イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ブブキブランキ 星の巨人:第19話『兄と妹』感想

ねじ曲がってしまう愛、時を越えて伝わる優しさ、現在と過去が交錯し未来が生まれてくるブブキ第19話です。
東&薫子の因縁が決着する脱出パートと、心臓がなくても頑張る手足たちのパート、お話を大きく二つに割って進めるエピソードでした。
ひょうげた態度の奥に隠していた『妹』の本心を引き出し、ロボット人間がようやく『兄』になる一連の流れは非常に熱がありました。
東がいなくても必死に頑張る手足たちと手足を振り回す劉毅との対比、四天王を始めとするサブキャラの使い方、通奏低音のように漂うロシアチームへの弔慰。
全体的にお話に勢いがあり、各要素が有機的に繋がって楽しさが増していく、非常にパワフルなお話だったと思います。

というわけで、前回意味ありげにギィと接触していた東は、特に問題なく送り届けられて妹と接触、脱出、対立。
もうちょっとギィが仕掛けてくるかと思ったが、顔合わせ程度で抑えてきたのは何か意図があるのか、はたまたブブキらしいうっかりか。
薫子にはさんざんえげつない嘘を積み重ねてきたのに、東相手には偽名を言うのではなく「大人の事情で、本名は言えない」という対応をするあたり、ホント薫子の人生地獄かよって感じだ。

そして今回は、二期からのテコ入れキャラとして元気に登場した薫子との因縁に一応の決着を付け、面倒くさく絡み合った自意識が解れる回。
ここに至るまで適度にエゴを膨らませ、調子に乗り、コンプレックスを暴走させつつ、兄やギィと積極的に交流してきた薫子は、二期からお話が加速させた立役者ともいうべきキャラです。
そんな彼女の根っこである『父と兄へのコンプレックス』を解消する今回、あんまり腰の弱いエピソードだったらどうしようと怯えていましたが……蓋を開けてみたら、非常に良かったです。

建前だけを口から垂れ流してきた東ですが、『父親の死』に絡んだネタだと体温宿った行動が取れることが分かってきたため、『父親の死』を共通言語にして薫子に切り込んでいく展開は、言動が上滑りしなくて非常に良かった。
木彫りの心臓に込められた父親の遺志、それを受け取って妹を守りたいと思っていた東の気持ち。
両方が薫子に届いて、『愛されていない』『放っておかれた』と嘆いていた薫子のコンプレックスが溶けていく流れは、なかなかに熱がありました。
薫子が泣くより早く、地下通路であることを活かして天井から雫が滴ってくるのが、ベタながらツボをついてくる良い演出だった。

東が常日頃言っている『自分の欲望のために、特別な力を使うのは良くない』『超人的力には、超人的責任と倫理が伴う』という題目は、あまりに大きすぎて無味無臭で、嘘くさい印象がありました。
二期でもなかなか綺麗事の壁は崩れなかったわけですが、非常にアクティブで魅力的なキャラクターを『妹』という(文字通り)血を分けた立場に置くことで、東個人は一体ブランキの力で何をしたいか、ようやく匂いがついてきた。
『俺は、妹を守りたいんだ』『俺は、親父が死んで悲しかったんだ』という『俺は』の部分が、道を間違えつつある可愛い妹と向き合うことで、ようやく引っ張り出されたと、ここまでの話を見ていると思います。

なので今回の兄妹の和解、形としては薫子がエゴを暴走させて身勝手に暴れまわったことになるけど、お話全体を見るとケアされているのは東という感じがします。
薫子は非常に見せ方が良いキャラで、膨れ上がったエゴに振り回され、力の正しい使い方を見つけられないように見えて、その実根本的に優しい子供であり、どうにか助けてあげたくなる可愛げをしっかり持っていました。
そういうキャラクターに、主人公として過剰に『持っている』東が向き合うこと、過剰なものを適切に明け渡すことで、東が血肉を持ったヒーローであるという証明が、上手いことドラマで出来たかなぁと思いました。

これには薫子だけではなく、東の感情を激発させるトリガーになる『父親の死』とか、目の前で自殺未遂して東の『死』への忌避感を煽り、人間らしい感情を引き出した礼央子も、深く関与しています。
二期で改めてお話を再構築し、東の周りに配置した要素が全て的確に刺さって初めて、東が『主人公』として必要な体温を獲得できたのかなと、今回見てて思いました。
やっぱ作品に熱を与えるのは主役の仕事なわけで、ある程度話は進んでしまったけども東の中の『俺』がちゃんと見える話が組み上がってきたのは、非常に喜ばしいことです。
遅くない、まったくもって遅くない。


そんな東の熱に引っ張られる形で、置いてけぼり食らった手足はバトロフとやりあうことに。
東もエピメウに追っかけられているので、両方『ブブキ使いVSブランキ』って構図なんだな……。
石蕗先生の熱血授業で新しい力に目覚め、心臓不在なのに正面からやりあえてしまう柊と、ブランキに乗っていても手足のことを考えず全力が出せない劉毅との対比が、なかなか面白い。

