イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

刀剣乱舞 花丸:第12話『僕達の本丸は、今日も花丸』感想

かくして時の輪は閉じ、物語は終わる。
刀剣男子のゆるふわ青春絵巻、最終回であります。
先週積み上げた要素を丁寧に崩しつつ、濃厚なチャンバラ描写あり、それでもねじ込む日常描写あり、最後までサービス精神を忘れないリッチな作りで走りきりました。
司会進行役の沖田組の物語をしっかり掘りきって一つの成長を成し遂げ、安定が日常に帰還する所で終わるのは、やれることを全てやり切った満足感がどっしり押し寄せてきて、いい最終回でした。

とは言うものの、作品全体のテーマ性とか個人的な好きポイントとかは、先週の感想で結構語りきっちゃってる感じなんですよね。
無論結論が出る前の段階の意見なんですが、期待されているものをめったに外さない花丸らしく、今回の展開も非常に丁寧に巻いた種を芽吹かせていく感じで。
期待にしっかり答えつつ、ちょっとだけ意外な踏み込みを見せてくれる塩梅は、最後まで健在、という感じでしょうか。

想像していたのとちょっと違ったのは、思っていたより安定が不安定で、加州くんがスゲー大事な仕事を果たした所。
時間改変の誘惑を自力で断ち切るよりも、髪留めに秘められたこれまでの思い出と、加州くん号泣の大説得のあわせ技で戻ってきたほうが、達成感があった。
第五話でブレるエピソードを先に済ませていた分、加州くんが引き戻しを担当するのは良い役割分担だし、ただ物語の仕事をこなすのではなく、沖田総司に熱い思いを抱く同志として、気持ちを載せた自分の言葉で説得していたのも、非常に良かった。
加州くんの沖田LOVE、安定LOVEがあまりにもピュアすぎて、思わず『純愛かよ……』と呟いてしまったのは秘密だ。
コバヤシ、純愛ボーイだーいすき。

髪留めがキーアイテムになるのは想定通りでしたが、やっぱ『思いの宿った物品』が付喪神である刀剣男子をギリギリでせき止め、帰還の道標になる展開は、重ね合わせが巧くて最高。
かつて背負った思いに導かれつつも、仲間と審神者と一緒に、今まさに作っている刀剣男子の歴史。
彼らは常に『思いの宿った物品』であり続けたし、そういう意味ではあの桜の髪留めは、48振目の刀剣男子と言えるのかもしれません。

傷ついたとしても、ちゃんと治って戻ってくるしな。
物質を超えた生命、付喪神だからこそ持ち得る可塑性と再生能力というのは、沖田くんとの過去を振り切って新しい生き方を認める安定と共通するところであり、これまで描かれた刀剣男子全員とも似通ってます。
傷を受けても手当てで治り、過去に縛られて禁忌を犯す寸前で引き返せるからこそ、刀剣男子はただの剣ではなく、思いを宿し、自らも思いを紡ぐ生命体ということなのでしょうね。


流石に最終回、激情のドラマが沖田組の間で展開されるだけではなく、殺陣の組み立てにも力が入っていました。
先週はツンケンしてた長曽根と陸奥守ですが、今回はお互い背中を預け合う信頼関係を構築し、ズタボロになった長曽根に肩とか貸しちゃう。
コレも安定とはまた違った形で表現される『過去の因縁を乗り越える』描写であり、元ネタが背負った歴史をリスペクトしつつ、独自の物語を積み上げていく姿勢が感じ取れます。
前回冒頭で訓練していた下段構えからのカウンター(自信ないけど、龍尾剣でいいと思う。近藤勇の得意技)を実戦でしっかりキメているところとか、長曽根は良い見せ場もらいましたね。

兼定と堀川は、第4話で見せたコンビネーションを今回も発揮し、お互いを支え合う立ち回りに。
『兼さん、そこで脱ぐ必要ある?』と一瞬思ったが、せっかく最後なんだし派手な見せ場を背負うのは、伊達者の佩剣としては見逃せないところだよね。
他の二組が『変わっていく強さ』を担当していたのに対し、この二人は過去生から受け継いだ『変わらない強さ』を背負ってた感じがして、その役割分担も良かったですね。

しかし作画カロリー一番貰っていたのは実在の新撰組で、一話で見せた輪郭がうねる迫力の作画が大炸裂。
ああいう形でチャンバラのスピードを表現し、切迫感のある背動で荒い呼吸が伝わってくるような演出を入れるのは、なかなかにフレッシュな見どころでした。
動きがとにかく連続して途切れないのが、アニメ的な殺陣とかなり異なっていて、荒々しくて面白いんだよな、あの演出。

このアニメはこれまで頑なに『人間』の描写を避けていたわけだけども、今回は沖田総司の顔と声をしっかり映し、キーキャラクターとして重点が置かれていました。
それは人を守りつつも人と関わっていけない刀剣男子の理を、安定が今まさに越えようとしているということであるし、織田組が物分りよく回避した誘惑に目鼻がついてしまった、ということでもある。
同時に、一度揺れてしまった感情は振り下ろす先がなければ迷ってしまうわけで、顔と声のある沖田総司がちゃんと安定を受け止めてくれたのは、良かったんじゃないかと僕は思います。
ここも周辺だけを描写する審神者スタイルで逃げてると、お話し終わった感じしないもんな。


そんなふうにハード&シリアスで進む後編に対し、『オイお前ら、こっからちょっとキツイんで、ゆるふわで息整えておけ!!』と言わんばかりの前編。
常にゆるふわとシリアスの両輪で進んできたこのアニメ、最後の最後まで自分のスタイルを崩さない展開でした。
正直『どんだけ弱い生き物と思われてんだよ、このアニメの視聴者……』と思わなくもないが、花丸が勝った大きな理由は過剰なまでのマージンを維持し、『見たいもの』と『見ているもの』の間の衝突を極限まで少なくしたことにあるだろうから、正しいチョイスだ。

