イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

月がきれい:第6話『走れメロス』感想

オッサンは激怒した。
必ず、この青雲立志の物語を見切らなければならないと決意した。
オッサンは恋愛が分からぬ。
オッサンは、非モテである。
アニメを見、感想を書いて暮らしてきた。
しかし、俺の青春こんなにキラキラしてなかった! と叫ぶことに対しては、人一倍に敏感であった。
そういう感じのアニメ、青春の甘さと苦さが交錯する第6話です。

嬉し恥ずかし行ったり来たりのピュア・ラブを経て、彼氏彼女になった小太郎くんと茜ちゃん。
初めての恋に浮かれる二人でしたが、生臭い編集のおじさんとか、メンタルボロボロで挑んだレースとか、色んなものが目の前に立ちふさがる。
学業と夢、恋愛と友情。
両立なんて器用なことは出来ない体当たりのアドゥレサンスが、お互い支え合いながら明日を探していく回でした。
小さいけども切れ味鋭い青春の蹉跌と、それでも前を向こうとする恋人たちの瞳の輝きが、あまりに眩しい。


というわけで今回は、話全体の調子が上がって下がってまた上がり、最後に特大の爆弾が投げられる、という塩梅。
恋人と手を繋いだだけであんなに世界がキラキラしてる辺り、初々しくて可愛いもんですが、好事魔多し。
小太郎くんは才能を認められたと思って出版社まで出たら、現実に思いやりをすり潰された編集者のおじさんが出てきて生臭い態度を取ってくるは、ママンは圧力かけてくるわ。
茜ちゃんは親友との三角関係に悩むわ、大会で結果は出せないわ、千夏ちゃんは無茶苦茶言ってくるわで、さんざんでした。

ウキウキの前半としょんぼりの後半、二人で小さな喜びを確かめ合う聖域となった図書館が二回出てくるのは、なかなか面白い演出です。
前半はある意味『下げるために上げる』場面なのでキラキラしているのは納得なのですが、後半もそこまでライティングが変わらず、ポジティブな場所として扱われている印象。
結構やり込められたので引きずるかと思いましたが、お互い励ましあって前を向く形になったので、二人の聖域はいつでも『いい場所』として描かれるのでしょう。
ここで凹みを引きずんないのは、今風のストレスコントロールだなぁと思います。

一回目は小指を絡めたのに、二回目は身体接触無しで前向きになれるところに、キツい青春時代を一緒に乗り越えていくパートナーシップみたいのが見えて、風通し良く感じました。
男女の性差があるからこそ触りたくなる年頃なんだけども、そういう段階をススッと乗り越えて、人生を前に進めていく相棒みたいな空気が既に出始めているのは、面白いよなぁこのカップル。
お互い身体的距離を慎重に探る性質だからこそ、こういう関係も上手くいくし、他人のアイスを無遠慮にかじってしまう小夏ちゃんとの差も目立ちますね。


500円も自腹切って出版社に向かった小太郎くんは、純文学への期待はくじかれるわ、やる気もないラノベ『っぽいもの』を書くよう進められるわ、散々な目に会いました。
文学への過剰な期待で頭パンッパンになってる小太郎くんと、自分の仕事を『っぽいもの』と言ってしまう編集の対比が酷かったですが、小太郎くんの期待を乗せて走る東武東上線のキラキラ感が良かったですね。
編集から受け取ったそれなりの期待を象徴するラノベ詰め合わせを、よりにもよって『ゴミ箱』の前に置く辺り、オールドスクールな純文学が好きであり、そんな自分に特別感とアイデンティティを感じているのがよく判ります。

帰ったあとの両親の反応を見ると、どうやら父親には出版社に呼ばれた事情を話しているようです。
階段脇に本が溢れている様子からすると、父が相当な本の虫で、その影響を受けて小太郎くんも文学青年に、って感じかなぁ。
共通の趣味を持ち、現実よりも夢を大事にしてしまう父と、母親として当然の心配を強くぶつけ、その結果更に距離が空いてしまう母との対比が、なかなか残酷でした。
『ママンも、お前のことを思ってやで……』と言いたくなるけども、15歳だもんなぁ……そんなに広い視野なんて持てないよね。

ぶつかり合う安曇家に対し、水野家は家族一丸となって茜ちゃんのフォローに入る感じ。
お姉ちゃんの『ソッコーでゼッコーだよ!』が面白かったですが、兄姉のいる/いないとか、両親の年齢とか、細かい部分で対応に差が出るのは、きめ細かい描写といえます。
いろんな家族がいて、いろんな悩みがあって、いろんな喜びがあって、それら全てに価値がある。
こういう題目に意味を通すためには、やっぱ一貫した描写の積み上げが大事になるのでしょう。

小太郎くんが未来と現実、編集者という『外部』にぶつかったのに対し、茜ちゃんは中学最後の部活動という過去、親友と部活仲間という『内部』に衝突しています。
ここらへんの差異もまた、青春という時間には個々人個別の悩ましさがあり、それをじっくり切り取っていく姿勢を支える、細やかな視線といえます。
二人が悩んでいるのは別々のことで、でも共通するものでもあって、恋人という特別な関係になったからこそ、周囲の誰にも打ち明けられない思いを共有できる。
凄くちっぽけで、だからこそ本物で、一人では潰れてしまうそういう辛さを支え合える相手がいるのは、とても良いことだなぁと。
『もっと頑張る!』と決意する二人を見て、眩しく感じました。


