イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

響け! ユーフォニアム2:第4話『めざめるオーボエ』感想

そのオーボエは誰がために鳴り響くのか、北宇治は女と女の感情が衝突する爆心地(グラウンド・ゼロ)、ユーフォ二期第4話であります。
第1話からじっくり追いかけてきた南中カルテットの面倒くさい重力四辺形が炸裂の後に解決し、ロボットの演奏に艶が乗る回でした。
これまでの3話でタメた感情がすれ違い、爆発し、別の場所に繋がり流れ去る快楽が、美麗という言葉も生ぬるい夏の情景でしっかり描かれる、熱量と湿度のある回でした。

南中エピソードの謎を埋める最後のピース、『みぞれは希美をどう思っているのか』が公開された結果、見えてきたのは感情の不均衡。
みぞれが希美を思う凶暴な一途さを希美は理解できないし、身近にみぞれを守り世話してきた優子の献身をみぞれは考えもしなかった。
そんなすれ違いを案じてか、はたまた衝突させないことが解決策と考えたのか、あすかは二人を遠ざけてきたわけですが、久美子が触媒となって事態が進んだことで運命は炸裂し、おそらくはより良い方向に転がりだしたというのが、今回のお話だと思います。

今回事態が分裂ではなく融和の方向に進んだ最大の立役者は間違いなく優子で、みぞれのために怒り、みぞれのために走り、そのみぞれに『お前は私の特別じゃない』という残忍を突きつけられても、激情をユーモアの衣に包んで穂先を隠す強さが彼女にはあった。
優子が誰かのために感情の矛先を緩められる器用な人物ではないということを、僕ら視聴者は一期のオーディション騒動で知っているわけで、だからこそ感情の赴くままに拳を叩きつけるのではなく、ほっぺたをへんてこに変形させる柔らかい対応があそこで出来たことに、大きな驚きと感動がありました。

優子の心も乱れていないわけがなく、それは計算し尽くされた乱雑さで並ぶ机の群れを見ても、よく分かる。(お話が落ち着いた後、あすかと久美子が話す教室の整然とした並びと好対照ですね)
久美子の、優子の、みぞれの心理的動揺を映して乱れた混乱の中で、しかし優子は前に出てみぞれの手を取ったわけです。
優子はみぞれの脆さと優しさを心底愛しているからこそ、自分がスッキリするために怒るのではなく、親友が溺れる感情の海から引っ張り上げ、みぞれ自身気づいていない真実を言葉にして教えることが出来た。
強いことだし、優しいことだと思います。
中世古先輩という圧倒的な『特別』を持ちつつ、同じだけの重力でみぞれのことも思えるあたり、人格的なキャパシティが多いな、デカリボン。

今回は合宿にも増して『夏』の気配が強い絵面で、じりじりと照りつける太陽が肌で感じられるような、匂いのある作画でした。
熱は汗を生み出し、友のために汗だくになって走る優子の姿を際だたせるわけで、今回のお話に込められた作画カロリーの殆どは、彼女に捧げられたと言って良いのかもしれません。
みぞれが希美への未練だけでオーボエを吹いていたのではないと気付き、顔を上げより広い場所に歩き出すシーンの明暗。
校舎裏で久美子と希美が語り合う時の、感情の複雑さの宿った影の色合いと、無責任に白い光の対比。
元々光と影の表現に気を配り、有効に使っているアニメなのですが、今回は特に冴えていた印象ですね。


みぞれ先輩は即座に重力子崩壊を起こしそうなほど重たい感情を、膝を曲げた闇の中で思い切り吐露してくれましたが、まぁ愛情ゆえに捻くれたのは解決が早くて助かった。
『希美好きすぎて生きてるの辛い……』という方向だろう(もしくはそうであってくれ)という読みはしていたので、当たったのは正直嬉しいですな。
一見希美と本音で語り合って状況が改善したようにみえるけども、その前段階で優子がのぞみを受け止め、引っ張り上げ、真実に気づかせたからこそあの対話があるからわけで、やっぱ今回の騒動のMVPは優子だなぁという印象ですね。
希美の無邪気な無神経さは言うまでもなく、みぞれもまた自分の感情に閉じこもるあまり優子の気持ちに気付けない少女だったわけで、光と闇の間を行き来しながら悩み、踏み込む優子と久美子がいたからこそ、みぞれの気持ちがあるべき場所に戻りったのでしょう。

問題は解決したように見えて、希美にとってみぞれが『特別』ではなく、みぞれにとって優子が(最大級の)『特別』ではないという不均衡は名残ったままです。
それは人間の感情と価値観の問題であり、一朝一夕に『解決』するものでもないのでしょう。
久美子と麗奈の『特別』が程よい重力均衡点でまとまり、お互い向かい合う形で位置を取れたのは非常に幸福なことだったのかもしれません。
自分がおかれた不可思議な状況を、南中の面倒くさい連中と重ね合わせたからこそ、久美子がこの他人事に首を突っ込んだってのもあるかなぁ。

希美はその残酷さに気づかないまま無邪気でいるだろうし、みぞれにとって世界の中心には希美がい続けるだろうし、それを窓の外で頬杖つきながら優子と夏希は遠目に見つつ、仲良く喧嘩するのでしょう。
南中のくっそ面倒くさい女たちが織りなすカルテットは、一方通行な感情の向きを変えないまま、しかしそこを流れる意識は大きく変化し、みぞれの激情をとどめていた腫瘍は摘出された。
何もかもが万全に解決するわけではない世界の中で、それでも望ましい結末を汗だくでもぎ取った少女たちに、お疲れ様といいたい気分です。

