イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

活撃/刀剣乱舞:第6話『本丸』感想

傷つきし戦人、今は眠れ。
衝撃のヒキから一週間、待ちに待った刀剣乱舞第6話です。
蜻蛉切さんは峠を越え、任務自体も歴史に傷なく成功の範囲内。
しかし割り切れないのが人の心で……というエピソードで、兼さんの責任感の置き所を探して本丸をウロウロするお話でした。
真面目ゆえに思い悩み、リーダーだから仲間に弱いところを見せられない。
兼さんの悩ましさを陰影深く追いかけつつ、傷を癒やし、食事をして、仲間と話すホームとしての本丸をしっかり描いて、任務地である過去の歴史とは違う光景を楽しませてくれました。
戦い続きで進んできた活劇としては異色な、一種の中休みではあるのですが、緊張感や強い演出意図は緩むことなく、作品世界がより深くなる回だったと思います。


というわけで、敗北に思えたものは敗北ではなく、死に見えたものは死ではなかった! という回。
ドキドキしながら一週間過ごした身としては肩透かし……ということはなく、第二部隊の奮戦、蜻蛉切さんの決死が無駄にならず、本当に良かったです。
死ぬことで描ける物語もあるけども、死ないのなら絶対ソッチのほうが良いわな、やっぱ。

今回の主役は第一に兼さんで、序盤で陸奥守が悩んでいたような明暗を行き来しつつ、自分の気持ちの拠り所を探していきます。
第二部隊は既に死線を共に潜り抜けた仲間、国広が最初に言った『僕たちはやれることをやった。誰が悪いわけじゃない』というのが正解ではあるのですが、ナイーブで純真な気持ちは簡単には納得してくれません。
『やらなければ』という責任感が強いからこそ『やれなかった』という後悔が分厚くなり、『守りたい』という思いが強いからこそ『守れなかった』という悲しさが募る。
人間の背筋を伸ばさせる強い誇りは、そのまま自分を責める刃に変わるわけで、それは簡単に矛先を収めてはくれず、色々悩んでウロウロしなきゃ答えは出てこないわけです。

元々このアニメ、UFOの撮影力を最大限に活かした明暗の演出に切れ味があります。
目の前の命に悩む陸奥守とか、クールな戦闘マシーンとして薬研くんを写すシーンとかで顕著でしたが、今回は悩める兼さんの心理的遷移を描写するのに、ライティングが活用されています。
面会謝絶となった蜻蛉切の前で立ちすくむシーンでは、兼さんはずっと薄暗がりにいて、リーダーとして笑顔の仮面を作る。
気持ちをしっかり吐き出さなければモヤモヤは解消されないのに、仲間に寄り添い全てを預ける強さまでは到達できていないので、閉鎖的な闇の中に身を起き、廊下を通って離れていきます。

そんなモヤモヤを木刀にぶつけるシーンでも、野外のシーンのはずなのに兼さんはずっと影がかかっている。
次回おそらく、ツンデレヒロインとして兼さんの本音を受け止めモヤモヤを解決に導くだろう陸奥守が、予言的に光の中にいるのとは対照的です。
ここでの陸奥守の立ち回りは非常に良くて、兼さん自身が自分の中の陰りに気づいていないので、八つ当たりの対象にはなってあげない。
問題を乗り越えるためには他者の助力が絶対必要なんですが、それが活きるにはまず、問題が何であるかを認識しなければいけません。
その壁役になるのは三日月なので、今回はあえて兼さんのストレスを拾わず、突き放すことで自分の立場を作る、と。
目の前の命を大事にする陸奥守らしく、薄暗い後悔を振り払って『蜻蛉切は強い。絶対生きて帰って来る!』と宣言してたのも、良い自己主張でしたね。

そんな蜻蛉切さんが生存していたということで、刀剣男子も俺たちもホッとするシーンに、兼さんはいません。
任務を達成できなかった後悔や、己の不甲斐なさへのいら立ちに支配されるよりも、仲間が生きて戻ってきたことを喜ぶべき。
なのに、そこにリーダーであり主役である兼さんが不在。
それはいうならば一番濃い影であり、何がいちばん大事なのか、兼さんはサッパリ分からなくなってしまっている現状をよく表しています。
しかし起こった事態の深刻さ、それを無視できない兼さんの真面目さを考えると、そこで思い悩むのは必然であり必要でもある。
なので、あのシーンに兼さんがいないのは大事なのです。


席を外して何をやるかというと、三日月のジジイに面会をする。
花丸でも加州くんの青い悩みを全身で受け止めていた三日月ですが、人生(刀生?)の先達として若人を受け止めるのはこちらでも同じようです。
『僕たちはやれることをやった』という答えが一番最初にでているように、兼さんの悩みを振り払うヒントは、兼さん自身の中にあります。
なので、ジジイは一切答えを与えず、ソクラテス式の産婆術でどんどん問うていく。
一見はぐらかしているような態度なんですが、縁側で背中を向けていた姿勢がだんだんと正対していくことからも判るように、三日月は兼さんの人格と状況をしっかり見据えて、独力で解決できる強さを看取り、信頼しているわけです。

