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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ユーリ!!! on ICE:第7話『グランプリシリーズ開幕!やっチャイナ中国大会!フリープログラム』感想

ステップの一つ、視線の一欠片に愛を込めて踊る青春のスワンソング、一つの決着が付く中国大会後半戦です。
色彩豊かなライバルたちを印象的に見せた前回を引き継ぎつつ、追われる立場に慣れていない勇利、それを支えきれないヴィクトルの不安、そして二人の間にある感情の激発と、主役二人に大きくカメラを寄せたエピソードとなりました。
クリスがヴィクトルに寄せる想いや、スケート後進国出身ゆえのピチットくんのハングリーさ、勝負の舞台から去っていくライバルたちの誇り高い背中と、いろんなものが切り取られているのですが、それ以上に二人の男の精神的躍動、それが切り開いた可能性が爽やかに迫るお話でした。


というわけで、第5話までの『勝木勇利修行編』の総決算的な意味合いがあったショート・プログラムの後に、一つの完成を乗り越えて未熟さと可能性を見せるフリー・プログラムが続くお話となりました。
圧倒的なスコアを叩き出したショートの後に何を持ってくるのかと思っていましたが、追われる立場の不安に振り回される勇利と、そんな彼を適切に受け止められないヴィクトルの賭け、その結果生まれた新しい変化が分厚い熱量とともに叩きつけられ、『これから先、このアニメはもっと凄くなる』という期待がメリメリと高まってしまいました。
考えてみれば、勇利はどん底から這い上がってGPファイナルという高みを目指す挑戦者なわけで、トップという立場に安住しては話が終わってしまう。
そこを『追われるものの不安』で切り崩し、『美の化身』としては世界最高の存在なのに(だからこそ)凡人・勝木勇利のを理解できないヴィクトルの危うさを強調して加速させる作りは、非常にスリリングでした。

これまで幾度も強調されてきたように、ヴィクトルは世界最高峰の『美の化身』であり、自分が勝てばそれで住む競技の世界では、完全無欠の神様でした。
天上に君臨する彼を見上げることで勇利はスケーターとなり、その背中を追いかけることがこれまでの物語、そのものでした。(これと同じ視線を、一見エロスを自在に操る『大人』に見えるクリスが共有しているのは、非常に面白いところです)
しかしお話が折り返す今回、ヴィクトルは勇利に魔法をかけてくれるフェアリー・ゴッドマザーでも、スケートの可能性を押し開いてくれる神様でもなく、ただの不器用なコーチ一年生として描かれます。

それはヴィクトルの『高さ』に追いつくことで進んできた物語が方向性を変え、ヴィクトルが人間の『低さ』に降りてくることの可能性、凡人・勝生勇利の人間的な魅力が『神様』を天上から引きずり落とす堕落のダイナミズムに、舵を切り替えた瞬間です。
これまで多用されていた勇利のモノローグは、実際の滑走が始まるまで今回非常に抑えられ、そのかわりに勇利の不安を推し量ろうと戸惑うヴィクトルの内心が、幾度も独白される。
不安定な内面を語らないことで、絶対的な『美の神』として物語を引っ張ってきたヴィクトルは『語る主体』としての立場を手に入れることで、今回どんどん『人間』に近づいていくわけです。

ヴィクトルは、自分が好きで好きでしょうがないエゴイスティックなナルシストです。
自己愛を極めることで世界の頂点に立ち、『みんながワクワクする』ことを第一義に滑走してきた男にとって、勇利の複雑さは共感し難い『弱さ』です。
『強い』存在として世界の頂点を走り続けてきた男はコーチになり、自分の『強さ』だけでは勝てない領域に足を踏み入れた以上、これまで縁遠い存在だった『弱さ』と向き合う必要が出てくる。
『美の化身』として高く高く、他者の共感から遠い存在で居続けることは、作品世界を一つ成立させてしまえるほど偉大で圧倒的な行為です。