今回は四天王のアシストが非常に冴えていて、彼らが積極的に物語の種を巻き、あるいは受け取って育てることで、奥行きのある掛け合いが生まれていたと思います。
一人残って、因縁のある石蕗にロシアチームへの哀惜を伝える静流とか、石蕗先生の指導で開花する柊とか、兄との因縁を解消した薫子に活躍のチャンスを与える絶美&新走とか、大人勢の良いトス上げが随所で生きていて、キャラが活き活きと走っていた。
今回の戦いはバトロフという圧倒的なパワーを前に、石蕗が逆転の一手を伝える……つまり彼の値段が上がる展開なので、静流が石蕗に己の心情を伝え、それを大人らしい優しさでしっかり受け止める事前のシーンは、彼が活躍するための事前準備にもなっているわけですね。

キャラクターの行動が連動している気持ちよさは、待ちに待った新走の再登場にも巧く響いていて、さんざん拗らせていたコンプレックスを解消し『本当の私』にたどり着いた薫子にチャンスを受け渡すべく、「俺にはザンパザは扱いきれねぇ!」と自分を低く下げる所とか、自分の仕事を完全に把握していた。
あそこでザンパザを持ってくることで、ギィの陰謀で志半ばに散った彼らの遺志を、ギィに踊らされつつも己を取り戻した薫子が引き継ぐって構図が描けるのが、めっちゃアツい。

新走のトス上げは薫子だけではなく、ロシアの子供の意思を継ぎシュベドッカと戦ってきた絶美が、ブブキへの愛情とか子供への敬愛とかを表現するシーンも引き出していて、すげー良かったですね。
ザンパザが横殴りをかけてきた時、一瞬『お、復讐のお兄様大復活かよー!』と体温上がったのですが、乗っているのはご存知新走宗也でして。
無論僕は新走も好きなんで彼の復帰は嬉しいわけですけども、同時に凄くガックリも来て、その瞬間『あ、俺ロシアの子供たち、相当好きだったんだな』と思ったわけです。
薫子もそうですが、『なんか好きになれるキャラ』を仕上げるのが巧いのよね、このアニメ。

静流から石蕗、新走から薫子、絶美と掛け合いをリレーすることで、ショッキングに死んで話のトーンを変えるだけではなく、このお話がロシアの子供たちの死をちゃんと悼んでくれていることが伝わってきて、個人的に凄く嬉しかったです。
陳腐な言い回しを使うと、『気持ちに寄り添ってもらえた』感じがしたというか。
東が薫子に「一人にしてすまなかった」とちゃんと謝り、道を間違えかけた彼女をちゃんと引き戻したことが嬉しいように、やっぱフィクションのキャラクターに『僕が』やって欲しいことを、欲しいタイミングでしっかりやってもらえると、そのキャラも作品全体も好きになれる感じですね。


大人と子供が良い噛み合い方をして、新旧日本チームが熱量を上げる中で、アメリカチームは相変わらずバカでした。
引きの真顔とか揺れる腹とか、相変わらずエピゾはいい方向に作品の空気を抜いてくれるキャラですが、レティシアへの恋心にはバカ過ぎて気づいていない様子。
むしろファラーが予想外の方向から恋愛フラグを立ててきて、今後アメリカも一波乱ありそうな塩梅です。

レティシアは『炎帝を略奪して健常な身体を取り戻す』という野望に凝り固まっていて、しかも関係が深いキャラが極端に少ないので、エピゾが動くことでキャラが変わっていく以外に、『敵』から立場を変える足場がないからなぁ。
話の調子を変えるコメディリリーフとしてエピゾを巧く使いつつ、彼を通じてレティシアの方の話も整えていくってのは、なかなか理にかなった使い方だと思う。
アジアチームは台湾で反逆の種をたっぷり蒔いたので、それが芽吹けば面白く転がるだろうしね……ほんと薫子、むっちゃ仕事してんな。

 

というわけで、色んな場所に別れつつ危機を乗り越え、子供たちが前に進んでいく話でした。
そういう成長を的確に後押しすることで、大人の存在感もしっかり匂い立ってきて、キャラクター同士が上手く噛み合って話が加速していく楽しさを、強く感じています。
いろんな個性を持ったキャラクターが相互に影響しあい、お互いを変えながら話が前に進んでいくダイナミズムは、やっぱ群像劇の醍醐味だね。

とは言うものの、巨大なブランキに孤軍奮闘している状況自体は継続しているわけで、今回溜め込んだ物語的爆薬をどう炸裂させるかが、非常に大事です。
主役サイドがいい具合にお話を転がすことで、敵対しているキャラもまた、キャラの個性と物語を加速させることが出来ると思います。
いい具合に連鎖爆発してきた物語のロケットを上手く方向づけ、独自の高みに登ることが出来るか。
折り返しを過ぎたブブキ二期、非常に面白くなってきました。