セイレンを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
常木さん編最終章! というわけで、二人の青春がどこに流れ着くかハラハラしながら見守っていたが、恋は成就しないが少年は己の道を見つけるという少しビターな運びを、五年後の再開で巧くまとめ非常に爽やかな終わりであった。
甘すぎず苦すぎず、不思議だけど納得がいく結末。
正直な話をすれば『まぁギャルゲーのアニメっしょ?』とナメた姿勢で見てきた部分があるのだが、セイレンは演出の抽象度が非常に高く、そこに込められた心情の変化や、あくまで自己実現の一環として恋を見る視線が非常に立体的で、一気に作品世界に飲み込まれてしまった感じがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
とにかく面白い。
思えば正一は『恋人ができない』ことではなく、己が何者であるか、何者に成りたいのかを物語の最初から悩んでいた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
恋が万能の解決策にはならず、常木さんが妄想していたような都合のいい恋人にはなってくれないこのエンド、一見肩透かしのようでいて、その実『青春』という作品の舞台に誠実である。
恋は人生のすべてを占めるわけではなく、キャリアメイクも含めた人生の一部であり、同時に欠かすことが出来ない人生の一部でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
様々な感情の波に押し流されて、正一に出会ったからこそ常木さんは未来をしっかり捕まえ、離れていく常木さんの背中を見ながら、正一は己の道を定める。
それは恋そのものではないが、恋があってこそ捕まえられた未来像であり、二人の気持ちは離れながらも引き寄せられている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
だから五年後、今度は常木さんを真っ直ぐ見据えて、自分の言葉で語りかけ、自分の耳で彼女の言葉を聞くことができるようになった正一は、再び出会う。
考えなしのビッチのようでいて、非常に真剣に未来を考え、即座に行動も出来、後ろ髪を引かれつつ決断もこなせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
己に悩み続ける正一は、波の中でそうだったように常木さんを支え、捕まえられはしない。彼女との別れが、常木さんを支えられる自分への決意と行動に繋がるのは、皮肉だが豊かな運びだ。
波の中で溺れるシーンは、ありえるはずだった恋の幻影のように見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
常木さんとの恋に溺れる可能性は、正一がもう少し頼りがいがあって、もう少し踏み込める少年だったらつかめていたかもしれない未来だ。
しかしそれは実現しないまま、二人は海の中でキスをする。水面は、幻影のように深い。
正一は耳と口をふさがれ、己の言葉も常木さんの言葉も手に入れられないまま、波に翻弄される。恋に翻弄される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
その経験は不思議だが不快ではなく、しょっぱい味わいを込めつつ正一の人生を前に進める。先週空だったプールの代わりの、蜃気楼のような苦い水。その味を、正一は確かに味わったのだ。
陸に上がった後、つまり波と女を取り逃がし、幻影から覚めた後、正一が袖を絞るシーンがカットインされる。古語においては『ひどく涙を流す』表現は、彼の失恋を半歩先に予見していて、彼は結局常木さんを捕まえきれない。でもそれは、悲しいだけの経験ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
二度目のキスは唇ではなく、二人の不思議な関係を示すように、親愛を込めて頬になされる。抱き合った瞬間、正一は初めて、見えつ隠れつしていた女の心を正面から受け取り、耳と口を取り戻す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
それを受け取ったからこそ、正一は見失っていた己を取り戻し、常木さんを受け止める足腰を鍛えることにする
波の中の抱擁も、風呂の中の同衾も、薄暗いキッチンの中での秘密の会食も、常木さんと正一の逢瀬は全てが夢のようで、不確かなものばかりだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
それでは常木さんという、背筋がシャンと伸びた現実的な女性を捕まえ切れはしない。二人が(一時)離れていく結末は、正一の優柔不断、幻影性に誠実だ。
しかし、たとえそれが夢の中の逢瀬だったとしても、波間で、もしくは光と闇の境界線上で手に入れた胸の高鳴り、恋との出会いそれ自体は、少年と少女を別の場所に動かしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
己がやりたいことを鮮明にし、人生を前に転がすきっかけを生み出す。そういう恋の描き方、在り方も、当然ある。
常木さんの竹を割ったような性格が、彼女を恋に繋ぎ止めない結末を連れてくるのだが、高遠さんの処遇にその予感が強く見られるのは、面白い構成だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
裏切り者と切り捨ててもいいのに、さっぱりと友情を保ち、もやもやを心に溜めない生き方。それは凄く強くていいもんだなと、僕は思った。
常木さんは事件を振り返って、『荒木先輩に、由紀恵を取られちゃった』という。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
