ID-0を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
消え行く命と英雄の決断。全宇宙の命運をかけた決戦と、冴えない宇宙炭鉱夫会社。河岸は別れつつ、イドとアダムスがそれぞれの運命を選び取る、最後の決断の回。
命の扱いを大事に進めてきたアニメらしく、生と死の間でいろいろなものが見えてくるのが面白い。
かたや世界的大企業の社長、かたやしがない宇宙炭鉱夫。ケインとアダムスの社会的立場も、記憶も、価値観も、運用可能な能力も、それぞれに異なっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
今回二人が『自分と、命とは、人間とは何であるか』に出した答えはそれぞれ異なる。それがIdentityということでもあろう。
イドはケインという肉体、その記憶を拒絶はしないが、同時に唯一絶対の本物だとも言わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
人類が生まれたときに与えられるタンパク質の身体だから。それに伴う記憶と価値観だから、無条件に価値を持つわけではない。そういうリベラルな判断を、自分の期限を思い出したイドは改めて選び取る。
機械の身体、ゼロから積み上げてきた価値観。僕らが見守り、親しんできた『宇宙炭鉱夫のイド』こそが今の自分であり、過去に失われてしまったケインにIDを預けても、得るものはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
ここら辺、宇宙軍提督の『亡霊を追いかけても意味がない』ということばと、不思議に重なってくる。
生身であること。私であること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
そこに固執し、歪みきってしまった結果が有楽翁の生き様だ。
クローンに寄る不死に伴う、38%の喪失。ケインが特異体質で免れてきたIDの喪失により、『永遠に私であり続ける』という意念に支配されてしまった亡霊の姿は、いびつで醜い。
コピーを重ねるうちに理念は劣化し、身体の起源は失われ、『オレはオレだ』という強い意志は消滅、あるいは変質してしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
イド=ケインが力強く拒絶した(あるいは拒絶することを許された)、人類の醜い性質。それに押し流された結果が、有楽翁と奇蝶の老人と子供をパッチワークした身体なのだろう
『不自然』という意味では、エバートランサーの鋼鉄の身体も、メトセラの生身もそう代わりはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
人間の可能性を拡大し続ける技術は、人間という存在が本来的に持っている美しさも醜さも、常に拡大し続ける、ということなのだろう。IDはテクノロジーによって劣化し、あるいは再発行されるのだ。
既に迷いなく答えが出ているイドの決断に比べ、それを後押しするマヤの未熟さがしっかり演出されていたのは、とても面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
流れでエスカベイター社に入り、『自分はアウトローなんだ』と開き直れないまま様々なものを学んできたマヤ。そんな彼女への最終試練が、今回連続して課せられる。
冒頭、『撃たれたケインの命とその過去、どちらが重要でしょうか?』という問題から始まるのは、このアニメがずっと『救命』を大事に描いてきたことを考えると、とても感慨深い。答えは当然『命』だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
今回のマヤは悩みつつも決断力に溢れ、ガンガン話を先に進めていく。頼もしい。
今回投げかけられる問いは過去の物語の残響でもあって、『目に映る全てを救いたい』という理想主義は、かつてマヤが巧く説得力を与えられなかったものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
イドの決断をマヤの迷いが際だたせるように、グレイマンの憎まれ口がマヤの変化を強調するのがとても面白い。これまでの資産が生きている。
『何かできることがあるはずだ』というマヤの問いかけに、グレイマンは『俺たちしがないチンピラに、できることなんてねぇ。英雄を気取るな』と答える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
それに対し空疎な精神論ではなく、『イドが持っているはずのソリューション』を打ち出し、自分の望む答えに近づいていくマヤ。
理想(Idea)だけでも、理想を失ってしまっても、人が守るべき輝きはかんたんに変質し、劣化してしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
イドやアダムスやメトセラ達が示したこのルールは、当然マヤにも適応される。過剰な理想に押し流されかけていた元学生は、アウトローの流儀を学び、まず現実的な対応策を示す生き方を学んだ
もしグレイマンの『現実的な生き方』を自分の答えとしていたら、宇宙は二億人からやり直しだ。しがない宇宙炭鉱夫が世界を救うためには、マヤの過剰な理想主義が、彼女のIDが必要だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
『俺達は話の主役じゃない』とうそぶくおかげで、『私達が主役なんです!』と叫ぶマヤの声も大きくなる。
キャラクター間、話数間で描かれる呼応が作品のテーマを削り出し、生き様を磨いていく。これまでずっとやってきたことがクライマックスを迎え、より強く、深く進行していくのは、見ごたえがあるし嬉しいものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
ファルザがイド復活で大興奮してるところとかな。やぱ面白い生き物だなアイツ。
グレイマンが『それはケインの意思か、イドの願いか』という大事な問を投げ、『イドです』と返ってきたら即座に信用するところも、凄く良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
一旦『家』を共有した家族は、とことんまで信頼し切る。そういう在り方がグレイマンのIDだということも、これまで重ねてきた描写だ。
かつてケインがイドの身体に流刑された時、そこには憎しみと当惑、劣化があった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
今回マヤがイドの決断を、過去の真実よりも現状肯定を後押しした時、涙はあれどそこには祝福があるし、その後起きるのは本来の自分の再獲得だ。ここらへんの対比も面白い。
過去にあった『本当の自分』に過剰に固執した時、たとえばバックアップでしかなく身体も喪失しているリックのIDは、どうやっても価値を再獲得できない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
イドはあくまで自分の決断として、かつて選び取り、行動で証明してきた『今』を肯定したが、それは家族それぞれを肯定することでもあるのだ。
