神撃のバハムート Virgin Soulを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
ついに戦の火蓋は切って落とされ、それとは関係なく皇帝最後の戦いが始まる。バハムートという一つの理、あらゆる思惑を超えた巨大な力を制圧するために、全てを犠牲にする戦いの果てが。
沈黙が支配する人生の果てで、ただのガキに何が出来るか。
「風はどっちに吹いてる?」
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
言わずと知れた、GENESISの名台詞だ。
この言葉で物語が始まり、この言葉で物語が終わった。ファバロが父から受け継ぎ、愛するものを失ったあとの世界でまだ生き続けるために、自分に呟いたエール。
その問は、彼はこう答える。
「明日だ!」と。
ニーナにとって、風に激しく吹き付けられなくても、明日はやってくるものだったのだと思う。父を失っても母がいて、自然豊かな竜の里が自分を受け止めてくれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
首都に出てからも世界はバラ色で、嵐の気配もないまま恋をし、友と出会い……そして、ムガロの死という最大の風がいきなり吹く。
ヒロインをいきなり売っぱらおうという、倫理の荒野で一人立っていたファバロ。彼は父亡き後、風に吹かれ続けて擦れっ枯らしになってしまって、アーミラとの愛に出会って生き方を変え、それを己の手で切り捨ててなお、あの時の出会いを殺さずに活かし続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
彼の中で、風は吹き続けている。
シャリオスに吹く風は、どんな色彩、どんな強さだったのかを想像してみる。彼はストイックな覇王で、己の行いを口では説明しない。出来ない。だから科学者のジジイが、彼の代わりに説明することになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
それは王という高み、国を背負う巨大な身体だからこそ感じる、残酷で容赦のない風だったと思う。
シャリオスの苛烈な支配の原因を、そこで彼が何を感じていたかを、シャリオスは言葉で振り返らない。言葉足らずとも言えるし、視聴者の想像力を信じているとも言えるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
事実として、彼は全てを振り捨てても国を富ませ、バハムート討滅の巨大な機械を義によって駆動させ続ける必要があった。
今回ジャンヌが先頭に立ち、ついに成し遂げられた人魔神連合軍。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
人を殺すためにまとまったあの集団(ジャンヌの初撃が、同じ人を焼く無残に、このアニメはキッチリピントを合わす)とは別の、皆が手を取り合って和合する淡い理想の世界。
ニーナとカイザルが夢想するそれは、玉座からは遠いのだろう
文化もアイデンティティも異なる諸集団を調整し、まとめ上げ、我欲ではなく正義によって一つの形をなすコスト。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
国を背負って吹きすさぶ政治的・経済的リアリティの中で、シャリオスはそれを諦めた。風は明日に向って吹かない。ただ、無力な我々に向かって強く強く、夢を消し飛ばすほどに吹いてくる。
そんな世界の中で、バハムートという破壊の具現を消滅させることを最優先目標に、シャリオス(達)は国家を建造した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
コロッセオで流れる青い血、天から略奪した緑の異能。そういうものを踏みつけに、人間たちの繁栄と安然を絞り出し、自分の命を燃料に運命に勝利するための、長い旅。
それはシャリオスにとって、共感してもらうものではない。判って貰う必要などなくて、ただ奪い、成し遂げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
成し遂げなければいけない理由が、母の略奪という非常にメロウな出来事だと、シャリオスは認めないだろう。人間である自分を認めてしまえば、王では居続けられない。悲願は果たされない。
魔族と神族への共感を切り捨てて国家を運営したのも、そこに回路を開き理想を追い求めつつ、ただひとつの悲願を達成できるほど自分を高く評価していないからかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
人間が王という装置、英雄という機構であり続けるべく、クリスは眼を支払い、心を閉ざし、望まぬ暴発を無言で受け入れる。
アレサンドの暴走は、王の意図と偶然の一致を為す。それは意図せざる、王に責任のない行動なのだが、王のあまりに巨大な存在がその言い訳を許してくれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
巨大な理想を成し遂げるべく動員された、巨大な装置。それが身動ぎする時、意図しようがせざるが、色んなものがすり潰される。
その犠牲を代表するのがムガロだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
それを鉄の表情で受け取ったジャンヌは、王の巨大な身体の不自由さを知りつつ、『だからどうした』と言い切る。
個人としての殺意はなくとも、巨大な機構としての王はムガロの死を望んでいた。魔族の迫害を、神達の殺戮を。
大望を果たすべく、国家という巨大な装置に接続さられたシャリオス。『必要な犠牲』の最大のものは、クリス個人としての思いと、王としての行動が切り離されてしまっていることなのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
そういう切断を認識しつつ、ジャンヌや虐殺の被害者たちは言う。
『だからどうした』と。
その怨嗟は正しい。そう思われるに相応しい行いを、シャリオスを頭とする帝国はずっとしてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
その暴走するちっぽけな指先として、アレサンドロは分不相応な鎧に身を包んで、言い訳まみれで大人を探している。それもまた、帝国という巨大な身体、王の望まざる身じろぎの一つなのだ。
非人間的な存在に成り果てること。個人の幸せなど遠くに投げ捨てて、ただ理想を為すための機械になること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
王冠と契約した時、シャリオスはそれを覚悟し、だからこそ己の望みを自分では口にしない。覇王としてのスタイルも、これまで踏みつけにしてきた犠牲も、全てが崩れてしまうかのように。
そんな彼がニーナと出会ったこと…素顔を隠したクリスとして街をさまよっていたこと…機械で在り続けることを徹底できなかったことが、覇王シャリオスの弱さであり、人間である以上当然こぼれ出てしまう温もりでもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
それを切り捨てられないのは、ニーナもシャリオスも同じことだ。
ニーナは今回、ジャンヌのような鉄面皮を必死で取り繕って、為すべきことのためにただただ邁進しようとする。機械になろうとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
それが出来ないことを確認するために、彼女は戦争の中心に飛び込んでいく。良い悪いではなく、子供である彼女、クリスに恋をしている彼女には、それは出来ないのだ。
腹を痛めて子供を生み、鬼子母神の如き苛烈さで血の贖いを求めるジャンヌ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
ニーナはそういうところまで登ろうとして、未だに登れない。ムガロを略奪されて、痛みに泣いて、それでも切れない。シャリオスが置き去りにした感情の渦に、ニーナは今この瞬間、身を置いて動けない。風はどっちに吹いてる?