しかし、そうあり続けることで取りこぼしてしまうものが確実に存在しているし、それはけして無意味でも、無価値でもない。
そういうメッセージは、勇利が敗北した後身を置いた長谷津の美しい景色、彼を柔らかく包み込んだ『普通の人生』の暖かさを見返しても、この話の真ん中にあります。
今回の物語は、ヴィクトルの『強さ』に導かれて『美』の高みを駆け上がった勇利とは反対の方向、勇利が象徴する『弱さ』の煌めき、『神』の想像を超えていく『人間』の美しさにヴィクトルが接近していくお話だといえるでしょう。


『強さ』に駆け上がる勇利の物語と、『弱さ』に引き寄せられるヴィクトルの物語。
後者に重点を置いたエピソードに説得力を持たせるべく、今回はロマンチックな表現が随所に盛り込まれていました。
『キスすればいい?』というドン・ファンめいた問いかけに、『僕よりも僕のことを信じていてよ! 離れずにそばにいてよ!』という答えを返した時、おそらく勇利は初めてヴィクトルの想像を超え、世界のすべてを律していた『美の化身』が知らなかった世界を叩きつけたのでしょう。
自分の理解と想像を超えて、それでも目を話すことができない奇妙な引力を的確に表現するためには『愛』という言葉がやはり適任でして、二人の関係が複雑に揺れ動き強くつながる今回のラストが、文字通りの"Kiss & Cry"で終わるのは必然だといえます。
"離れずにそばにいて"という意外性に満ちた真実の願いが、第1話でヴィクトルが滑っていたFSの曲目だというのは、物語の始まりがその完成に接合している"青い鳥"めいた宿命を少し感じさせ、面白いところですね。

競技においては神様でも、人間と向かい合うコーチとしては未熟なヴィクトルは、揺れに揺れる勇利を前にして様々な手を打ち、失敗していきます。
添い寝したり、練習場所を変えたり、耳をふさいでみたり、色々してみますが決定打にはならない。
最終的に選んだのは、『全てをぶち壊しにしてみる』という危険で、軽率とすらいえる賭けでした。
結果としてそれは、勇利が追い込まれたストレスの檻を的確にぶち壊し、ヴィクトルの想像を超える『美』に勇利を引っ張り上げる妙手になりましたが、彼はその瞬間、全てを把握した『神』から、何もわからないまま可能性に飛び込んでいく『人間』へと……勇利と対等な立場へと変質しています。

ヴィクトルが『人間』の領域に降りていくその最中に、勇利はプログラムのさらなる可能性に積極的に飛び込み、『神』の領域に近づく準備をしていく。
この交錯が今回非常に鮮明なのですが、勇利の変化を表すべく、他者への声援≒騒音に悩まされていた前半と、その声すらも聞こえない集中の中で演技をやりきれる後半が対比され、その合間に勇利の涙が挟まるという構成が、非常に巧く機能していました。
第1話で勇利が泣いていた『便所』は他者の視線がない完全に閉鎖された場所(だからこそ、そこに切り込めるユーリの特別性と若さが強調される)でしたが、今回ヴィクトルが『駐車場』という、人間から切り離されつつも周囲を可動体が取り巻く場所を選んだのも、なかなかに面白い。
勇利とヴィクトルの決定的瞬間を車のライトという『目』が静かに見守っているのも、失敗しつつもまた別種の成長を期待させる演技と、先に進む『車』というアイテムが重なり合っているのも、なかなかに豊かな暗喩だなと思いました。

繊手として『美の化身』になるべくGPファイナルまで駆け上がり続ける勇利と、コーチという新しい大地(テラ・インコグニタ)に相応しい身の振り方を探すヴィクトル。
挑戦と可能性に満ちた今回のフリーは、二人の物語が交錯し混じり合い、新しく始まる見事な出発点だったと思います。
考えてみると、前回勇利が完ぺきな演技で『ヴィクトルへの愛』を全世界に問いただしたように、ヴィクトルは抱擁と接吻という形で、勇利から受け取った愛を世界に宣言したわけです。
そういう意味でも、追いかける/導くという上下のある関係から、お互いがお互いに刺激を受け、変化し合う水平の距離感へと、二人の物語が移り変わるエピソードでした。

