有頂天家族を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
天狗と狸の愉快さ・世知辛さを堪能した先週からガラッと変わり、ふしぎの国の有馬温泉から、産業革命下の地獄へと。阿呆な毛玉の愉快旅。
狸道を踏み外した外道・早雲も再登場し、天敵・金曜倶楽部復活の胎動もあり、なんともおどろおどろしい…と思ったら、地獄は案外愉快な回。
もともとこのアニメは的確にフィクショナライズされた『京都』それ自体が、一つのキャラクターという節がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
しっかり取材され、アニメーションとして適度にデザイン・演出される『場』には独特の存在感とテーマ、主張がある。物言わずとも、感じ取れるように作ってある。
舞台が有馬、地獄へと移る今回もその『場』の存在感は健在で、温泉郷のちょっと寂れた緩やかさ、プリピャチと御茶ノ水と大阪を融合させた地獄の異様さ、共に豊かな味わいがあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
『場』が変わることで、普段とは違う物語を展開できるわけで、そこをしっかり仕上げてくれるのはとても嬉しい。
有馬の湯は三途の川でもあって、そこをくぐり抜けたものは現世の匂いを失ってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
温かい湯、失脚してもたくましい教授、海星との無邪気な鞘当て、父との狸らしい思い出。
そういう綺麗なものの体温が、荒廃した保養所の不穏さでスッと冷える。この一連の流れが、とても気持ち良い。
お湯と匂いの記憶でもって、下鴨家の失われた記憶をしみじみ味あわせておいて、父を奪った早雲が父親の形を略奪する。赤みがかった暖かな光から、色の濃い闇へと一瞬で切り替わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
阿呆な空気を普段から楽しく演出しているからこそ、このターンは鮮明で強烈だ。見事な『先代の帰朝』といえる。
このムードを引き継いで、赤錆の浮いた現代的な地獄は異様な存在感を持っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
無人でありながら、嫌な体温を感じさせる文明の名残。汚濁と荒廃。
家族と自然に守られた明るい世界ではけして描かれなかった、社会のハラワタがむき出しになり、僕らは矢三郎とともに寄る辺なくさまよう。
しかし地獄に仏、渡る世間に鬼はなし。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
かつて争った天満屋のラーメン屋を足がかりにして、地獄にもいつもの阿呆さが戻ってくる。
蹴り飛ばされても愛おしい、弁天という俺の花。のれんの裏にひっそり隠した恋心を見て、矢三郎は笑う。なぜなら、それは彼が隠す恋情と同じ心意気だからだ。
敵が同じ阿呆であるとわかったこのタイミングで、もう一回スイッチが入る。矢三郎は鬼に化け、鬼に同質化し、鬼は探していた人間を見失う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
そうして対立軸を外してみれば、鬼も間抜けで阿呆な、体温のある狸の仲間だということが分かってくる。同種食いの早雲より、よっぽど親しみやすい。
鬼を演じることで、矢三郎は青鬼のおばさんという協力者を得る。アップデートしていない不完全な化けを『信念がある』と褒められて、天狗になったりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
地獄脱出の手助けになる鬼が女なのは、とても面白い。海星にしても、今回矢三郎を導き助けてくれるのは優しい女たちだ。
そして、矢三郎はファム・ファタールである弁天と、土俵で出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
女人禁制であるはずの土俵は浮かれ調子で女を向かい入れ、そこで弁天は鬼の角を遊戯的に去勢する。
それは二代目に敗れた心の傷を、男を弄ぶことで回復する儀式だ。修行といっても良いだろう。
弁天にとっても矢三郎は特別な男(もしくは毛玉)であり、飛びついて戯れ、地獄旅の脱出口を指し示すに値する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
ふわふわと逃げつつも、狸の矢三郎には追いつかない解決策をポンと出してくれる、超越的な存在。阿呆共にとって、やはり弁天は高嶺の花であり、衆生を救う地蔵菩薩でもある。
かくして矢三郎は、異物として迷い込んだはずの地獄につばを吐きかけるのではなく、手を降って笑顔で別れていく。青鬼のおばさんには、自分の本当の姿を晒して帰っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
天国のような有馬温泉には、道を謝った鬼たちが潜んでいる。
そこから突き落とされた地獄では、優しい女たちがいた。
ウラとオモテがどんでんがえり、価値観が常に撹拌される、非常に面白い旅だった。異境への不安と期待が美術できっちり表現されているところが、やはり抜群に良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
のどかなノスタルジーを大事にしつつも、そこから苦味や業を排除せず、楽しみや笑いで包み込む懐の深さが、やはりこのお話の魅力だなぁ
久々の登場となった海星とのズレたやり取りも可愛らしく、『佐倉綾音が声を付け、PAが芝居を入れると、砂糖壺やポスト相手でもラブ・コメできる』という見解を与えてくれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
許嫁を前にして、別の女の話をグダグダグダグダやってしまう所が、矢三郎の阿呆な所だ。その間抜けさが愛おしくもある。
早雲の帰還、金曜会の復活によって、作品世界には薄暗い雲がかかってきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月14日
異境・有馬の地で地獄を見た矢三郎は、暗雲を払い、いつもどおりの柔らかな世界を取り戻すことが出来るのか。
来週現世で起こるだろう修羅場にも、期待が高まる。とりあえず早雲はくたばれ。