イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

刀剣乱舞 花丸:第5話『優しいは、強い』感想

2016・10月期アニメで一番穏やかな百合と評判な美少年時空防衛戦記、第5話は今夜桃色クラブで。
伊達組のツンツンボーイ大倶梨伽羅くんをみんなで接待するAパートと、天下五剣・三日月宗近に心乱される面倒くさいボーイ加州くんのBパート、二本立てでした。
例によってファンサービスと細かいクスグリがしっかり仕上がり、キャラ数を絞った深い彫り込みも安定感があって、強い仕上がりでした。
そこで安心せずに、悩める若人に己から教えを請い道を示す宗近の『格』を、説得力を乗せてちゃんと描いている造り方、やっぱ好きだな。

ややライトで大人数を捌くパートと、人数を絞ってじっくり掘り下げるパートを組み合わせて話を勧めていく花丸スタイルにも、そろそろ慣れてきました。
数見れば見るほど、ファンの多大な欲求に答えつつ、1クールアニメに必要な背骨をしっかり入れる見事な構造で、束モノメディアをアニメにする時の教科書のようだなと感じます。
ともすれば乱雑になってしまう大人数を、沖田組の二人をメインパーソナリティにしてまとめる所がミソかな。

Aパートはややライトな感じで、雨が滴る皐月を舞台に、ホストクラブ『本丸』がオープン。
伊達組軸に色んな連中が黒服でキメて、新しい仲間を受け入れる姿勢を示していました。
『新参者相手にどう振る舞うか』というのは、Bパートで加州くんが相対するメインテーマでもあるわけで、ライトな部分とヘヴィな部分を切り離しつつ、完全に分離はしてしまわない繋がりを巧く維持する作りですね。

お話としては『お前らの好きなイケメンが、色んな格好をし、ホストごっこでおもてなし。お前ら好きだろうこう言うの? 俺は好き』という、ファンのニーズにガッツリ答える作りでした。
『刀剣男子にホストクラブを開かせる』というゴールに辿り着くために、薬研くんが子供っぽいところを全面に出し、キャラ達を服装探索の冒険に引っ張り込んでいるのが、なかなか面白い。
時に医者として落ち着いたところを見せ、時に短刀ボーイとして身勝手に暴走できる薬研くんの進行貢献っぷりは、TRPGゲーマーとしては参考になりまくりですね。
そういう物分りの良いムーブキメつつ、石切丸さんの服を借りてダブダブ萌え袖とかあざといこともやってくるしなぁ……完成度高いなぁ。

今回も一題コント的なシチュエーションを用意し、各キャラの個性を発揮する舞台として活用する運び方で、歌仙は細川三斎ネタ、山姥切は『写しは雅を介さない』ネタと、細かく出してきました。
自分はゲーム未体験なので、ファンに向けたディープなクスグリは真実の意味で受け止めきれていませんが、それでも『花丸がファンの方を向いてネタを見せている』ということは分かります。
後半の『レア太刀手に入ったんで、とりあえずレベリングとCG回収しとこう』というPL心理をお話に取り込み、メタ認知とキャラの感情とのギャップで話を二段構えにしているところとかも、門外漢にも感じ取れる気配りだと思います。
ファンに向けて丁寧に仕上げてくれると、既存のファン以外にもしっかり届く作品になるということでしょうね。

キャラ描写としては燭台切さんと鶴丸さんの過保護さが目立ち、ぶっきらぼうな末っ子(と言うか息子)を案じる優しさを強く感じることが出来ました。
燭台切さんは黒スーツゾロッと揃える伊達男なのに、本丸の食事とホスピタリティを完全に握り込む太母でもあって、なかなか面白い属性持っていると思います。
琴は弾けないけれども、大倶梨伽羅くんの思い出を刺激する一曲を披露した鶴丸さんの真心も、不器用ゆえに真摯で優しかった。
彼らの『優しさ』はジジイの言葉を借りれば『強さ』にもなるわけで、年長刀の懐の深さがよく見えるお話だったと思います。


んでBパートは、司会進行役として頑張ってくれてる沖田コンビの安定している方、加州くんメインのお話。
これまで不安定な安定くんの成長を支えてきた加州くんだけども、今回主役となり支えてもらえるポジションに座ったことで、ようやく抱え込んだ脆さを表に出せた印象ですね。
加州くんも過積載なお話が安定して走れるよう、陰日向に走り回ってくれた功労者なので、『着飾らないと、愛してもらえない』というエゴイズムをようやく出せる話が来て、なんか報われた感じです。
やっぱ群像劇は、裏方にずっと裏方させてちゃダメだな……不公平感が目立っちゃうな。