学業と夢、恋愛と部活、恋人と親友、娯楽文学と純文学。
今回二人は様々な『両立』に悩んで、その全てに答えが出ません。
茜ちゃんは悩んで小夏ちゃんに交際のことを切り出すわけですが、『他人のアイスを食べる』子である小夏ちゃんは「ごめん、好きになって」という割に、「ちゃんと振られたいから、告白する」という爆弾を投げる。
編集者に凹まされつつ純文学に向かう小太郎くんですが、文学の匂いに酔っ払っているだけなのか、ライトノベルを軽蔑するだけでいいのか、詰めて考えることはしません。
進路の問題は母親だけではなく、園田先生も気にかけているところです。

不器用にしか生きられないカップルが直面する、様々な『両立』。
これを器用にこなせるようになることが『成長』なのかもしれないし、自分なりに決心を固め、覚悟を持って何かを切り捨てることが『成長』になるかもしれません。
それはこれから二人が、そして繋いだ手を話した一個人が向かい合い、答えを出す問題です。
その過程と結論こそが、恋と青春を切り取るこのアニメにとってはとても大事な過程の描写となり、また一つの結論ともなるでしょう。

二人を凹ませた今回は、いわば青春問題集から今後解くべき課題が出たエピソードと言えるかもしれません。
進路とか、恋愛とか、友情とか、未来とか。
キラキラしているけど一筋縄ではいかない、生々しい手触りを持ちつつ夢いっぱいの問題集に、彼らは今後も取り組んでいくでしょう。
その悪戦苦闘がとても楽しみだし、そんな彼らを助けたり壁になったりする人々の表情も、たくさん見れると思います。
このアニメはそういう広いレンズを使っているし、細やかな変化を見逃さない注意深さもありますし。


メインカップルに対比するように、陸上部の二人も話に食い込んできました。
最初に接触するときも、告白するときも、手を繋ぐときも、常にシャイでナイーブな距離感が描写され続けてきたので、無邪気で無神経な小夏ちゃんも、正しすぎて柔らかい部分を見落としてしまう比良くんも、『良い子なんだけどなぁ……』で止まっちゃうのが面白い。
まぁ泥沼の四角関係に腰までズブズブでも困ってしまうわけで、ライバルが勝てない理由を描写しつつ、負けるためだけに生まれてきた機能存在にはしないバランスは、非常に良いと思います。

小夏ちゃんは第2話の傷の治療からも判るように、細かい配慮が苦手で、思い立ったら一直線という声質を持っています。
見た目ほど周辺視野は狭くないんだけども、見えているものより自分の気持ちを優先して踏み込んでくる感じ。
だから、「ごめん、好きになって」から「ちゃんと振られたいから、告白する」が出てくるのでしょう。
自分の中のルールが明確で、それで他人を傷つけてもある程度はやむなし……ってタイプかなぁ。

そういう真っ直ぐさ、照れのなさが京都で小太郎くんを助け、茜ちゃんとの交際を実らせたりもしているわけで、明暗同居する彼女の『個性』なのでしょう。
茜ちゃんと小太郎くん、ナイーブな二人の繊細さがどういうピンチを呼び込んだは今回描写されていますし、強みも弱みも色々ある人間らしさというものを、このお話は温かい目で見守っているわけです。
告白爆弾がどういう炸裂の仕方をするかは読めませんが、どっちにしても小夏ちゃん『らしい』結果になると思います。
小太郎くんと茜ちゃんが非常に噛み合う二人だという描写が強いので、ドタバタはしても大きなダメージは無い……気がするなぁ。

小夏ちゃんとはまた別の無神経さを発揮しているのが比良くんで、気恥ずかしいからかそれが『らしさ』なのか、茜ちゃんの柔らかい部分への接触を見事にミスり、フラグを立てこなっていました。
後輩に慕われる爽やかで公明正大なイケメンだからこそ、ジメッとした内面ではなく、記録や結果といった外面をなぞって終わってしまった感じですね。
茜ちゃんがあんまり強力で成熟した、『正しい』自我を確立していないのはライナスのぬいぐるみをモミモミする仕草からも判るし、そういうナイーブな部分をゆっくり丁寧に詰めたからこそ、小太郎くんの彼女になったわけで。
比良くんの『正しさ』は基本的には強力な武器なんだけども、有効に働かないときもあるってことでしょうか。

茜ちゃんのハートを射止めた小太郎くんのナイーブさが、時間を遡って表現されていたのが電車賃を気にするシーン。
あそこであれだけ悩む『500円』を、小太郎くんは第3話で、茜ちゃんへの願掛けのために賽銭箱に投げ入れています。
理路整然としてはいない、池の中の月のようにあやふやな想いと願いのために『500円』を投げかけられる文学青年と、あまりに苛烈な『正しさ』を突きつけて茜ちゃんを泣かせるスポーツマン。
正直比良くんにあまりに勝ち目がなくて、残酷な描写だなぁと思いました。


というわけで、順調に流れてきた恋路が一旦歩みを止め、『両立』しなければいけないいろんな問題が立ちふさがる回でした。
厄介なアレコレは迂回したくなる面倒事ですが、それに向かい合って悩んだ時、何らかの答えを出した時、彼らの青春はより善い方向に進んでいくと思います。
小太郎くんと茜ちゃんが『両立』させなければいけない一番の対立は、もしかしたら『大人』と『子供』の中間点にあるかけがえのない時間、一回性の青春なのかもしれません。

アイスをかじるような気軽さで核弾頭をぶっ込んできた小夏ちゃんに、二人はどう対峙するのか。
目下のところ、これが一番気になるところです。
そういう目立つ爆弾に対処していく中で、また新しい問題と喜びが見つかって、彼らの時間は先に進んでいくのでしょう。
目に見えているものと、予想もしていないもの、両方で楽しませてくれそうで、期待が高まりますね。