これに対し、ファバロは俺達の知りたいことを代弁し、状況を進めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
殺すのではなく、知り、状況をより善くしていくために智慧を使う。トリックスターの面目躍如だが、そのスタイルがGENESISの旅路、アーミラとの恋の中で手に入れたものだと思うと、どうにも切ない。
人が死んだり、やりたいことが途中で出来なくなったり、真っ直ぐな思いを裏切られたり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
世の中の厳しい風のなかで取りこぼされてしまう悲嘆に、もうファバロは背中を向けたくないのだと思う。
自分の腕と足を切り落として、愛する人に刃を突き刺して守った世界。それより柔らかくて大事なものに。
王様だから仕方がない、国と理想を背負っているから諦めよう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
そういう生き方に背中を向け、彼は風に身を任せた。
明日に向かって風は吹いていると。大切で切ないものを諦めなくても、人間のまま人間は生き続けられるのだと。
何度もその理想に裏切らつつ、彼は力を込めて宣言し続けた。
それもまた、シャリオスやジャンヌとはまた違った形での『大人』らしさだと思う。そういう存在が、『子供』であることからどうしても抜け出せないニーナの側にいるのは、地獄めいた状況に差し込む光明だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
あくまで自由な風を背負う彼が、王とバハムートの巨大な対峙を前に何が出来るか。楽しみである
そういう英雄たちの肖像の隙間で、とにかく生き延びたいと望む、身の丈の大衆が描かれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
戦争のない国…どこにもないユートピアを求め、繁栄のツケを支払わされている現状に無頓着な人々。かつて闘技場で魔族の血に狂い、いま戦争の風見鶏となっている人々。
そういう、英雄ならざる凡俗達の欲得を、まるごと背負うということ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
玉座に接続され、巨大な装置になるというのは、そういうことも含む。その巨大さのツケが、ムガロの心臓をえぐり、帝国に突き刺さりつつあるのは、世界を包む風の強さを思い知らされる気分だ。ゆるくないなぁ…。
無論、国を背負わない立場の気楽さに逃げない人もいて、今此処にいないニーナのことを思ったり、かつて魔族が迫害されていたときには声を上げたりもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
汚濁と清浄、無名と高貴。色んな矛盾をひっくるめ、国家という力にまとめ上げるための手段が、シャリオスにとっては差別と搾取であったのだろう
話がこの局面に来て、バハムート討滅という国家のアイデンティティが、国王の単独犯ではなく、名前のない漆黒兵隊長と科学者との共犯関係であることがわかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
保身に走っているように見えたヒゲジジイが、龍滅10年の計を担う義士だったとは…意外であるし、不思議と納得もしている。
VSは英雄たちの苦悩と決断を描くと同時に、顔のない人の尊厳と醜さをずっと描いてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
闘技場で熱狂する群衆の醜悪、黄金色のバザールの活気、ニーナ達が営む日常の中で輝く、一つ一つの命。
それが安易に蒸発してしまう、英雄たちだけが乗り越えられる運命の風の強さも。
未来に、あるいは己の魂に。激しく吹き付ける風を前に、英雄たちはそれぞれの決断をしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
混迷、対話、逡巡、殺戮、復讐。そのどれもが絶対的な正解ではなく、魂が選び取った一つの選択肢として尊ばれているところに、このアニメの誠実さがあると、僕は思っている。好きな理由、というやつだ。
国家機械と接続し、異種族の血と、同志の血肉と、己の魂を犠牲に大望を果たそうとするシャリオス。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
その巨大な身体にすり潰されたものを贖うべく、憎悪と正義によって一体となったジャンヌの軍勢。
巨大なものから離れ、あくまで一己の意志として皇帝に向かい合い、破滅に立ち向かう人々。
ついにバハムートが再度顔を出し、状況はクライマックスだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
王が待ち望んだ運命の瞬間、ジャンヌ達が求める復讐の快楽が、刻一刻と迫っている。
渦を巻く巨大な風を前にして、ニーナはまだ選べない。進めない。切り捨てられない。その迷いを物語の真ん中に据えていることが、僕は好きだ。
シャリオスはバハムートと己の10年間に対峙し、ジャンヌはシャリオスが略奪した我が子に向かい合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年9月17日
お互いの視線のズレをどう補正するか含めて、来週が楽しみだ。
GENESISの答えと言える『風はどっちに吹いてる?』をここで問い直したのは、VSを貫く批評性が健在だと知れて、嬉しかった