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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

舟を編む:第6話『共振』感想

アニメ 舟を編む

尽きせぬ業に突き動かされる人間たちの人生喜劇、悩みだらけの第六話。
先週は西岡にフォーカスを当てて悩ましていましたが、今週は馬締のズレてて真剣な悩みを、その出口までをどっしりと追いかけていました。
細やかな仕草と表情、画面に映るものに多層的な意味を持たす演出力を最大限活かし、ちょっと不思議な青年の真摯な悩みを、手触りを込めて届けてくれていました。
そこを抜けた先にある恋の成就も、可憐に爽やかに描ききっていて、登場人物と一緒に気持ちよく悩み、前向きになれる、良いアニメでした。

というわけで、悩める青年第二号・馬締光也の仕事と恋と青春に、どっぷりと入っていくお話。
元々このアニメ、姿勢や重心、構えや目線と行ったキャラクターの身体情報を細かく入れ込み、生々しい存在感を出していく演出スタイルなのですが、今回は特にカメラを据え、人物の体温を写し取るシーンが多めだったと思います。
西岡が好演で心を整えるシーンでもそうですが、"玄海"に潜りながら気持ちを整理していくシーンや、香具矢と向かい合う時の落ち着かない様子など、止まったままではいられない揺れる気持ちがそのまま仕草に出ていて、切り取るべき心境を巧く反映しています。
こういう作画力が悪目立ちするのではなく、台詞に頼らずキャラクターの心中を伝える演出として機能するのは、つくづくこのアニメの強さですね。

悩み方にも二人の主人公の個性は出ていて、屋根のないアウトドアーな空間で己の気持ちを整えていた西岡に対し、馬締は空の下では泥の海に飲み込まれ、迷い続けます。
彼が自分の気持ちを整えるのはあくまで文字の前であり、みっしりと積み上がった書痴の部屋の中で、自分と同じ業に突き動かされ編纂された"玄海"と向かい合うことで、気持ちを固めます。
ここらへんの差異は恋の相談をするシーン、横から二人のデスクを同時に移した時にひっそりと暗示されているものだし、異動を切り出した時の荒木さんの言葉の中で明確にされていることでもある。
タイプの異なる二人の主人公の差異を、様々な角度から油断なく強調することで、そんな二人が惹かれ合うドラマがより強調される造りだと思います。


二人は反発し合うカルマを抱えるだけではなく、差異ゆえに惹かれ合う宿命も持っています。
西岡が離れていくと聞かされた時の馬締は、当惑を言葉に出来ないままグッと黙り込み、視線を彷徨わせる。
元々器用に喋れる質ではないんですが、それでも言葉を失うほどのショックを彼が受けているのは、西岡が異動を切り出せなかったのと同じ愛情が、馬締の中に存在しているからです。
異物だからこそ惹かれ合い、魅力を感じる魂の引力は、馬締と西岡が巧く対比できているからこそ、物語の中で的確に位置を占めている気がします。

エピソードの軸は馬締なんですが、前回のフォローアップをする形で西岡にもスポットが当たっていて、変人に交わる『業』

異質だからこそ惹かれ合う引力だけではなく、異質ならばこそ弾かれていく斥力も、抜け目なく切り取っているのが非常に鋭いところでして。
『業』について語り合う辞書編纂部の変人たちは、みな世間に爪弾きにされつつも己のミッションを疑わず、奇人ゆえの同志愛を確認して頷いていく。
しかしその『業』は西岡にはどうしても手に入れられなかったものだというのは、先週じっくり確認したところであり、彼一人だけが『俺たち、辞書編纂に取り憑かれたカルマ人間だよな!』という頷き合いに参加できない。
『業』が結び合うサークルに、対外的・内面的な状況からどうしても参加できない寂しさから逃げないからこそ、そこを乗り越えてでも手を伸ばしたかった男たちの絆がより鮮明になり、そこに篭った情熱はしっかり伝わるわけです。
そら、部を離れる前に親友の恋がどうなるか、しっかり見届けたいよな、西岡……一見ミーハーで無責任な対応に見えて、そこに血が滲んでいるのホント……マジ……。(西岡だいすきオジサン)

