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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

響け! ユーフォニアム2:第11話『はつこいトランペット』感想

アニメ 響け!ユーフォニアム

女の事件は夜起こる! 黒髪の重力弾頭・高坂麗奈の激情が爆裂するユーフォ第11話でございます。
麻美子とあすか、二人の『姉』攻略にリソースを使いすぎた結果、マジ面倒くさいことになった麗奈と久美子が向かい合い、麗奈の恋心に一つのピリオドが打たれるお話でした。
麗奈の滝先生LOVEは一期から話を引っ張ってきた大きなエンジンなので、ここでちゃんと向かい合って心を沈め、全国大会に集中できる体制を作り上げたのは、非常に良かったと思います。
そういう物語の整地だけではなく、思春期の混乱を抜けて親友と、想い人と、取り返せない難しい過去と向かい合った麗奈の心の波紋、小さくて巨大な成長が一話によくまとめられ、表現力が生きたエピソードとなりました。

と! 言うわけで!! 一期八話で圧倒的な湿度と引力を発揮した高坂麗奈&大吉山の組み合わせで、女たちの夜が通り抜けていく回となりました。
麻美子やあすか先輩に目移りしても、やっぱ久美子初めての『特別』は麗奈であり、内に溜め込むからこそ膨れ上がった面倒臭さは圧倒的に別格。
瞳のクローズアップを的確に使用し、揺れる二人の気持ちを演出する手腕が見事でした。

今回の話は一期第八話、二期第一話という麗奈とのデート回の延長線上にあり、あの時はポジティブに輝いていた『特別さ』が不穏さとなって忍び寄るエピソードです。
麗奈との事件は彼女の静かで深い心象を反映してか夜に起こることが多く、大吉山からの夜景と揺れる瞳を重ねる演出も、一期第八話を思い起こさせるもの。
あの時は夏だった季節は移り変わっていて、吹き寄せる風に『寒ッ……』という感想を述べているあたり、ただの楽しいデートではないわけですが。
……まぁあの逢引も、人生が引力でねじ曲がるって意味じゃ『ただの楽しいデート』じゃねーけどさ。

このアニメにおいてすべての感情がそうであるように、麗奈の恋心も綺麗なだけではありません。
年齢差や教師という立場、何よりもライバルが死美人として滝先生の心を支配しきっている状況に、麗奈は苛立ち、心を乱される。
『特別』を共有する親友のはずの久美子は自分に嘘をついていて、取り残された焦りと孤独がまた、彼女の心に吹く風を強くする。
キラキラしたものを抱えながら輝く夜の闇、麗奈の瞳と黒髪は、無邪気な子供ではいられない他の吹奏楽部員と同じように、子供と大人の中間地点で揺らいでいる心を的確に反映しています。

今回の事件は前回、『ただの子供』であることを受け入れたからこそ『少し大人』になったあすかの成長と、似た軌跡を辿ります。
久美子はあくまで自分の気持ちを大切な女に伝えるだけで、問題に踏み込み向かい合い決着を付けるのは、当事者の勇気(もしくは蛮勇)のみです。
ここら辺の突き放した感じは、南中カルテットの絡み合いにおいて青春探偵が傍観者であったのととても似ていますが、様々な事件と同じように今回も、久美子が隣りにいたからこそ問題は解決に向かう。
当事者ではないけども傍観者でもなく、個人個人が抱える青春の問題を解決に導く、唯一無二の青春探偵。
やっぱ久美子は、特別な存在だと思います。

