イマワノキワ

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ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第33話『7月15日(木) その3』感想


『正義』と『悪』、『日常』と『非日常』の間の細い線を綱渡りしていく異能力バトルアニメ、ザッピング・ストーリーの三回目。
露伴ちゃんの好奇心が地獄を呼び覚ます"チープ・トリック"と、根性ドブゲロ野郎"エニグマ"との譲れないバトルが、同時並列で進行するエピソードでした。
騙し絵のような"エニグマ"の発動、石井真による怪演が冴え渡る"チープ・トリック"の不気味さと、ジョジョらしいビザールな空気を際立たせつつ、『善』の心を発揮する噴上が異形の恐怖を乗り越えるシーンもアツい。
原作をバラバラにして再構築し、ひと繋ぎにして見返すことで見えてくるものも沢山あって、やはりこの『7月15日』、アニメ独特の見応え満載ですね。

というわけで"スーパーフライ"→"エニグマ"→"チープ・トリック"と、吉良のオヤジが放った刺客との戦いが連続するこのエピソード。
繋がったことで共通点が色々見えてきたのは、アニメ独特の収穫と言えるでしょう。
"スーパーフライ"戦ではミキタカ、"エニグマ"戦では噴上がそれぞれ、初登場とは違った『覚悟』を見せて戦場に飛び込み、彼らの助力があって初めて、仗助は勝利をおさめることが出来ます。
元々ジョジョにおける『悪』とは心の弱さの発露であり、それを乗り越える『善』とは心の弱さを認めた上で前に踏み込む行為なわけで、それを強く表現するためには主人公として元々『強い』仗助だけではなく、ミキタカや噴上と言った『弱い(もしくは強くない)』存在を巧く使う必要があるのでしょう。

噴上はクールに中立を保って命を繋いでいたわけですが、ダチ公のために命を投げ出す仗助の『善』を魂で感じ取り、『自分だったらどう思うか』という共感を足場にして、"エニグマ"と闘うことにする。
銃弾を受け止めるほど強力な"クレイジー・ダイヤモンド"ほど、"ハイウェイ・スター"は物理的破壊力に優れているわけではなく、自慢の追跡力も"エニグマ"を出し抜く切り札にはなりません。
そこで問われたのは、康一のために身を投げた仗助の気持ちを受け取り、愛する女たちがそこにいたら……と考えられる共感と想像力であり、『人を紙に変える』というエニグマの力を逆に利用し、仗助たちを開放するチャンスを掴み取った知恵なわけです。

無論、"ハイウェイ・スター"が自動操縦型であり、二人で協力することが可能だったというアドバンテージはありますが、根本的には危機にビビらない噴上の精神性と、それを引き出した仗助の『善』が勝機を引き寄せたわけです。
強い心の在り方を示すことで、『悪』に染まりかかった存在が『善』に戻ってくるという描写は、億泰やジャンケン小僧との戦いでも見ることが出来ます。
"スーパー・フライ"戦でもそうでしたが、スタンドという『非日常』の魔力を扱いつつ、勝敗を分けるのは非常に『日常』的な心のあり方だというのは、ジョジョが一体何を主眼に戦いを描いているのか、連続すればこそ見えてくる部分です。

噴上が乗り越えたものの偉大さを強調するためには、"エニグマ"の不気味さや凶悪さをたっぷり演出しなければいけません。
能力が発言する時のエッシャー的騙し絵も怪奇で良い演出なんですが、豚骨ラーメンで神になった被害者の末路を暗示するとか、幾重にも張り巡らせた罠で状況を作る周到さとか、サイコ・サスペンス的手法を駆使して、いい具合に表現できていたと思います。
やっぱ『敵』は恐ろしく強そうで、吐気がするほど悪いヤツだと、『やれ! 頑張れ!! ぶっ飛ばせ!!!』という気持ちが強くなるな。


憎たらしい敵をぶっ飛ばすカタルシスを強調するべく、『相手の土俵で上回る』勝ち方も、"スーパーフライ"と"エニグマ"、両方で共通しています。
前回は豊大の領域だった『鉄塔』の反射能力を逆手に取って勝利し、今回はさんざん苦しめされた『恐怖のサイン』を少年に出させた上でボコボコにする。
『人間を紙にする』という能力が、仗助たちを開放する鍵になったのも、『相手の土俵で上回る』という勝ち方に則ったものでしょう。
『悪』が勝ち誇る足場にあえて乗り込み、勇気を持って乗り越えることで、その異常な能力はけして恐れるべきものではなく、『善』によって打ち砕くことが出来ると、強く示せるわけですね。

