういう表情をしているのか、手際よく描けた気がしました。


というわけで、様々な女と逢瀬を重ね、その事情に分け入っていく久美子。
特に二度の邂逅を果たしているあすかは、あくまで『砕けて付き合いやすい先輩』というキャラクターを崩さず、自分の領域を守り続けているのに、久美子の目を引きつける不思議な引力を持っています。
第2話で希美の演奏を『南中のフルート』と聞き分けたように、久美子はとにかく耳がいいので、いい演奏する女を無視することは出来ないんでしょうね。
小笠原部長と中世古先輩の惹きつけられ方を見ていると、そういう領域を超えた人格的質量をあすかは持っている感じもしますが……希美もそうか。

あすかがのぞみを拒絶する理由は『みぞれを守るため』ですが、それは人間としての情というよりは、自分が吹ける場所を最善に維持するためのエゴイズムに取れます。
『一人しかいないオーボエと、何人もいるフルートを天秤にかける』という判断が拒絶の裏にあるにしても、行動としてはみぞれのナイーブな精神を守る形になっているのが、なかなか面白いです。
希美があすかの承認に拘る理由もまた、『あの時引き止めてくれた』という情をあすかの言動に見ているからであり、その真意がどうあれ、周囲の人間にそういう印象を与える女だということは、間違いなさそうです。

あすかの行動は全てが『自分が吹ける場所を守る』に集約され、『砕けて付き合いやすい先輩』というペルソナを維持しているのも、その奥で非常に怜悧な個人主義を維持しているのも、エゴイズムの発露であるとして演出されています。
このアニメの人物描写は接写的で湿り気を帯びていると同時に、ひどく冷静でドライなところがあって、復帰に駆けずり回る希美が自分のことしか見えておらず、あすかのペルソナの奥を見切れていない浅はかさを抱えていることも、かなり明確に描写しています。
そういう目線は、人間関係にシニカルな久美子を主役として据えていることが大きな理由だと思うのですが、低音パートの仲間として、あすかの朗らかな仮面の奥にある怖さを知っている久美子の目線を借りて、あすかのエゴイズムの奥に何かがあることは、幾度も強調されています。

人間二人を天秤にかけ切り捨てられる冷静さと、シニカルな態度の中で人を傷つけ惹きつける人格的質量の同居。
形式としては希美の代理人として謎を追いかけているのですが、久美子は同時に、田中あすかという人格の複層性と、それが生み出す魅力に分け入っているように思えます。
『田中あすかは何者なのか』という疑問は、南中の因縁を追いかけている間は解決はされないでしょうが、そのヒントとして合宿での対話があり、『朝』出会ってしまった圧倒的に美しい演奏があるのではないか。
意味深に久美子を翻弄し、誘惑する姿が幾度も挿入されていることから考えても、今後あすかという作中最大の謎が話の真ん中に座り、久美子がそこに切り込んでいく物語が展開される可能性は、結構高いと思っています。
その時、『昼』と『夜』と『朝』を共有した今回の描写は、また別の意味を持ってくる気がしますね。


あすかとの対話が巨大なミステリとの格闘だとすると、優子との対話は明瞭な結論に至る和解の物語です。
一期から溜め込み、みぞれにも『仲悪いの?』と指摘されてしまった、久美子と優子の間にあるぎこちなさを取っ払い、彼女がどういう気持ちで友人と触れ合い、音楽に向かい合っているのかを開示する。
『夜』の会話は謎を溜め込むだけではなく、誤解や無理解を排除し風通しの未来を呼び込む特別な瞬間だと示す意味で、自販機の商品表示がピッと止まるところから対話がスタートする演出は、なかなか気が利いていました。
いつものデカリボンを外し、可愛い寝間着で飾らない姿を見せてくれたのも、『合宿』『夜』という特別な空気が断絶を乗り越えるシーンの意図を巧く伝達してくれて、分かりやすかったな。

