イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ:第46話『誰が為』感想

夕焼け小焼けで日が暮れて、行きはよいよい帰りはこわい、戦場に響く残虐の童歌、オルフェンズ第46話です。
いつも通りの一発逆転狙いが見事に失敗し、得意のチャフ目潰しも逆転の秘策ではなく、劣勢の中なんとか撤退するための時間稼ぎになるような、夢破れての敗戦。
失われた希望とガキの死骸を詰め込んだ宝船の帰り路はあまりに重たく、それ故に捨て去るわけにもいかず、傷ついた孤児たちは帰るべき家も知らないままいざようばかり。
夢を見たこと自体が罪だったかのように、積み上げてきたものが泡のように消えていく、残酷な鉄火団の撤退戦でした。


というわけで今回は、みんなの期待を背負ったシノの死を受けて、惨めな現実の中に鉄火団が帰宅する途中のお話。
決定的な敗北を受けてオルガも、心の底では信じていなかったギラギラした夢の破綻を受け止め、かと言って今更降りるわけにもいかず、ミカの手を握りしめて地獄道真っ逆さまという塩梅でした。
『お前の背中には怨霊がべったり張り付いてんだから、今更楽になれると思うなよ』ってのは事実ながら、厳しい指摘だね、ヤマギくん。

『鉄火団を止めても、マトモな職があるとは思えねぇ』というハッシュの言葉は多分作中の事実なんだろうけども、実際に血まみれ鉄火団ロードを外れてみたキャラクターがほとんどいない(死んで外れたビスケットとか、外れた後がほぼ描写されていないタカキとかはいる)ので、『本当にそうなのかなぁ……キャラが言うなら本当なんだろうなぁ』という反応になる。
僕は軟弱な上に鉄火団が好きな視聴者なので、地獄を煮詰めて蓋をしたような、今回の病院船の空気はとても耐え難くて、それに押しつぶされる以外のルートがどっかにあったんじゃないかなぁと、思考を彷徨わせてしまう。
『そんなことはない、これが彼らの必然なんだ』と作品は言っているわけだが、再三のことながらほんとにそうだったのか、新しい道に飛び込んでみる前に諦め(させられた)たのではないかという疑問は、どうしても付きまとう。

ゴミ以下の状況からマトモな暮らしがしたいという、『人間なら当たり前』の、オルガの夢。
オルガ自身の口から、それが『でっかいホラになっちまった』と告げさせる今回はひどく残忍だが、その夢はなんか叶いそうなムードがあって、そのために必要な犠牲もたっぷり払って、このままうまく行きそうな感じもあった。
その期待感を冷やすための名瀬の死、ラフタの死であり、マクギリスの内面の公開だったわけだが、鉄火団が見た夢それ自体が泥まみれのボロクズになって、後ろ足で砂をかけられるほど惨めな扱いをされる理由としては、やっぱ弱い気がする。

夢が叶うか叶わないかは、作品のリアリティによって色々だろう。
このお話はあんまキラキラしたソフトな世界で展開されていないから、色んな条件で夢が叶う人、叶わない人が別れるのは納得がいく。
しかし、オルガが夢を見て、鉄火団のガキ達が生き延びる糧としてそれに乗っかった事自体が何も生み出さない塵芥だった、という終わり方になるなら、それは寂しすぎる気もする。

オルガは今回、『夢は叶わない』という現実に押しつぶされそうになりつつ、いつもの様に『家族』の顔を見、手を取って、『叶わなくても、夢は夢だ』という結論を選び取る。
器じゃないのにガキ達の頭を張って、夢を載せる船になった彼(と彼ら)は、生まれ落ちた環境由来の教育不足とか、コネの不足とか、作中の言葉を借りれば『歴史』の欠如によって、いつか臨んだ晴れやかな場所へと、たどり着くことは出来なさそうだ。
それはいい。
そういう結末にたどり着くために必要な、鉄火団に何が欠けていて、何が致命的に危ういのかっていう描写は、結構積み上げてきたからだ。
『家族』の呪いに目を塞がれ、他者への共感性を失い世界を狭めてしまった結果が袋小路なのは、筋が通っている。


ただ、そこにたどり着くのであれば、迂回路は徹底的かつ具体的に潰して、作品がそこに行き着くロジックをしっかり積み上げてほしかったな、と思う。
共感を預けた主人公たちが無残に踏みにじられ、夢が破れていく一瞬の輝きは猛毒みたいなもんで、巧く使えば薬にもなるけども、抗体ができないうちに投与されるとダメージが残る。
作中一番『マトモな生き方』から遠かっただろう三ヶ月の前に示されていた、言語や教育や農業といった『救い』が、手のひらからこぼれ落ちていく瞬間、決定的にジャンクションが入れ替わってしまった一瞬を、もうちょっと鮮烈に使ってくれたほうが、僕としては分かりやすかった。
オルガが『夢を見たこと自体が罪だった』と己を責めて、それでも自分の夢に、そのために死んでいった子供たちのために、死ぬために生きる最悪の覚悟を決める展開が来るなら、破滅の予兆はもうちょっと小刻みに巻いてくれたほうが、僕としては助かった。

