イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

活撃/刀剣乱舞:第3話『主の命』感想

時の理か目の前の命か、剣閃の先に倫理を追い求めるタイムトラベラー・ブレイドテイルの第3話であります。
第1話から続いてきた幕末防衛戦が決着を迎える話で、陸奥守と兼さんの関係、歴史と人命を巡る悩みにも一つの答えが出る感じ。
戦いと調査、刀剣男士のプロフェッショナルな使命を果たしつつも、果たしてそれが何に繋がり、何のために剣を振るうのか。
活撃が見定めているヒロイックな物語を、しっかりと掘り下げるエピソードだったと思います。


今回はサブタイトルが非常に優秀で、『主の命』という三文字で見事にエピソード全体を圧縮しています。
『命』は様々な意味合いを持つ漢字ですが、今回重要なのは『生物の生きる力』としての『命』と、『目上からの指令』としての『命』、二つの対立と融和になります。
『生命』と『使命』、それぞれを『最も大事なもの(これも『命』の意味の一つですね)』として行動する陸奥守と兼定の間にはギャップがあり、それが対立を生む。
一度は別れた二人の道ですが、間を取り持つ国広の活躍もあって、両方を守ることが審神者の佩刀としての『命』なのだと了解し、隊長と隊員としての絆を深めることになります。
土方歳三坂本龍馬、幕末において佐幕と維新に別れた主が成し得なかった共闘により時間遡行軍を打ち倒した二人は、審神者という新たな『主の命』の意味を再確認し、第二部隊の戦友として新しい戦いに向かうのでした、と。

陸奥守が目の前で散っていく命を無視できない男だというのは、第2話の攻城戦で強調されていた部分です。
タイムトラベラーの『使命』として、歴史年表に刻まれている無味乾燥な死者数を守り、歴史を改変させない重要性を頭ではわかりつつ、一個一個失われていってしまうかけがえない生命、それが成し遂げたかった儚い願いを、見捨てることは出来ない。
危うい部分もあるんですが、この陸奥守の純粋さと真っ直ぐな気質は、僕はとてもヒロイックで好きです。

今回も刀剣男士で唯一、爆破される蒸気船という『現場』に飛び込み、救命活動を行います。
その時流れる赤い血は、彼が現地の人間と同じく痛みと『命』を持っている証明であり、これを共感の足場にして、陸奥守は目の前の『命』一つ一つを救おうとする。
溺れかけたおじさんをレスキューした時、水に濡れて髪のセットが乱れ、血が洗い流されるのは、現地人の救命が彼にとって救いであること、その時彼は刀剣男士としてではなく一人間として活動していることを、巧く示していました。

しかし刀剣男士は感情と尊厳を持った一人間であると同時に、超越的な力を持ったタイムトラベラーでもあります。
歴史に『死』と刻まれた人間を救うことは倫理的な行動ではあっても、『歴史改変阻止』という大義を損なう危うい行動にもなり得る。
ヘアスタイルを崩し、無防備な顔を晒した陸奥守は極端に現地の人間によりすぎて、バッチリ髪型を決め『いつものスタイル』で戦い続ける自分の『使命』を忘れがちになってしまいます。
『目の前の命を助けたい』という純粋な願いの尊さだけではなく、危うさにも注意を向けて話を進めていくのは、刀剣男士の複雑さを際立たせる作用も生んでいて、とても良いです。


更に言えば『命』とは、ただ生物学的な生命活動を意味しているわけではない。
『宿命』として何時かは必ず死ぬ人間にとって、大義に殉じ為すべきことを為すことが、ただ生きながらえるよりも大切な瞬間というものがあります。
幕末の激浪に身を投じ、義のために命を燃やそうとする浪士と同質化することは、ただの調査の枠を超え、陸奥守が『命』のなんたるかを学ぶ機会でもあるわけです。

赤い血が流れないよう『命』を守ることだけが、時の異邦人たる刀剣男士の『使命』ではない。
限られた時間の宿命に囚われつつも、必死に生きた尊厳を歴史に刻む手助けをすることも、人に似ていながら人ではない彼らの『使命』なわけです。
浪士に『命とは』『主命とは』『刀剣とは』と問い続ける陸奥守は、その実自分自身の悩みをぶつけ、答えを得ようともがいているわけですね。

戯画化された暴力集団でも、歴史の潮目を読めなかった愚か者でもなく、自分と同じように大義を背負い、主命に殉じ、刀剣を握って戦う一つの命。
浪士をそういう存在として認める際、『握り飯を手渡される』描写が入っているのは、非常に良かったです。
第2話でコミカルに使われていた、陸奥守のご飯好き。
あの時は蜻蛉切との距離を縮めていた拘りが、形を変え主客を入れ替える形で、思わぬ相手からやってくる。
『こいつも俺と同じように、血を流し飯を食うのだ』と納得してしまう……いわば『相手の目を見る』ことで、陸奥守は浪士が抱え込む『命』がただ生きることではなく、尊厳を守り通し生き抜くことなのだと納得するわけです。
付喪神である陸奥守にとって刀剣とは己自身でもあるわけで、『刀は武士の命』と言い切る浪士とは、そういう部分でも同一視が強まります。