しかしとにかく、あの四人の感情は濃厚かつ不均衡で、あまりに面倒くさくて大好物であります。
希美の真っ白な無神経さがここまで問題をこじらせたんだけど、そういう捌けた気質があったからこそくっそ面倒くさいみぞれだの夏紀だのが一つにまとまり、その繋がりがあればこそ過去の事件が傷にもなりと、益と無益が複雑怪奇に入り混じっているわけですし。
そういう風に割り切れない面倒臭さ、人間味をお話しの真ん中に据えながら、吹奏楽で切り込んでいくのがこのお話なので、南中カルテットは重力過多のグラビティエリアのまま、じりじりと人生を続けていくと良いと思います。


優子の頑張りで南中のこじれた関係は良い方向に向かいましたが、田中あすかの謎はより深まったようにも感じます。
作中久美子がモノローグで語りかけるように、あすかの穿った見方が果たして世界に対する絶望から生まれているのか、自分を守るためのポーズなのか、はたまた別の意味合いがあって睨めつけているのかは、現段階では判別がつきかねます。
一期から引き続き強調されているのは、田中あすかが相当に複雑な人格を持って空疎さを演じていることと、その奥に何かを隠し続けていること、そしてそれが女の目線を引きつける引力を有していることです。

みぞれと希美との衝突を『最悪』と言ったのは、あすかの想像力の中では彼女らを結びつけるものは憎悪と嫌悪であり、それによって自分がユーフォを弾ける環境が破綻してしまうからでしょうか。
『可愛い後輩が傷ついちゃう~(;_;)』みたいな殊勝な気持ちがあったとは思いませんが、今回の事件の解決があすかの計算を越えているとしたら、超越者のように振る舞っているあすかにもまた、想像力の限界点があるわけです。
彼女を包む世界がどのようなものであるかは意図的に隠蔽された謎ですが、一期で一瞬だけ写ったあまりにこざっぱりとした自室を見るだに、彼女の世界は南中の少女たちが持っていたような湿り気から遠い、ドライな場所なのかもしれません。
そういう世界を守るべく、穿った見方をわざわざ言葉にして久美子に叩きつけたのだとしたら、みぞれの次にクローゼットを破り柔らかい激情を露わにするべきなのは、あすかなのかもしれませんね。

あすかがどれだけ捻くれた世界認識をしているとしても、音楽に掛ける情熱とパフォーマンスは本物で、「全国、行こうね」と久美子に語りかけた言葉に嘘はないのだと思いたいところです。
作品全体が『演奏が感情を反映する』というルールで作られているので、音楽に対しても斜めに構えているとしたら、あすかが凄く例外的な存在になってしまうんですよね。
久美子があすかのミステリーを気にし続け、惹かれ続ける描写が二期は特に濃いので、そこら辺に関しても今後掘り下げるんじゃないかと期待してますが、さてはてどうかな。


久美子はこれまで三話分溜め込んだコネクションをフルに使い倒し、南中カルテットの重力バリアの縁で事態を見守っていました。
『主人公と言うには当事者性が足りない!』という意見もあるでしょうが、展開している事象があまりにも強烈に個人的すぎて、切り込むのはなかなかに難しい中、みぞれの本音を引き出す仕事もしっかりやっていたと思います。
優子にすがられた時の『あ、捕まった』という感じがマジ凄くて、正直逃げたかったと思いますが……そこで後ろに引けない状況を作るために、これまでの青春探偵業務があったとも言えるか。

久美子が南中の複雑な事情に首を突っ込んだのは、『特別』を麗奈と共有しながら吹奏楽している久美子にとって、『特別』のボタンを掛け違えて音楽から遠ざかった彼女らは、他人とは思えなかったからかな、と感じました。
久美子はもともと共感性が薄めというか、姉が激怒しながら家飛び出しても「ふ~ん」ですます強かな部分がある子なんですが、だからといって世界に対して冷淡でい続けられるほど感覚が弱くもない。
そういう不思議なセンサーに引っかかる部分があったから、わざわざ首を突っ込んで巻き込まれ、『誰かのためだけに吹く』というみぞれを前にして言葉を失ったのかなぁと。

異質な価値観に出会うことで己を問い直し、いつものように引力に惹かれて麗奈に戻ってきて、自分の立場を確認する。
常に『自分のために吹く』不遜さを『特別』へのパスポートにしている二人がイチャイチャして終わるのは、話の主役を久美子に戻した感覚があって、好きな締め方でした。
不動の自信を持って演奏に向かい合い、揺れることなく『自分のために弾く』という意味では、いい演奏順をもらって武者震い祖見せた緑輝が、全キャラクター中一番太いのかもなぁ……あまりに太すぎて、話の動揺に関われないくらいだものな。


二期開始時から引っ張ってきた女と女と吹奏楽のお話がついに炸裂し、溢れる思いがしかるべき出口を見つけたお話でした。
誰かの『特別」が自分ではない時の動揺がドラマの中でも、瞳が繊細に揺れ表情が微細に描写される作画の中でもしっかり描かれ、少女たちの感情のうねりが強烈に感じ取れるエピソードでした。
様々な矛盾や破綻を含みつつ、それでも美しく輝く感情の細やかな肌理がしっかり切り取れるのは、圧倒的なクオリティの賜物だろうなぁ……やっぱこのアニメ、美麗さを使いこなしていると思います。

北宇治の弱点として強調されてきた『オーボエソロの艶の無さ』も、みぞれと希美が復縁したことで解決され、さて運命の関西大会。
青春の激浪を追いかけるこのアニメが波乱を用意していないわけがないと思いますが、どういう試練が久美子たちに襲いかかり、そこであらわになる感情はどのような熱を持っているのか。
来週も楽しみですね。