このアニメ、全体的なムードを盛り上げるのは非常に巧くて、鉄火団とマクギリスが代表する『オルフェンズ』の敗勢と、ラスタル以下生まれつき『持っている』連中と、それに拾われた子供たちが勝ち組になる雰囲気は、異様な熱気として盛り上がっている。
それに引っ張られるように、過度に悲観的な予測を鉄火団に寄せていると言われれば、それは否定しようがない。
一期ラストがそうだったように、こっからどんでん返しがあって、今作品を支配している『どーにもなんねぇ』ってムードも、15分で切り替わるのかもしれない。
オルガが今回固めてしまった悲しい決意が、クソ以下の世界を打ち破る起爆剤になるのかもしれない。
あるいはこのムードのまま、惨めな火星ネズミたちは何かを打ち立てることも出来ないまま、既存の構造にすり潰されて死んでいくのかもしれない。
僕には判らないし、この作品においては、提示される描写を材料にそれを予測していく行為の『打率』が低いことは、これまでの描写から一応学習はしている。
だから、良く分からない。

ただ今回、オルガが自分の見た夢にしがみついたことは、残酷なようだけど良かったと思う。
死人への義務感とか、罪悪感とか、優しい君は色んな理由でそれを掴み続けることにして、親友の手を取って人でなしになる決断をしたんだろうけども、君自身が夢に心躍った過去と、その行き先としての現在と未来は、他人にバカにされるようなもんじゃない。
色々と問題もあったし、結果として巧くはいかなかったけども、身分不相応でありながら『人間として当たり前』になりたかった君の願いは、やっぱ当たり前に守られるべき尊いものだ。
可能ならば最後まで、君が夢見たものに誇りを持っていてほしいけども、そういう願いがオルガを追い詰めてきたってのも、このアニメは抜け目なく描いているというのが、どうにも性格が悪い。
三日月にしてもそうなんだが、僕が甘受している『マトモな生き方』が彼らにとってとんでもない高値だったと思い知るのに、ちょっと時間がかかりすぎたか。


ジュリエッタが『人間のまま強くなる』という結論に至ったのは、喜ばしいことだと思う。
皆が望み、それを許されないまま、あるいは自分の意志で切り離した『人間として当たり前』の望みに、作中の誰かがたどり着くことは、良いことだろう。
ただ、ラフタの生き様に敬意を払った昭宏も、みんなの笑顔を守りたいと願っていたシノも、『人間として当たり前』を願っていたのは同じで、片方は阿頼耶識を埋め込まれて戦って死んで(もしくは濃厚な敗勢の中にいて)、片方は生き延びて『機械を体に入れなくてもすむ、マトモな人間』になれる分水嶺がどこにあるのかは、よく分からない。

作中の条件を拾うなら、人殺しは両方やってるし、願いの量はどっこいだろうし、他者への想像力が欠けてるのはお互い様だしで、ジュリエッタは『持ってるモノ』に拾われて、オルフェンズは『親』の庇護を持っていなかった/打ち捨てるしかなかった、という差異のように見える。
たくさんの願いを叩き潰し、そこから出てきたジュースで命をつないでいるラスタルが『親』だから、ジュリエッタは『マトモな人間』という贅沢を許された。
ジュリエッタの生存と成長がそういう結末にたどり着いてしまうのは、ちょっとニヒリズムtろねじれた現実肯定がすぎる気がする。

石動は八方塞がりの世界の中で、マクギリスの大それた野望、子供じみた夢に命を張った。
それはオルガの見せた稚拙な成り上がり物語に鉄火団が乗っかったのと全く同じで、彼もまた親の庇護なき孤児だったわけだ。
ガエリオは『その願いは分かる』と言う。
『俺も同じように、社会構造の被害者だったアインと心を通わせた。お前らの立場と気持ちは判る』と。

その言葉が真実意味を持つなら、アインという顔と名前を持った個人ではなく、石動というマクギリスの野望に飲み込まれた犠牲者だけでもなく、自分が生まれながらにして踏みつけてしまっている下層構造への想像力を、ガエリオは拡大するべきだろう。
セブンスターズの後継という立場が見せる物語だけではなく、ヴィダールという別人になり、アインと一緒に見てきただろう世界の別の顔を、己の仮面として受け止めて、自分を縛る物語(それは、知り救いたいと願ったマクギリスの物語と、実は同根のはずだ)から外れる強さがなければ、彼の『判る』は空語だ。
身を寄せたラスタルが、アインと同じ立場にいて、アインではない誰かを、アインが経験したような地獄に意識して追い込むことで立場を守っていること、鉄火団を『火星ネズミ』と呼んでしまう存在であることに異議を唱えないなら、ガエリオは『分かっていない』し、彼が『分かってくれない』なら、この作品世界に想像力はどこにもないだろう。(『分かってくれている』クーデリアは、物語の中心から長い間遠ざけられ、大勢に影響を及ぼせない『遠い救い』として保護されたままだし)

