イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

初音ミクTRPG ココロダンジョンレビュー

冒険企画局の原作モノTRPG『ココロダンジョン』が発売されたので、レビューをします。

○大まかな印象
ゲームシステムとしては『アマデウスVer2.0』と言った感じで、『音楽とVOCALOID』という題材に合わせて世界観とシステムをチューンし、軽量化・最適化を施した印象です。
『インガ』『運命の輪』といった特徴的なシステムを継承しつつ、細かく重たい部分を思い切って省略し、取り回しを良くした感じ。
アマデウスの楽しい部分を残しつつ、ストレスとなる部分をブラッシュアップした、正統進化系だといえます。

○リプレイ
ドラゴンブックのこの判型らしく、リプレイが付いてきます。
このシステムをポータルにTRPGに入るプレイヤーをかなり見ているらしく、リプレイはゲーム初心者をプレイヤーに迎え、一手一手解説していく親切な感じ。
シナリオも『このゲームのスタンダード』をしっかり押さえている真っ直ぐなもので、『不思議なココロ迷宮に迷いつつ、青春ど真ん中の悩みとぶつかり合い、超常の力なども存分に震えるぜ!』というウリを、素直に感じられる仕上がりでした。
変なヒネリや内輪ネタで受けを取るよりも、ゲームをしっかりインストラクションし、成功のイメージを読者に与えていくことに注力されていて、読みやすく面白いものでした。
プレイ時に感じるだろう疑問や引っかかりそうな処理を大概盛り込んでいて、教本として優秀なのがとても良いです。

リプレイと同じシナリオが付属一本目なのは、事故防止と『憧れの追体験』という意味ではプラス。
ネタを知っちゃってるというマイナスもありますが、実際どう働くのかなぁ……このゲームでTRPGに初ダイブする層がどう受け止めるかを知りたくもあり。
ただ『付属一本目』が果たすべき『ゲームの手順を分かりやすく体験させる』『一番ベーシックな雛形を見せる』『シナリオがエモくて引きつけられる』という要素はしっかり押さえているので、遊びやすく楽しいシナリオだと思います。


○世界観
PCは『オトダマ使い』となり、人の心を食らう魔物『オトクイ』に唯一対抗可能な戦士として、オトクイの被害者『オトナシ』の心象風景に潜る感じです。
世界観的には『ペルソナシリーズ』や『ブラック★ロックシューター』、部分部分で『サイコダイバー 魔獣狩り』『インセプション』『ラーゼフォン』『シャーマンキング』みたいな感じでしょうか。
VOCALOID』という原作に合わせて、アマデウスの核だった『親神』の代わりに『オトダマ』が設定されていて、ミクとかKAITO兄さんとかの力を借り、あるいは導かれて戦いに挑んでいく感じです。

キャラクターは属性に対応した『コア』を決め、それに合わせて熱血漢になったり、エキセントリックになったり、瞳の奥に哀しみを宿したりと、性格面の方向性が決まります。
思春期のナイーブなココロに分け入っていくのがゲームの基本構造なので、性格の方向づけをキャラの根本に入れたのはなかなか良いと思います。
これに合わせてオトダマも変化する設定があるので、ヤンデレのミクさんとか、エロいミクさんとか、無垢なミクさんとか、PLのファンタジーを思う存分投擲したボカロが設定可能。
趣味から口調、性格まで色々決めることが出来ます。(迷うようなら表を使えば良い)
『お前の作った設定が正しい。卓内部の決定は公式設定より強い』という思想は、"艦これRPG"と似たさじ加減ですね。