『凡人が美を追い求め、地上から天上へと跳ね上がる』という物語の基本形を第1話でしっかり見せられた上で、『美が凡人の愛を叩きつけられることで、地上の暖かさに目覚めていく』というもう一つの変奏を見せられるというのは、とんでもない驚きだし、喜びでもあります。
この変化に驚きだけではなく、期待と喜びを覚えているということは、勇利の愛に驚愕しつつ歓喜したヴィクトルと同じように、僕はこのアニメを愛しているんだなと思います。
その果てに何があるのか、しっかり見届けさせて欲しいと、今、強く強く願っています。


と綺麗にまとまっちゃう感じを出してみましたが、勇利とヴィクトルの新たな愛の発露以外にも、今回は色々魅力的な物語が展開されていました。
一番個人的に刺さったのは、『エロス』の先駆者として余裕を持っていたクリスが、勇利やユーリと同じくヴィクトルの圧倒的な『美』に魂を揺さぶられた、彼を追いかける少年そのものだったということ。
10代の少年よりも世慣れた感じを出していたので油断していましたが、彼もまた世界を支配する『美の化身』に魂を焼かれたイカルスだと知ることで、むしろ同じものを追い求める同志としてのシンパシーを強く感じて、魅力が高まりました。
『氷の上でしか生きられないと思っていた』というクリスの理解は、『自分に期待できなくなったら、表現者としては死んでいるも同然』というヴィクトルの価値観に接近しつつ、『みんなの驚き』を最優先しながら飛んでいた内面とはすれ違っていて、ちょっと切ない片思いだなぁ。
涙も笑顔も一緒に共有して、ついに『憧れの対象』から半歩踏み出した勇利とは分の悪い勝負ですが、クリスの純情が少しでもヴィクトルに届くとイイなぁと、彼のファンとしては思います。

失恋の恨みを氷にぶつけたギオルギーも、ヴィクトルに頭を抑えられつつ自分らしい存在感を魅せてくれて、非常に好きになれるキャラクターです。
コーチとしてヴィクトルの一歩先を行っているヤコフとの信頼関係も好きで、もう少し彼の演技を見たかったのですが、ファイナルに手を届かせるには至らない感じでした。
描かれ方もいかにもな三枚目で、途中退場が約束されていたといえばそうなんですけども、負の情念も表現に昇華するタフさを強く感じられて、凄く好きな繊手なんですよね……ロシアGPで出番あるかな。

ミスのない演技と演技に込めた熱量で観客を味方につけ。フリーで見事にまくったピチットくんも良いライバルだし、ストーリーを飲み込みきれない若さも魅力なグァンホンくんも素敵だった。
グァンホンくんとギオルギーの演技で、ついにイメージシーンが挿入されていましたけども、独特の色彩設定が印象的で、アレはアレで凄く切れ味鋭い表現だと思います。
レオくんの演技がすっ飛ばされちゃったのは残念だったけども、ユーリとヴィクトルに重点するためには仕方のないカットだったかなぁ……。
レオが持つ『音楽なしでは行きられない。音楽の素晴らしさを表現するために滑る』という理想はすごく魅力的だったので、フリーでどういう表現をしたのか(そしてどういう失敗があって六位に終わったか)は、ちょっと見たかった部分です。


というわけで、『完成』を形にしたショートの演技を更に広げる形で、勇利とヴィクトルの関係が大きく変化する、『可能性』のフリーとなりました。
どん底から出会いを経て積み上げてきたものが形になり、さてどうすると思ってたんですが、その不安と期待を最高の形で上回る、立派なエピソードになりました。
ヴィクトルが『神様』だからこそ持っている不完全さにここで切り込み、主人公が特別である理由をこれまでと違う角度から一気に彫り込んできたダイナミズム、圧倒的です。

勇利の片思いだった物語は、恋の相手の想像を超える可能性の爆発により、大きく方向を変えてきました。
そして、その輝きにメラメラと燃え上がるもう一人のユーリが、ロシアで待っています。
新しい世界に飛び立とうとしている二人が、一体何を見つけていくのか。
そんな二人に、激しく優しい少年は一体何を叩きつけることが出来るのか。
ロシアGP、楽しみという言葉で表現できないほど、マジ楽しみです。