アリアンロッドとマクギリス=鉄火団連合軍の争いがどう終るかは、たしかに大事だ。
濃厚な死地へと追い込まれた鉄火団が、50話以上に及ぶ物語をどう輝かせるのか(もしくは、輝かせないまま終わるのか)は、僕も気になる。
同時に、偶然と運命のめぐり合わせで『持っている』側に立った人々が、社会的立場、既得権益だけを理由に『勝者』になるのかも、結構大事な気がします。
踏みつけにした敗者達の骸から何かを学んで、どう考えてもクソ以下の世界に風穴を開ける切っ掛けになったなら、無残に死んでいった子供たちも報われるでしょう。
報われるわけないけどさ。

おんなじように『マトモな人間』になる望みを持ちつつ、チャドたちが『同じデブリったって敵なんだし、ぶっ殺しちゃおうぜ』という結論に至り、シノが泣きながら死に(もしくは、ラフタが泣く好き間もなく死に)、三日月が人間性を最後まで燃やし切る契約をオルガと交わすのに対し、ジュリエッタは生き残って『人間のまま』強くなる決意を許され、ガエリオはまるで正義の代理人みたいな顔をする。
マクギリスがバエルの幻想にしがみついて、共感を鈍麻させ、他人を道具として扱い『伝説』に可能性を求めるしか道がなかった愚かさを、なんでラスタルが高いところから『大人』顔で愚弄するのか。(マッキーが実際詰めが甘くてバカだってことは、彼が見た歪んだ夢の値段とは関係がない。鉄火団が見た愚かな夢が、叶わないからといって無価値になるわけではないのと、それは同じだと思う)
その間にあるものが、『元々持っている/持っている側に拾われるか、否か』『具体的な『家族』の居る子供か、幻想の『家族』にしがみつくしかない孤児か』という、ひどくマテリアルな理由で終わってしまうとしたら、僕には『リアル』だとは思えないし、面白くもない。
『見たいものが見れなかったから拗ねてる』と言われたら、返す言葉はない。


石動が命がけで守ったマッキーが、ラスト30秒で猛烈な社会的足払いを食らわせられる展開は意地が悪くて衝撃的だった。
想像力と共感能力の欠如が、『自分にくっついてくる日和見主義者は、風が悪くなれば即座に裏切る』という認識を曇らせてはいるのだが、その欠陥はマクギリスを追い込んでいる側にも共通ではあろう。
『みんなクズだけど、比較的マシ』であることが勝敗を決定的に分ける理由になるなら、『比較的マシ』の優位性は分厚く描いておくべきだったんじゃないの、と思わなくもないが、言っても詮無いかな。
これもまた、これまで描いてきたマクギリス・ファリドから完全に外れた描写ではないと思うし。
『一期と二期で、張り巡らせていた陰謀の確度違いすぎんだろ。別人かよ』というツッコミはあるにしても、だ。

これまでの積み重ねという意味では、ヤマギのホモ・セクシュアリティを明言したのが良かったのやら悪かったのやら、判断は付きかねる。
腐女子に媚びた』『ホモをおもちゃにして受けを狙った』というには、性別ではなく『家族』であることを非受容(拒絶ではなく)の理由にしたシノの対応がスマートであり、悪くなかったと思う。
シノの答えを死んだ後にするのは残忍だけど、『セクシュアリティに関係なく、鉄火団の子供たちの恋は報われない』ってのは、昭宏とラフタ見てても分かるしさ。
ただまぁシノほど度量の広くない多くの人たちには刺激の強い描写でもあって、ヤマギのクローゼットを開けたことで彼が受ける偏見を考えると難しい……俺らもシノみてーに受け取ればいい話か。
片手を失ったデルマにしても、死体の多さに耐えかねたオルガにしても、心中ムードに支配されてたヤマギにしても、たっぷり奪われつつ、どうにかまだ生きる理由をかき集めて、なんとか頑張ることにした回だったのね、今回。


夢や幻想の入る余地のない、乾いた現実主義の荒野。
そこを横断してきた物語が現状を肯定して終わるか、そこをぶち破れる希望に少しでも手を届けて終わるのか。
勝敗の潮目がほぼ決まってしまったように見える状況の中で、それぞれ現状を変えうる精神の輝きにたどり着いたような、たどり着けていないような、余韻を残すお話でした。
今回見えた心の光が何かを生み出すかどうかが、今後の展開の中で一番気になります。
残り話数が片手で数えられるようになって、『物質主義の物語VS精神主義の物語』という対立に自分の中の軸が移るとは、全然思ってなかったよ。

長い家路を辿ってみれば、帰るべき家は閉ざされ、錦の御旗は泥まみれ。
オルガとマッキーの魂の対話も中断されたままだし、こっからどう転がすのか、さっぱり分かりません。
個人的にはここが底で、最後にちょっと上がって収まって欲しいなぁと思いますが、それが叶うかは実際見てみないとわかんない。
ジャスレイぶっ殺してからの火星描写は一切ないので、観測した瞬間状況が決まるしね。
『生贄』というド直球にヤクいサブタイトルでどういう話が出てくるのか、腹筋シメて待とうと思います。