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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

月がきれい:第4話『通り雨』感想

堂々正面から『これからお前らを青春で殴って殺す!』と宣言し、そのとおりに死体の山を築き上げる叙情性の爆弾、第4回は京都の雨。
舞台を川越から京都に移し、修学旅行の特別感に後押しされながらすれ違ったり惹かれ合ったり、甘酸っぱい時間がコレでもか! と襲い掛かってきました。
このお話第三の主役とも言える携帯電話を巧く奪い、ミスコミュニケーションとその解消でヤキモキさせる話運びが、非常に巧妙でした。
非常に生々しくピュアな中学三年生の気持ちが、あっちに行ったりこっちに行ったり、その一挙手一投足に振り回される快楽。
演出やシーンセット含めて話全体が第3話の返歌になっているところも、とてもロマンチックでよかったです。

というわけで、舞台を京都に移して恋が転がっていく第4話。
電話で即座に連絡が取れてしまう現在、すれ違いのロマンスを加速させていくのはとても難しいですが、『修学旅行』というセッティングを活かすことで、見事に舞台を成立させていました。
東京駅のシーンで一回電話を没収させることで、一種の予行演習ができているのが巧妙ですね。

元々LINEが過剰に画面に出てきて、今っぽさを強調し、『意思疎通』というテーマを際立たせてきた作品なんですが、今回はコミュニケーションのツールが喪失することで、コミュニケーションを意識していく形。
すっかり情報化社会に取り込まれてしまった身としては、携帯のない不便さ、そこから生まれるすれ違いは非常に身近で、『まぁ、こういうことも起こるな』という納得感があります。

どっかであったような気がするけど、よく考えると絶対ない。
青春と恋愛のユートピア・ファンタジーを扱うこのアニメにとって、『まぁ、こういうことも起こるな』という感覚はとても大事だと思います。
そういう手触りに嘘くささが少ないからこそ、様々な偶然がかみ合わさって、ありきたりの日常がとんでもない輝きを発してくるこのお話は成立するわけで。
美術によるムードの作り方もそうですが、生活感と体温がありつつもあまりにも綺麗で、憧れをかき立てられる上手いラインを把握しながら、お話を作っている感じがします。

物語をスッと飲み込める自然な舌触りは、予兆的なシーンの作り方の上手さも巧く支えています。
繰り返される『携帯電話の没収』もそうなのですが、千夏ちゃんと小太郎くんの距離感にモヤッとする茜ちゃんの構図は、雨の京都の前、お土産屋で既に示されています。
あけすけで元気な千夏ちゃんは、茜ちゃんと小太郎くんの足を止める気恥ずかしさに支配されることなく、ぐいっと間合いを詰めて来ます。
先週小太郎くんが、比良くんと茜ちゃんの距離感にヤキモキしたのと全く同じに、今週は茜ちゃんが小太郎くんと千夏ちゃんの間合いに心を揺らし、その揺らぎの中で自分の気持ちを確認する動きを再演する。
Aパート-Bパートで繰り返される心のゆらぎは、実は主客を入れ替えて先週-今週とリフレインされているわけです。


千夏ちゃんと茜ちゃんの間合いの違いは、縦に大胆に切り取る構図でしっかり強調されています。
おかき屋で小太郎くんと千夏ちゃんが向かい合う時、茜ちゃんは赤い竹の模様をスッと横切って手を伸ばし、濡れてる小太郎くんを触ります。
気恥ずかしさに支配されている小太郎くんはその一線を越えられないまま、「やっぱ良いや……」と引こうとするのだけども、がさつに見えて目のいい千夏ちゃんは小太郎くんから伸びてる茜ちゃんへの視線にちゃんと気づいていて、助け舟を出してくれる。
これを受け取る形で、小太郎くんは一線から手を伸ばして携帯電話を受け取り、ミスコミュニケーションの時間が終わるわけです。

このシーンの前景となる土産物屋のシーンでも、奥に引っ込んだ茜ちゃんを遮るようにお土産があって、これに邪魔されて小太郎くんは茜ちゃんを見ることが出来ません。
でも、千夏ちゃんはそんな小太郎くんの視線(つまり興味と恋心)をしっかり見ている。
だから恋のキューピッドにもなれるわけですが、そもそも小太郎くんの挙動に目が行くのは、茜ちゃんも小太郎くんに視線を寄せているからです。
ここら辺の錯綜した関係を、境界線で仕切りつつ越境と拒絶のドラマにまとめてくる演出手腕は、なかなかに鋭いですね。
千夏ちゃんがとにかく良い子でなぁ……恋で勝利者になれないとしても、超幸せにはなって欲しい。
このアニメの子ら、大体そうだけども。

お寺の境内で雨宿りしているシーンでも、画面の真ん中にぶっとく気がそびえ立ち、茜ちゃんと小太郎くんの間に立つ。
先週は神社で待つ側だった小太郎くんが、傘もささずに必死で走り回り、茜ちゃんは傘で自分の気持ちを守り/隠しつつ待っているという対比が、なかなか面白いです。
このアニメ、決定的な瞬間は大概神社で起きるな……。

