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イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

正解するカド:第6話『テトロク』感想

存在するはずのない四角形の第五辺が世界を変えていくアニメ、新たなステージに移る第6話。
ワム製造法という爆弾が全世界に落ちた前回から、想像より穏やかだった爆心地を描写し、メインはサイコロのようにカドが転がっていく描写でした。
2m四方の四角形が東京を転がっていくだけなのに、異形のスペクトタクルを感じられるのは、つくづく絵の強さだなぁ。
合間合間に真道さんのプライベートも描かれていましたが、それが後半衝撃の展開に繋がっているのはなかなか面白いですね。

というわけで前半戦の折り返しになる今回は、『カド&ワム編』とも言うべきこれまでのお話をまとめていく感じ。
日本はマス・メディアによるワム技術拡散を選択したわけですが、製造可能な人間は現状限られ、いきなり全世界からコンセントが消える、とはいきませんでした。
一個一個の問題にこだわるよりも、順次爆弾を落としていって状況を変化させ、次のステップに移って展開を作る方式なんかね。
ここら辺のスタイルが、一辺一辺をゴロゴロ転がしてカドが移転する様子に妙に似てて、変なシンクロを感じます。

爆弾が落ちても世界は平穏で、国連安保理常任理事国も日本を突き上げるより、自国でワムを生産するほうに舵を切ったようです。
爆弾が落とされてしまった以上、消え去ってしまった既存の人間文化にしがみつくより、『カド以降』とも言うべき新時代に適応したほうが利益が多い、という判断なのかなぁ。
ぶっちゃけ世界全てをひっくり返す大変化なので、色んな所でいろんな変化が起こると思いますが、そこら辺は今後描写の合間に入れてくるのか、もはやメインではないのか。
ワムによって変質した人間社会の様相も楽しみたいので、チマチマでいいので見たいところですね。


んで、今回のメインは回転するカド。
警察に行政に建築会社、色んなところ総動員で狭山湖移転計画を仕上げ、実行していく感じでした。
特に問題もなくスルーっと進んでいくわけですが、巨大立方体がとんでもないスケールでゴロゴロ転がる絵を見るだけで、奇っ怪に面白い。
やっぱこのアニメで一番キャラが立ってるのは『カド』それ自体なんだなぁ、と思い知らされる展開でした。

カドが平和な東京を転がっていく描写は、良くも悪くも異方を受け入れてしまっている/受け入れざるを得ないあの世界の縮図なのかな、とも思った。
人間の認識力はタフなもので、不条理でシュールリアリスティックな存在や思想も、日常の中に取り込み同化していってしまう。
世界がワムという爆弾を受け入れたように、カドの移動を物見遊山しているように、異方をも『人間の世界』に取り込んでしまえる鈍感さが、あの光景には込められていた気がします。

しかしどれだけ親しみやすくとも、異方は異物であり、世界認識の根本的な部分からして異常。
オフィシャルに仕事しているときは漏れなかった、真道さんの違和感や疲労が、母親と対話している時に漏れてくるのは、なかなか面白かったです。
真道さんのプライベートはこれまで一度も描かれなかったわけで、メシ食って家族と話して、『普通の人間』らしいところを見せてきました。
油断し弛緩した部分だけが『人間』ってわけではなくて、これまで見せてきた優秀さもまた真道さんのヒューマニティなんだけども、移動するカドとおなじように別の側面が見れるのは、キャラをより好きになれて良いですね。


飯を食う。
家族と話す。
個人的な歴史を共有する。
異方から単独でやってきたザシュニナにはない部分を、今回真道さんは見せてきます。
父母から生まれ、家庭があり、様々な軋轢と個人史を持ちつつ群体としての基盤を共有する『人間』らしさ。
それは食卓を共にしつつも、パンを口にはしないザシュニナには遠い部分です。

そんな真道さんがブレインスキャンにより決定的に変質し、睡眠を必要としない新人類……異方と地球のハイブリッド的存在になっていることも明らかになりました。
交渉人として異方を理解することは、異方の異質性に侵食され、変質していくことでもある。
ワムを獲得し、有限性のカルマから解き放たれつつある人類ですが、社会構造だけではなく生得の身体性も変質するとなった時、それを受け入れられるのか。
ザシュニナの言う『次』は、そこが重要になってくる気がします。

異方を受け入れると眠りを失い、脳と意識が変質していくのならば、今回真道さんがまったり体現した『人間』らしさも、別のものに移り変わってしまうかもしれない。
人類を人間以上の存在にアップデートするザシュニナの目的が一体何なのかは、『次』の争点になるんでしょうが、お母さんが言っていた『一人で寂しくないのかねぇ?』という疑問は、案外確信を擦っている気もします。
『寂しい』という人間的感情が異方存在に当てはまるかどうかはさておき、ワムの製造に異方への理解が必要で、それが人間を変質させていくと、人類はザシュニナに近い存在になっていく気がします。

そういう変化を許容し変貌していくのか、はたまた既存の人のあり方にしがみつくのか。
国連安保理との政治的押し相撲では『変革』に軍配が上がったこの勝負ですが、ザシュニナの言うとおり進め続けていては、あっという間に『人間』はその定義を失っていくでしょう。

人間性の喪失(と再定義)が是か非かも含めて、ザシュニナが与える/奪うものに対し『これ以上は出来ない』と境界線を引くこと。
相手を理解しつつ完全には同質化されず、自己を保ったまま利益とアイデンティティを確保する交渉は、『次』からが本番なのかもしれません。
何しろ真道さん、人類の基底的変質でもトップランナーで、ザシュニナの人類変革で一番波ひっかぶってる存在ですからね……マジ他人事ではない。

このアニメは緊張感のある硬い展開の中に、人間くさい柔らかさを持ち込むのが巧いと思います。
笑いやしみじみとした日常描写の中に、『カド』が出現していない僕らの世界との共通点を見て、物語に近寄る足場にしている感じです。
真道さんと仲間たち、家族との描写もその文脈に位置するわけですが、同時にそれは『ザシュニナによる人類変革』というシリアスな本道によって、もしかすると押しのけられてしまう『人間らしさ』でもあります。
人の背負ったカルマを超越することは、善きものもひっくるめて古いものを捨て去ることであり、そこには友や母の記憶と温もりも含まれるかもしれない。
ここまでの交渉が順当に進んできた分、そういう危うさをザシュニナとカドが当然持っていることを思い出させてくれた『眠りの剥奪』は、インパクトの有るフックだったと思います。


というわけで、カド出現以来の六話をまとめ、『次』に続けるエピソードでした。
張り詰めっぱなしだった真道さんの一瞬の弛緩、母との穏やかな日々の残照が、最初の新人類になってしまった真道さんの衝撃を照らす形になったのは、緩急ついてて面白かったです。
ああいう弱さ……というか別側面をいい塩梅に見せられると、スムーズに進行していた異方との交渉を疑う足場になって、お話全体を見返す良いきっかけになりますね。
『もしかするとママンとの思い出、関係も変質するかもしれないけど、それでも異方を受け入れていくの?』という。

ワムによる無限エネルギーの『次』は、心と体の結節点でヒューマニティを問う展開になりそうです。
失われてはいけない私自身を、交渉に巻き込まれる中で変質されつつある真道さんは、今後どう動くのか。
エネルギーと社会のみならず、より個人的な心身をも変質させるとわかった時、人類は異方をどう受け止めるのか。
ペーソスとスペキュラティブネスが交じり合うこのアニメも、『次』へと向かうようです。
楽しみですね。