イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第29話『本当のライバル』感想

否定しようのない才覚が凡人の努力に牙を剥く、美麗なるジャングルの掟、今週はローラ3度目の敗北。
次回やってくる小春との別れを明確に示しつつ、世界に愛されていないローラの血塗れの繊細さと、無邪気に勝利を奪い去るゆめの鈍感を残忍に対比するお話でした。
桜庭ローラの誠実を分厚く描き、彼女の転換点を強調するという意味では非常に優れた回でしたが、それに対比されるゆめの姿はあまりに無邪気かつ無敵。
今まさに、アイカツスターズ!は非常に難しいコーナーを曲がりつつあるのだと実感するお話でした。

第16話『ミラクル☆バトンタッチ』、第21話『勝ちたいキモチ』、そして今回、第29話『本当のライバル』
ローラとゆめの直接対決は幾度も描かれ、時にどうにもならない天運に、時に『あの力』という曖昧模糊で強靭なパワーに、ローラの努力は押しのけられてきました。
アンナ先生が的確にフォローしたように、負けを意識するあまり自分とゆめを比べ過ぎ、真実の己を見失ったローラが『負け』ることは、ある種の必然なのかもしれません。

ドンガメのように見えて『あの力』に愛され、勝利を引き寄せる主人公の必然を引っ張り込んでいるゆめと、天才優等生として描かれつつ天性の『華』を持たず、決定的な勝負に『負け』続けるローラの対比は、『才能VS努力』という非常に古典的な、それゆえ基本的な対比といえるでしょう。
アンナ先生のセリフを物語製作者からのメッセージと素直に受け取れば、今回ローラが展開した努力は焦りに目を曇らせ、方向性を見失った努力であるがゆえに実を結ばず、今回の敗北とアドバイスによってローラは、本当の自分を貫くからこそ向かい合える『本当のライバル』という方向性へ向かうスタートラインに着いた、ということになります。

しかしその結論を飲ませるには、ローラは誠実すぎ、ストイックに己を追い込みすぎ、自分に楽しみを許さなすぎる。
優しくて強くて、周囲を気遣いつつ自分を追い込める彼女は凄く素敵な女の子で、三度も決定的に『負け』させるのは、あまりに酷に思えてしまう。
『負け』というペナルティを背負わせるに相応しいマイナスを、桜庭ローラが背負っているように見えないのは、彼女を描く筆が生き生きしている証拠でもあるのですが、それが僕に与えるイメージと結果はどうにも噛み合っていない気がします。
たとえストーリーラインが彼女に敗北を要求するにしても、ここまで『持ってない』ことを理由に勝たせないのは、正直な話見ていてシンドい。
負けるには尊敬に値しすぎる桜庭ローラに三回も負けを飲ませること、それに相応しい間違いを彼女が犯しているようにはどうしても感じられないことは、ローラという少女を輝かせすぎた弊害かもしれません。

ローラ自身は今回の『負け』の意味を非常に素直に、正確に受け取っていて、そこから自分なりの個性を見つけ、ゆめの『本当のライバル』として向かい合う道に足を踏み出しています。
負ければ悔しいし、理由を探したくもなるし、親友だからこそ勝者の顔を見たくもなくなる。
そういう人間として『普通』の弱さを作中に取り込めるのは、何度もいいますがスターズの独自性だし強みでもあるわけで、その『普通さ』を乗り越えればこそローラは何度でも、尊敬に値する女の子として輝き直す。
そんな彼女だからこそ、三度も『負け』が連なることに、個人的には強い痛みも感じるわけですが。


ローラが飲み込まれかけ、アンナ先生と真昼のフォローアップにより飲み込んだ『普通さ』は、ゆめにも影を伸ばしています。
それは愚かさというか幼さというか、敗北の苦さも理不尽な現実も飲み込まないまま、形のない憧れと夢想に耽溺する『普通さ』です。
今回彼女はローラだけではなく、決意を込めて別れの挨拶を切り出した小春にもこの『普通さ』をむき出しで叩きつけ、状況を理解しないまま勝利に邁進してしまいます。
『ライバルである前に友達』という無邪気な理解は、勝者のブーツが常に敗者を踏みにじっている現実を知らないからこそ、出て来る言葉でしょう。

