イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第35話『アナザーワン バイツァ・ダスト その1』感想

平和な街の片隅で悪の叫びが木霊する、ついに次元SFの領域に突入したジョジョ四部アニメ、最終章開始であります。
ついカッとなって』くらいのウッカリ加減で早人をぶっ殺した吉良ですが、不思議な『矢』の力で大逆転!
自分を追いかけるものを時間ごと吹っ飛ばす第3の爆弾に目覚め、インチキ能力で大勝利!! というお話でした。
たっぷり続いた『7月15日』の時系列表示を"バイツァ・ダスト"のループ能力の表現に活かすあたり、よく考えられた構成だなぁと思います。

というわけで、子供のように爪を噛むほど追い込まれた吉良が、超絶インチキ能力を手に入れて超調子に乗るお話でした。
髪型まで一気に変化して、お話が最終章に来たことを強く感じさせる名が出れすが、まずはラスボスのターン。
時間が巻き戻るだけでもインチキなのに、主人公たちが追いかける吉良吉影と、その正体である川尻浩作を繋ぐ唯一の足取り=早人自体がトラップという、隙のない配置が邪悪ですね。

能力的には時間と因果を支配する"バイツァ・ダスト"ですが、その生まれ自体は吉良が自分のエゴの手綱を離した結果早人を殺し、窮地に追い込まれ、『とにかく逃げたい』『都合のいい奇蹟が起こって欲しい』という幼い願いを叶えるため、というのが、ジョジョらしいところです。
吉良はあくまで『日常』に隠れつつ『殺し』という『非日常』を楽しみたい人格を持っており、例えば勇ましく『邪魔するやつは皆殺しにしてやる!』という能力ではなく、『永遠に『日常』を繰り返しつつ、自分だけが『非日常』の特権を守る』という能力が発現するところが、ジョジョであり吉良だなぁと。
スタンドが精神の波紋、深層心理の反映であることは作品を貫通するルールなわけで、話を締めくくるにふさわしい超インチキ能力も、吉良のドス黒い殺意と幼い身勝手さの融合体でしかない。
逆に言うと、極限的に身勝手で自己愛に満ちた男が世界を支配するような能力を手に入れると、どういう結果に結びつくかというのを、今回の繰り返される悪夢は示しているわけです。
『偉大な力には、必ずしも偉大な責任がつきまとうわけではない』『だからこそ誇り高く、責任と覚悟を選び取る生き方が人間を輝かせる』という認識は、凄くジョジョ的なんだろうね。

むっちゃ追い込まれているのに、正体のバレた殺人鬼のように逃げ隠れし、自分が劣悪な存在であることを認めることはしないあたり、『静かに暮らしたい』と口では言いつつも、自尊心と歪んだ自己愛が吉良の全身を満たしていることが分かります。
実の父に憐れみの涙を流させるほどうろたえ、『殺意』の象徴だった伸びる爪を血が出るほど噛み、その癖圧倒的なパワーを手に入れたら、勝ち誇らずにはいられない。
これまでもじっくりと描写された吉良の身勝手な性格が今回は大暴走しており、『ああ、コイツは倒さなきゃいかんな』という気持ちと、『でも、こういう身勝手さ『ある』わー』という不思議な共感が、じんわり湧いてきました。

吉良は殺人能力を誰かに誇ることで生きているわけで、早人にネタばらしするのも、生まれ変わった自分を誇示するように外見を変えるのも、彼の一貫した本性の現れといえます。
まぁ調子乗ってくれないと対決の糸口がつかめない超インチキ能力だから、どっかで隙を作っておくって意味合いもあるのだけど、それよりも吉良『らしさ』の表現というほうがしっくり来る。
どんな『非日常』の力を持っていても、キャラクターが背負った本性は簡単には変わらないし、だからこそ弱さや醜さを乗り越える瞬間が大事、ってことなんでしょうね。
……吉良は最悪の『自分らしさ』を変えようとしないからこそ、このお話のラスボスなんだろうなぁ……。


吉良が『弱い心と強い力』の結びついた暴君だとすれば、追い込まれつつ逆転の目を狙う早人は、『弱い力と強い心』の融合体だと言えます。
前回逆転を匂わせつつあっさりぶっ殺されたり、一般人にはどうにもならない"バイツァ・ダスト"の犠牲者になったり、散々な目にあいつつも彼は諦めず、母という『日常』を守るために必死に戦っています。
己の『弱さ』と強制的に向き合わされつつ諦めない早人の姿は、"バイツァ・ダスト"という強大な力に酔っ払っている吉良と、やはり好対照なのでしょう。