惹かれつつ離れていく二人の男が、お互い悩みの果てに空を見上げているのは、話数をまたいだモチーフとしてなかなか面白い所。
それは陸橋から見上げる月であったり、部屋の中の電灯であったり、付きそうで付かない街灯であったりするのですが、このアニメにおいて『高い場所で灯る光』は常に象徴的な意味合いを背負って、大切に描写され続けています。
月のお姫様の名前を背負う香具矢が部屋を訪れる前に、月光が差し込む所なども、そういう演出プランの上に乗っかってる感じでしょうかね。


男たちの話ばかりしてしまいましたが、香具矢とのロマンスも非常に大切に、リリカルに描かれていました。
スッキリと爽やかな美貌が印象的な彼女が、馬締の恋心を受け取ってうろたえるところは非常に可愛らしくて、そういう表情を見せたからこそ、悩める馬締に答える時のちょっと神々しい感じが際立って、キャラの多層性が目立つ感じですね。
香具矢は清潔さとしっとりとした感性、可愛らしさと凛々しい独立性がいいバランスで同居していて、非常に好きになれるヒロインだと思います。

内にこもって早合点しがちな馬締の変化球を、一回取りこぼしてからしっかり受け止め、ど真ん中に投げ返す恋の進展も、非常に良かったです。
恋が成就するのはとんでもなく素敵な奇跡なんだから、あれくらいきっちり凹ませて、ムードたっぷりに成就させる方が、お話の盛り上がりも堪能できて良いですね。
西岡との別れを恋の悩みとかぶせることで、馬締が行き場なく追い詰められていく感じを強く出していくのも、非常に分厚い作りでした……猫すらそばに寄らなくなって行くもんな。
細かい仕草、ドラマの構成、細かい道具の使いこなしなど、様々な表現で馬締を追い込めばこそ彼の凹み方がよく見えて、香具矢が恋を受け取るカタルシスも強くなるという寸法ですね。

馬締が陥った混乱の表現として、『言葉の海に潜る』という印象的なシーンをひっくり返し、『泥の中に飲まれる』ことで馬締の息苦しさを見せるのは、面白い演出でした。
地味な話だからこそ、要所要所で挟まれる大幻想の表現が異化作用を持っているこのアニメでは、馬締が辞書編纂という己の運命に出会った衝撃を、『言葉の海に潜る』という象徴化で巧く表現しています。
その表現が狙い通りいっているからこそ、青かった海が不透明な泥に染まり、己を見失うほどの息苦しさに苦しむ今回の演出は、非常に的確に機能してたと思います。
波の動き、良い作画だったなぁ……。

あと地味なところですが、タケおばーさんの「お湯ぴーって、ぴーって」という言い回しがすげー生々しくて、このアニメらしい良さに満ちた台詞だなと思いました。
辞書編纂というちょっとズレたテーマを選んでいるからこそ、『よく考えれば普通じゃないけど、でも身近にありそう』と思えるリアリティの出し方は大事で、そこを下支えする細やかな作り込みを、演技含めてあの言葉から感じました。
第4話では香具矢と一緒に美味しく食べた味噌ラーメンが、今ではぼうっと形を失ってしまっているリフレインも込みで、あの厨房のシーンは良かったなぁ……。


というわけで、友が去り猫が消え女にフラれた馬締のとほほ加減と、そこからの大逆転がドラマチックな回でした。
お話も折り返しを迎え、積み重ねてきた演出資源を有効に活用し、豊かなリフレインを生み出すシーンが非常に印象的でした。
やっぱ自分たちが何を作ってるか意識的だと、後々その上にシーンを積み上げて意味を増幅させるのも巧妙にやれるなぁ……そういうの、僕は大好きです。

かくして、俺達の愛するべき童貞はさらば童貞したわけですが、まだまだ舟を編む難事は続きます。
西岡が去っていく辞書編纂部をどう取り回し、言葉の海にさらに深く潜るために、馬締は何をしていくのか。
そして手に入れた恋は今後、どういう発展を見せるのか。
仕事に恋に人生に一生懸命な青年の物語、これからますます面白くなりそうですね。