おかき屋と同じく、二人を隔てる巨大な樹は心理障壁であり、友達にも本心を切り出せない引っ込み思案な茜ちゃんは、当然そこを乗り越えることは出来ません。
京都をぐるぐる走り回ったのと同じように、行き先を決めれずぐるぐるする足先を映しつつも、まさに振り回され惑わされたからこそ、茜ちゃんは自分の気持ちに気づけている。
コミュニケーションが出来ないからこそ、コミュニケーションしたいと思うもどかしさの源泉は、相手のことをもっとよく知りたいという欲望……恋から生まれています。
ここでアングルが変わって、空気を読んで晴れ渡った空を映し、下から上に伸びていく二人の視線、縦方向に共有される気持ちが画面に乗っかるのは、面白いなぁと思います。
裏から木を映すことで、断絶よりも親しい距離が強調され、同じ場所、同じ位置関係のはずなのに全く意味が違って見えるのは、優れた演出だと思います。

先週の500円玉もそうなんですが、このアニメはフェティッシュに意味合いを託し、言葉で語らず絵を膨らませていく演出技法を得意としています。
今回で言えば携帯電話に振り回されたり、心理状況を反映した天候の使い方なんかですけども、特に派手なことが起きない地道な物語だからこそ、ダイレクトに説明するのではなく、クッションをかけて視聴者に想像させ、理解させ、飲み込ませる手法は有効だと思います。
ただ地味なだけではなく、音響を巧みに活かして引き込む腕力もあるし、ドラマティックなシチュエーションや絵面を日常からすくい上げていく選球眼もあるし、語り口を成立させるための努力が、そこかしこで光っています。
僕はそういうトーンのお話が大好きなんで、ありがたいところです。


かくしてすれ違いの果てに、気持ちを確かめあった二人ですが、その周辺もなかなか面白い。
主人公たちの超絶ピュアパワーをメインエンジンにしつつも、各々違った個性を持ったサブ・キャラクターの群像劇としても面白いのが、なかなか贅沢なアニメです。
ろまん&小笠原とのバカ中学生男子ムーブとか、『いい人』だからこそ強烈な同調圧力を感じる女の子軍団との間合いとか、同性間の描写がきめ細かくて、面白いですね。

今回は携帯電話が持っている諸相が、描写の中で色々見えたのも面白かったです。
恋を知らないろまんと小笠原くんは、仲間とじゃれ合うためのゲームハードとして。
小太郎くんにとっては茜ちゃんと繋がる唯一の希望で、現実の恋バナに興味津々の女子にとってはライト代わり。
高度な情報ツールが持っている多様性を使うことで、各キャラクターがどういう段階にいて、どういう個性を持っているかが良く見えました。
一年という時間を通して、今回切り取られた青少年たちの個性も、また変化していくのかなぁ……そこも楽しみ。

主人公たちには純情ラブのど真ん中を突っ走らせつつ、どうしても発生する『テレ』をCパートにまとめて発散する切り分けも、凄く良いと思います。
そうやってサブを描写し、第3話の壁ドンのように本編ともリンクさせることで、群像劇に必要な奥行きも生まれるしね。
『園田先生はホント駄目だなぁ……』とか、『翔ちゃんもチンボコ中心で生きる年頃なのは判るけど、おみくじどおり『金の切れ目が縁の切れ目』になっちゃうよ』とか、細かくくすぐってくれる良いCパートでした。
主役たちをピュアピュアに保つために、生理とかセックスとかの生臭い(しかし完全に排除しちゃうと、世界から生っぽさが消えかねない)要素を、背伸びした女の子たちに任せるのは上手いなぁ。

僕は三度の飯より『バカ中学生男子が、男同士の気安さでキャイキャイしている、その輝きを当人たちは実感できない一瞬』が好きなわけですが、そういう好みからすると小太郎-まろん-小笠原の描写は二兆点です。
二人はゲームに夢中なんだけども、一歩先に色気づいた小太郎は茜ちゃんとの連絡に夢中で、でも関係が破綻するほどではなくて……って間合いの絶妙さが、今後どう変わるか気になるところです。
細かいところなんですけど、柔道部主将の小笠原にまろんが「上四方固め!」って支持を出して、それを小太郎がひっくり返すところが凄く好きです。
小笠原はスペシャリストなんで、ガチで押さえ込んだら身動き取れないはずなんだけども、抜け出せるからあくまで遊びの延長なんだなぁって判るところとか。

ここら辺の情報は公式ページのキャラクター欄(https://tsukigakirei.jp/charactor/)から拾ったんですが、色々細やかに設定されていて、読んでおくとキャラ描写に納得が深まります。
知らなくても大意は取れるし、むしろ細かい設定に縛られすぎず的確にムードを伝えるよう絵が作ってあるんですけども、設定を知っているといろいろ考えて作られている部分を確認できて、個人的には面白いですね。
主役二人に関しては、家族構成とライフヒストリー、経済状況を細かく作り込んでいるところが、いかに生っぽさ出すか懸命にやってるなぁという印象。


というわけで、京都という異郷をさまよいつつ、一話かけて保留していた答えを見つけるお話でした。
コミュニケーション手段の喪失が、逆に伝えたいメッセージを浮き彫りにしていくというテーマ性と、携帯電話を主役に据えた現代風のときめきロマンスが、非常に巧く噛み合っていました。
雰囲気の出し方、映像言語の明瞭さ、学生集団を切り取る視野の広さ。
作品の強いところがたくさん噛み合って、全力で視聴者を振り回し、甘酸っぱさに悶えさせるエピソードとなりました。

雨の季節が通り過ぎて、日差しも強くなっていきます。
もどかしさと青春の臆病を踏み越えた二人の先に、どんな光景が待っているのか。
複雑に視線を絡め合うライバルたちも、恋とは遠い距離で自分の青春を生きている子どもたちも、生き生きと夏に飛び込んでいきます。
来週も楽しみです。