イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第36話『穢れた翼』感想

スペースヤクザ成り上がり物語改め、火星の災厄獣対策記録こと鉄血のオルフェンズ、第36話です。
MAハシュマルの大暴走を軸に、あっという間に利益共同体としての形を整えていく鉄華団&マクギリス旗下のギャラルホルンと、その周辺で飛び回るアリアンロッドを描く回でした。
泥臭いヤクザ話に降ってわいた機械獣を馴染ませるべく、奴らがどんな存在で、何を狙っていて、放っておけばどんな被害が出るのか、じっくり見せるキャラ紹介回でもあったかな……そのわりには、被害があまりに甚大だがな……。

そんなわけで、冷たい殺意で邁進するハシュマルサイドと、それに対抗する鉄華団&マクギリスサイド、彼らと混じり合わずに接近してくるアリアンロッドサイドと、3つの岸で展開する今回。
ハシュマルは指向性のある災害みたいなもので、スペックは細かく解説されるけども、意思がないのでそこにドラマはあまり生まれません。(生まれても困る)
巨大な災厄を前にドラマを生み出すのは人間側なわけで、怪獣パニック映画な描写で楽しませつつ、試練が状況を明瞭にしていくのがなかなか面白い作りですね。

まず鉄華団とマクギリスにとって、この災害は一種僥倖といえます。
一期で色々あって、マクギリスの胡散臭さをオルガも視聴者も飲み込めなかった所を、理屈はさておき協力しないと立ち向かえないハシュマルを用意することで、『家族』のように肩を並べる状況が生まれました。
よくよく考えてみると、マクギリスと手を結んだ結果テイワズ本家との関係は危うくなってるし、マクギリス自体の底知れなさも全然解決していないんですが、目の前の状況があまりにタフなので、『うだうだ言うより協力しろ!』という気持ちが、自然と視聴者に湧いてくる。
これを的確に拾う形で、対応するべき災害の特徴、現状できる対応方法の模索、体を張って状況を作っていく盛り上がりと、破滅的なんだけど前向きな物語が展開する。
とても『家族』になれるとは思えなかった水と油が、少なくとも『運命共同体』くらいにはまとまるための圧力として、ハシュマルを巧く活用している感じですね。

ハシュマルは今目の前にある脅威であり、同時に神話の時代から蘇った怪物でもあります。
ギャラルホルン幹部として、MAについて色々知っているマクギリスが、何も知らない鉄華団(と視聴者)に情報を開示することは、話を楽しむために必要なインフォメーションを与えると同時に、マクギリスのロマンティシズムを公開する手段でもある。
怪物と英雄が生きていた神話の時代に、どうやらマクギリスは本気の憧憬を抱いており、腐敗も権益もなく軋轢もなく、人間全てが『運命共同体』として脅威に立ち向かっていた黄金時代を取り戻したいと感じている。
ハシュマルを追いかけることで、胡散臭さのベールに隠されていたマクギリスのモチベーションが巧く伝わってくるのは、鉄華団がマクギリスに接近していく物語の経緯と、しっかり重なり合ってます。
マクギリスの立場が『怪しげな黒幕候補』から『信頼しきれないが、利益を共有するパートナー』に変わらなければいけないタイミングでこういう表現があるのは、なかなか強いなと思います。

怪物が蘇ることで、300年前のギャラルホルン真実の姿、つまりマクギリスが望んでいる変革された世界の姿が、鮮明になるのも面白い。
ハシュマルの圧倒的な破壊力とタフさを見ていると、それをぶっ倒したかつてのギャラルホルンの活躍がリアルに想像でき、『そら、世界を導く英雄にもなるわ』という感想も出てくる。
そして、そんな英雄たちの組織は300年の間に腐りきり、これまでの物語で鉄華団達が戦ってきた生臭い搾取構造に取って代わられている。
なれば、マクギリスがMA復活に不謹慎な胸の高鳴りを覚えるのも、その視線の先に英雄時代の復活を睨んでいるのも、納得がいくわけです。
悪辣な陰謀家の奥に、『怪獣大好き! 英雄大好き!!』な少年が潜んでいたというギャップをパニックの中で見せ、キャラクターのモチベーションをスルッと飲み込ませるためにも、今回のお話結構大事なんでしょうね。