一期でたっぷり堪能したように、優子はかなり面倒くさい人格を持ったひねくれ者で、希美のような行動力と浅はかさではなく、色々複雑な感情を持っています。
感情が表に出にくい希美を気にかけ、色々世話をしている様子は第1話から強調されたところですが、夏紀を問題に踏み込ませまいと牽制しているのも、みぞれのナイーブな心を守るためなのでしょう。
ここら辺を理解するためには希美とみぞれの間にある認識のギャップ、それを危険視するあすかの見識を事前に知っておかないといけないので、イベントの発生順は優子が深夜に配置されているわけですね。
他の人には結構乱雑な対応をしてしまうのに、みぞれ相手には非常に繊細かつ親密な距離感を作れている描写が優子は多くて、優子にとってみぞれも『特別』なのかなぁと思ったり、思わなかったり。

希美とみぞれの間に感情の温度差があるように、優子と夏紀の間にも認識のギャップがあるように、今回は感じられました。
夏紀先輩がダウナーなようでいて人情家なことも一期でたっぷり見知っているわけですが、その真っ直ぐな感情が逆にみぞれの内心を遠ざけ、問題の危うさを見落とす目隠しになってしまっている。
優子はそれに気づいているからこそ、分かりにくい言葉で夏紀を遠ざけようとしているわけですが、その根っこにあるのが『友情』であることには、実は変わりがなかったりします。
元南中の四人は濃厚な絆があればこそ、中学時代の敗北と去年の事件が傷となり、それを癒やすべく各々動いているのに、お互い向かう方向はバラバラという、非常に厄介な状況です。
四人それぞれの心情に久美子がじっくり切り込んだ結果、この複雑な綱引きの内情が視聴者にもよく分かるようになっており、問題が展開する土俵がどうなっているのか、丁寧に把握できるわけですね。

優子が情の深さゆえに不器用な態度を取ってしまうのは夏希だけではなく、一期で部をかき乱したソリストオーディションの裏側にも、彼女なりの考えがあったことが今回わかります。
わっかりやすいツンデレ爆弾で俺の心を更地にしたいいシーンでしたが、それを引き出すために『コンクール』への問いかけが有効活用されていたのは、なかなか面白いところです。
前回みぞれがら久美子に問いかけられた『コンクール』が、今度は優子の本心を引き出し、久美子の中にあったわだかまりを氷解させ、寝床に帰った後は麗奈の考えを引き出しもする。
吹奏楽をテーマにする以上、作中幾度も描写される少女たちの青春に、客観的で残忍な点数がつく『コンクール』に多角的な光を当て、掘り下げていくのは物語に奥行きを出す上で、結構大事だと思います。

迷いの中にいるみぞれは『分からない』とした『コンクール』の価値を、優子は『理不尽だけども、より良い生き方をするためには必要』と受け止め、麗奈は『ポジティブに捉えたい』と切り返す。
それは様々な人格を持った少女個人の認識であると同時に、『コンクール』……というよりは、客観的で理不尽な評価をつけてくる『学校』の外側の価値観を様々な角度から掘り下げる意味合いもあるのでしょう。
彼女たちは北宇治高校というアジールの内部で、むせ返るほど濃厚に青春しながら『子供』していますが、そこは常に厳しさと公平さ、理不尽と平等がアンバランスに同居する『大人』の世界と隣合わせである。
吹奏楽を通じて己自身や他者と向き合い、表現し、反発し理解し融和し対立する物語にとって、『コンクール』を問うことは成長を問うことでもあるわけです。

『コンクール』は『大人』の世界のエッセンスであると同時に、音楽に向かい合う姿勢を問う試金石でもあり、今回久美子が優子と和解し素直な笑顔を見せれたのは、優子もまた情に振り回されつつ音楽の可能性を信じ、それに真摯に向かい合う人物なのだと確認できたからでしょう。
いい人だから、優しい人だからというだけではなく、音楽に対し真面目な人だからという判断軸がしっかり挟まることは、練習のシーンをしっかり積み上げることと同じように、テーマに対する真摯さを担保する、大事な描写だと感じます。
それと同時に、そこからズレた価値を貶めることなく、広範にすくい上げて描写している所が好きなんですけどね……葵ちゃんとか。(出番がなくても隙あらば葵ちゃんの話するマン)