失われる命一個一個を救おうとする救世主願望は、神ならぬ陸奥守には実現不可能な夢だし、刀剣男子としての使命にも反している。
年表を書き換えぬよう、運命の世知辛さを飲み込みながら、刀剣を奮って人間の尊厳を守ること。
その世知辛さも引っくるめて飲み込めるようになることが、陸奥守に必要な変化であり、今回のエピソードは彼をそこに導く道程と言えます。
そして兼定もまた価値観は違えど、同じものを追い求める仲間なのだと納得することで、同じ主を戴く戦友だと認め合い、結束を深めることにもなる。
幼く危うい、そして熱く正しい陸奥守の思いを、巧く迷わせ導く展開だったと思います。


『生命』よりも『主命』に重きをおくように描かれている兼さん(と薬研くん)ですが、彼らだって人間の命を軽んじているわけではない。
血を流す犠牲者を前に立ちすくむ蜻蛉切に声をかけ、『命を救う』医術を発揮する薬研くんの描写は、非常に象徴的です。
『主の命令だからな』を口癖に、バトルマシーンとしての冷たさが強調されていた薬研くんが実は、人間の血と尊厳を守りたい思いと、それを可能とする能力を持っていることを示しています。
刀剣男士はただの人斬り包丁ではなく、人間の姿かたちと自由意志を与えられた、自律的存在。
『正しい歴史を守れ』という主命にだけ従うのであれば、歴史に関係のない木っ端人間の命なんぞ見捨てれば良いわけですが、薬研くんはそうしないわけです。
それでもなお、夕日に染まる浜辺のシーンで最も奥まった闇の中にレイアウトされている薬研くんの内面は、今後しっかり描写されそうな予感がしますね。

兼さんもまた、現場に飛び込み血を流した陸奥守とはまた別の形で、蒸気船爆破という悲劇を乗り越えるべく奮戦している。
情報を集め、時間遡行軍の狙いを看破する、距離があって冷静な戦いは、リーダーである兼さんだけが突破できます。
陸奥守がホットに前に出て、兼さんが(持ち前のホットさをリーダーという地位で押さえ込みつつ)クールに振る舞う対比は、役割分担の凸凹が面白さに直結するチームモノとして、優れた描写ですね。
やっぱ硬軟冷熱、色々あったほうが対流が生まれて、お話がスウィングするな。

第1話で人命救助をやっていた兼さんにも、陸奥守的な『生命』尊重主義は宿っている。
ただリーダーとして全体を見なきゃいけない立場と、危ういほどには熱くならない性向が合わさって、兼さんは自分たちが何故戦い、何を為すべきかを常に考えています。
その結果として、人間が織りなす儚い運命を尊重しつつ、それを時間遡行軍に汚させない戦いを冷静にやりきる、『主命』尊重主義を選んでいるのでしょう。
その思いは『人間の思いを踏みにじるな!』と激怒した陸奥守と通じるものであり、堀川くんが『二人はよく似ていますね』と評したのは慧眼なわけです。
そういう根本的な価値観で通じ合えるからこそ、彼らは刀剣男士であり、第二部隊の仲間なのでしょう。

兼さんにとって『命』とは流れる赤い血であると同時にやっぱり尊厳で、生物学的な意味での『命』がどう終わるにせよ、思いを貫けるかどうかに重きをおいている気がします。
浪士を『本物の侍だ』と評したのは、壬生浪士組に身を置いた土方佩刀としての共感だけではなく、たとえ散るとしても誠を貫く人の儚さを、尊いと感じているからでしょう。
人を守るために戦いつつも、生死の運命に直接介入は出来ない、刀剣男士のジレンマ。
戦いを続けるためには、各員自分なりの答えでこれを乗り越えなければいけないわけですが、兼さんの答えとしては『人が人として積み上げる時間、その集積体である歴史を守ることで、本当の『命』を守り、貫く』という感じなのかな。
これもまた、陸奥守とは違う形で、尊敬できる立派な答えだと思います。


第1話から第3話の『幕末奮闘編』は、『生命』を守る陸奥守と『主命』を守る兼定だけの物語ではなく、初陣の中で様々なものを学んでいくルーキー、堀川国広の物語でもありました。
これまでベテラン兼さんに助けられるばかりだった国広が、持ち前の人当たりの良さを活かして陸奥守と、そして浪士とのコミュニケーションを巧く取る姿は、意外な頼もしさを感じる良い描写でした。
覚悟の決まったベテランにも、初々しいルーキーにも、それぞれに見せ場と強みがあることで、チームがチームである意味もより強くなるし。
ここらへんの凸凹が複数用意され、しっかり噛み合っているのが活撃の見ごたえに繋がっていると思います。

