イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第39話『助言』感想

三週間ぶりのおまたせでした、スペースヤクザ血風録も残り1クール、オルフェンズ第39話です。
現代の神話を体現したMA戦の熱も冷め、待っているのは現実的な嫉心の粘つきという感じで、イオクを巧く乗っけたジャスレイがタービンズ潰しに駆け回り、死亡フラグが堆く積み上がる展開。
オルガが兄に差し伸べた手は優しく払われ、三日月とアトラとクーデリアのヘンテコな三角形はまだまだ揺らぎ、破滅はゆっくりと近づいてくる。
これまで描写されてきた、鉄華団タービンズという『家族』の近くて遠い距離が、ついに炸裂した感じでした。

というわけで、これまで埋め込まれてきた『一つしか取れないとなった時、名瀬が取るのは女の手』という伏線が、しっかり拾い上げられる展開。
僕は正直、タービンズ自体が鉄華団と正面から対立する形で手を切ると思っていたのですが、第三勢力が横殴りをした結果、名瀬さんもオルガも株を下げずに決別する感じになりました。
まぁ敵味方はそもそも分かりやすいし、名瀬さんの株が下がるのは勘弁ではあるが。

『家族とは、手を取り合って一緒に死ねる存在である』という定義は、一期最終盤で鉄華団が己を定義したものと、非常に似通っています。
『家族』の内側に通じるロジックは同じでも、歴史や痛みを共有していないのならそれは『他人』であり、楽しいことも苦しいことも、生きるも死ぬも全てを共有できる一種の狂気は、そこには宿らない。
名瀬がタービンズに張り巡らせた決意の防壁は、鉄華団から少し遠い場所にあるが故に、『家族』の形を客観的に見せてくれている気がします。
だから、今タービンズに迫りつつある破滅は、遠からず鉄華団という『家族』に、別の形で降り注ぐんだろうなぁ、とも。

一期からずっと、このアニメにおける『家族』というのはひどく気持ちが悪いもので、『家族』以外を切り捨てることで己を定義する、ひどく内向きで排他的な側面がありました。
名瀬がオルガの助けを断ったのは、むしろ彼らを『家族』と思っているから(その上で、一緒に死ぬほどには『家族』ではないから)ですが、むしろ名瀬やアミタと『家族』になれなかったジャスレイの方に、『家族』の排他性が覆いかぶさった感じがあります。
アミタがジャスレイを選ばなかった決断が絡みに絡んで、今回の結末にたどり着いてしまっているわけですが、男と女は誰かを『選ばない』ことで操を立てる側面があるので、ある程度はしょうがないかなぁ、とも思う。
そこら辺の問題を、速攻で平らにしに行ったあたりアトラは生命力に溢れ(過ぎ)ているなとも。

事態をかき回しているジャスレイが、何故名瀬と同じ天を抱くことが出来ないのか、どういう価値観の衝突があるのかは、ジャスレイの内面を語る尺が回ってこないので、あんま判りません。
アミタを取られた恨みなのか、いまいち外道ヤクザっぽくない名瀬とのスタイルの衝突なのか、個人的にはそこら辺知りたいですが、顔の悪いヤツにベラベラ喋らせる時間はねぇ、ということかなぁ。
名瀬さんたちが昔語りをする時間はたっぷり取られているのに、ジャスレイはイオク様の足らない頭を補い、鉄華団にハードコアな試練を与える障害以上の役目が与えられない感じを受けてしまい、ちょっともったいないですね。


『家族』の壁を乗り越えて、新しい可能性にたどり着ける希望として、ラフタがクローズアップされているのはなかなか面白いです。
家を出て新しい血を混じり合わせる未来を、夫にして父である名瀬は祝福しているわけだし、昭彦に体重預けても良いんじゃねぇのと思うけども、立場的には板挟みだしね。
ラフタがタービンズの中での死と、鉄華団の中での生、どっちを選ぶのかというのは、変則的に名瀬とオルガの男比べみたいな側面もあるので、どこにたどり着くか楽しみではあります。
いやまぁ、ラフタが押し出される波を生み出すのは、ほぼ確実に名瀬の死体なんで、あんま楽しめないけども。