そんなジジイの手のひらに乗っかって、兼さんは自分の中にわだかまっていた迷妄を言葉にしていく。
形として任務は守れても、赤い血が流れ、死ぬ必要のない命が奪われた。
必死に戦ったけど、自分も蜻蛉切も死にかけ、赤い血を沢山流した。
三日月を優秀な聞き役とすることで、戦いの結果だけを求めるのではなく、その過程で失われる価値をこそ守りたいと願う自分に、兼さんは気づいていきます。
シンプルに質問するだけではなく、「任務は達成できたではないか」と否定されるための問いを投げて、微妙に誘導しているところがジジイの賢く、優しいところです。

三日月は基本光の中にいるわけですが、大上段から答えを言わず、兼さんの迷いに寄り添い、それを肯定しながら話を進めていきます。
光に身を置きつつ、人間に必ずつきまとう弱さを否定せず、闇を見据える態度が、明暗が同居するライティングでしっかり表現されていたのはとても良かったです。
人間味があるというか、あくまで一個人を見据えそれに相応しい言葉を使いこなすからこそ、兼さん自身が気づいていなかった闇と向かい合うことが可能になっているのでしょう。

質問を重ね、自分でも気づいていなかった自分と出会った所で、三日月はスッと身を引きます。
第一部隊の出陣が迫っているという物理的理由もありますが、最終的に兼さんを支え、本音を受け止めるのは第二部隊の仲間に任せた方が良い、と判断したのでしょう。
それを助けるべく、芋けんぴという触媒をちゃんと持たせる辺り、アフターフォローも完璧です。
ジジイの手のひらでコロコロ転がって、兼さんは気づいたら一面の光の中に飛び出し、自分の気持ちを素裸にされている。
敗北を糧に前に進む土台を作り、敗北に思い悩む弱さと人間らしさをしっかり描写する、いい流れだと思いました。

これを導くために、審神者と三日月の会話シーンがしっかり置かれているのも面白いですね。
兼さんが第二部隊の仲間に『大丈夫』の仮面を作ったように、審神者もまたリーダーとして、配下を不安にさせないよう笑顔を見せる。
しかし事態は深刻で、しっかりケアしなければ壊れてしまう、危うい状況です。
執務室に引っ込んでからの審神者への影のかかり方と、人格的・倫理的には審神者よりも上のポジションに居る三日月の視線の方向、背中合わせの会話の作り方が、かなりいい演出でした。

審神者も完璧な統治機械などではなく、脆さと弱さのある人間です。
だからこそ人の流す血、心に付いた傷を常に気に留め、共感することも出来る。
その優しさを蜻蛉切の修復で、孤独な脆さと他人に頼ることが出来る強さを三日月との会話で、それぞれ示す今回は、審神者回でもあったなぁ、という印象ですね。
明暗あって初めて、キャラクターに人間的立体感が出てくるというのは、兼さんが思い悩む道としっかり重なっていますね。


薬研くんも審神者と同じく、兼さん的明暗を巧く出していました。
これまでクールな仕事人として影の中にいることが多かった薬研くんは、今回骨喰くんという兄弟……弱い部分を預けられる身内と対話することで、強い光を見せる。
クールな態度を崩さないまま、第二部隊の仲間への強い信頼を露わにする。
兼さんが相棒である国広、ヒロインである陸奥守に本心をさらけ出せないのと、骨喰くんに素直に本音を吐露する姿がいい対比になっていて、見ごたえがありました。
サラッと画面の端っこに『薬研』……薬をすり潰し、命を永らえるための道具を映すことで、人斬りマシーンではない薬研藤四郎のイメージを強化しているのが、巧い演出。

今回は第2部隊の迷いや決意をケアしていく回であり、次回のサブタイトルになっている『第一部隊』を視聴者に理解してもらう回でもあります。
三日月が兼さんの迷いを受け止める壁役を担当したのも、薬研くんに絡めて骨喰くんを描写したのも、そこを補強する狙いがあるのでしょう。
みんな(ていうか僕は)優しい人が好きなので、傷ついていたり頑なだったりする人に近づいて、色々話を聞いてくれる奴だと判ってくると、第一部隊にも思い入れが出来てくる。
戦場から本丸に舞台を移し、ホームでのケアを描写していく今回だからこそ出来る掘り下げで、なかなか良いなと感じました。

