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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

月がきれい:第5話『こころ』感想

ピュアボーイとピュアガールの青春恋愛1ON1マッチ、新たな局面を迎える第5話です。
異邦・京都の通り雨が作ってくれたムードに助けられ、お互いの好意を確かめ付き合うことになった二人。
初めての男女交際に戸惑い、自意識と交友関係の檻に囚われ、様々な人の助けを気づかないまま受けつつ、じりじりと心と体の間合いが詰まっていく。
思春期の少年少女を取り巻く世界は何で充満されているのか、匂い立つように繊細に描いてくれていて、今週もとても面白かったです。


お話としては相変わらず地味で、シャイなカップルが手を繋ぐまでのグダグダを延々描いているだけ。
だがこの『だけ』が、細かいところまで目が行き届いていて、見たいものがしっかりと見える仕上がりなので、十分な食べごたえを持っています。
逆にいうと、こういうシンプルでプレーンな感情のお話は芝居や美術、レイアウトの質を高めていって、情景に匂いを宿していかないと場が持たないのであろう。

いろんなものが切り取られている回ですが、メインは小太郎くんと茜ちゃんの距離感の変化です。
好きなんだけどもなんだか気恥ずかしくて、学校集団の中で浮き上がってしまうのも怖くて、『恋』という初めての経験への恐怖もあって、巧く踏み込めない戸惑い。
LINEを介したディジタルな距離感では素直に喜べるのに、相手の肉体が目の前にあって、その気になれば触れる間合いでは硬直してしまう不思議。
そういうものと主人公たちがどう戦い、どう一歩を踏み出すかが丁寧に切り取られていました。

最初は教室とライン、二つの空間での二人の距離が描かれて、段々と横幅が広がっていきます。
茜ちゃんは姉、小太郎くんは立花さん、それぞれ頼りになる年長者にそれとなくアドバイスを貰ったり、女子グループの隠微なる友情の檻のなかで茜ちゃんがもがいたり、小夏ちゃんがグイグイ距離を詰めてきたり。
最終的に古本屋という密室、二人きりの時間に集約するわけですが、そこに至る過程として主人公以外にカメラが振られるのは、『人間が一人で生きているわけではない』という当然ながら大事な要素に言及する、大事な描写だと思います。

小夏ちゃんは二人の反射材として非常に良い仕事をしていて、リア充グループの中での立ち回りにしても、小太郎くんとの心理的・身体的距離にしても、何かと二の足踏んでしまいがちな茜ちゃんとは正反対です。
気軽に塾の相談もするし、体もペタペタ触るし、周りのことを気にしすぎず、不快になるほど踏み込んでくるでもなく、天性の距離感がある子だと思います。
小夏ちゃんの間合いの近さは茜ちゃんにとっては羨ましいもので、しかしどうにも自分には出来ないもので、身近だからこそ嫉妬を煽られもする。
ここら辺、陸上に才覚のある茜ちゃんを、小夏ちゃんが比較し気にしている描写と面白い対比ですね。
お互い、お互いに無い(と思いこんでいる)物をこそ求め、その嫉妬は必ずしも悪いものではなく、本当に欲しいものを照らしてくれる光になったりもするわけです。


今回の話は密室を見つけるまでの物語でもあって、教室という共同体でも、図書館という密室でも、常に同年代の学生達が引き寄せられ、二人きりのプライベートな空間/時間は生成されません。
午後の古本屋を立花さんが提供してくれたおかげで、二人は密室を手に入れ一歩間合いを近づけることが出来るわけですが、祭りというローカルな地縁で繋がった立花さんの店に、ディジタルなGPSマップが二人を導くのは、このアニメらしいテクノロジー観だと思います。
非常に身体性の高い、古臭い恋愛劇をやっているんだけども、先鋭化した情報技術を排除するでも敵対するでもなく、良いこともあり悪いこともある優秀なメディアとしてしっかり画面に入れてくる、という。
知恵袋の助言が結構まともで、最終的には巧く機能しないとはいえ、立花さんとおなじように役に立つ存在なところも、変な対立項を入れない素直な態度だなと感じました。

紆余曲折あって二人は密室にたどり着くわけですが、ここの距離感の描写は非常に印象的でした。
柱、柵、棚、鞄。
隣り合って座った二人の間にはたくさんの障壁があるんですが、ピンクと青の鞄どうしは体重を預け合い、密着している。
それは二人の願望であり、未来の預言でもあります。

それに導かれるように話題が重なり、目線が絡み、プライベートな空間だからこそ切り出せる『好き』という本音が飛び出して、手が重なる。
境界線を飛び越え、肥大化した青春の自意識を乗り越えた後は、画面をみっしりと二人の顔が埋めます。
人間だけが持つ余計な感情であり、素敵な魔法でもある『秘め事』にたどり着いた二人は、身体的にも心理的にも強く密着し、何か一つ大きなものを超える。
それをパッと引き離すように、小夏ちゃんからのメールが入って、三角関係の予感が着信し、次回に続く。
接近と離脱、緊張と開放が画面にみっしりと満ちた、静かで力強い見せ場でした。