マッキーの英雄志向が見えてくると、己を刃に変えてあまりにまっすぐ生きている三日月の評価が高いのにも、納得がいきます。
マッキーは多分、神話時代の英雄はあんまり人情がなく、『敵』を殺して殺して殺しまくった結果
世界を救ってしまって、結果として英雄になった、みたいな歴史理解をしている気がする。
その憧れを自分にも適応して、腐敗排除のために幼馴染も親友も踏みにじったんじゃないかなぁ。
そういう超実利主義ヒロイズムから考えると、3つも阿頼耶識いれて人間やめて、ためらいも迷いもなく殺しまくる三日月は、ある種の理想の体現というか。
オルガに肩入れするのも、三日月を英雄の座に近づける乗り物としての評価なのかもなぁ……ちと穿ちすぎた読みか。


マッキーのヒロイズムは横において、『クソみたいな殺戮機械が大暴れしてっから、どうにかして止めよう』という現実志向の鉄華団
時に苛烈な狂信集団として描かれる彼らですが、ことハシュマル対策に関しては視聴者に近い代弁者として、必死に頑張っています。
まぁ元々の動機が『ちったぁマトモに生きたい』だから、目の前の命、目の前の生活を守るために必死になるのは当然といえば当然だしね。
マクギリスにとってハシュマルは『夢に見ていた神話の怪物が、今目の前にいる!』という主観的興奮の対象なのに対し、鉄華団にとっては『わけわかんねぇのがメチャクチャしやがって……ぶっ殺してやる!!』という、ちょっと距離をおいた怒りの対象なのは面白いなぁ。

例え怪物への感情にズレがあっても、それが巻き起こす破壊はリアルであり、回避しなければいけない悲劇。
巨大怪獣としてハシュマルをしっかり描き、バンッバンぶっ殺してぶっ壊してボーボー燃やす描写に容赦がないのは、お話の展開を超えたところにある興奮をしっかり高めてくれて、凄く良いです。
これまでMS戦を見てて疑問に思っていた、人間同士で殺し合いするには過剰な部分がパチリパチリとハマって、自分の中で納得がいくのも面白い。
そこら辺のシンプルな興奮をちゃんと満たしていること、設定上の必然性があることが、結構急な大怪獣路線を楽しめてる、大事なポイントなんでしょうね。

ハシュマル戦でも鉄華団のスタイルはそんなに変わらなくて、『制限された状況と狭い視野の中で、出来ることを必死にする』というもの。
三日月も何度目かわからない『ピンチギリギリで高空から訪れ、オルガがさすミカする』ムーブをきっちりキメてくれました。
何度やられてもやっぱ、騎兵隊のように颯爽と登場しピンチを回避する登場は、最高に気持ちがいいね。(永遠の少年、もしくはバカの顔で)
ビームをカバーリングしたライド周りの表現も面白くて、完全に止めきるでも、無力に貫通されるでもなく、『流水のように避けて通って、後ろで大惨事』ってのは、なかなかフレッシュな演出だった。
アクションシーンの新鮮味をしっかり考えて、色々工夫したヴィジュアルを楽しませてくれるのは、オルフェンズの強いところだな、今更ながら。


人類総決戦の様相を呈すハシュマル戦ですが、そういう空気を一切読まないのがアリアンロッド……ていうかイオク様。
『パニック者でヘイトを集める役が、絶対にやっておくべき行動』を完璧にやりきるダメダメっぷりに、視聴者のヘイトはウナギ登りだ!
鉄華団とマクギリスの『運命共同体』が、アリアンロッドを相手取って自己の権益を伸ばしていくのが今後の軸になるだろうから、イオクを救いようのないバカにすることでヘイトを集め、『敵』としての顔をクッキリさせるのはうまい作りだよね。