家族を奪った吉良の正体を暴露し、『正義』を街に取り戻そうと願う早人こそが、同じ思いを持った露伴たちを殺す罠になるという、最悪の皮肉。
"バイツァ・ダスト"が凶悪な理由の一つですが、同時にそれは事件の中心に早人を置き、彼次第で逆転が可能になるかもしれない希望を一筋、残してもいます。
何の『非日常』のパワーも持たない小学生が立ち向かうには、吉良と"バイツァ・ダスト"はあまりに圧倒的な力ですが、だからこそ『正義』には本当は何が必要なのか、より強く見せられるキャラ配置でもある。
吉良が家に侵入してくる嫌らしさとか、時間と因果を操るインチキっぷりとか、ピンチをチャンスに変えていい気になってるっぷりとか今週巧く演出できていただけに、そこを崩して反撃に繋げる展開を見たくもなります。


吉良が手に入れたパワーを証明するためには生贄が必要なわけで、主人公側から選ばれたのは露伴ちゃんでした。
まぁ情報収集の先頭に立って走り回っていたし、能力も情報収集向きだしで、ファースト・コンタクトの相手としては納得なのよね。
長い長い『7月15日』をくぐり抜け、ようやく勝利の前髪を掴みかけたと思ったら無残に爆殺される姿は、なかなかに痛ましく、吉良の邪悪さを書き殴るキャンパスとして優秀だった。
『回復できるので、えげつないダメージを入れて敵のヤバさを表現する事ができる』という意味では、"バイツァ・ダスト"と"クレイジー・ダイヤモンド"って似通った能力なんだな……。

(リセットされるとはいえ)死に瀕した露伴ちゃんは、普段見せている性格最悪っぷりは鳴りを潜め、志半ばにして踏みにじられる悲壮さ、最後まで康一くんの名前を呼ぶ絆の強さが全面に出ていました。
露伴ちゃんはサイコな悪役スタンド使いとして物語に登場し、『吉良の追跡』という物語全体のクエストを、第17話で巧く『自分の物語』に変えたことで、『正義』を内に秘めたキャラクターへと自分を変えてきました。
まぁチンチロ勝負に本気になったり、ジャンケン小僧と飛んだり跳ねたりしたり、トンチキな部分も残っていましたが、『この街の誇りを、これ以上汚させない』『鈴美のような犠牲者を、これ以上出させない』という意思は、康一くん以外友だちがいない性格最悪っぷりと同じような、露伴ちゃんの『らしさ』なわけです。
追い込まれた瞬間に地金が出るという意味では、逃げるために"バイツァ・ダスト"を発現させた吉良と同じルールに基いて、露伴ちゃんは康一くんの名前を呼んだんだな。

川尻浩作としての『日常』に取り囲まれつつ、殺人鬼・吉良吉影を抑え込めず『殺し』に戻った吉良と、好奇心故に死に追い込まれつつも、街と友を思いながら爆破された露伴
今回は同じように『悪』に接近しつつも、全く違う生きざまを見せた二人のスタンド使いが交錯していて、なかなか見ごたえがありました。
"バイツァ・ダスト"があんまりにもチートなので、結末を原作で知っていても『どう勝つんだ……』と思ってしまう展開ですが、露伴ちゃんが見せた『正義』を悲痛な最後のままで終わらせないよう、どうにか反撃してほしいもんですね。
能力的には最強な承太郎も隣りにいるのに、何よりもまず『康一くん』なあたり、露伴ちゃんの康一くん好きすぎ病がよく分かるね……まぁ圧倒的ナイスガイだからね、好きになるのもしょうがないけども。


というわけで、追い込まれた吉良が目覚めた超チート能力、その顎に巻き込まれる『正義』の儚さが目立つ、最終章開幕でした。
泣き、喚き、付け上がり、陰謀を企む吉良の人間臭さがいやってほど前に出てきていて、憎みつつもなんとなく理解できてしまう、複雑なキャラクター性が暴れまわるエピソードといえます。
こういう不可思議な身近さがあるからこそ、『日常』に潜む『非日常』の邪悪さを体現し、四部のラスボスを務められるんだろうなぁ……。

ジョジョが人間讃歌である以上、『悪』の強大さは常に、『正義』の強さを示す試金石です。
因果を弄ぶ"バイツァ・ダスト"という試練を前に、主人公たちはどう立ち向かい、『正義』の底力を示すのか。
長くに渡り続いてきた第4部も幕が見えてきましたが、まだまだ油断は許されず、盛り上がりは続いていきます。
来週も楽しみですね。