イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

刀剣乱舞 花丸:第6話『この本丸は、めでたいね』感想

麗らかな季節の流れに身を任せ、心優しき鋼の魑魅を愛でるアニメ、料理と探検の第6話。
『そろそろ花丸のやり口にもなれてきただろ? そこをズドンよ!』とばかりに飛び出した、Aパートほぼほぼミュージカルな奇策と、チーム分断を巧く使って個別にキャラを見せるBパートの組み合わせとなりました。
見せ方としてはかなり方向の異なる各パートですが、『刀剣男子は、心の底から審神者がだ~い好き!!!』という軸は両者に共通で、変則的な審神者回として暖かさのある回でした。
色んなキャラが賑やかに絡むいつもの楽しさも元気であり、変化球でもストライクが取れる花丸の強さが全面に出たエピソードだったと思います。

農業したりホストクラブしたり、色々忙しい花丸本丸ですが、今回はキッチンを舞台にしたミュージカル。
お世話係として本丸一の審神者LOVE勢である長谷部くんが、本丸のママン・燭台切さんや仲間の助けを借りておうどんを作るだけのAパートは、トンチキっぷりが唸りを上げる超変則エピソードでした。
そういう球でも暖かく見守れるのは、一つにはキャラを活かすサービス精神を忘れないことと、いかにトンチキでも真心を感じられるから。
Bパートのサンショユ探しもそうなんですが、彼らは『審神者を助けたい!』というピュアさが迸った末にトンチキ行動に走るわけで、奇行も根っこには他人を思いやる優しさあればこそと感じられるのは、笑いつつ安心できる良い見せ方でした。

長谷部くんの真心を表現するのに『うどん』を使ってきたのは、器物であり戦士でもある刀剣男子の人間性に気を配ってきた花丸らしい展開だなと思いました。
彼らが人間を模した『長命の怪物』であることから目を背けず、しかし同時に、意識を与えられ手足のある『人間のようなもの』としてこの物語に生を受けたこと、その事実を彼らが大事にしていることを、この話は尊重しながら進んできました。
『食事』という人間的な行為を強調するのは(化粧や洗濯と同じように、『女の仕事』を刀剣男子が共有することでメイン消費者層に無意識的なシンパシーを抱かせる戦術を当然含むとしても)、そういう演出ラインの延長線上にある演出だと思います。

それがミュージカルという形を取ったのは……何だろ、よく分かんねぇけどオモシロイと思ったんじゃねぇの!!(唐突な読解放棄)
しかしキャラに馴染んできたタイミングでこういうトンチキをぶっ込んでくるのは実際面白いし、なかなかに愉快な捻り方だと感じましたし、正解だと思うんですよね。
オーソドックスな『良い話』は確かに強いんだけど、そればっかりだとどうしても平板になってくるので、このくらいキチった演出に挑戦したほうが、シリーズ全体にグルーブが生まれる気がする。
僕が急に歌うアニメ大好きボーイだってのもあるけどさ、当然。

ミュージカルの作り方としては、歌唱と台詞読みを巧く組み合わせ、『花丸本丸のおとーさん』長谷部くんと、『花丸本丸のおかーさん』燭台切さんの暖かい掛け合いを楽しませてくれる、いい具合の展開だったと思います。
素の台詞がいいアクセントになっていてリズムが生まれてるし、ドンドン人が増えてトンチキ時空に巻き込まれていくのもインド映画っぽい雰囲気があってよかったなぁ……キツネうどんだから鳴狐が出てくるとか、唐突なジジイ乱入とか、丸亀だからニッカリ登場とか、雪玉が膨らむようにキャラが増えていくのは賑やかで良い。
あと燭台切さんは『食事』という強烈なキャラ性を握り込んでいて、こういう話ではもれなく主軸に座れるのが強いなぁと思った……薬研くんが『医者』という属性で出番多いのと似てるね。


一方Bパートは『医食同源』の『医』の方を担当する話で、Aパートが雪玉のように『膨らむ』話だったのに対し、チームを分割し二×三人に『分ける』ことで、コンビとして個人としてキャラ描写を深めていく展開でした。
これまでは束で見せる技量を活かしてきた花丸ですが、今回はツーマンセルで向かい合うことで手際よくキャラを掘っていくテクニックに切り替えてきて、これもまた一種の変化球かな。
とにかくゆったり心地よく、幅広いニーズを拾い上げて心地よさを演出して、随所に使われている手練を目立たせない手管は、花丸っぽいなぁと思います。
"きんいろモザイク"とか"ご注文はうさぎですか?"とかもそうなんだけど、24分『あー楽しかった、癒された~』って思える雑味のないアニメは、すげー気を配ってノイズを排除して、かつその手腕自体がノイズになりかねないという意味で、相応にテクニカルだと思う。

