イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

正解するカド:第8話『タルネル』感想

加速していく人類新世紀物語、見るだけで認識を変化させる概念装置に向かい合う第8話。
相変わらずブッチギリにあざとい徭さんとのデートを軸に、進化を促進させるメディア企業と、自力での変化を望む一個人、それぞれの主張を切り取っていく回となりました。
あまりに高速で展開する変化を前に、徭さんの思いだけではサンサ拡散を留めることはかないませんでしたが、真道さんを交渉のテーブルにつかせる交渉には成功、と言った感じですか。
さて、四つ目のデバイス登場を前に事態がどう動くか、という感じですか。

というわけで今週も、世界は凄まじいスピードで変化していきます。
逡巡もありつつ、SETTENはメディアを通じて変化を拡散する方向を選び取り、25億の人類が異方の認識を手に入れました。
国際先進企業ゆえのスピード感と企業体力で、一気に事態を押し切った感じがします。

その疾走(暴走?)に内部から疑問を呈する人もいたわけですが、後ろを向いて立ち止まろうとする彼らの意志よりも、言野さんとアダムCEOが代表する変化への意志が競り勝つ形に。
言野さんたちの先進主義と、歌丸さんが代表する慎重意見、どっちにも理があり危うさがありって感じなんですが、異方による変化の速度は人類にじっくり考える時間を与えてくれない感じなんですよね。
全てが凄い速度で転がっていく中で、確信がないまま何らかの決断をしないといけない、というか。

アダムは『後退はいつでも出来る。今は異方の力を借りて、人類を前進させよう』と言ってますが、本当にそうなのか。
産業や文化、経済がもたらす変化と利便を経験してしまうと、人間は早々簡単に後戻りはできないというのは、僕らの周辺の世界を見渡せばいくらでも証拠が出てきます。
加えて、サンサは人間の認識を根本的に書き換えてしまうため、『異方的な認識をする/従来的な認識をする』というスイッチが当事者に与えられているとはいえ、認識される世界や認識によってなりたつ自分自身を、知らぬ間に書き換えてしまうものではないのか。
取り返しのつかない可能性を、言野さん達はあえて飲み込み踏み込んだ形ですが、それが正解なのか、否か。
それは今後、サンサが変えていく世界の描写を見ないと判断がつかないところです。

徭さんが魂のふる里として見せた飾り金具は、『後退はいつでも出来る』はずの世界で顧みられなくなり、廃れつつある技術です。
それがいかに美しく価値があるモノでも、人は新技術や異方といったセンセーショナルな最先端に飛びつき、過去を置き去りにしていく。
サンサによって変化した認識がそういう性質を促進するのか、はたまた別の方向性をつくっていくかは分かりませんが、『後退はいつでも出来る』は非常に(もしかすると過剰に)冒険的で、人間の可能性を信じた決断だな、と思いました。

まぁ、未知の領域に投機し、新技術でシェアを握ってきたからこその時価総額百兆円でしょうし、後ろを振り返る選択肢は言野さんがSETTENに移籍した時点でなかったのかもしれません。
危険を踏まえた上で、あえて新しい道に飛び込んでいく開拓者たちが、異方到来という世紀のイベントで先頭を走るのも判る。
話全体として、わりと改革派が勝ちやすいセッティングなのかなと思いますね、犬束総理とか見てると。

どちらにしても、言野さんたちは賽を握り、隠さず放り投げることを選んで全世界にサンサを報道した。
ジャーナリスト・言野匠の『情報は公平に公開され、共有されるべきだ」という強い信念が、25億の人間を別のステージに引っ張り上げたという事実が、今回の結果です。
その結果がまた原因ともなり、世界は変化していくのでしょう。
来週以降そこら辺の具体的な描写は、やっぱ欲しいところですね。


言野さん達が凄まじい意思決定スピードで進む中、世界で一番有名な交渉官は、ゆったり一日デートしてました。
前回は異方存在とお祭りデートして、今回は外務省キャリアの実家行ったり水族館行ったりして、来週は異方存在と酒盛りと、真道さんデートばっかしてる気がする。
ともあれ、徭さんと腹を割った一日を過ごす中で、慎重派の意見を胸に納め、もう一度ザシュニナと話し合う姿勢が生まれてきました。
真道さんはここまで異方革命の最前線にいたわけですが、折り紙趣味やらゼロ話での職人技術愛好家っぷりやら、足を止めてじっくり進んだり、古臭いものが秘めた良さを見つけたりするの、相当好きですからね。
総理も期待をかけていたように、全ての柵から解き放たれ、先進と保守両方に接触し、色んな意見を取り込んでいく立ち位置なのかも知れん。