VOCALOIDはクリプトンが用意したデフォルト設定の上に、ユーザーが楽曲やそこから派生した世界観ごとに設定を積み上げ、その全てを肯定してきたのが強さだと思います。
"ワールド・イズ・マイン"の世界で一番お姫様なミクも、"千本桜"の華麗な戦士のミクも、千葉市の市章になったミクも、ズングリムックリで怖いミクダヨーも、みんな『ミク』という巨大なフレームの中で自由に暴れている楽しさ。
カスタマイズして『俺ミク』造れるようにしたのは、TRPGというゲームの性質とも、VOCALOIDという原作とも相性がいい妙手だなぁと感じました。

これに『オトダマ』として誰を選ぶかで大体キャラは完成で、結構シンプルなキャラメイクですね。
オトダマはミク・リンレン・ルカにMEIKOKAITOというおなじみ六人衆が選べて、先述したように好みに合わせたカスタマイズが可能。
ミク以外のスキルは少なめですが、逆に迷うことが少なくなって、最初のルールブックとしては正解なんじゃないかなぁ……アペンドで横幅増えるのが前提だけども。

音楽が強大な力を宿すピュタゴラス教団的世界観なのですが、PCはオトダマの力を手に入れてしまった代わりに自分だけの音楽的な輝きを失った、一種の欠損英雄となっています。
PCとヒロインに『オトクイに心を砕かれた』という共通点があるのがミソで、シナリオの根本を担当することになる欠落はヒロイン個人のものであると同時に、どっかでPCと繋がってもいる。
自分の欠けたココロから手に入れた力で、誰かの欠けたココロを守る……あるいは、自分と同じ被害者を出さないために戦うという、ヒロイックな構図が背景世界で担保されているのは、プレイの熱が上がりそうで良いですね。

VOCALOIDだから、世界を救える』というより『音楽が引き出す想いの精霊だから、強力な力を持つ』という感じなので、あんまボカロ関係の背景設定に詳しくなくても、『グレートなスピリッツがピープルをケアしてるのね。そして私はその戦士なのね』くらいの認識で大丈夫そう。
版権関係で公式に扱うのは難しいだろうけども、オトダマを他の音楽フィクション("アイカツ"から"うたの☆プリンスさまっ♪"まで、島村卯月から二階堂大和まで)まで広げて、『スーパーアイドルファイトTRPG』として遊ぶのも、やれるんじゃないかなぁって感じ。
俺も砂月にきーやんボイスで『何故偽りの歌を歌うッ!!』って喝入れられて、ダイスの振り直しして判定成功とかしてぇなぁ……。(うたプリ一期第6話一生ダイスキ人間)
あとひなきに報われなかった優等生な少女時代を全て投影し、彼女が何かに悩み乗り越えていくたびに身も世もないほどに号泣する限界OLをプレイしたい。(アイカツ!第147話一生ダイスキ人間)


○システム
『音楽』というテーマはデータやシナリオ構造にもよく反映されていて、『バラバラになっていたものが集まって、一つの形になる』ことが大事にされてる感じです。
バラバラになったエリアをさまよいながら、フレーズや情報、NPCの感情を回収して一纏めにし、PCの力でハーモニーを生み出してミッションをクリアする感じは、TRPG的合奏って感じが強くなって、良いプレイフィールを生むと思います。
ムードダイスシステム自体が、小さな破片を集めて大きなものを作っていく『音楽』っぽさあるしな。ミュジカ・ムンディやな。
テーマ性を強く押し出しつつも、それを再現するためにルールの取り回しが重くなっていない(というか、ベースより軽くなっている)のも、『有限の集中力を燃やしながら遊ぶゲーム』であることを強く意識していて素晴らしいです。

システム的にはアマデウスを踏襲しており、『能力のランクごとに振れるダイスと修正が変わり、余ったダイスをムードダイスに変換し、PCの能力が伸びていく』ってコア部分には変化がありません。
ただ色んな部分が簡略化・最適化されており、より遊びやすくなっている印象です。
ひとつひとつ見ていきましょう。