二期でかなり距離が縮まったとは言え、やはり麗奈にとっての『特別』は久美子なのであり、緑輝や葉月や、まさかのブッコミを見せた優子の気遣いをありがたく思いつつも、真実を打ち明け闇を共有するのは一人きりです。
久美子もそれに応えるように、『先生の奥さん、死んでるんだよ……?』というあんまりにもディープな答を返し、強く揺れあった二人の関係は、あまり穏当ではない位置に再び落ち着く。
和解の証として近づいていく距離、繋がれた手は京アニらしい心理派のレイアウトですが、画面の真ん中から少し踏み込んだ位置で共犯する両腕と、中心で己を強調する腕時計が強烈な絵でした。
性格の悪い久美子と麗奈の『特別』は、スパッと割り切れる清潔な関係では当然なく、湿度と引力を大量に含んで歪んだ、偏りのある関係なのだというのが、あの手繋ぎからは感じ取れます。


腕時計は久美子と麗奈だけではなく、麗奈と滝先生との歪な関係を照らすフェティッシュとしても、立派に機能していました。
ランドセルを背負った幼子が少女になり、女に差し掛かるまでの時間を刻みながら、ずっと滝先生の手首に収まっている時計。
それは滝先生と麗奈、両方に平等に時間を刻み、滝先生から奥さんを奪い、再び吹奏楽に向かい合うまでを固形化しています。
腕時計をつけれる『大人』と、それを見つめるだけの『子供』の間には断絶が存在し、結婚や死や仕事といった『大人』の問題を、『子供』である麗奈から遠ざけ、あるいは久美子が麗奈を真実から遠ざけさせます。

それは裂け目であると同時に結束帯でもあり、『麗奈ちゃんには、私の気持ちなんてわからないよ!』という拒絶(これも『裂け目』ですね」)に傷ついたあの時、心を癒やしてくれた思い出の象徴です。
子供が少女になり、体と心が成熟するまでの間、麗奈に暖かい熱をくれた滝先生との出会い。
麗奈と出会ったときから滝先生は憧れの『大人』であり、楽譜を託され北宇治で再会するまで、もしくは今回滝先生の思い出に踏み込み、ある意味で踏みにじらせた起爆剤でもあります。
それは腕時計が時を刻んでも劣化しない、麗奈の中の『特別』なわけです。

久美子主観で見ると今回のお話は二期第六話の延長線上でもあり、あのとき受け止めた滝先生の過去を『伝えない』という選択をしたことが、直接麗奈との関係に反映されています。
それは友人の痛みを考慮した『大人』の発言(物語の最初に置かれている『本気で全国行けると思ったの?』という『子供』の発言とは正反対ですね)で、それを生み出したのは、あの雨の中で穏やかに滝先生が告げた過去、垣間見た『大人』の世界への理解でしょう。

呪いのように、あるいは祝福のように、燦然と墓石に突き刺さるイタリアンホワイトに込められた願いを、久美子が知ったこと。
それは相当に彼女を成長させ、麻美子やあすかと向かい合う時の足がかりとなったのではないかと、僕は思っています。
そんな体験が今度は、麗奈との間に裂け目を生んで、闇の中で再び手をつなぐ羽目になる。
様々な色彩が渦を巻くユーフォニアム的な青春は、やはり一筋縄ではいかないわけです。


時間は少女を成長させると同時に、青年から伴侶を奪い、その傷を癒やしもしました。
麗奈の不躾な踏み込みを滝先生は拒絶せず、真っ直ぐ顔を上げ、可能な限りの誠実さで言葉を紡いでいきます。
滝先生は死に囚われ、愛に呪われた傷追い人であると同時に、教育者として演奏者として子どもたちに向き合い、ゴミクズみたいな部活を全国の大舞台まで引っ張り上げた、立派な『大人』でもあります。
今回のお話は麗奈の揺らぎと変化を切り取ると同時に、主役たちの舞台を支えつつも、自分もまた己の人生の主役として見えない闇の中で悩み、戸惑い、変化してきた滝先生のエピソードでもあったなぁと、僕は思いました。