徭さんが真道さんに自分を見せるデートは、同時に僕ら視聴者が徭さんを知っていく足場でもあります。
私服のセンスが壊滅的(『くり』の衝撃が大事な話を脳から押し出していく……)だったり、家族含めて愉快な人だったりするだけではなく、昔気質の家を愛し、人間が(これまでの)人間の尺度で進んでいくことを大事にする価値観の持ち主だということも、今回見えました。
自分が愛する人、愛する風景を共有してもらうことで、自分の立場を真道さんに心から分かってもらう作戦には温もりがあって、視聴者にもよく刺さる交渉術だったと思います。

クラゲが人になるまでの道のりは長く、のんびりとしていて、人意が介在し得ない、異方とは縁遠いものです。
今回セッテンをめぐり、二人のデートとは離れた場所で果たされた決断とは正反対なわけですが、だからこそあの決定が取りこぼしてしまう(かもしれないし、そのことは十分以上に考慮されなければいけない)ものを、しっかりすくい取っていたと思います。
真道さんのお母さんとの会話もそうですが、日常の風景に埋没しない存在感がある絵を選び取って、『なんかいい雰囲気だな』と思わせて話を飲ませていく演出法、僕は好きですね。
水族館と飾り金具はなんかこー、いい感じだった。

徭さんが大事にしたい価値観と、それを守るための慎重な足取りは、ザシュニナが持ってきた(もしくは押し付けた)変化に対峙するには、あまりにゆっくり過ぎるかもしれません。
しかし生活感溢れる下町描写、じっくりと流れるクラゲの時間を、真道さんと一緒に僕らも過ごす中で、彼女の願いと危惧はなんとなく、でも確かに伝わってきます。
急速過ぎる変化が取りこぼしてしまうものを大事にしたいという気持ちは、絶対に間違いではないし、同時に革新の時代に向かい合う最善手でもないでしょう。
だからといって、そういう思いを持つ人々がいて、彼らもまた世界の構成要素として尊重されるべきだという事実が、消えてなくなるわけではない。
異方による世界変化は、それを望まない人もひっくるめて人類全体に波及するものであり、意思決定の当事者たちはそういうものを踏まえながら、決断をしなければ誠実とはいえないでしょう。

では徭さんの後ろ向きな愛着を、ザシュニナは理解・共有できるのか。
どんどん人間っぽくなりつつ、やっぱり異質な存在であり続けているザシュニナには、『正解』から島ざかり変化を拒絶し停滞を選ぶ(ように見える)徭さんの生き方は、許容できないものかもしれません。
しかしザシュニナと世界の間に立つ真道さんは、同じ交渉官として、異方問題の政策当事者として、古いものが好きなトンチキ人間として、徭さんの思いを汲んだ。
彼が徭さんの想いを運ぶことで、圧倒的な強制力を持った異方が、ちっぽけで後ろ向きな人間のノスタルジーを(理解や共感はしないまでも)把握し、それを踏まえて人類革新を行っていくようになる可能性が、今回開かれたんだと思います。

真面目ぶった顔でテーブルに座って行う形ではありませんでしたが、今回徭さんが行ったのは紛れもなく交渉であり、真道さんに自分を理解してもらい、そんな真道さんを自分も理解していく過程でした。
それは恋とも似ているので、ラブ・コメディめいた空気で展開したのかもなぁ、とちょっと思う。
やっぱ僕、このアニメの笑いの作り方好きだな。


さておき、時代に取り残され消えていってしまうモノへの愛情、慎重な自分を生み出した故郷を見せてくれたことで、徭さんはより好ましいキャラクターになったし、それに動かされて生まれた真道さんの行動にも、分厚い納得が生まれました。
恫喝するでも、自分を押し付けるでもなく、ただ自分の想いを共有してもらうべく素敵なデートを作り上げた徭さんの交渉術は、変化球ながらきっちりストライクを取ったと思います。
こういう寄り道(に見える本命)で大事なものを見せてくるのは、やっぱ好きだ。

それを受け止めた真道さんがどう動き、ザシュニナとどのような交渉を見せるか。
革命の速度で世界に拡散した異方の認識は、世界をどう変えていくのか。
第四の爆弾は、人間社会のどのような部分を書き換えるのか。
色々気になるところがありつつ、来週も楽しみですね。