薄らぼんやりとした先輩への恋慕よりも、親友が敵に回る季節の訪れを寂しがり、それを受け入れた上で新しく続ける事ができる女の子なのだろう。
つくづく湿っぽさのない子なのだが、性癖としてはWAMなのが凄い。
海のバカンスではなく夏合宿、大人のビーチではなく枯れたプール、先輩ではなく鹿と変態。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
常木さんと正一が辿った道は全て迂回路だが、そこにいろんなものが待ち構えていて、正道を歩むよりもより大きなものを二人とも掴むことが出来た。そういう道の描き方はクレバーだし、豊かでいいなと思う。
思えばフェティシズム唸るエロスの描写もまた、迂回しつつ本命を射抜く作品の筆の反映…と言ったら読み過ぎか。正しく性癖だろうけども、エロスを笑いに巧く変えていて良い使い方だなと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
しかし人参とセロリとウサギはハイコンテクストすぎるだろ荒木先輩…。彼もまた、恋をつかめない少年なのか
高校二年生の正一は、幻影の国で恋と出会い、幻だからこそ寄せては返す波を掴み損ね、その後悔故に己の道を見定めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
一見正しくない迂回路にも、トンチキな人々のトンチキな恋路にも、強くて深い意味がある。だから、五年の期間をおいて再開される恋は、多分成就するだろうと思える、
そういう想像の余韻引っくるめて、いい終わり方だったなぁと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
恋の話なのに、恋を逃してなお、恋を入れきれるだけの大きな器を作って良しとする運び方は、非常に視力の良い展開で良いな、と思います。近視眼的ではない、というか。それが馥郁たる読後感にも繋がっている。
四話でしっかり起承転結を付け、尊敬できる女の子と、不思議でトンチキな出会いを果たす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
セイレンがこの文脈とのファースト・コンタクトになる僕の横っ面を見事に殴り飛ばす、爽やかでイカれた良いエピソードでした。来週からの宮前さん編も楽しみだなぁ…どういうインテリ変態力を発揮してくるか。
あと常木さんとにかくチャーミングでパワフルな子だったので、高校時代に恋が成就する展開もみたいなぁって感じ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
ゲーム出ないの? って聞きたくなるけど、それが難しいからこの形態で世に出てるんだろうしなぁ…。軽く飢餓感が残ることも、傑作の条件かしらね。
以下、追記
セイレン追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
あの終わり方をポジティブに捉え、五年後の恋がうまくいくと僕が思えたのは、あの時二人が正対していたからだと思う。
『寄せては返す』波が全体のモチーフであるのは明白だが、それならば波は『返っては寄る』のである。運動は反復する。離れるものは、離れるだけではなく帰還する。
それはダンスのステップにも似て、近づいては離れ、離れては近づくことを繰り返す動きだ。恋という踊りを成立させるためには、相手の真正面に立つ足腰と、動きの起こりを見逃さない真っ直ぐな目線が必要になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
五年の修行時代を経て、正一はそれを手に入れたということが、あの正対から見えた。
水の中の幻のような抱擁が終わり、地に足の着いた現実に帰還した時、二人は正面から見合わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
正一は先を行き過ぎた常木さんの背中を見守る。それが四週間積み上げラ関係性の真実だからだ。そこで正面から受け止められるほど、彼は成長を果たしきれなかった。そのことに真面目な表現だ。
ダンスパートナーとして不出来だった彼は、去っていく波を繋ぎ止められない。しかし運動は反復する。偶然と不本意で出会った二人は、一度離れてまた出会う。運動は反復するのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
それは青春が反復し、永遠の振幅の中で揺れ続ける、というヴィジョンでもある。楽しい日々は揺れ震えながら終わらない。
僕がセイレン四話に刺されたのは、多分そこなんだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
青春時代を特権化しつつも、その残照…というか形を変えた再帰への期待をスパっと切り取ったラストシーンにより、楽しかった合宿と夏は一瞬のものではなく、幾度も寄せては返すものになる。
永遠はない。絶対もない。しかし再帰はあり得る。
僕はセイレンが高山箕犀-小林智樹ラインとのファーストコンタクトであり、常木さんのお話が初めて彼らの語り口と出会う物語になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
その一発目で、こっちの想像を超える運びや演出を乗せつつ、期待にしっかり答える、答えきって上回るお話になってくれたのは極めてありがたい
ことだ。二章も楽しみ
セイレン。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年1月27日
『寄せては返し、返しては寄せる波』のモチーフは常木さんのエピソードだけではなく、起承転結をユニットに構成される各ヒロインの物語、正一という同一性を保持したまま時間を巻き返し。別のヒロインとの恋を描き直し、押し寄せさせるシリーズ全体の構成に敷衍されるのではないか。