そんなイドの決断は、それを止めないマヤの決断で後押しされている。冒頭マヤが守ろうとした『命』は、イドの選択で失われてしまう。ケインの身体を守ることがすなわち、『命』を守ることではないからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
あそこで過去にしがみつき時間を浪費していれば、最終決戦には間に合わない。
ケインの『命』を捨て去ることでイドのID…決断を生み出す価値観と行動の積み重ね(ロマンチックにいうと『魂』)を守る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
これはこれまでの救命描写の軸線上に乗っかりつつ、そこから半歩踏み出した描写だ。これによりマヤの変化も、作品全体の深化もわかりやすく描けている。
そして本格登場以来、その圧倒的なキャラクターで話を盛り上げ、掘り下げてくれているアダムスもまさに絶好調である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
エゴイズムと社会性両方に足場を持ち、高潔な自己犠牲と危険な妄想を両立させる、あまりにも人間らしい機械。ただの悪役で終わらない魅力が満載で、非常に面白い。
世界の要人として『ただのしがないアウトロー』とは違う世界を生きているアダムスは、常に広い(広すぎる)世界にアプローチしようとしてきたマヤの対比物だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
マヤには出来ない救済は、世界の王たる彼には可能だ。それは傷ついた自尊心を満足させるエゴであると同時に、否定しきれない徳でもある。
宇宙規模に肥大し、歪んでしまったアダムスの自我を反映するように、巨大な宇宙船、そしてウィルスと化した自分自身が今回顔を見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
叙事詩の英雄のように世界を救済し、人類発展の歪みを受け止めて死んでいく。自己犠牲であり、自己慰撫でもある複雑な行動も、テクノロジーによって支えられている
プラズマジェット発掘兵器で、オリハルト・コアに複製した自己を送り込む。命知らずなアダムスの決戦法。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
それは、宇宙炭鉱夫であるエスカベイター社のメソッドの、歪んだコピーであったりもする。危険を承知であえて飛び込むアウトローと、過剰にコピーして使い捨てる富豪の生き様。
主役たちの輝きを歪ませつつ、メトセラを『社会の寄生虫』と断じ、世界救済のために鉄火場に立つアダムスの姿は、それ自体が不思議な強さを持っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
イドが選ばなかった『みんなのための生き方』を、アダムスが(歪んでいるとはいえ)実現していること、それで救われる命があることは否定できない
ラジーブは学習し、進化する。イドが経験によって学んだケインの戦法の穴に、アダムスは気づかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
それはアダムスがケインを過剰に信頼し、疑うことなくコピーしすぎた結果だ。ケインを超える英雄を目指し歪んでしまったのに、その根本にはケインがいる。非常に皮肉な話だ。
アリスの『やめて!』という叫びで本当にやめちゃう辺り、やっぱアダムスって根本的に善人だし、個人的な痛みに共感できてしまう優しい人なんだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
だからといってその歪みが肯定されるわけではないが、おんなじように否定もできない。彼の生き様が最終的に決定されるまで、未だ1話ある。
ケインの身体と記憶を振り捨て、『オレはオレだ』という結論にたどり着いたイド。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
それと同じように、アダムスも過剰なコンプレックスを捨て去り、『みんな』のために文明を守り、命を救おうとした生き様…IDに帰還できるか。最終話はそこも、個人的な見どころだ。オレ、あの人好きなんで。
…ここまで書いて思ったんだが、ラジーブの学習特性もまた、IDを書き換えることができる可能性、その描写の一つなんだろうな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
理由もなく襲い来る敵役もまた、自分が何者であるかを選択し、他者からの押しつけを弾く強さを持っている。だからこそ強敵足り得るという描き方は、公平だなぁと思う。
そんなラジーブの厄介さを、第6-7話の具体的エピソードを通じて、イドと一緒に視聴者も『経験』出来ているところとかも、凄く好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
アダムスが知らず、僕らが知っていることが、イドがこの話の主役足り得る大きな足場になる。
この運び方は凄く強い『歯ごたえ』を、物語に与えるのだ。
かくして、ここまでの旅路で問われたモノ、手に入れたモノ全てを動員し、イドとマヤは『己は何者か』という問に答えを出した。IDを見つけ、証明した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
そういう話が最終決戦前にちゃんと入るのは、やっぱ良いな、と思う。自分たちが何を描いてきたのか、ちゃんと把握して活用してるってことだもの。
そして問いはまだまだ継続中だ。『しがないアウトロー』には関係ないはずの、世界規模の破滅。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
『オレはオレだ』と定めた男が、未曾有の危機を前にどういう結論を出すか。物語の渦が主人公を軸に回転する時、ライバルもヒロインもまた生き様を見つけるだろう。次回ID-0最終回、非常に楽しみである
追記
ID-0追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
ファルザの『よく価値観わかんねぇけども、なんかこっちに好意を持っているらしい不思議なイキモノ』っぷりが大好きな視聴者としては、今回目立っててよかった。
あの子が仲間にいることで、エスカベイター社の多様性がうまーく担保されてる気がすんのよね。
あとメシア願望満載のアダムスが頭を撃ち抜いた後、露骨に『磔刑』の姿勢で宇宙を漂っているところとか、メッセージがわかりやすくてよかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
彼が本物の英雄となるか、黙示録の偽メシアとなるか。個人的にはちゃんと報い、歪みを正してやってほしいところだ。あの人頑張ってるってマジ。
アリスをさらっておいて、研究するだけして感謝までする辺り、ほんと善人だな、と思う。ふつー悪の親玉なら実験とか改造とかすんだろ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年6月19日
そういう人間に『お前の狙ってた女のコブ、俺が取ったぜ?』って言うのは…博愛主義の歪んだ鏡、乗り越えるべき超エゴイストは、憧れの親友でもある。ハードだなぁ