ローラの努力の方向性が『間違っている』以上、スイーツ食べて幸せなゆめが勝利をもぎ取る展開に、そこまで無理はありません。
人間が生まれながらにして持つ『華』は非常に残忍で、せっかく出したオーラが『あの力』によって飲み込まれる描写は、非常に効果的に『虹野ゆめは何を所持しているか』を強調していました。
そういうシビアさもまた、スターズが武器にするべき『普通さ』である以上、そしてその残忍な現実にローラが負けず『普通』を『普通ではない』で塗り替えるために立ち上がった以上、今回の三度目の『負け』は次の『勝ち』に繋がるものだと信じることは出来る。

では何を信じ得ないかと言えば、ゆめが包まれている『普通』の無邪気さ(愚かさ、残忍さを直視しない幼さ)が剥ぎ取られ、彼女が信じている平和な『普通』さが実は『普通ではない』と明らかになる、そういう未来を僕はいまいち信じきれていません。
今回(正直なところを口にすれば)苛立たされたゆめの鈍感さは、おそらく非常に意図的に織り込まれた弱点であり、この『普通そのくらい気づかないだろう』というベールを剥ぎ取り、ローラが人知れず流した涙の意義を、勝負事の真実と尊さを見て取る賢さに辿り着くために、描写されたものだと思います。

しかしスターズの話運びはところどころ非常にギクシャクしたもので、物語的な意図が感じられなかったり、その話がどういう未来につながるか不明瞭だったりするお話が、そこかしこに点在している。(具体的には第6話、第13話、第20話、第24話あたり)
だから、今回ゆめが見せた傲慢な愚かさが近い将来刷新されるための前フリだと、完全に信じ切れはしないというのが、今の正直な気持ちです。
場外ホームラン級の優れたエピソードも多数あり(具体的には第1話、第10話、第14話、第15話、第25話、そして劇場版)、基本的にはやるべきことをしっかりやってくれるアニメだと思うわけですが、何がどうなっても完全にやりきってくれるという信頼感が僕の中に生まれているのかと問われれば、迷いなく首を縦には触れないわけです。


ならばそれの信頼感は、これから創るしかない。
世界がずっと変わらず不変で、誰も傷つかないまま進んでいくのだというゆめの幼い認識を、的確にぶち壊さなければいけない。
そのために有効に使えるイベント、キャラクター一人を退場させる以上何がどうなろうと有効に描かなければいけないイベントが、小春の転校……アイドル引退です。
永遠に友達で、永遠にライバルであり続ける『普通』の世界は、実はそういうものではなかったという衝撃をゆめが受けることで、彼女の認識は大きく変わり、傷とともに知恵を手に入れることができる。
そういう狙いがあればこそ、小春を退場させるのだということを僕は信じたいし、今は信じています。

ローラの『負け』、そこに込められた(たとえそれが間違った方向に進んでいたとしても)努力や誠実さのうらに何があったのか。
自分が無自覚に、何を踏みつけていたのか。
小春との別れをゆめが的確に受け止め、それこそ今回ローラが『負け』から学んだように、自分の『普通』をぶち壊し『普通ではない』生き方に踏み出す糧にしてくれることを、僕は強く望んでいます。
そうでなければ、今のまま正体定かならぬ『あの力』に保護されて実のない勝ち星だけを積み重ねるゆめは、あまりにも『普通』の世界の実相から遠ざけられ続けた、哀れな子供でしかないから。

幸い、小春の引退に向けて描写は丁寧に積み重ねられ、彼女が物語から去るという(少なくとも僕にとっては)一大事を無辜にはしないという姿勢が、これまでの話から伝わってはきます。
三度積み重ねられたローラの『負け』、第24話で露骨に『未来のS4』から遠ざけられた小春のプライドを無駄に踏みにじらないためにも、小春の花道は綺麗に、見事に、的確に描いてほしいと、強く感じています。
それを見事に描ききることで、主人公が別れにショックを受け、変化する展開もまた、的確に描けるはずなのだから。

