イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第39話『さよなら杜王町-黄金の心-』感想

3クールの長きに渡り描かれてきた現代の英雄譚、ついにグランド・フィナーレ!!
戦いの決着からエピローグまで、増す所なく気合い入りまくりで走りきってくれた、ジョジョ四部アニメ最終回であります。
『アニメで見たかった部分』をしっかり動かし色を乗せつつ、『漫画の段階では想像していなかった部分』を隙なく動かしてくれる四部アニメイズムは、最後まで健在。
二転三転するラストバトル、戦士たちの誇りと思い、日常への帰還と一抹の悲しさ……全てをしっかりと描ききってくれました。
ありがとうジョジョ……ありがとうアニメスタッフ……そういうアニメ……。

まぁ『最高でした』だけだと芸がないんで、色々良いところ語っていきましょう。
仗助の頑張りで殺人鬼の密室が街の目に晒され、実質積んだ所で終わった前回。
しかし吉良が早々簡単に諦めるはずもなく、最高にキモい告白しながら"バイツァ・ダスト"を仕込み、延長逃げ切り勝ちを狙ってきます。
幽霊になっても鈴美相手に逆転を狙ったり、露伴ちゃんの言うとおり『敵ながら凄まじい』執念ですね。

吉良戦は四部の集大成だけあって、『みんなで囲んで逃げ場なし→バイツァ・ダスト発動→死んでた→ACT3Freeze!!→お前が振り向け→アーノルド!』と、今回描かれた分だけでも逆転に次ぐ逆転で、(原作読んで結果を知っている僕含めて)視聴者を飽きさせません。
テーマ性やモチーフの対比を複雑に折り込みつつも、こういうシンプルで根本的な戦いの趨勢で盛り上げられるのが、ジョジョが一流のエンターテインメントたる由来かなと、最後になって思い知る。
これまでしぶとく切り抜けられた姿を見ているだけに、吉良が二度目のバイツァ・ダストを発動させたときは『まさか……!?』と思ったし、摩訶不思議なエフェクトも良く効いていて、いい具合に心を揺さぶってくれました。

結局康一くんの一撃が決め手となり、承太郎が時止めラッシュで勝負を決めてくれたわけですが、ラッシュに入る前にタメを作り、この場に集った『正義』全員の思いを載せてラッシュするのは、承太郎が美味しいところ持っていく感じが薄れていて、とても良かったと思います。
無敵のスタープラチナでフィニッシュを担当する分承太郎は目立つけども、露伴ちゃんが調べ、早人が食らいつき、仗助が粘り、億泰が助けたからこそ、あの状況がある。
決め手自体は変則型の"エコーズ"が持ってってること含めて、みんなでもぎ取った勝利という感じが強くなっていて、凄く好きな演出です。


法で裁けぬスタンド使いに、それでも『裁き』を求める早人に答えるように、最後の決着を付けたのは鈴美でした。
吉良の犠牲者であり、生者に懇願する依頼人でもあった彼女が、最後の最後で『戦士』として暴力の比べ合いに勝利するのは、吉良に一番傷つけられた犠牲者が、人間の論理を飛び越えて勝利する形にも為っていて、非常に良かったです。
露伴ちゃん達には吉良の残虐さを教えるべく見せた傷跡が、吉良相手には挑戦状になるところとか、鈴美お姉ちゃんもまた危険に踏み込む覚悟とプライドを持っていたと確認できる、いいシーンよな。

あれだけ『安心』を求め、"キラー・クイーン"で犠牲者をバラバラに消し飛ばした吉良の末路は、最初の犠牲者の反撃により、全く『安心』できない小路の奥に、バラバラにされながら引きずり込まれるというものでした。
現実世界での『街』による殺しで、顔のない殺人者が物理的に顔なしになること含めて、因果応報が強烈に作用している死に方だと思います。
露伴ちゃんや億泰のように、悪に接近しつつ別の生き方を選べる連中もいれば、アンジェロや吉良のように、『非日常』の裁き方でしか決着を付けれない存在もいる。
他の色んな要素と同じく、四部の『悪』の描き方は多様で、その決着の仕方も様々なのだと、吉良の二回の死は見せてくれる気がします。
結構残酷だった仗助による吉廣殺しも、裁けぬ『悪』への裁きっていう目で見ると、結構正当ではあるか。

凄惨で決死の覚悟が感じられる決戦のシーンから、原作のテイストを見事にアニメに乗せた別れのシーンに繋ぐのも、落差があってよかった。
あそこでツンデレするあたり、そして康一くんの無言の圧には屈するあたり、徹底的に露伴ちゃんはあざといですね。
鈴美は原作の雰囲気を残しつつも、2016年に相応しくリファインされたキャラで、可愛く可憐に描かれていたのが別れの瞬間でもよく効いたなぁと思います。
そういう麗しいヒロインに、最後の引導を担当させるあたりがジョジョだな、とも。

幽霊小路の描写でなるほどなぁと思ったのは、生前父親に小路の情報を教えられておきながら、結局それが助けにはならずバラバラにされていく吉良の姿でした。
億泰と親父、もしくは仗助とジョセフのように、反目しつつも思いを確かめあい、寄り添い合って生きていく親子もいれば、無償の愛情で邪悪さを認められつつも、自分の手でぶっ殺しておいて『これは夢だ……』と否定されてしまう親子もいる。
結局吉廣の愛情は吉良の殺人衝動を正すことも出来ず、最後の窮地を脱出する秘策にもならず、ねじれたまま燃え尽きてしまう決着で、様々なものを色んな角度から描くジョジョらしいなぁと思いました。