滝先生は久美子達の視線を反映して、傷つけることはあっても傷つくことはない、揺らがない『大人』として描かれてきました。
しかしドラマが進み、牽引役としての滝顧問の役割が弱まるにつれて、滝昇がどんな起源を持ち、どんな傷を心に刻み、何を望んで全国へと走っているのかが、丁寧に積み重なってきた。
彼に一番濃厚な感情を持つだろう麗奈に向かい合い、己の言葉で己の過去を語る今回、滝先生はこれまでで一番無防備な……こう言って良いのなら『子供』のような表情を見せています。
それは、そういう柔らかい部分を預けていいと思えるほど、久美子達との関係が、そして少女たち自身が成熟した結果だろうし、北宇治吹奏楽部と向かい合うことで滝先生が変化してきた結果でもあるのでしょう。
北宇治吹奏楽部員の全てが試される全国の舞台を前に、そういう変化を丁寧に、的確にえぐり取るエピソードがくるのは、やっぱ強いなぁ。

麗奈と久美子、麗奈と滝先生の対話は夜闇の中で慎重に行われ、人間の柔らかくて深い部分に切り込んで進みます。
それは奥さんを奪った死の影であり、薄暗い感情の陰りなのですが、しかし人間はそういう部分を見て見ぬふりをして、光の中だけを歩いてはいけない。
このアニメはそういう陰りをけして無視せず、むしろ踏み込んでいくことで闇だけが持つ暖かさや、陰りに差し込む光の意味をしっかりと掘り下げてきました。
妻の思い出と向かい合う滝先生が視線を上げ、麗奈の決意を祝福するように光が差し込むシーンが物語をまとめていることは、このアニメが闇と向かい合いつつ、そこに屈服しないポジティブさをちゃんと兼ね備えていることを、しっかり証明している気がします。
そういう危うく魅力的なバランスを持っていることが、僕がこのアニメをいっとう好きな理由だったりします。

滝先生が麗奈の恋心を理解しているのか、今回の物語は明言しません。
理解していたとしても彼は答えない(応えられない)だろうし、そこに踏み込む紙幅がないからこそ、このエピソードは麗奈が自分の気持ちに一つの決着を付け、(希美の問題を乗り越えたみぞれのように)ソロに艶を乗せる所で終わっているのでしょうが。
まぁ滝先生ポヤッとしたところがあるし、恋や性にまつわる事柄がタブー化してそうでもあるので、気づいていない感じはするなぁ……部内の統率を維持するために、昔なじみの麗奈をあえて特別視しないよう立ち回っている部分もあるし。
墓前である意味宣戦布告を果たしたわけだけど、相手はまだ土俵にも乗ってないわけで、麗奈の恋路はまだまだ多難だわ。


そんな感じで少女と少女と男と女の、時間の網に絡まった関係性が描写される回でした。
メインを濃厚に(濃厚すぎるほどに!)描きつつ、これまでの物語の始末を細かくやってくれる目の良さもあって、去っていった姉の本気であるとか、鎧を少し外して夏紀にも弱い部分見せるあすかとか、相ッ変わらずの人格優良種っぷりを見せる優子だとか、細かい描写が嬉しかったですね。
あすか先輩が部から離れている間に、失われてしまった潤いを癒やすように、露骨にペットボトル差し出してくる夏紀とか、かつていがみ合った同じ場所で同じソロを聞いて、真心をやり取りする麗奈と優子とか、目がいいだけではなく表現に火力があるのが素晴らしい。
つーかあすか先輩が、久美子以外にも弱さを見せられている姿がマジヤベーのよ、マジ、判るでしょ?(唐突な同調圧力

かくして大体の地雷を撤去しきり、一切の憂いなく向かい合えるだろう全国の舞台。
それは通奏低音のように問われてきた『コンクール』の価値、『特別』であろうとする個人の奮戦を第三者が判断することの意味合いを、もう一度問い直す土壇場でもあります。
北宇治高校の全てが問われるステージに向けて、彼女たちがどう歩くのか。
その先にある光景は、一体どんな色合いなのか。
ユーフォニアム2クライマックス、楽しみすぎてマジヤバいですね。