こんのすけ会議での鞘当でもクスグリつつ、第一部隊は本丸最強のエリートだということが強調されています。
第二部隊が胸元を大胆に見せたラフな衣装が多いのに対し、第一部隊は襟元をしっかり正し、いかにも精鋭という印象がありますね。
ここら辺の、衣装や立ち居振る舞いでキャラクター性、物語内部での役割を見せる演出法というのは、映像作品の基本であり、しっかりやりきると非常にパワフルでもあります。
明暗と心理をシンクロさせた演出といい、こういう部分非常にカッチリしているのは。活撃の強いところですね。


国広と鶴丸も、スキャニングやら食堂やら、一緒に写って関係を深めるシーンが多かったです。
『俺、事前に色々調べるくらいにはお前らのこと気にかけているぜ☆ミ SUKIだぜ☆ミ』ってサインを出したり、軽薄ながらも年長者らしい頼りがいを見せたり、鶴丸は良い立ち回りでしたね。
前回シーンが分断されていて面識がないので、終わった後でお互い踏み込み、心を許していく描写が入るのは、いいフォローです。
三日月が見抜いたように、兼さんの迷妄が己の中にあることを見抜いている描写が入ったのも、ただのサプライズ大好き人間ではない懐を感じさせた。
天狗剣法のスタイリッシュさだけではなく、一癖も二癖もある面白みを感じられて、鶴丸は好きなキャラだなぁ……みんな好きだけども。

作品全体を通して、『食事』が大切な役割を背負うこのお話。
ジジイのくれた芋けんぴ鶴丸と国広おそろいの焼鮭定食と、メシ自体は出てくるけどもそれを一緒に食べる場面は保留なんですよね。
食事を共にすることは心を同じくし、問題が解決した/しつつあると見せる意味合いを持つので、あくまで整地であって解決ではない今回は、次回以降に持ち越した感じか。
こんのすけの稲荷談義もそうなんですが、『メシの話ができるなら、そこまで限界に追い込まれてるわけでもねぇか』と空気を抜く仕事も出来るのが、なかなか強いところです。

今回は本丸自体のキャラクター紹介でもあって、様々な施設を追いかけることで世界観の隙間が埋まり、作品の粒が立ってくるお話でした。
組織化され清潔な食堂、呪術と医術が融合したリペア施設、古物が多いのに埃っぽいところのない私室と、生活というよりも任務のために、しっかり整えられた基地という印象を受けました。
花丸が本丸を主な舞台にしたホームコメディだったのに対し、活撃は戦地を駆け回るハードアクション。
ジャンルの違い、そこで求められる物語的機能の違いを反映して、しっかり美術のトーンを変えてきているのは凄くいいなぁと思いました。
全体的に泥臭さがなくて、クールな感じだな、活撃本丸……戦闘集団のホームとしては、その怜悧さが説得力になってる。


迷える己自身を見つけ出した兼さんがどのように仲間に心をぶつけ、対話をして答えを見つけるか。
迷ったことでさらに強くなった第二部体が、一緒にどんな飯を食うのかも気になりますが、次週へのヒキ自体は第一部隊が任務に向かうシーンでした。
今回での掘り下げといい、かなりかっちりと第一部体にも踏み込むようですが、任地は永禄八年、剣豪将軍・足利義輝が斬死する永禄の変です。

伝承によれば、三好三人衆の寄せ手を相手に将軍は家伝の名刀を畳に突き刺し、獅子奮迅の大立ち回りを演じたそうです。
その時使われていたのは大典太光世、三日月宗近、骨喰藤四郎……。
第一部隊に因縁の深い戦いになりそうで、こちらも非常に楽しみですね……武家の棟梁として、源氏重代の刀にも関わってくるか。
『将軍の佩刀』『家門の象徴』という誉れから縁遠い、写しコンプレックスバリバリの山姥切くんがリーダーなのが、かなり面白そうなんだよなぁ……。
刀剣としての自分と、男士としての自分が同時に存在する時、彼らはどっちにアイデンティティを置くのかなぁ……兼さんと薬研くんが蔵で話していた『お前の主は誰だ?』問答が、よく効いてきそうな座組ですね。


というわけで、我らがリーダー兼さんの面倒くさい心が、本丸を彷徨い歩くお話でした。
理屈はわかっても納得はできない、自分が一番分からない。
人間の弱さや迷いを肯定しつつ、影を乗り越えた先にあるより善きもの、それを導くための他者の手助けにしっかり目配せした、いい地ならしの回でした。
こういう暗い部分をただ否定するのではなく、人間の一側面としてしっかり受け入れ、必要な分迷わせて扱うのは、人間味に嘘をついていない話運びで、非常に頼もしいです。

因縁渦巻く永禄に赴く第一部隊は、いかな戦いを繰り広げるのか。
本丸で羽を休める第二部隊は、迷い路の果てにいかな絆を結ぶのか。
来週も新しい景色でたっぷり楽しませてくれそうで、非常に期待が膨らみます。
……しかし蜻蛉切さん、生きててよかったホント。