『やがて君になる(仲谷鳰、電撃コミックNEXT)』1巻から3感までを読了。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
誰かの特別になることに実感がわかない少女と、失われたモノの再誕を己に任じ続ける少女との、凶暴な衝突の軌跡。甘くコーティングされた毒薬、苦味を装った純情。情景の分解度が圧倒的に高い、センシティブな漫画。
お話としては、高校一年生の主人公が高校二年生の先輩と出会い、恋…という言葉でまとめてしまうにはあまりにグロテスクで、むき出しで、熱のある関係になっていく物語だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
いわゆる『百合』ジャンルにあたるのだが、この言葉色んな方向に使われすぎてて焦点がぼやけるので、あんま使わんようにする。
女と女の特殊性に接触しつつ、この話は恋が生まれる根源を、鮮烈な切り口でえぐってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
世間では恋をすることが当たり前で、そうでないものは心を凍らせたロボットのように扱われているけども、では恋にときめくことが出来ない私は人間モドキなのか。主人公・侑が足場を置くのはまずそこだ。
未だ自分を確定できず、かと言って何も知らないままでもない。高校一年生という時間と身体がまずあって、そこで女と出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
ジャンルのお約束にもたれかからない、繊細で隠微な己への疑問、もしくは欲求から出発する筆は、誠実で繊細だ。自分がわからないけども、分かりたいと思う。エラーとしての心
恋がわからない、自分がわからない侑を、完璧な女が求めてくる。それは、侑が恋がわからないからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
自分ではないと感じつつも、失ったものを取り戻すために選び取った完璧な外殻。その中にあるもろく弱く、揺れる心のある当たり前の人間を受け止め求めてくれる存在は、凍りついていなければいけない
体温があるものは皆、私を求める。それは、求められうる私、価値のある捏造された私であり続けなければいけないという呪いだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
完璧な外殻を選び取ったことが、愛ゆえの祝福であり、血みどろの再獲得でもあることが、後半分かってくる。その癒着した心理が見事だ。愛はきれいなものではない。
凍りついた少女と、殻に篭った少女。二人の接触は一方的なようでいて、恋というものが当然そうであるように、体温を伝え合い、変質を生む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
特別であることがわからなかった少女は、自分の気持ちがわからないまま/目をそらしたまま、口づけでとろかされていく。ロボットが人間になっていく。
特別を知りたい、恋に胸をときめかせてみたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
成長への願望を口にしていた侑は、いざ心の氷が解けてくると必死に足を止める。確定した自分でいること。不完全な人間モドキという自己認識を強化していくことを望み、変化の不安を飲み込まない。
その臆病は、思春期の普遍的な震えを伴っている。
七海もまた、自分を好きにならない侑を愛しつつ、一方的に体温だけを与える恋を維持しようとする。未熟なロボットであり続けることを、愛する女に押し付ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
私を好きになって/好きにならないで/嫌いにならないで。
日常の分解能では同一化される感情の肌理が、青春の中で拡大されていく。
体温を与えられつつ奪われ、変化しつつ停滞する。揺らぎ続ける気持ちを切り取る細やかさは圧倒的で、美麗だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
独楽のように、惑星のように周り続ける二人の恋が、どのように落ち着くのか。それと同時に、どのような軌跡を描くのかという過程それ自体が、あまりにも美しく興味を引く。
変化したい/停滞していたい-孤独でいたい/触れ合いたい-理解したい/断絶したい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
様々な欲望の潮汐力で引き裂かれている彼女たちには、たくさんの障壁がフェティッシュとして立ちはだかる。河の中の飛び石、ガラス窓、横断歩道。抱擁すら、相手が他者であると確認するための切断面であるような。
それでも、伸びていく背丈に導かれるように張り裂けていく心のなかで、誰かを求める気持ちが疼くのなら。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
