鬼平を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年3月14日
原作から松岡先生の要素を大胆にカットし、和助と家族を巡る人情、それを踏みにじる大江戸ブラック企業、煮えたぎる復讐心とあくまで自分のスタイルを貫いた盗み働きを、切なくまとめ上げるお話となった。
演出面・デザイン面だけでなく、ストーリーも大胆なアレンジを成功させているね
愛娘への夢語り(というには重たすぎ悲しすぎるが)たる今回、鬼平はあくまで脇役。主役は一本筋の通った老盗賊、和助であり、"仕掛け人・藤枝梅安"のようなどす黒い悪への復讐である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年3月14日
法の番人たる鬼平でも裁けない悪があるのならば、盗賊という悪が無法の裁きを果たすまで。面白い転倒である。
針で命を奪う代わりに、商家の魂たる銭と証文を盗み、四年かけて応報を完成させる。気の長い仕掛けを得意とする和助にぴったりの裁きであり、黄金色に輝く水面、雪と散る証文も幻想的だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年3月14日
しかし悲壮感はあっても、爽快感はない。何も生み出さない悲しい復讐は、しかし妙に綺麗だ。
縁を切っても消えない親子の情、それを受けて義理の子供を『生きがい』とまで言ってくれる夫婦のありがたさ。素朴ながら旨そうな食事シーンでそれを掻き立てておいて、グワッと一気に奪う。養父たちも『生きがい』を失って、水をくくって死んでしまう。その容赦の無さが、哀切なラストと巧く響く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年3月14日
善人の涙も、悪人の欲も、人生を狂わせる黄金も、首くくらせる証文も、水はみんな飲み込んでくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年3月14日
人の命も汚れた銭も、みな美しい月のように儚く、美しくまとめ上げる展開には、なんともいえない寂しさが滲んだ。これまでは殺陣で生きていた『アニメならでは』が、銭と証文を撒くシーンで活きた。
養子であるお順と磯太郎。大工細工と四年の余命。金で首をくくった被害者と、殺されなかっただけに長く苦しんだだろう加害者。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年3月14日
要素を呼応させながら奥行きを出す演出哲学も冴え渡っており、色んな対応が光っていた。お順への語り聞かせも、『過ぎ去った過去』へのノスタルジアを加速させる。
正義を為すために盗んだ和助と、月に見とれたと嘘を重ねてそれを見過ごした平蔵は、ともに親であり、片方は死にゆく盗人で、片方は生き残る火盗改メだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年3月14日
エピソードの主役とシリーズの主役に響き合う部分を作りつつ、差異も強調していく捌き方も巧妙で、非常に面白かった。
四年前の夢語りがスーッと覚め、未だ生き続ける平蔵の人生に、主役が戻ってくる。そして次の話が来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年3月14日
余韻を残しつつ物語の本道に帰還させ、次の話を楽しみに待つ姿勢まで作らせてくれて、非常に達者な語り口だった。酷い話なんだが、一陣風が吹いて何か爽やかなのは、見ていてとてもありがたいね。