イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

フリップフラッパーズ感想外伝 第7話のヒダカ発言で舟を編む

ネタっぽい早口で流されたヒダカの台詞ですが、思いの外色々言っていたのでちょっと読んでみます。
多分過剰な読みなんですが、何分ペダントリーなわりに純情な話なので、お話が何を隠しているかのヒントは細かく出されています。
自己満足のために読んで書いておいても、そこまで無駄でもないかな。

 

○実際の台詞と読み

「シンギュラリティは近い」
 →レイ・カーツワイルの書籍タイトル。
 サブタイトルは"人類が生命を超越する時"であり、技術発展により21世紀末までにAIなどの技術が人類定義を劇的に書き換えてしまう可能性について言及している。
 ピュアイリュージョンの開放により、一般的な人類の形は変質する可能性があるのだろうか。

 

「今回のピュアイリュージョンで君たちがサンプリングしたスペクトルから深部の存在を示唆する結果が得られた」

 →本作がオーディオ用語に強い関連を持っていることから、『サンプリング』『スペクトル』も音楽用語としての意味合いを強く反映している気がする。

→サンプリング既存の音楽を引用し、再構築して新たな文脈に置くこと。既存の構造を再利用した、新たなる創作。
 他者意識の集積体であるピュアイリュージョンから何を引用し、何を構築するのか。

→スペクトル:成分ごとに分析し大小に従って再配置したもの。
 原義としては『見えるもの』

 

「ピュアイリュージョンはサブジェクトとのインタレレーションシップによる一種のパーセプション、イデアワールドだと考えられている」

 →サブジェクト:Subjectには複数の強い意味がある。
 主題、題材、実験材料、研究対象、患者、国民。音楽用語としてはテーマ、哲学用語としては主体。

 →リレーションシップ:relationshipにインター:Interが付いている以上、観察や働きかけの対象との関係は一方通行ではなく相互的に影響を及ぼすものである。

 →イデアワールド。
 プラトン哲学において原型となる『ものそれ自体』を意味するidealと、それが存在している場所、空間。
 我々が認識しているものはイデアの影のようなものであり、イデアそのものが存在するイデア界とは隔てられている。
 プラトン哲学において、真の認識は常に想起であり、『現実』で体験する事象ではなくイデアを思い出すこと、クッションを挟んだ夢に似た認識こそが真実にたどり着く唯一の方法となる。
 ピュアイリュージョンと『現実』の間に距離があり、選ばれたものしかそこに入る≒認識することが出来ない描写と一致している。
 時代が下り、イデアがアイデアとなりidealism(観念論)となると、Realism(実在論)と対比して一種の侮蔑的な色彩を言葉が帯びるようになってくる。


「それも人類に限らず、ありとあらゆるエグジステンスといっていい」
→一般的には生活や生存、存在。物質まで拡大した存在全てがピュアイリュージョンに接合されている状況を示しているのだと思う。
二話のピュアイリュージョンが、うさぎであるユクスキュルのものであった描写と合致。
 哲学用語としては実存や現存として約され、実存主義(existentialism)とも繋がってくる言葉。
 ヤコプ・ユクスキュルが動物特有の認識によって生み出される、独自独立の世界について語っていたこと、その影響下に二話(と多分作品全体)が描かれていることにつながっているか。

 

「これは世界にインパクトをもたらすミッションだ」
→ミッション:Missionには『神から授かった天命』という意味合いが強くあり、人間からくだされる命令や状況が求める行動規範よりも強く、神聖で強烈な強制力を感じさせる言語選択である。
 ピュアイリュージョンの開放が人類を変革させうるなら、それは神に近しい所業なわけで、フリップフラップもヤヤカの教団も一種の信念(もしくは狂信)に基いているということか。

 

「我々は常に、イニシアティブを取りながらフルコミットしドライブさせなければならない」
意識高い系の人達がよく使う、中身のない言葉のパロディを最後に置くことで、ヒダカの言葉全体を戯言に変えてしまうメソッド。
 言っている事自体は非常にパワー志向であり、アモルファス獲得レースに負けていながら、ピュアイリュージョンの開放(以降の世界征服?)に優位を占めようとするフリップ・フラップの意思が感じられる。

 →ドライブ:Driveも非常に多くの意味を持つ動詞だが、コアな意味としては『勢い良く動かす』『駆り立てる』として取るべきか。
 フリップ・フラップはピュアイリュージョンに対して優位に立ち、ココパピという勢子を利用し己の目的に向けて『駆り立てる』組織である、ということか。
 『ならない』という言葉の強迫性、使命性。

 

○日本語訳
特異点は近い」
「今回のピュアイリュージョンで君たちが抽出したスペクトルから深部、の存在を示唆する結果が得られた」
「ピュアイリュージョンは対象との相互関係による一種の認識、イデア界だと考えられている」
「それも人類に限らず、ありとあらゆる存在といっていい」
「これは世界に衝撃をもたらす使命だ」
「我々は常に、主導権を取りながら最大級に介入し推進させなければならない」

漢字で書き直してみると、相当素直にピュアイリュージョンとフリップ・フラップの実像を語っている台詞だと思う。

これらの発言の要約としてヒダカが語り直した
「ピュアイリュージョンは君たちにしか行けない、この世界とは地続きの未知の世界なんだ」
という言葉は、全く成立していない。
善意か悪意か元々の性格ゆえかは横に置くとして、ヒダカは道化た仕草で真実を赤裸々に暗号化した後、比較的判りやすい情報を与え、子供を誘導した形になる。(賢い子供であるココナがその狙い通りに動くかは、また別のお話)