ルーキーの国広をワトスン役に据えることで、世界設定も色々出されていました。
『歴史をメチャクチャにしたいなら、バンッバン直接ぶっ殺せばいいじゃん?』という疑問は、『歴史の介入力』なる設定を付けて回避。
人命尊重と殺戮。
ベクトルは正反対ですが、刀剣男士と時間遡行軍両方が、歴史をほしいままに弄べないというのは、なかなか面白い共通点です。
まぁバンッバン大暴れして歴史ぶっ壊されると、話の緊張感を維持している謀略の張り合いに必然性がなくなるし、別のジャンルになっちゃうしな。

現地の人間を道具に使って歴史に介入する時間遡行軍を止める、刀剣男士の『使命』
それを考えれば、浪士たちは『敵の駒』であり『命』を持たないカキワリにもなりえます。
しかし陸奥守と国広はその内側に入り込み、彼らが血と信念を持ち飯を食う『命』であることを実感して、刀剣男子の宿命の複雑さに思いを馳せる。
逆に言えば、そういう複数の『命』を持った存在として人間を受け止められないからこそ、時間遡行軍の所業は止めるべき悪行ともなりえる、と。
キャラクターの行動を通じて倫理の在り処を探り、そのぶつけ合いとして戦闘がある形になっていて、凄くヒーロー物語としてベーシックで大事な部分をちゃんとやってる印象ですね。

『幕末奮闘編』はコミュニケーションの物語でもあって、新撰組と龍馬の因縁を背負って反目しあっていた陸奥守と兼さん、ベテランとルーキーの立場の違いがあった兼さんと国広、初結成でぎこちない関係だった第二部隊の仲間、『敵の駒』でしかなかった浪士と、いろんな存在と対話し、わかり合います。
その手段も様々で、一緒に戦ったり、飯を食ったり、議論したり、言葉を交わしたり、多彩です。
『命』の一文字に込められた複雑な意味と同じように、自分と異なる他者の『目を見』て、そこに自分と似通った部分を発見し、共感の橋をかけていく作業。
戦いと同じくらい、もしくはそれ以上に、他者を理解する作業、理解しようとする気持ちがヒーローには必要なのだと、物語の内部で巧く示せていました。

チャンバラシーンでもコミュニケーションの強さは明らかで、劣勢の時は必ず一人で孤闘し、そこから仲間の助力があって優勢に転じるという原則が、今回も貫かれていました。
仲間だからこそ、一人ではないからこそ戦える。
そのためには、視野を広く持って他人の助力を受け入れる姿勢が必要になる。
そういうメッセージを、カメラがグリングリン周りスローモーションがケレン味を生み出す良いチャンバラに込められているのは、いいなぁと思います。
凄く興奮するアクションだからこそ、語らずともメッセージが明確になるし、自然と胸に刺さってくるわけでね。

そういう演出に込められているのは、強さと同じくらい賢さと優しさを大事にするという哲学であり、英雄譚にとって非常に基礎的かつ重要な姿勢だと思います。
『心に愛がなければスーパーヒーロじゃないのさ』という歌がありますが、それを見失えば刀剣男士は時間遡行軍と同じになってしまいますからね。
そういう意味でも、敵が自分たちの歪んだ鏡である構図、『タイムトラベラー』と『付喪神』『超常の戦士』という属性を共有しつつ、譲れない一線が引かれている/それを守る構造は、よく出来てるなぁ。


というわけで、『生命』と『使命』の間に迷いつつ、より正しくバランスの取れた結論を刀剣男士が手に入れるまでの物語でした。
第1話から連続して展開する中で、キャラクターそれぞれの価値観、行動理念、能力をしっかりと見せつつ、作品全体の設定やテーマ性、ドラマも盛り込み、うねらせる。
非常に引き込まれる序章であり、映像的な楽しさも、ドラマの盛り上がりも、キャラクターの魅力もたっぷりと詰まっていました。

これから第2部隊の面々がどのような戦いに赴き、どのように信念を試されるかが非常に楽しみになりますが、さて、次の舞台はどこになるのでしょうか。
OPで超かっこいいブレードダンサーっぷりを発揮してる鶴丸もまだ未登場だし、第2があるってことは第1があるってことだしなぁ……。
主役たちの背負うものを非常に鮮明に描けていただけに、横幅を広げた描写がどういう輝きを見せるか、期待も高まります。
来週も楽しみですね。

追記 主の刀、刀の主