読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

正解するカド:第4話『ロトワ』感想

21世紀のプロメテウスが人類に課す思弁的進級試験アニメ、今週は爆弾が落ちた後の世界で。
ザシュニナによって与えられた無限のエネルギー『ワム』を巡って国際世論は紛糾し、安保理は制裁決議をチラつかせて『ワム』の封印を押し通さんと動く。
これに対し犬束総理を筆頭とする日本国政府は、カドの交渉官真道と綿密に連携を取り、来るべき道を模索していた。
様々な意見、様々な利害が錯綜する中で、人類の停滞と進歩の分水嶺が迫りつつあった……みたいなお話。

国家概念、国内世論、理想と現実、国連安保理の不完全性、永久機関とCO2バランス、組織と個人。
色々な要素を貪欲に扱い、かなり難しい会話劇が展開されているのですが、グッと引き込まれて24分がとても早く感じます。
人類を変革しうる異方技術がどのようなものであり、どのような問題と可能性を秘めているかを的確に見せるのが上手い、とか。
クレバーで英明なエリートたちが、混迷する状況に立ち向かい意思と知恵を一つに束ねていく展開がアツいとか。
色々引き込む要素はあるんですが、四話で目立っていたのは笑いの巧さかな、と思いました。

一段落ついて真道さんと浅野さんが強烈にハグするシーンとか、ザシュニナと真道さんの異方漫才とか、それで思わず吹き出しちゃった徭さんを問いただすシーンとか、IQの高いメインストーリーに似合った上品な笑いが、随所に挟まれている。
可愛げのある笑いを生み出してくれることで、理想を追いかけ、賢く強いエリートたちが遠い存在ではなく、なんだか身近な仲間に思えてくる。
まさに『緊張と弛緩』そのままに、ハードなストーリーに緊張感があるからこそ、そこに生まれる破れ目としての笑いが印象的だし、息継ぎどころとしてありがたくもあります。

いかにも『笑ってくださいね!』という油っぽさが少なくて、キャラクターが元々備えているチャーミングさとして笑えるのが、とってもイイなぁと思います。
立場的には真道さんと向かい合う徭さんも、ガミガミやかましくて、オーバーアクションで、隙が多くて表情豊か。
一言で言えば可愛いわけですが、この『可愛げ』の強さというのは真道さんやザシュニナ、花森、はては総理までちゃんと持っているものだと思います。
硬い会話をきっちりやれる知性と責任感があるからこそ、それが破れる一瞬の人間味が真に迫り、思わず笑ってしまうってのもあるでしょう。

扱っている問題がとても大きいからこそ、『笑う』という個人的で感情的な行為を大事にすることは、特別な意味を持っています。
話が大きくなりすぎて、責務や概念や理想といった体温のないものだけがしかめっ面をしていると、どうにも話に入りにくくなります。
そうなってしまうと、『もし異方の存在が現れて、人類の可能性を促進するような技術を提供してきたら……』という思考実験は、僕らとは関係のない遠いお話になってしまう。
真道さんたちを笑える存在としても描いているからこそ、このお話の難しさが飲み込みやすくなっているのは、間違いないと思います。

笑うという行為には相手を自分の世界に受け入れ、ガードを緩めてしまう効果があると思います。
交渉官として異質な存在と向かい合ってきた真道さんにとって、相手と一緒に笑うことはネゴシエーションの一歩目を作る、結構大事な行為だったんじゃないでしょうか。
笑顔を一切消し去り緊張し続けても、双方にとって利益のある交渉、その土台となる信頼関係は構築できないと真道さん(と多分、制作スタッフ)が考えるからこそ、枝雀の『緊張と緩和』理論を作品内部で活かし、堅い話を美味しく飲ませる武器として使いこなせている印象です。
実際、移動する車内という密室で徭さんと二人きりの瞬間を逃さず、笑わせ/怒らせることで緊張を解し、個人的な信頼関係を作ることに成功しているわけですからね。
作品を外側から見る視聴者にだけではなく、作品内部で接触し合うキャラクターにとっても、このシリアスで思弁的な物語の『笑い』は、大事なものなんだと思います。


さて、そんな血の通った人間たちが立ち向かう大きな問題は、色んな要素を孕んでいます。
現状人類が問題解決のための組織として選び取っている『国家』、その集合体である『国連』に切り込んできたり、無限のエネルギーという夢想が叶うための現実に、色んな角度から光を当てている感じですね。
このお話は巨大な問題にぶち当たった人間を描く時、どうにもならない負のカルマよりも前進していく可能性に重きを置いているので、結構トントン拍子に進みます。
が、可能性ばかり置きすぎて障害を無視すると、思考実験としてもリアリティが消え失せていってしまうわけで、適度に生っぽい問題をちゃんと扱うのは大事です。
その第一番目として出てきたのが、国連(の背後にある大国)からの圧力というわけです。