まず目立つのは、リソースを基本使い切りにして効果を派手にし、いつ使うかという緊張感、使った時の気持ちよさが高まったことです。
『PCの持っているリソースを、全部ブレイクスルー化してしまう』という大胆な施術ですが、有限だからこそ切り札を切った時の快楽、いつ使うかのタイミングをPC側が握り込んでいる感覚を強く出来て、プレイに有用だと思います。
使用回数を回復させるリソースやタイミングも多々あるので、詰まりそうだったらバンバン使って、気持ちよくゲームをする位がちょうどいいと思います。
回数制限をつけた結果、各リソース消費の効果が上がっていて、ゲームを大胆に変化させられるようになったのも、ストレス少なそうで良い。
絆もレベルが廃止されてPCが任意に伸ばすの難しくなった代わりに、火力向上・ダイス振り直し・カバーリングを抑える強リソースになってるしね。

他にも戦闘時のイニシアティブプロットがなくなったり、黒の領域のペナルティ効果が単純化されたり、アイテムの数が大胆に減ってたり、かなり簡略化が意識されています。
戦闘頭の敵戦力調査もミドル進行に統合されて、事前に調査しておくものに変更されています。
ぶっちゃけダルい部分だったので、ざっくり切って捨てたのは英断だと思う。
武器もデフォルト特技に統合されて、ケレン味と取り回しが上がってる感じですね……ココロから取り出した<孤独の弾丸>で敵を倒すとか、ど真ん中中二病で素晴らしい。

また新システム『ハーモニー』が、データ・フレイバー両面でとても良い仕上がりです。
『判定を行い、ムードダイスを設定した時それが他PCの属性だったら、任意の能力値で追加判定を行い成功度を積み上げられる』というシステムなんですが、みんなで協力して困難に立ち向かっている手応えがあるし、判定が連続するのでムードダイスがガンガン溜まって停滞感がないし、それぞれの音が組曲になっていく『音楽』をシステム化して雰囲気あるしで、非常にグッド。
強いルールだからこそ、過剰に使うとダレちゃう部分だと思うのですが『全リソースのブレークスルー化』により回数制限が付いて、巧くゲームを締めています。
途中でファンブル起きたら全部ダイナシなのも、ギャンブル性を程よく加味してていい感じですね。

キャラメイクも任意に能力を割り振る形式に変更され、実戦向けの能力が軒並み死んでいるクソ親神を罵倒する必要もなくなりました。
ベースの能力強めにして、有限回数のリソースで補っていくバランス取りは、『やりたいこと・やるべきことが出来ない』っていうストレスを上手く回避してて、いい感じだと思う。
ハーモニーは任意能力値で支援可能なので、一本得意領域を持っておくのが良いと思う。


○シナリオ運用
ミドルの判定システムも簡略化が進み、PCは基本的に定められた難易度を攻略する『クエスト』と、オトクイからの問いかけにロールプレイを返す『リクエスト』でシナリオを進めていく形になりました。
休息やミドルで術式使う行動はPC共有リソースの『タイム』を使用して行い、シナリオごとの追加ルールとして、交流とか調査も可能に。
これもライトウェイト化の一環であり、同時に判定が規定されてたことで能力値の有用性にムラがあったのを解消し、キャラ作成時のイメージと実際の活躍をすり合わせる感じの調整でしょう。
全体的に"デッドラインヒーローズRPG"っぽい調整で、『ビギナーへの間口を広く、判定を軽く、かつゲームをしている実感と楽しさを大事に』っていうチューンをすると、収斂進化的に似通ってくるのかな、とか思った。

戦闘に関してもエリアごとのダメージ修正撤廃、イニシアティブプロットの廃止とランダム化と、かなり毛並みが変わっています。
プロットに悩むのも、エリア修正をダメージに足すのも細かいストレスになりかねない部分だったので、思い切って捨てたのは英断だと思う。
エリアへのヘッドオンが任意でやれなくなったので、潰すべき脅威を優先的に叩ける射撃武器と、イニシアティブをイジれる能力は非常に強いと思う。
現状最強は"孤独の弾丸"かなぁ……"暗黒球"も描いてあることは強いが、黒特有のはた迷惑っぷりが弱い。
細かいところをスキルで補わなくても、強くなった共有リソースで穴埋まる感じなので、スキルは減ってもストレスは上がってない印象。。