噴上は『悪』と『善』の境界線を前に、危ういところで『善』を選んだわけですが、"エニグマ"の少年は朋子という、仗助にとっての『守るべき日常』に手をかけた、一線を越えた『悪』です。
なので仗助は、祖父を殺されたアンジェロ線と同じように、『治す』能力を永遠の劫罰のために使い、『悪』を永遠の『非日常』に突き落とす。(裏設定では、反省したので後で直したらしいですが)
ずーっと無言の康一くんも怖いけども、まぁシュレッダーでバラバラにぶっ殺されかけたわけで、怒るのも当然ではあるか。
弱い心が『善』と『悪』の前で迷う曖昧なものであると同時に、世界には決して許されてはいけない生粋の『悪』がいるってのも、DIOの時代からのジョジョのルールなので、豊大とは違う結末になるのも、納得がいくところです。

四部最大の『悪』である吉良の物語も、早人を探偵役として動き出した感じです。
しのぶとの『日常』で揺らいでいる様子はアニメで上手く強調されてたと思うんですが、結局吉良は殺人という『非日常』を捨てされない、生まれついての『悪』なわけで、今後展開される物語でそれがどう裏打ちされるのか、非常に楽しみです。


そして"エニグマ"と並列して猛威を振るう、"チープ・トリック"の異常性。
露伴ちゃんのいたずらで、背中を掻っ捌かれるグロ死しちゃった乙さんは災難でしたが、最初にエグい末路見せておかないと、それを避けるために奮戦する露伴ちゃんの苦労が映えないからな!!
初登場時、好奇心のために康一くんを殺しかけた露伴ちゃんが、好奇心の結果死の寸前まで突っ走っていくのは、ある種の自業自得というかなんつーか。

自分への攻撃を攻撃者にそのまま返す、独立憑依型スタンド"エニグマ"。
その武器が『見えない場所から囁く』のはなかなかに暗示的で、"エニグマ"もまた『紙の中』に潜み、影から恐怖を演出する『見えない場所から囁く』キャラクターでした。
『悪』とは堂々正面から現れるわけではなく、常に目立たない場所から誘惑してくる存在なわけで、『7月15日』に迫りくる刺客がみな『見えない場所から囁く』存在なのも、この作品における『悪』の描き方を明瞭にしてくれています。
豊大も、最初は特に敵意のない『善』を装っていた『悪』なわけで、ジョジョにおける『悪』は『隠れ潜む』ものなんだろうね。

自分では確認できない『背中』に張り付き、常に囁く"チープ・トリック"の卑劣なヤダ味は、今回いい具合に冴えていました。
それを振り払おうとする露伴ちゃんの面白ダンスは、ハタから見てれば笑えるけども、目の前で前の宿主がグロ死するのを見せられた当人にとっては、まったくもって笑い事じゃあねぇ。
"スーパーフライ"に勝って手に入れた情報が"エニグマ"に繋がったように、今回開放された康一くんが"チープ・トリック"との戦いで切り札になる前兆も演出されていたので、露伴ちゃんの逆転勝利に期待したいところです。
……あそこで康一くんにしか連絡届かないあたり、露伴ちゃんのボッチ力と、それもまぁ仕方ねぇかなという普段の行いが強く偲ばれるな……。


というわけで、時系列を横断しながら進む変則エピソードも第三弾、一つの戦いに決着がつきました。
『恐怖のサイン』を武器に戦う卑劣な"エニグマ"、恐怖を乗り越え『善』をなした噴上の尊さ、両方をしっかり演出できた結果、『善』と『悪』の間にある境界線がくっきりと見え、作品が何を描いているかが分かりやすくなったと思います。
これは複数のエピソードをアニメで再構築し、『流れ』の中で見ればこそ再発見できたものなので、やっぱこの大胆な料理法は正解だったなぁという気持ちを強くしました。

"エニグマ"との戦いに決着がつき、残るは背中から囁く"チープ・トリック"と悪の枢軸吉良吉影本人。
早人の物語はこれまであまり描写されてこなかったので、次回彼がどういう『覚悟』を携えて『悪』と対峙するのか、アニメでの表現が非常に楽しみです。
ここを乗り越えた先にあるクライマックスにどう繋ぐかも含めて、ザッピング・エピソードをどうまとめるか、期待が高まります。