アニメオリジナルの要素をたっぷり含ませ、豊かな味わいに仕上げてくれたエピローグでも、複数の家族が描かれています。
失われてしまってもう帰ってこない川尻家や、ギッたりギラれたりで仲良く喧嘩している東方家、そして長年の疑問点を絵で見せてくれた億泰&親父のイタリア料理。
まーファンなら一度は考えるもんなぁ、『親父がトニオの飯食ったら、治るんじゃね?』は……。
登場エピソードでの追い込まれた感じに比べると、胸を張って一緒に墓参りに行って、美味しい飯も一緒に食って、治らなかったけど『ま、いっか』で済ませれるようになった億泰の姿は、仗助と出会いバカやってきた日々がどれだけ救いになったのか、よく見せてくれました。

早人の孤独な食卓は、望んでいた『裁き』が訪れてももう戻ってこないものを想起させ、ハッピーなエピローグに鋭い苦味を添える、いいシーンでした。
ネグ気味だったしのぶさんが『アンタ、背伸びた?』ということに気付けるようになったのは、川尻浩作が吉良吉影に移り変わり、ワイルドな魅力に彼女が刺激されたから。
しかし胸を弾ませている夫が怪物であり、他ならぬ川尻浩作を殺し成り代わっていた事実に、彼女が気づくことはない。
二重の皮肉が込められているセリフでありつつも、親子の間に暖かさが宿ってもいて、なんとも複雑でした。

他にも露伴ちゃん体操とか、クズVSゲスとか、モテモテ噴上とか鉄塔での仲良し二人組とか、色々豊かにエピローグをやってくれました。
カゲも光もありつつ、色んな連中が賑やかに日々を送る杜王町それ自体が四部の主役な以上、群像劇としての魅力は非常に大事。
そこをしっかり補い、増強してくれるアニメオリジナルで、非常にありがたかったと思います。
主人公たる仗助のバァアアアンって感じのポーズから引いて、街全景を切り取るカットで終わるところも、このアニメがどういうお話だったのかしっかり思い起こせて、良いラストでした。


というわけで、3クールの長丁場、見事に走りきりました。
自分は原作既読のそれなりのファンであり、さてどう料理するかと身構えてみていましたが、削るべきところはしっかり削り、足すべきところは迷わず付け加える、アニメ独自の料理法が見事に的を射ていたと思います。
メディアが変わる以上表現も変わらなければいけないわけで、原作をそのまま再現するのではなく、編集や演出を組み替えてそのエッセンスを抽出し、よりわかりやすく、より刺さるようにアニメ独自の表現力を追い求めていた。
そのことが、原作へのリスペクトを目に見える形で視聴者に伝える、素晴らしいアニメに仕上がった勝因かなと思います。

そういう見事な語り直しに助けられ、慣れ親しんだはずの四部を見返してみると、出て来る出て来る、見落としていたり誤読していたりしていたポイント。
かなり前の僕が考えていたよりも遥かに、四部は様々なテーマとモチーフの響き合いに満ちて、非常に堅牢な設計思想で作られた、ロジカルな物語でした。
こういう新しい視点にたどり着けたのも、原作を適切に消化し再表現したアニメのお陰であり、まさに感謝って感じだ。

こうして見返してみると、『日常』を守るために『非日常』の力を使いこなす『正義』と、『非日常』の力を『日常』に隠しつつ蹂躙する『悪』との戦いという構図が、非常にクリアになります。
こういう太い骨格に支えられて、杜王町での生活の匂いが気持ちいい掛け合いの中にやどり、ギリギリのスタンドバトルの興奮が血肉を宿す。
ジョジョはなんで面白いのか』というシンプルな、しかし難しい問いに大きなヒントをもらった感じがして、ファンとして非常にありがたいアニメ化でした。

キャラクターの強さと魅力は原作のまま、声や動き、演出の間合いなどを駆使してより『らしく』作り上げてくれたのも、嬉しい限りでした。
漫画を読んでいた時脳内にあった『こいつはこういうやつ』という幻想を損なうことなく、より確かな存在感と魅力を引き出して、しっかり描いてくれたことが、とにかく嬉しい。
気持ちのいい仲間たちだけではなく、最初は情けなかったけど誇りを取り戻すやつとか、ムッチャクチャにムカつく巨悪とか、色んなキャラクターの輝きと闇が渦を巻いて、大人数の賑やかさを彩ってくれました。
様々な人々の強さと弱さ、美しさと醜さを飲み込んで存在する『街』それ自体の魅力も、様々に色彩を変える美術の力に支えられ、非常にパワフルだった。

厳しい試練があればこそ、高らかに美しさと可能性を歌い上げる人間賛歌。
ジョジョの精神をアニメというメディアでしっかり表現した、誇り高いアニメ化だったと思います。
"ダイヤモンドは砕けない"いいアニメでした、楽しかった。
3クールの長い物語を走りきってくれて、ありがとうございました。