思いがけず有効手を打ったイオク様ですが、ラフタル直々に『なんであのバカに人がついてくるの?』というフォローがされ、細かい株価回復の動きが見られました。
考えてみるとクジャン家も『家族』なわけで、大切な誰かを愛するが故にどうでも良い他人をぶっ殺しまくる矛盾というのは、このアニメのあらゆる場所に埋まっているのだなぁ。
視聴者の足場は主人公たる鉄華団にあるわけで、その邪魔をし、あまつさえラッキーヒットで良い点数稼いでいるイオク様には、相当ヘイトも集まってきていると思います。
ジャスレイと合わせて、分かりやすい『悪役』……という割には、『家族』の背負い方やら無力加減やら、イオクはオルガの影として機能しすぎてる感じもあるのよな。
そんな彼をどう使っていくのか、気になるところです。


大人が三角関係をこじらせる中、倫理を亜空間に蹴っ飛ばして妻妾同衾を是とするアトラの恋も描かれていました。
食うや食わずの生活を続け、今も生き死にがシビアに転がる生活をしているアトラにとっては、『より正しい恋がしたい』という建前よりも、『三日月に活きていて欲しい』という願いのほうが強いのだろう。
三日月の破滅主義と指切りして、一緒に地獄に逆さまになってしまうオルガに対し、アトラは自分の肉体や生理、『女だから子供が産める』というアドバンテージを利用してまで、生の岸に引き留めようとする。
それは浅ましくビカビカと輝く猛烈な生命主義であり、建前でかっこよく死んでいこうとするオルガや名瀬とはまた違う、一つの光なんだと思う。

そんなアトラの輝きを受けつつも、三日月は相変わらず自分を粗末に扱い続ける。
ケーブルのへその緒、コックピットの子宮に縛り付けられたまま、戦場以外に居場所を持たないところに追い詰められてしまった彼を生物として生かし、そこを超えた場所にある『人間らしい生き方』に導く。
アトラのそういう願いは、栄養補給のための餌ではなく、『人間らしい』食事を差し出すところに刻まれているのだけど、同時に悪魔のへその緒は三日月を縛って、アトラと同じ生活を送らせてはくれない。
一瞬他愛のないじゃれ合いに見える、ケーブルに邪魔されるやり取りの奥には、アトラの生への切なる願いの脆さと、アトラが象徴する方向に背中を向け、三日月を狭い子宮に追い込んでしまったオルガの残忍さが透けて見えた。
兄貴には袖にされるし、オルガくんはホント惨めな男やな……そこが好きやで。

三角関係の一端を担うクーデリアですが、アトラの超倫理主義恋愛にはついていけない常識人っぷりを見せつつも、真心自体は受け取るバランスの良い姿勢。
アトラの妊娠主義は、生まれてくる子供を『男をつなぎとめるためのアイテム』扱いしている危険性があって、そこら辺の本末転倒っぷりが鉄華団スタイルだな、とも思う。
そこに健全なバランスを与え未来につなげていけるのは、メインキャラだともうクーデリアくらいしかいない(名瀬は退場しそうだし)わけだが、同時にそういう健全さがむき出しのパワーを持ち得ないってのも、さんざん描写されてるからなぁ。
タービンズが打撃を受ける(もしかすると崩壊する)ことで、お話はさらに加速し狂気を増していくだろうけども、そこでクーデリアに何が出来るか。
気になるところだ。


というわけで、タービンズという鉄華団の足場を崩すことで、状況を加速させる回でした。
このアニメがずっと追いかけてきた『家族』の歪さや強さを確認し、道がどこに続いているのか、そしてどこがどん詰まりなのかを、丁寧に確認する感じでしょうか。
今回見えた破滅への獣道を、タービンズ鉄華団も、ジャスレイやイオクもしばらくは駆け落ちていくと思うのですが、さてその先に何があるのか。

お話に幕を下ろす頃合いがそろそろ見えてきたオルフェンズ、今回用意された事変の行き先もそうですが、それをどう使って物語をどこに落とすのかが、一番気になるところです。
死にゆく人々に、何を背負わせて退場させていくのか。
去っていく者たちから、残るものたちは何を受け取るのか。
今後の運び方に注目したいと思います。