自分ではない誰かが、特別に私を変えていくことの奇跡に怯えつつ薄目を開けるのなら。
それはやはり、呪いであると同時に祝福で、個々別々の顔をした一つの恋なのだ。
人間の弱さ、どろりと重たい感情の総量に足を取られつつ、美しい世界を信じ切り取ってくる筆の確かさが良い。繊細なタッチ一つ一つが、青春という美しい時間、恋という麗しい感情のハラワタを切り裂いてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
その奥には、腐臭だけではなく輝きもまたあるのだという、作者の食いしばりを感じる。
いい漫画だなぁ、と思う。面倒くさい人間二人を主役にどっしり据えつつ、彼女たちを取り巻く女と男を舞台装置に落とさず、一尊厳と醜さを持った一個人として描いているのも良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
ロマンスらしく、変化の主因は恋にあるが、それ以外が排除された世界というわけではないのだ。漫画の視界が冷静で広い。
その上で、青春という時間、人間が持ちうる感情に深く深く潜っていく作品の体温は、湿って熱い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
切に変化を求めつつ、壊れて在る事を望みもする、カルマに囚われた十代。その行く末を、最後まで見守りたいと思わせるお話だ。途中乗車だが、作品世界に乗り込めて良かったと思う。
追記
やがて君になる追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
この漫画にはジャンルの定形をしっかり抑え、思春期の繊細な感情の交錯、透明感を捉えつつ、そこからはみ出した緊張感がある。
何かが内破してしまいそうな、関係性と自我の表面張力ギリギリで保たれた水球のイメージ。むしろそれこそが『百合』だ、という声もあるだろう。
それはキャラクターが軒並み、類型を踏まえた外面の中に、たっぷりと荒れ狂う怪物を飼い殺している故だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
無感情な仮面の奥に、迸る熱を。完璧な生徒会長の裏に、死霊に取り憑かれた狂奔を。完璧な補佐役は恋慕を閉じ込め、無害な『女の子っぽい男』は恋を蝶の標本のような目で見る。
日常の奥に狂気が隠されているのか、はたまた日常なるものは常に狂的なのか。様々な場所、様々な領域で侵犯される境界線は、表面上何事もなく緩やかに流れる日々が、非常に危ういバランスの上で成り立っていることも示す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
一雫感情の配合を間違えてしまえば、全てが更地になりそうなニトロの危うさ。
サイコホラーのような…と描いてしまえば、狂気が『主』で日常が『従』という政治的距離感が確定してしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
しかしこの漫画の中で切り取られる日常は、狂気と張り合えるほどに強く、それゆえに狂気を増幅させていく。青春とは(もしくは生きるとは)、感情の猛獣を体内に飼う季節なのかもしれない。
人として当たり前の、暖かで柔らかい感情。恋、変化、成長。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
その温もりを体熱と粘液の交換とともに切り取りつつ、その奥/もしくは表面に支配や、束縛や、停滞といった淀みが渦を巻いている状況を、この漫画はずっと監視し続けている。
解き放たれれば何もかもを壊してしまう猛獣を、女と女は抱えつつ日常を演じ、抱擁を擬する。それは愛の一つの個別のフォルムであると同時に、矛盾を抱え、そのエネルギーを生と死に向かう燃料に変えながら走っている人の有り様へと、性別を越えて/巻き込みながら疾走している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
女と女の関係性にどっしりと腰を落としているからこそ、その鋭利な切っ先が普遍へと到達する。そういう熱量と冷静さが、この漫画にはあると思う。年齢も性別も違う彼女の物語が、『僕の話』だと思えるのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
同時に、あまりにも深く湿った場所を発掘する筆は彼女たち個別の物語でしかありえないのだが
何かと『特殊性癖』で片付けられてしまいがちな『百合』というジャンル/カテゴリー/檻から、その檻の中にあえて身を置くがゆえに力を弛めた感情の猛獣が、こちらを睨みつけている。檻をするりと抜けて、喉笛に噛み付く。『これはお前の話だぞ』と。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年5月19日
そういう凶暴な漫画が、僕は好きだ。