イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ユーリ!!! on ICE:第8話『勇利VSユーリ!おそロシア!!ロシア大会 ショートプログラム』感想

そして人生という航海は続くスケートアニメ、中国GP終わってすぐロシア! な第8話。
新たなライバルがまた顔を見せ、弾ける個性を主張しつつも、二人のユーリの複雑な表情を未来に繋ぐことを重視した展開でした。
中国GPで一つの頂点に到達した勇利には、滑走それ自体ではなくマッカチン危篤とヴィクトルとの離別という、外部的な問題を。
未だ若さの残るユーリには祖父の不在に揺れる不安定な内面を、それぞれ描写し進んでいく回となりました。
惹かれ合い、反発し合う男たちの感情を瑞々しく切り取りつつも、フィギュアという表現の難しさ、それを乗り越えていく競技としてのドラマに常に向かい合う、ユーリらしいエピソードだったと思います。


というわけで、今回目立ってたのはどっちかというと、ロシアのユーリの方でした。
これまで七話分お話の真ん中にいて、挫折や不安を乗り越え、ヴィクトルの想像をついに超える所まで来た日本の勇利と比べれば、回ってきてる尺の量が単純に違うわけで、新しい大地を歩いているキャラのほうが、そら目立つよね。
加えて言うと、23歳の勇利に比べれば15歳のユーリが未熟で、乗り越えるべき山、刻まれるべき経験が多く残されているというのは、これまでも強調されていた所。
第3話までで『尖った態度を取ってるけど、根本的に尊敬に値する、スゲーいいヤツ』としてしっかり刻まれた彼の物語を、僕だってずっと待っていたわけで、今回ユーリが見せる表情一つ一つが、とても魅力的でした。

第3話での対決でも、ユーリは精神的・肉体的なスタミナの無さを強調されていました。
それはシニア一年目という経験の浅さがもたらすものだし、強がっているけどもナイーブで繊細な、ユーリの優しい心の裏側でもある。
さんざん尖っていたくせに、お祖父ちゃんに出会うなりただの可愛いガキになってしまう素直さと、その祖父が客席にいないとなると緊張に飲み込まれかかる不安定さは、ユーリ・プリセツスキーが持つ『らしさ』の両面なのでしょう。

フィギュアという表現が、キャラクターの持つ根本的な『らしさ』に逆らうことが出来ないというのも、このアニメでは常に強調されているところです。
勇利がヴィクトルと触れ合い、ぶつかり合いながらプログラムの精度を高めていく背景には、やわで軟弱でありながら、獰猛で老獪な精神性の矛盾(というより共存)が土台としてあるというのは、幾度も強調されてきました。
地元開催のプレッシャーや経験の無さ、支えである祖父を失った不安定さを飲み込み、圧倒的な『華』で開場を飲み込んでいってしまう才能の同居は、そういう筆の延長線上にあるものだと思います。
弱くて強く、未経験であるがゆえに瑞々しく、儚い脆さが繊細な美しさを際立たせる。
ユーリが抱え込む矛盾を余すことなく切り取ることで、まるで実際に彼の人生を見守っているような臨場感、記号的キャラクターを超えた立体感が、グッと前に出てきます。

そんな彼が、様々な不安や感情のうねりを抱えつつ、世界に恥じない滑走をやりきる。
それは主役を変えた成長の物語であり、要所要所で挟み込まれるセクシュアルな挑発以上に、この話の根本を支える興奮の土台です。
問題を抱えた人間たちが苦悩や緊張を乗り越え、ある時は己の強さで、またある時は他者からの教えで一つずつ変化していく物語こそが、(少なくとも僕にとっては)このお話を好きになる一番大きなものだと思っています。

『人間』たる勇利と『神』たるヴィクトルがお互いの立場から手を伸ばし、お互いの素晴らしさに惹きつけられる物語を、僕達はこれまで楽しんでいました。
それは不安定で、変化に満ち、新たな挑戦と喜びが次々と見つかる、革新と成長の物語なわけです。
前回ヴィクトルが内的告白を手に入れ、勇利が代表していた『人間』の領域に一気に近づくこと、そしてヴィクトルの想像を超えつつある勇利が『神』の領域に近づいたことを示したことで、勝生勇利の成長スピードは、結構ピークに近づいてきた感じもあります。
そこで無理くり白紙を作り、新しい挑戦を用意するのではなく、もうひとりの主人公であり、勇利とヴィクトルの共犯関係に強く憧れ、嫉妬する若い才能にカメラを寄せていくのは、非常に巧妙な物語捌きだと思います。