ハシュマル戦があることで世界に強い圧力がかかり、『運命共同体』は否応なく交じり合うし、状況も動く。
しかしそこで引き起こされる被害はあまりに甚大で、主役サイドに引き金を引かせると感情のコントロールが効かなくなる。
なので、『敵』であるイオクに全部やらせるっていう論法は、納得も行くし巧くも行っていると思います。
島崎信長さんが非常にいい演技で、自分が有能だと信じているクソ道化を演じきってくれているのが、イオクが求められる役割を120%果たせる、大事な足場だね。

部下の犠牲を無駄にし、形骸化した貴族の誇りにしがみつき、誰も望んでいない自己満足のために『運命共同体』の作戦を崩壊させ、プラントにいた命を犠牲にする。
イオク様の行動は、『そら、登場するキャラクター全てに罵倒されるわな』としか言いようがない、ハードコアなやらかしっぷりでした。
ヘイトに押しつぶされる形で無様に死んで、視聴者の溜飲を下げるのか。
はたまた、どん底から己を見つめ返して立ち上がるキャラになるのか……末路が見逃せない感じですね。

お目付け役の二人も地上に降下してきましたが、まだ事件の核心とはコンタクトせず。
登場シーンでは蝶々食べてエキセントリックさを強調してたのに、イオク様がやらかしすぎた結果常識人ポジションについているジュリエッタは、面白いキャラの育ち方したなぁと思います。
ヴィダールとマクギリスの邂逅で引くのも、たっぷり尺を使ってヴィダールのキャラを掘ってきたのが効いていて、非常にワクワクした。
人間の形を捨て去ってしまったガエリオは、復讐とか言ってる場合じゃねぇハードコアな状況で己のエゴを貫くのか、はたまた貴族の坊っちゃんらしさを発揮して、物分りよく協力してくれるのか。
ヴィダールというキャラクターのお値段が問われる、良いヒキだと思います。

お値段が問われているのはギャラルホルン自体もそうで、来週描かれるだろうイオクやジュリエッタ、ヴィダールの行動はそのまま、組織自体の行動になる。
人間が利害を超えて一つに為った、300年前の神話が再現されている状況で、300年後の子孫たちを蝕む腐敗は未だ健在なのか、はたまた乗り越えられるものなのか。
二期になってからギャラルホルン(別名、足引っ張り村)内部のクソっぷりも、マッキーの目を通してたっぷり描かれたので、そこに押し流されてしまうのか、土俵際でこらえる矜持があるのか、非常に気になるところです。
ハシュマル戦自体もそうだけど、その後の事後処理を政争の道具に使いそうでこええんだよなぁエリオン……それをやってしまうと、『無辜の人民の血で、政敵の告発状を書く』というブッチギリのヘイトムーブになるわけで、クズすぎてもう引き返す道がない。
アリアンロッドを『敵』として描くなら、まぁ『運命共同体』とは反対の選択しとるんだろうけども……そこまで図式化した展開するよりは、キャラの善性を信じたいところだが、たぶん無理だな! クズ組織だもんなギャラルホルン!!
あ、イオク様は現段階で無理です! かなり無理ッ!!!


というわけで、神話時代の蹂躙戦車(ジャガーノート)が人間の思いを踏み潰す、大怪獣パニックアニメでした。
問答無用に大破壊を爆発させることで、せせこましい人間の事情が吹っ飛んで『運命共同体』が生まれたり、逆に人のカルマが目立ったり、良い化学反応をしていると思います。
ぶっちゃけ『ヤクザ映画の途中で怪獣!?』という戸惑いもあったんですが、その違和感を非常に巧く使って既存のストーリーを強化してて、新鮮味で楽しませる効果もあって、鋭い展開ぶっ込んできたなと。

ハシュマルの圧倒的な暴威が描写される中、反撃の糸口はどのように掴まれるのか。
堕落した英雄の子孫たちは、腐敗を振り切ってなすべきことを選択できるのか。
イオク様の株価はどこまで下がるのか、はたまた上がるのか。
いろんなことが気になる、大怪獣物語中編でした。