イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

小さな魔女からの連想 -"リトルウィッチアカデミア"に繋がる、9つのブックレビュー-

 そろそろクール折り返しとなる、リトルウィッチアカデミア

様々な文脈に目配せを飛ばしつつ、主人公・アッコを筆頭とする少女(そして少年)が青春という季節、迫りくる運命に真正面から向かっていく姿が、いきいきと描かれています。
今回はそんなアニメを見ながら、僕の脳裏にフッと上がった幾つかの本について、短いレビューを書こうと思います。
とりとめのない連想になりますが、お役に立つなら、もしくはお楽しみいただけるなら幸いです。

 

長くつ下のピッピ 

長くつ下のピッピ (岩波少年文庫 (014))

長くつ下のピッピ (岩波少年文庫 (014))

 

 とんでもなく型破りな少女ピッピの乱入により、子供たちの退屈な日常が暴力的なまでに変化していく、児童文学の金字塔。アウトサイダーとしてルーナのヴァを訪れ、暴走しつつ世界を変容させていくアッコの姿に、赤毛の主人公の姿がかぶる。他にも児童文学のエッセンスを多数取り込んでいるが、むしろ直接的に引用されていないからこそ、ピッピの転生としてのアッコを強く感じる。

 

・「モモ」を読む―シュタイナーの世界観を地下水として 

 卓越した児童文学作家にして、シュタイナー系の白魔術師でもあったミヒャエル・エンデ。文学と魔術の交錯点で炸裂した彼の火花を読解する時、この本が助けになるだろう。LWAもまた、魔術と文学の四辻で今まさに編まれている、"モモ"の姉妹である。原典もまた単純に、アウトサイダーが『外部』であるがゆえに世界を救済しうる最良の物語の一つとして、今後の展開を示す光の一つにもなるだろう。

モモ 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語

モモ 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語

 

 

・魔術の人類史

魔術の人類史

魔術の人類史

 

 魔女術、占星術カバラー、錬金術。作中で扱われる様々な魔術をワイドに、しかしオカルトの麻酔に酔っ払うことなく、適切に記述した明瞭なる大著。様々な魔術体型がいかに連環し、文化の中で息づいてきたかを横断することが出来る。劇中のネタ元を見つける、意地の悪い快楽のお供に是非。

 

・魔女・産婆・看護婦:女性医療家の歴史

魔女・産婆・看護婦: 女性医療家の歴史

魔女・産婆・看護婦: 女性医療家の歴史

 

ガッチンガッチンのフェミニストが切り開く、医療従事者としての"魔女"の歴史。やや左派フェミニズムに体重を預けすぎているきらいはあるが、アウトサイダーでありながら社会の中に地位を占め、何らかの役割を果たしていた"魔女"達の生態を感じ取ることが出来る。今後の展開でキーワードになりそうな、『魔女黄金期』への想像力を燃やす薪として、一読いかがだろうか。

 

レニ・リーフェンシュタールの嘘と真実

レニ・リーフェンシュタールの嘘と真実

レニ・リーフェンシュタールの嘘と真実

 

 ナチス・ドイツ下のベルリン・オリンピックを美しく切り取り、映像史に刻まれた『意志の勝利』 その監督が辿った毀誉褒貶の人生を、誠実な取材に基づいて描ききった大著。栄光から挫折へ、光から闇へと転がっていったシャイニー・シャリオの軌跡と重なるものがあるが、レニはあくまで過去の栄光を追い求め、地味な眼鏡はかけなかった。アーシュラ先生はいったい今後、どんな決断を選び取るのだろうか?

 

 ・世界の子供たちに夢を

世界の子供たちに夢を~タツノコプロ創始者 天才・吉田竜夫の軌跡~

世界の子供たちに夢を~タツノコプロ創始者 天才・吉田竜夫の軌跡~

 

 アニメミライ時代から、少女の青春物語であると同時に、アニメを制作する自分たちを覆い焼きし続けてきたリトルウィッチアカデミア。美しき時代への憧れという意味では、タツノコプロの創始者であり、稀代のキャラクターデザイナーでもあった吉田竜夫の評伝は、重なるものが多い。虫プロから離れ、撮影技術や作画、作り出すドラマに数多の発明と新規性を宿しつつ、一つのアニメプロダクションを作り上げていく男の輝き。それは遠い日の花火ではなく、本作に直接繋がる偉大なる先達の詩だ。

・神話の力

神話の力

神話の力

 

 比較神話学の泰斗、ジョーゼフ・キャンベルの対談。オーソドックスで力強い物語の類型に従い、アッコの青春、魔女世界のリバイバルを描こうとするリトルウィッチアカデミアは、当然神話のアーキタイプに多くのものを背負っている。様々な神話から見える人類共通の物語類型、それが持つ力について考察したこの本は、物語の最先端として展開するアニメーションシリーズが、実はどれだけ古く確かなものに足場を置いているか、よく教えてくれるだろう。

 

・アマニタ・パンセリナ

アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)

アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)

 

 稀代のアル中作家にしてナイーブな詩人、中島らもの作品と、リトルウィッチアカデミアを結びつけるのは、スーシィが使いこなす数多の幻覚キノコ……というのは流石に強論ではある。ドラッグ知識博覧会として始まったはずが、身を切るような過去のトリップ体験への内証、人間存在の弱さと強さへの考察にコースアウトしていくこのエッセイの足取りは、その戯けた真剣さによって、ひどく真っ当な青春譚であるリトルウィッチアカデミアと重なっているように、らも信者である僕には思える。弱々しく震える思春期の少年を、結局飼いならせないまま天から落ちたらものナイーブな立ち方が、少女たちを見守るこの作品の視座と似通っている、と。

 

・ウィッチクエスト

 最後は僕のもう一つの趣味、TRPGで魔女をやろうとした古の書物を。91年でナウい魔女と言えば、"魔女の宅急便"であり、魔女とお供の猫を役割分担し、戦闘に頼らない問題解決をメインに据えたこの作品は、当然"魔女の宅急便"の孫くらいのリトルウィッチアカデミアを再現するものではない。しかし、そこに込められた『魔法は素敵なものであって欲しい』『魔法が包み込む日常を、大事にしたい』という意思、それぞれの方法論で『魔法』をメディア化する努力には、20年以上の時間を飛び越えた共通点を感じる。当然のように絶版だが、同人版やHTML版があったりなかったり。魂を引き継いだ藤浪先生の"駅前魔法学園"もあるよ!

 

駅前魔法学園!! (integral)

駅前魔法学園!! (integral)

 

 

以上九冊(+α)、自分なりに"リトルウィッチアカデミア"から連想したり、"リトルウィッチアカデミア"をよりよく読むための足場になっていたりする書物を、思いつくまま並べてみました。
LWAは様々な要素を貪欲に取り込み、骨太でベーシックな物語展開と、多様な文脈への視線がアニメーションを支えているように思います。なので本編を見るだけではなく、色々考え(妄想?)を転がしていくことも楽しいな、と感じています。今回の九冊は、その現れと行ったところでしょうか。
後半クールに突入するLWAがどういう輝きと広がりを見せるか、とても楽しみですね。