緊張に飲まれかけていたユーリが闘争心を取り戻し、氷の戦場に胸を張って飛び出すエネルギーが、『嫉妬』というネガティブなものから生まれているのは、凄く面白いと思います。
まるで恋人同士のように、あざとく強いつながりをアピールする勇利とヴィクトルの関係を、ユーリは切り離し、割り込み、己こそがヴィクトルに愛されるのだと主張する。
それは個人的なエゴの発露なんですが、そういう熱もまた個人を戦場に押し出し、個人を超えた表現にたどり着く大事なエネルギー足り得るわけです。
それは祖父との繋がりを求める利他的な『アガペ』とはまた違った、人間存在の根本的な力であり、ネガティブであっても否定されるべきものではない。
ここらへんは勇利の独占欲や不安定さ、ヴィクトルの独善や高慢が彼らの高いパフォーマンスを支えている描写と、響き合う部分でしょう。

祖父の不在、己の中のエゴを乗りこなせない不安定さを、今回ユーリは完全には表現に昇華しきれませんでした。
しかしそれでも、彼は世界レベルで戦うに足りるフィギュア選手だし、事前に状況を整えるのではなく、激しい戦いの中でリニアーに己を改革しうる稀有な才能、成長する恐ろしさを内に秘めてもいる。
繊細さとタフさを同居させるユーリが、荒れ狂う心の波を乗り越え、フリーでどういう滑りを見せるか。(はたまた、波に飲み込まれるという形で、己のドラマを演じるのか)
もう一人の主役のさらなる進化が見れそうで、来週が非常に楽しみです。


一方日本の勇利は、比較的安定した物語を滑り、最後にデカいのがドカンと来ました。
中国GPであれだけ劇的な『愛』のドラマを演じ、そこから大きな変化を手に入れた以上、ある程度の安定感を見せてくれるのは、お話が無駄になっていない感じがしてとても良かったです。
無論そこで足を止めてはお話もキャラクターも停滞してしまうので、マッカチン危篤という大きなイベントを挟み、ヴィクトルをそちらに向かわせることで、中国GPでは描けなかった『離ればなれになる強さ』に踏み込もうという展開も、非常にグッドでした。

滑走自体は進化や挑戦よりも安定感を全面に押し出した構成で、荒れる感情の波故に成長の余地を感じさせたユーリとは、良い対比になってました。
キャラクターが背負うドラマ、担当する領域が非常に明瞭で、その対比や重ね合わせで立体感が出てくるアニメなので、この滑走が安定して落ち着いているのは、非常に『らしい』見せ方だといえます。
中国SPで見せたノーミス演技が、高揚した精神状態が持ってきた奇跡の一回ではなく、トップアスリートとしての技術と肉体と精神に裏打ちされた、安定感のある『実力』なのだと示す意味でも、今回の仕上がりは非常に良かったと思います。

その上で、かわいいマッカチンに生死の境を彷徨わせ、ヴィクトルを切り離すドラマが勇利に迫ってくる。
ヴィクトルが隣りにいたことでたどり着けた境涯というのは、中国GPまでで非常に分厚く描けていたわけで、ここでヴィクトリを切り離し、離れればこそ描ける強さに踏み込んでいくのは、非常に巧妙だと思います。
ユーリが祖父不在の観客席に動揺していたのが、この展開の予言としてうまく機能して、非常に良いリフレインが生まれているのが素敵ですね。

展開としてはそういう意図を持っているわけですが、それに視聴者が納得するためには、ヴィクトルが勝負の場を離れるだけの説得力がいります。
このアニメはメインだけではなく脇役の描写も非常にイキイキしていて、キャラクターを好きになれる物語として機能しているので、そこら辺のうねりは非常にパワフルです。
今回でいえば、真利さんが凄く言葉を選んで勇利に伝えている所、自分自身もマッカチンの危機に動揺している様子とかから、マッカチンが勇利と彼を取り巻く人にとって、どれだけ質量のある存在なのかが見えてくる。