縦の境界線で心理的距離を表す手腕は、比良くんと茜ちゃんとのシーンでも活用されていました。
『川沿いの東屋』は古本屋とおなじように夕日に満ち、周りに人はいない半密室なのですが、そこには壁がなく、パブリックな空間に解放されています。
閉じた空間で距離を縮めていった小太郎くんとの逢瀬とは違って、比良くんは柱や壁、樹といった障壁を乗り越えることは出来ず、相談内容もどこかズレたものです。
いろんなことに気配りができるいい人なんだけども、狭い距離を二人きりで共有したい相手……『好きな人』ではないという残酷な描写です。

対話の前段階に当たる部活のシーンでも、比良くんと茜ちゃんの間には必ず何らかの障壁が張ってあって、強力なプロテクトがかかっています。
茜ちゃんがめんどくさく恥ずかしがり屋な自意識を乗り越え、手を繋ぎたいと思える男の子は、やはり小太郎くんだけなわけです。
障壁を超えられない比良くんがいるおかげで、小太郎くんの特別性が強調されているともいえますが、『当て馬』で片付けるには比良くんブッチギリに人間出来ててなぁ……幸せになって欲しい。


今回は小太郎くんのかっこいいシーンが多くて、茜ちゃんや小夏ちゃんが彼を好きになる理由が、言葉ではなく描写の中で語られていました。
真剣な表情で舞を練習する足取りも良かったし、車に怯える小夏ちゃんをさり気なくカバーし、自分が障壁になる仕草からも、ジェントルな気質を感じ取れました。
自分の体で車から守る描写にジェントルを感じるのは、アニメ版の"Steins;Gate"以来ですね。
まゆりを一生カバーし続ける岡部くんをを見て、『このトンチキ人間、他人を大事にできるガイじゃん。好きになる男じゃん』と主人公に、作品にのめり込んでいったわけで、こういう細かいケア&カバーの描写、マジ大事。

同時に痛々しくて情けない描写も多々あって、一話ぶりとなった恒例・紐ボクシングが展開されたときは『よし来たッ!』と思いました。
小太郎くんの空回りっぷりを等身大で表現する良い描写だと思うんですが、部屋の配置の関係上、あれ映す時に必ずアリのポスターが映るのが、残酷で素晴らしい。
小太郎くんはごくごく普通の中学生で、カシアス・クレイには多分なれないんだけども、誰だってカシアス・クレイに憧れる資格はあるし、誰か一人のモハメド・アリにはなれるかもしれないもんな。
遠い星みたいにポスターの中で佇むアリが映るたびに、小太郎くんの身の丈の小ささと、持っている可能性の大きさが感じられるので、凄く好きな絵です。

ままならなさの描写としては、リア充女子グループの中でどうにも居心地悪くしている茜ちゃんの描写も鮮明です。
いじめとか悪口とか、そういうハードな当り方ではないんだけども、ナチュラルに恵まれた立場にいるが故の優しい鈍感さというか、無意識の当然視というか。
女の子たちに責任があるわけではないけど、やっぱりどうにも動きにくい善意の檻のなかで茜ちゃんがもがいている姿は、お話に何とも言えない生っぽさを与えています。
小太郎くんの三バカトリオの気楽さとの対比も、なかなか良い。

彼氏がセックスしか求めてこないことに愚痴をたれている節子の生臭さと、手繋ぐ繋がないでモジモジしてる茜ちゃんのピュアさも、良い対比でした。
節子の愚痴をよく効いてみると、今回まさに茜ちゃんが体験したような臆病で、繊細な恋と交流を求めていて、主役たちの恋のファンタジーっぷりとピュアさが巧く強調されていました。

妥協と愚痴とそれでも別れられないちょっとのトキメキに満ちた節子の恋は、ファンタジックな主軸に比べると生臭く、現実的です。
そんな彼女が茜ちゃんの恋を、それ知らず求めていく(そして小太郎くんが、乙女のピュアな対話願望におずおずと寄り添い、『好きだ』と真正面からコミュニケーションしてくれる)姿が重なることで、主役の恋愛が巧く居場所を見つけていると思います。
あり得たかもしれないけども、絶対に存在しないファンタジーとしての、純粋で優しく、臆病な恋。
ファンタジーをリアルが思い求める気持ちがあればこそ、僕らはこのアニメ見ているわけで、そういう視聴者の視線を節子が自分の物語として作中で表現しているのは、なかなか面白い描写です。


というわけで、様々な人々の様々な距離感が交錯し、変化し、あるいは衝突している回でした。
茜ちゃんが思い悩んでいる初な恋を、通過点として通り過ぎ助言をくれるお姉ちゃんが、自分の恋愛も別の形で進展させているところとか、とても良いですね……結婚視野に入ってるところが、姉妹の年齢差だなぁと思う。
とにかく地に足ついてるか確認し続ける母と、ツッパってたのに人形一個でデレちゃう父の対比も。

こういう横幅の描写も、メインの二人をどっしり、丁寧に描いていればこそ活きます。
ようやく心と肌を触れ合わせた二人ですが、関係が深いからこそ同じ気持ちを抱いた小夏ちゃんが、無邪気なインタラプトを入れてきました。
一難去ってまた一難、青春の恋路は小さな、しかし当事者にとってはシリアスな波風でいっぱいです。
優しく純粋な子どもたちの思春期の航路が、どんな軌跡を描き、その先にどんなものがあるのか。
来週もとても楽しみです。