そんな感じで、本丸市の古強者でありながら、自分に自信を持ちきれない加州くんの面倒くさい所
が、ガッツリ迫ってくるお話でした。
『今日のアタシ、いつもとちょっと違うの……髪型? 服装? ブッブー、ハ☆ズ★レ☠ 正解は、マニュキアの色でしたー♡』と、クソ乙女みたいなウザ絡みしてたAパートも、加州くんが抱える存在の不安を強調する前フリであり、今回はA・Bの連動がいつもより巧妙だった気がします。
主の意図を勝手に解釈して勝手に慢心し、勝手に落ち込むくっそ面倒くささもフル回転で、良い兄貴分だったこれまでとは、ちょっと違った魅力を感じ取れた。
主役・脇役を入れ替えて話を進められる群像劇では、こういう感じの視点の入れ替えがちゃんとあると、『ああ、人数がたくさんいるお話は面白いな』という気持ちになれていいですね。

加州くんのクソ面倒くささが魅力に見えるのも、天下の三日月宗近ジジイが圧倒的な人間力で彼を抱擁し、道を示してくれたからこそ。
加州くんが『別格だ!』と言葉にする前に、戦装束から普段の振る舞い、剣技にアクションと、天下五剣の『格』をちゃんと描写していたのは、非常に良かったですね。
口での説明だけで『凄い』言われても、見ている側はなかなか納得できんからね……キャラのリアクションも駆使して、話の中でちゃんと『格』の高さを持ち上げていくのは大事。
そういう意味では、レア太刀降臨にはしゃぎまくって期待を高めた、獅子王くんが影のMVPかな。

ジジイと加州くんの屋上デート・保護者の安定添えは、月下の情景も美麗ないいシーンで、加州くんの揺れる心、穏やかにそれを受け止めるジジイの『格』、ともに細やかに表現されていました。
こういう感情の揺れが世界に波紋を生み出し、それをキャラクターがどう受け止めるかに重点して描写が積み上がっていく所が、花丸が秀逸な百合アニメと呼ばれる所以だと思います。
『コンプレックスまみれなんだけど優等生を装う余裕くらいはあって、でも根っこに脆い所があるオシャレさん』と、『謎めいた実力者であり、圧倒的な人生経験で若人を抱擁する強キャラ』って、マジ組み合わせの時点で『勝ってる』もんなぁ……。
そこで甘えず、記号の奥にある情をセリフと美術に乗せて良いシーンに仕上げてくる所が、花丸っぽさですかね。

刀剣男子は不思議な隠れ里で共に暮らす秘められし乙女であると同時に、世界を守る戦士でもあります。
ヒーローとしての彼らを描写する時、異形の力は常に『守る』ために発揮され、その意志こそが尊いのだということは、第1話からずっと強調されてきた描写です。
今回も五虎退を庇って傷を負う宗近とか、彼らをカバーしきれなかったを気に病む加州とか、『守る』存在としての戦士をアクションの中で強調していて、花丸にとっての『戦い』がどういうものか、よく感じ取れた。
宗近との『格』の違いに追い込まれつつも、第一に『守れなかった』ことに悩むあたり、加州くんは根本的に善人だなぁ……。
あと悩んでいる加州の下に入って、『俺ジジイだけど新参だから、今度手合わせしてね、お願いね』とプライドを守ってあげられる宗近の優しさね……そしてそれを見逃さず受け止めて、『どうやったら、アンタみたいに優しくなれる?』とちゃんと聞いてくる加州ボーイの繊細さね……。
人情満載の善因善果でほっこり仕上げてくれるのが嬉しいんだけども、花丸終わったらサツバツ刀剣乱舞だもんなぁ……温度差で死にそうな気もするけど、蓋を開けたら『それはそれで! おかわり!!』ってなる自分が目に浮かぶわ。


というわけで、伊達組・加州&宗近の繊細な関係性を丁寧に織り上げる、見事な百合アニメでした。
毎回ほっこりいい話で収めつつも、固定した組み合わせだけで進めるのではなく、様々な可能性に挑み成功している所が、花丸を見事な群像劇に仕上げている所ですね。
安定も相棒の成長を促すために、あえて出しゃばりすぎず宗近に花を持たせる進行を徹底していて、非常に偉かった。

隠れ里の幸せな日々を追いかけ続けて気づけば半分、次回はもう水無月です。
来週も新メンバーを加えドタバタ賑やかになりそうな予告ですが、そこから生まれる想像を裏切らず、もっと豊かなものを見せてくれるのが花丸の嬉しいサプライズ。
どんなお話が飛び出してくるか、楽しみに待ちましょう。