シナリオ構造もマップによる可視化がなされ、ルートに沿って攻略していくと、ダンジョン攻略とNPCへの理解が同時進行で進んでいく感じに。
オトクイに取り憑かれたヒロインを理解していくドラマの歩みが、ダンジョンアタックというゲーム的手順とシンクロしているのは、速さと深さを両立させる良い設定だと思います。
鍵をかけたり険しくしたり、ルートに緩急をつけることでゲーム進行を操作/可視化するテクニックは、"コードレイヤード"っぽくもあるか……トレンドであり、『今遊ばれる』ためには必要な仕様でもあるんだろうな。
各シーンごとのエンドチェックもデフォルトで備わっていて、ゲームシステムが安定度を増すための工夫はいつもなされてんだなぁ、という顔に。

このルールブックに乗っているシナリオは遊ぶためのツールであると同時に、『このゲームはこういうシナリオやるから。参考にしてくれや』っていうサイン、制作のツールでもあると思います。(だから紙幅を割いてでも、三本乗っけている)
そっからほぐして行くと、ココロダンジョンのシナリオ作成デフォルトは『ボカロ楽曲からのインスピレーションをダンジョンに分散配置し、それを拾っていくことでクライマックス=悪の曲となってしまった楽曲を開放する行為にたどり着く』という感じなのかな。
これはかなり煮詰まったボカロギークにとっては、自分の情熱をシナリオに落とし込めるナイスな手段であり、同時にそこまで体温高くない(けどゲームやってみたい)ファンにとってはハードルにもなるかな、と思った。

エリアを攻略していくと、断片化された楽曲の歌詞がフレーズとしてPCにに配布される構造は『僕らの好きな曲を回収・生成していく』という感覚を強く与え、原作ファンにはビビっと来る仕掛けではあるんですが、それを生み出す蓄積や思い入れがないと、戸惑っちゃうポイントかな、とも思う。
フレーズの要素を思い切って切るか、もしくはボカロ曲に縛られず、自分が思い入れのある楽曲で作っていくかしてくと、ちょっとやりやすいのではないか。
詩とか芸術への感動って、思いの外個人的なものなので、他者と共有・増幅されることを前提に成立しているTRPGだと扱い難しいネタだよなぁ。
そこにあえて踏み込んで、『ボカロっぽさ』をシステム化しようとした努力は買うし、付属シナリオ内部ではかなり巧く行っているとも思う。
ただま、システムデフォルトとして組み込むと、ついていける人をかなり限定するシステムかなとも思う……そういう強まったボカロエリートのみを、仮想ユーザーにしてんなら別だけども。


○まとめ
ボーカロイド』『音楽』という題材を見事に調理し、世界観に雰囲気を、システムに軽快さを、実プレイに楽しさをたっぷり詰め込んだ、かなりの快作だと思います。
システム的にも世界観的にも広がりを感じさせつつ、『初めてプレイする』層にしっかりフォーカスを与え、必要十分なデータに押さえている所が良い。
あんまり覚えること多いと混乱しちゃうからね……そういう意味でも、付属リプレイがしっかり教本してるのはグッド。

単純にオトダマやナンバーを増やしていっても面白そうだし、もっと別の方向……例えばアマデウスとのコンバーションルールとか、ボカロ以外のオトダマ追加とかしても良いと思います。
敵の方の設定を掘り下げていっても、結構面白い世界観が生まれそうなので、追加ルールにはそっちも期待ですね。
雰囲気ありつつ、TRPGとしての精度と実用性も感じられて、早くプレイしたいシステムですね。