作中でも言われているように、各国の国益を優先し、人類進歩の可能性などという夢物語よりも、勢力均衡を崩す超技術の封印管理に向かう大国の姿勢は、間違いというわけではありません。
おそらく日本戦後史最高の現実的理想主義者であろう犬束総理は、ザシュニナが切り開いてくれた人類の可能性を全面的に信じ、日本国単独の国益よりも大きなものに、決断を委ねようとしています。
高潔で英明なその態度はしかし、産油国ではなく、常任理事国でもなく、ワムという超技術を独占的に貸与された日本の立場が許す、特権的な選択肢なのかもしれないのです。

ザシュニナは『国家はよく出来た機構だが、保護や意思統一という機能を超え、概念が暴走している』と評しています。
国力やイデオロギーに左右されず、一国一票の理念を持つはずの国連が大国の意志と利害に強く影響され、国際統治機構として機能不全を起こしている作中描写を見れば、それに頷きたくもなる。
しかしザシュニナが連れてくる未来は大いなる未知であり、その先に明るい未来が必ずしも待っているとは限らない。
神様がくれた無限のエネルギーにはとんでもない落とし穴があって、取り返しのつかない破滅をもたらすかもしれない。
人類が種の特性として備えている想像力が、未来を推進する方向と、現状を維持する方向両方に働いているのは、なかなかに面白いところです。

安保理と日本の(爆弾を伴いかねない)政治的綱引きは、現実のパワー・ポリティクスを反映しているというよりは、変革を望む方向と現状維持の方向、二つの価値観の衝突のように思えます。
それはどちらが正しいというわけではなく、社会学的生物、生物学的生物としての人間が備える、二つのカルマなのだと思います。
外務省の鬼札、国家運営に携わる超エリートという『現状』をノータイムで打ち捨てて、よりよい未来をつかむために人類唯一の『カドの交渉官』になってしまう真道さんと、どのような理由課はわからないけども『ワム』に反対する外務省所属の徭さんは、未来と現在、二つの可能性を体現している……のかなぁ。
この話基本的に、自分の世界で閉じこもって話が通じない人間出てこないので、各々の立場は踏まえつつ、相手の顔は絶対に見るからなぁ……どっちかと言えば、やっぱり安保理か。


カドの圧倒的なテクノロジーを戦車砲弾を『丸める』ことで見せたことで、武力行使という極論に現実味がないことは巧く示されています。
落とすべき『爆弾』は物理的に命を奪うものではなく、概念を変化させ、国家国民に進歩への覚悟を問う形のないものなわけです。
武力行使を背景に譲歩を迫る安保理の方法論は、ワムによってエネルギーを無限化し、おそらく他の技術でも人間の物理的制約を飛び越えさせるだろうザシュニナにとっては、退歩的に過ぎるのでしょう。

蓄えたものはいつか失われ、手に入らなければ奪うしかない。
有限の現実世界に縛られ続けた人間のカルマを、ワムから発する無限のエネルギーが開放する以上、人間のカルマを巧く乗りこなすために選び取った、一種の妥協案とも言える『国家』や『国際政治』も、その姿を大きく変える必要がある。
その激変に踏み込んでいく覚悟が、ザシュニナの言う『爆弾を落とす覚悟(の一端)』なんだと思います。

日本国家公務員の立場を捨て、国でも組織でもない新たな場所『カド』の交渉代表となった真道さんのように、日本もまた既存の形に縛られない政治システムを、世界に問うことになるのか。
官僚制度をぶっ飛ばした全権大使制度をあのスピードで成立させてることから見ても、犬束総理以下の日本国政府は世界規模の世直しをやっちゃいそうなオーラはあります。
同時に、既存の枠組みを維持したまま、ノヴォ由来の技術と概念を浸透させていく方向も、またありえるでしょう。
どのような道を選ぶにしても、このアニメが人間のネガティブな業よりも、ポジティブな可能性を重視してスッスと進めていくのは、これまでの歩みを見ても間違いなさそうです。
みんな頭良くて他人を尊重するから、ヤダ味が少なくて食べやすいのよね……そこは作品の特徴だし、強みだとも思う。