コンビの見せ方としては新参の博多くん&山伏さんの身長差コンビが、爽やか暖かで非常に良かった。
やっぱなー、根本的な部分で僕は『気は優しくて力持ち』に弱くて、本丸でも稀有な筋肉の盛り上がりをした山伏さんが、博多くんの健気な背伸びをしっかり背負って支えてくれる徳の高さに、ありがたみが溢れ出す感じだ。
短刀ボーイたちがその幼さを最大限発揮するためには、それを受け止め見守ってくれる保護者の質が大事なわけで、宗三とか山伏さんとかは良いレシーブ役やってくれていると思います。
最年長のジジイが前回見せた器量の広さは、刀種関係なくそういう仕事を任せられる信頼感ってことかなぁ。

坂本龍馬沖田総司、それぞれの主の生き様を熊にぶつけた陸奥守と安定の対比も、非常に良かった。
ひとしきりスタイルを見せた後陸奥守が言葉で説明していましたが、刀でありながら鞘に収まることを重視する対話の人徳と、立ちふさがる全てを切り捨てて己の意思を示す苛烈な意思は、どちらが正しいというわけではない『強さ』の一側面。
安定がシリーズ通して『強さ』について考えていることもしっかり拾って、陸奥守のスタイルというものを強調する熊への対処は、良いキャラの掘り下げだと思います。
これも出会う側からぶった切る白色テロ集団・新撰組の心意気を継いだ安定がいればこそ引き出されるものなわけで、こっちでもレシーブの巧さが魅力を引き出した形かな。
……2コンビに重点した結果、加州&御手杵組はちとワリを食った形とも言えるけど。


Aパートの『食』とBパートの『医』は、けして明かされることのない審神者の部屋の中で合流して、真心と愛情がお話をまとめる。
ユーザーの想像力を反映する形で、審神者という物語の中心を直接描くことは花丸では許されていないわけですが、美しい男たちの愛情をとにかく折り重ね、それを受け取る審神者の輪郭だけを浮かび上がらせることで、審神者はキャラ立ちを始めた気がします。
『これだけの愛情を刀剣達から受けるのだから、直接的描写は一切ないけど、トンチキで良いやつなんだろう』というメッセージを、視聴者が自発的に受け取る組み立て方は、非常に技巧的だし精密です。
いやほんとね、想像力の余地を残しつつ、好感の抱ける存在として審神者を描画する筆の見事さ、素晴らしい。

審神者は一方的に愛されるだけではなく、ジジイ経由で加州への信頼を形にしたり、来るべき水着回に備えて縫い物をしたり、『愛される理由』をしっかり描写しています。
無論、ゲームの仕様として理由もなく刀剣男子はプレイヤーを愛するわけだけど、そこに信頼に足りる足場があるか否かは、審神者というキャラクターへの信頼だけではなく、審神者を愛する刀剣男子のキャラクターを受け入れられるか否かという意味でも、結構大事な部分でしょう。
愛するべきものをしっかり愛せる人格があると見せることで、トンチキなことをしていても人格の一番根本を間違えない、好きになれるキャラクターとして刀剣男子たちを受け入れることが出来る。
そういう段取りをしっかり組めばこそ、変則的な演出・展開でもストライクをしっかり取れる。
今回のちょっとヒネった話は、花丸の骨組みの強さ合ってこそ成立するネタだったと思います。


というわけで、話の折り返しに相応しい、ストライクの取れる変化球でした。
キャラや世界観、物語の進め方などに視聴者が慣れ、『花丸ってこういう話だよね』という理解と信頼感が生まれたところでこういう心地よい裏切りを仕掛けてくるのは、気持ちがいいなぁと思います。
やっぱネタの火力で押し切るためにはベーシックな強さがいるし、足腰の強さがあって初めて裏切りが許されるんだろうなぁ……バランスは大事だ。

色々出来る器用さを示したところで、次回は夏だ! 水着だ!! サービス回だ!!
Webで『総勢16名』と予告された登場人数を、どう捌くか。
ニーズを完璧に汲み取りつつ、その少し上を行っている花丸がどういう水着回をぶっ込んでくるのか。
今回のような心地よい裏切りを期待しつつ、じっくり待ちたいと思います。