『一つのテーマを探し回って色んなキャラクターの間を練り歩き、コンパクトな掛け合いの場所を作る』という必勝形は、今回も健在でしたね。
今回はBTFめいた安定消失事件について、みんなで聞いて回る形式。
基本的な構造は毎回同じなんですが、それが安定感を産んでいる上に、シチュエーションと探すものを変えることで新鮮味も出せるという、強い捌き方だと思います。
お風呂に宴会に茶飲み話に団欒に筋トレと、ゆる百合マニアにはたまらない日常描写のラッシュを最後に仕掛けてくるのも、勝負所を分かっていてよかったと思います。
とりあえず大倶梨伽羅くん、風呂一緒に入っておいて『馴れ合いはしないッ!(キリッ)』は通らんだろ。

周囲がゆるっとする中、常に本丸内ヒエラルキー最上位を維持していた三日月のジジイが状況を正確に分析し、場をしめていたのもこれまで通り。
ジジイの仕事は『経験豊富なメンター』であり、間違えて見せ場を作る若人(加州とか安定とか)とおんなじように、間違えないことがジジイの求められてる役割だかんね。
鳥海さんの好演も相まって、花丸のジジイは存在感と安定感を兼ね備えた、良いキャラだったと思います。


かくして最後の挨拶も『でした』と過去形になり、花丸のアニメも終わりました。
1月から始まって12月を通り過ぎ、再び桜が咲く頃に戻ってくる形式も非常に綺麗で、収めるところに寸分狂いなく収めたなという印象。
こうしてお話は振り出しに戻るも、増えた仲間も、積み重ねた思いも消えることはなく、日々は続いていくわけです。

『世の中で大流行だし、見てみっかな』くらいのミーハーな気持ちで視聴を開始しした花丸、凄く良かったです。
大きな期待を寄せられる覇権コンテンツだからこそ、求められる表現の横幅も高さも奥行きも、尋常ではない。
失敗できない状況の中で、見た人すべてを満足させるという幻ではなく、可能な限り沢山の人を満足させるべく、いろんなことに気を配りいろんなことをやりきるという、実現可能な最大限の勝ちを獲りに行くアニメだったと思います。

僕は花丸アニメからのクソニワカ坊やであり、結局推しに萌えるアイドル映画的な見方よりも、慣れ親しんだヒーロー物としての視点から楽しませてもらいました。
過去に縛られ、仲間と闘い、傷つき癒される『付喪神』としての刀剣男子から逃げずに、戦場をちゃんと映す作りは退屈しなかったし、彼らのことを尊敬出来る描き方でもあった。
戦闘という『非日常』があったからこそ、帰るべき場所としての、変化を生み出す源泉としてお『日常』の価値もより高まり、良いハーモニーを生んでいたと思います。

日常の描写も非常に柔らかく優しくて、お互いを思いやりながら生きている刀剣の精霊達の日々を、気持ちよく追体験させてもらいました。
ここでも12ヶ月を追いかけていく構成が良く効いていて、移り変わる日本の四季を魅力的に描き、それを楽しみ慈しむ刀剣男子たちの優しい感性が、風景の中によく溶け込んでいた。
考えてみれば彼らが守る歴史もまた四季の中にあるわけで、時間の流れを慈しむ姿勢が海水浴とかお花見とか、ゆるいイベントの中に静かに流れていたのは、設定の根っこを支える土壌だった気もします。
まぁそういう難しいの横において、グッドルッキングガイズがキャイキャイしてる絵面は、健康に良いんだけどな。

『刀剣乱舞はアニメから』な僕が、ここまでこのアニメを楽しめたのは、ファンだけが楽しいアイテムから半歩進んで、初見の観客も貪欲に引き込もうという欲望が、この作品にあったからだと思います。
既にキャラを知っているファン層だけではなく、このアニメで初めて刀剣男子に出会う人に向けて、よく整理されたメッセージをテキパキ届ける構成とか。
シリアスな部分とコメディな部分をバランスよく配置し、両方の魅力を相互に引き立てる作りの巧さとか。
展開の雑味を極力取り除きつつ、じわっとした温かみを感じられるエピソードの選択とか。
まとまりがないからこそ楽しい賑やかなエピソードの合間に、戦士としての成長を盛り込み、一本筋の通ったストーリーを立てる技法とか。
いろんなことが考え抜かれ、狙った場所にしっかり刺さったからこそ、僕も心をつかまれたのかなぁという、当たり前の感想を今噛み締めています。

無論それは、花丸アニメ以外の刀剣男子を知らない狭い視野から見た世界であり、僕の感じられない引っ掛かりも、既存ファンの方々には当然あると思います。
しかしまぁ、『あえてにわかで通して、アニメで表現されるものを白紙で受け取っていこう』というスタンスだった僕には、そういう風に見えたわけです。
そして僕の楽しさに刺さった部分は、また違う視点を持つ視聴者の方々にもしっかり刺さる鋭さがあったんじゃないかなぁと、無責任に推測もしています。

刀剣乱舞花丸、非常にいいアニメでした。
見目麗しい青年たちの優しい日常を楽しみつつ、戦士として、付喪神としての彼らに嘘をつかないアニメでした。
キャラクターも、彼らがいる世界も好きになれて、もう一度会いたくなるアニメでした。
12話楽しませてくれて、本当にありがとう。
まさに花丸なアニメだったと思います、ありがとう。