とは言うものの、(一部の強者にとっては)安定した現状(だと思えるもの)を破壊する改革が強い逆風にさらされるのは、歴史を見ても朗らかです。
そしてそういう局面でこそ、相手の価値観や利益を尊重し、向かい合って話し合う交渉という行為が、大きな意味を持ってくるのでしょう。
真道さんがカドに取り込まれ、カドの中から自分(たち)の利益を引き出したように、日本もまた異物であるカドと対話し、その価値観と技術を内部化しつつあります。
カドという境界線に取り込まれ、既存の世界に簡単には出れなくなってしまっているのは、251人の乗客だけではないわけです。

そしてカドが境界線である以上、そこは行くことも返ってくることも可能な、一方通行の場所ではありません。
真道さん以外の乗客が、身体と精神にダメージを受けることなく解放されたことは、同じくカドに取り込まれた日本が今後どういう立場になるのかを示す、一種の暗示なのかもしれません。
全体的に理性的なトーンで話が進んでいるので、暴力の行使をオプションとして睨みつつも、それが最終解決の手段になるってことはないと思うんですよね。
カドと日本の対話がそうであったように、日本と国連諸国との交渉も何か実りのある形で収まって欲しいなと、強く願っています。


政治の領域ではそんな感じでしたが、科学分野でもワムが分析され、さっぱり解らないことが解りました。
何しろ構造解析したら六個の状態が同時に観測される、超インチキアイテムですからね……高次元体の重ね合わせを三次元で解析すると、ああいう感じになるのかなぁ。
ザシュニナもカドも、宇宙の外側からこっちのスケールに合わせて己を投影しているので、ワムもまた見た目通りのタマではなく、より巨大な存在の影って考えたほうが良さそうです。

その原理は分からなくても、無限のエネルギーが解放された時の問題点を真っ先に見つけるあたり、御船先生も優秀だよなぁ……。
大気圏内のエコシステムもまた、広い意味での既存のシステムの問題点といえるわけで、これに対して何らかの正解を出していくことも、今後重要になるのでしょう。
エネルギーが無限にあるなら、力押しで一気に行けそうな感じもあるけども……ここら辺は科学班の見せ場になるでしょうね。

テントにパイプ椅子、事務机に絵本。
今回はカド内部の生活構築描写も丹念に重ねられていて、とても面白かったです。
機長やチーフCAも冷静に自分の責務を果たしていて、混乱なく異方生活を営んでいるところが凄い。
政治の世界にしても、科学の世界にしても、生活の世界にしても、それぞれの持場で緩みなく、誠実に力を尽くしている感じが続いているのは、見ていて気持ちが良いものです。

先述した『笑い』にも通じるところですが、どれだけハードで異質な問題が立ちふさがっても、人間は感情を持っているしメシも食う。
花森が呑気に『ごはんですよー!』と声をかけてくるのは、そういう人間のカルマを前向きに捉えるタフさ(鈍感さとも言う)の現れなのでしょう。
異方存在であるザシュニナは食料を必要とはしませんが、同じテーブルについて同じメシを出されている描写が、カド内部でのザシュニナの扱いを表していて、なかなか微笑ましかったですね。

真道さんが降りたので、棚ぼた式に花森が全権大使になりました。
あのお人好しで大丈夫なのか心配でもあり、お人好しだからこそ上手くいきそうでもあり、タフ・ネゴシエーター真道とはまた別の交渉を見せてくれそうな期待があります。
ヨーグルトと見返りのない信頼で、カド問題では日本で一番偉い男になってしまった花森ですが、だからこそ一番最後にカドを出て行く立場になるのは、責任論の描写としてスマートでもありました。
晴れて異方を後にするときには、様々な艱難辛苦が花森くんを鍛え上げるのだろう……鍛え上げないかもしれないな、このアニメだと。
どう転がすにしても、ただのワトスン役から一転、大きな責任と権限を背負うことになった花森くんの今後は、とても面白そうです。


というわけで、ワムという透明な爆弾を抱え込んだ日本と、それを取り巻く世界に切り込んでいく回でした。
状況的にはシビアなんですが、ウィットを忘れずどこか和やかに進むところが、このアニメの特長だと思います。
作品全体に漂う能天気さが、大きなものを扱う時に付き物の薄暗い感じを上手く飛ばして、楽観的に楽しめるのは良いことですね。

とは言うものの、明るく前向きなだけでは事態が解決しない現実感覚も、このアニメはちゃんと持ち合わせています。
異方技術の解明も進めなければいけませんし、国際交渉の大舞台をどう乗り切るかも見どころです。
2kmの立方体が生み出した波紋が、世界に、人類に、そしてキャラクター個人にどういう影響とドラマを生んでいくのか。
来週も楽しみです。