少女たちが心の迷宮に分け入る横で、大人たちの物語もドンドンと展開していました。
あまり自分のことを語れない滝先生のサポートとして、計算された軽薄さを背負った橋本先生が凄まじい仕事をしていて、いい新キャラだなぁと感心。
部の問題の指摘(つまり、今後物語が追い込むべき標的の暗示)もしっかりやってくれて、滝先生が『頼れる仲間』になってしまった二期でも大人の仕事をなくさない、いい動きだと思います。
ここら辺の砕けた空気を表現するべく、一期でも印象的だった「なんですか、それ?」を茶化してモノマネするシーンがちゃんと入るのは、流石の目の良さですね。

滝顧問が既婚者であり、しかも死別しているという情報は衝撃的でしたが、個人的にはその後に続く橋本先生の述懐が印象的でした。
滝顧問はゴミクズ集団北宇治吹奏楽部を生まれ変わらせる劇薬として、意図的に人間味の薄い、厳しいキャラクターとして維持されているわけだけども、橋本先生がそんな彼の傷に寄り添い気にかける描写を入れることで、橋本先生だけではなく滝顧問にも『こんないい友達がいるのか……』という感情が湧いてくる。
ここら辺のクッションかけた人間味の描写は、冷酷な素顔を見てもあすかに引き寄せられる久美子の描写とか、あまり自分を表現しないけども優子に世話されまくってるみぞれとかでも、巧く効いている部分です。

麗奈の恋愛バトルも無事(勝手に思い込んだ)マイナスから(実質変化のさせようがない)ゼロに戻り、死んだ目もときめきを映してキラキラ輝いていました。
麗奈が滝顧問に抱く気持ちを久美子が柔らかく受け止め、秀一の恋心を麗奈が後押ししている構図は、二人の『特別』な関係がホモセクシュアルで閉鎖した色合いに染めきれない、ヘテロセクシュアルで開放的な意味合いを持っていると、巧く示している気がします。
ヘテロだから好ましいとか、風通しが良いから望ましいという話でも、またその逆でもなくて、緊密に結び合いながら男性と手をつなぐことに積極的で、異性との恋愛もまた今目の前の同性と結び合う『引力』と同じくらい大事だと認識している独自性が、麗奈の慕情の先に滝顧問を、そして久美子の鈍感の先に秀一を配置することで、より強調されている印象。
恋でもあり、憧れでもあり、友情でもあり、同士でもあり、そのどれでもないような、あまりにも緊密で『特別』な関係を『引力』と表現したのは、なかなかに的確だなぁ。


というわけで、みぞれと希美運命の正面衝突に向け、久美子自身も含めた関係者の心情をグッと掘り下げる『夜』の物語でした。
内面に向かい合う繊細な視線を丁寧に維持しつつ、部活動に向かい合うオープンな『昼』の描写をしっかり入れるバランス感覚は、このアニメがいろんなものを描く、大きな助けになっていると思います。
直近の問題を見逃しなく取り上げつつ、あすかという作中最大のミステリの輪郭をちゃんとなぞるところもね。

作品の武器である繊細な心理描写、丁寧なコミュニケーションを積み重ねて、南中のくっそめんどくさい女たちがドカンとぶつかる下地はしっかり出来上がりました。
我らが主人公、青春探偵・黄前久美子がそれを『自分の問題』として飛び込み、拗れた気持ちの解決を手助けする準備も万全。
みぞれは果たして希美を憎んでいるのか、それともあまりにも強すぎる思いが逃げ場所を探しているのか。
個人的に一番気になっている疑問に答えが出そうなゼロ・アワー……次回がとても楽しみです。