今回ゆめは『あの力』で勝利しましたが、『あの力』周りの描写はややフラフラしていて、それを利用して『勝つ』ゆめにも一貫性が薄れつつあるのは、少し気になるところです。
学園長やひめ先輩の対応を見ていると『悪い』ものとして描かれているし、これまではある程度の反動もあったんですが、今回は自然と降臨し代償も必要としない『普通』のものとして使いこなされていて、一体どういう存在なのか、迷ってしまいました。
『あの力』を巡るミステリーはすばるを探偵役とする大ネタなので、早々簡単に説明はできないってのはわかりますが、少なくともそれがプラスなのかマイナスなのかを明確にし、それに頼る状態のゆめは改善されるべきなのか、そのままでいて良いのか、メッセージを明確にしてくれたほうが見やすいとは思います。
特にペナルティもなく任意の力で発動できるなら、『あの力』で全てを薙ぎ払ってアイドルの一番星をもぎ取る超才能主義の話にしてもいいわけだけど、これまでの描写を考えると多分、スターズそういう話じゃないわけでね。


ゆめが『勝つ』話ではなく、ローラが(将来『勝つ』ために)『負ける』話としては今回の話は非常によく仕上がっていて、彼女に絡むアンナ先生と真昼も強い存在感を発揮してくれました。
特に生徒を見守り、場所を与え、悔し涙を受け止め、敗北の意味をやさしく諭すアンナ先生は、ようやくメンターという立場に見合った説得力のある立ち回りを見せてくれて、キャラクターの存在意義を強く感じ取ることが出来ました。
メインキャラクターの描写を骨太にやりきれると、そこに関連するキャラもグッと彫りを強め、魅力が出てくるからいいね。

反面、明確なライバルが不在で、暖簾に腕押し状態で圧勝してしまったあこは『勝つ』ためのロジックを巧く積めていない感じで。、惜しいなぁと思います。
もう少しツン期を長く取るか、馴染みつつも芯のあるキャラを維持して、今回ゆめが見せた無頓着さに水ぶっかけるようなムーブが取れればまた存在感もあったんだろうけど、ワリとススーッと仲間になっちゃった感じあるからなぁ。
姉とのわだかまりという高い山を乗り越え、その後もローラや小春やゆめをしっかり支え、独特の存在意義をしっかり打ち立てられた真昼とは好対照……かな。
あこにもホームラン級の個別エピソードを的確にぶっ刺して、悪い意味で『普通』な猫耳ツンデレからグッと背筋を伸ばしてあげてほしい所だ。


というわけで、形だけ取れば努力が才能に三度目の敗北を喫した話ですが、未来への萌芽は感じ取ることが出来ました。
『負け』たローラにしても、『勝った』ゆめにしても、今回の話を足場にどういう未来につなげ、物語がどういう角を曲がって展開していくかが、今回のエピソードの値段を決めると思います。
『普通』であることにこだわって進めてきたからこそ、『普通を乗り越える』展開に説得力とカタルシスが生まれる。
描写の端々から感じられる製作者の意図を、アニメーションに乗せきれるかどうか。

それは直近第30話、これまでアイカツスターズに誠実に奉仕し、友に報いてきた小春が去る次回の描き方次第です。
自分たちが思い描いている物語の形を、中身のないの看板や題目ではなく、視聴者にもしっかり同じ形で届く表現として形にできるか。
製作者の意図や都合とは関係なく、視聴者(と言うか僕)が抱いたキャラへの尊敬にしっかりと報いてくれる物語なのか。
その試金石は、来週木曜日に否応なく姿を現すでしょう。

正直な話、『お前がこの話を見てきた目は全部曇っていたよ』とか、『そういう期待を身勝手に寄せられても困るよ』とか作品に言われかねない勝負のエピソードなので、見るのが恐くもあります。
しかし、スターズのはらわたに手突っ込んで作品が持つガッツを確かめる上でも、なにより七倉小春という素敵な女の子をしっかり見送る意味でも、何が何でも見極めなければいけない話数でもあります。
楽しみですと無邪気には言えないけれども、楽しむべきだし、楽しもうと思っています。