それは今回だけではなく、物言わぬからこそシーンが象徴するものを上手く背負って演技し、名脇役としてドラマを支えてくれたマッカチンのこれまでの存在感が、生み出すものです。
こうして生死の境に追い込まれてみると、彼が全身で感情を表現し、人間たちのドラマがスムーズに流れるよう無言で仕事をしてくれたことに、僕が結構ありがたく感じていたことが、ズシッとのしかかってきます。
役者としての運動量だけではなく、人間を無垢に愛し素直に気持ちを表現する『ペット』としての可愛らしさを巧くアニメにしていたことで、僕もマッカチンを好きになっていたんだなぁと、後半見ながら思いました。
まぁ可愛いからなあの犬……死ぬのは許さん、絶対にだ。

勇利がヴィクトルと分厚い絆を作り、それで幾つもの奇跡を起こしてきたのは、これまでの物語を見れば分かります。
マッカチンの窮地によりヴィクトルが離れることで、それとは違う成長を果たす期待感が、巧く高まってきました。
個人的にはかなり好きなキャラであるヤコフと勇利が、なし崩し的に合流することでどういう化学反応が生まれるのかが、凄く楽しみです。
ヴィクトルの師匠であるヤコフから、勇利は絶対学ぶものが沢山あると思うんだよなぁ……ヤコフも、敵であろうとも勇利を無碍には扱えない、人格のあるキャラだっていう信頼感があるし。
ヴィクトルと勇利の『接近』を基調に進んできた物語が、ここに来て『離別』に舵を切り替え、どんな物語を運んでくるのか。
非常に楽しみです。


二人のユーリの太い物語だけではなく、様々なライバルたちの見せ方が手際よく、魅力的なのもこのアニメの良いところ。
ロシアGPで競い合うだけではなく、GP決勝でせめぎ合うだろうキャラクターたちの表情が相変わらず濃口で、しかし人間味を失わずに描かれているのは、やはり楽しいものです。
既に決勝進出を決めていながら、予選でぶつかることのなかったオタベックくんがどういう選手なのかも、かなり気になりますね。

ユーリと勇利が『不在』を響き合わせていたように、クリスピーの兄妹が危うい依存関係で繋がっていて、それがヴィクトルと勇利の関係を照射する位置にあるのは、なかなか面白いところです。
彼が決勝GPまで進出してくるか、否か……つまりここで己の物語を語りきるか、先に引っ張るかはわかりませんが、彼らが出す答えが勇利とヴィクトルの間合いに響き合うように配置されているのは、間違いないところだと思います。
妹のフェイヴァリットを取り入れることで、尽きぬ愛情を表現に取り込む所とか、ただの気持ち悪いシスコンでは終わらない魅力があって、お兄ちゃん結構好きですね、僕。
騎士通り越して完全にシスター・コンプレックスなお兄ちゃんはさておき、妹ちゃんは危うさに気づいている感じもあって、どう転がしてくるのか楽しみです。

そしてCV:宮野真守を最大限に活かした、キングJ・Jの存在感。
己が世界で一番だと疑わず、自信満々に滑りきって開場を味方につける姿は、クリスとはまた違った強キャラオーラが巧く滲んでいて、良い登場でした。
結果に結びつくナルシストなところはヴィクトルに、『氷上の人生』をテーマに選んでいるところは勇利に、それぞれ被さっていて、二人を試すシャドウとしても判りやすい造形でした。
FSの滑走順が勇利の後になるので、次回の演技にどういうドラマを入れ込んでくるのか、気になるキャラですね。

他にも『情熱』をテーマに選びつつ計算高い滑走を見せたスンギルや、今回は滑走を見れなかった
ネコラが次回、どう己の物語を加速させるかも楽しみ。
ムソログスキー好きなので、どう表現するか作画で見たかった気もするが……まぁメリハリってのは大事だ。
エッジの立ったキャラクターが抜きつ抜かれつ、己を込めた演技が出来るか否か楽しみになるのも、ユーリのいいところだと思います。
ポイントの取り合いが巧妙に組まれていて、誰が残るかちゃんとハラハラ出来るのも、お話が士官せず、ライバルたちがただの賑やかしにならない、大事なポイントだわな。


というわけで、久々の舞台で思う存分悩み、成長したユーリと、安定感を見せた後に大きな試練が待っていた勇利、二人の人生がせめぎ合うエピソードでした。
中国GPで相当高い物語的興奮のピークを超えてきたので、どうお話を運んでくるか楽しみだったのですが、非常に巧妙で、かつ熱を失わない渦をしっかり作ってきて、やっぱすげぇなこのアニメって感じ。
ライバルたちの課題もしっかり示され、次回のFSで彼らの人生がどう氷上に輝くのか、とても楽しみになりました。
いやー、ヤッパいいアニメだわ、ユーリは。